帝国ホテルが描く「共創」による食のサステナビリティ第4回 食のサステナビリティフォーラム レポート

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2026年1月27日、帝国ホテル 東京にて「第4回 食のサステナビリティフォーラム」が開催された。本フォーラムは、第3代総料理長・杉本雄氏が掲げる「おいしく社会を変える」というテーマのもと、食の課題解決に向けた具体的なアクションとビジョンを共有する場だ。今回は「行政×生産者×料理人 3者が紡ぐ、持続可能な食の未来」と題し、ホテルの枠を超えた多角的な議論が展開された。

冒頭、杉本総料理長は、帝国ホテルがこれまで歩んできたサステナビリティの軌跡を振り返った。

(帝国ホテル 杉本総料理長)

・商品開発と食品ロスの削減

「ラグジュアリーとサステナビリティは両立しないのか?」との問いから、「食材の恵みを最大限に活かすことが贅沢である」との定義を導き出した。具体的には、パンの耳の廃棄が出ないサンドイッチ用食パン「W・Eブレッド」の開発や、規格外のため廃棄されるバナナを活用した「Le Bâton B」など、食品ロス削減を推進しつつ、ラグジュアリーの質を落とさずに価値ある商品へ変える試みを実施。調理過程で発生する野菜の皮を、低音のオーブンで焼き上げパウダー状にして塩と混ぜ合わせた「サステナブルソルト」や未利用魚を利用する等、食品ロス削減のためのレシピ考案にも取り組んだ。
さらに多様性の観点からヴィーガンやグルテンフリーのメニュー開発にも取り組み、多様な食のバックグラウンドを持つゲストへの対応を強化した。

・「人」が原点となるチームビルディング

料理人を目指す学生を対象に行ったアンケートでは「やりがいがある」との回答が27.8%ある一方で、「忙しい」25.6%、「体力面がきつい」16.7%という声が上がったという。また、「今の時代の料理人を育てる」との想いから、料理業界が長年抱えてきた「3K(きつい・汚い・危険)」というネガティブなイメージに正面から向い、さまざまな社内施策を敢行した。
具体的には若手スタッフと対話する「ラウンドテーブル」や、Googleフォームを活用して現場の声を吸い上げる「キッチンボイス」を導入し、心理的安全性の高い職場環境を構築した。

・生産者との出会いとつながり

こうした取り組みを経て、第4回となる今回は「生産現場への回帰と共創」をテーマに掲げる。杉本氏は、「料理人が介在するのは食材の一生の最後の数パーセントに過ぎない」と述べ、光の当たりにくい生産現場への敬意を改めて示した。さらに、生産者の情熱やストーリーを直接消費者に届ける役割を積極的に担うべく、2025年には万博での食育活動や地方へのメディアトリップを精力的に行った。こうした活動が今回のフォーラムの主題である「共創」へと至ったのだ。

「料理人が手を加えているのは、料理の数%にしかすぎない。生産者や食材を運ぶ人など、いろんな人との関わりから一皿の料理が生まれる」と杉本氏は語り、農林水産省フードテック官民協議会サステナブルレストラン推進ワーキングチーム(SRWT)が提唱する「持続可能な⾷の未来へ⽇本の料理⼈・シェフのサステナビリティ・マニフェスト2030年へ向けた17の指針(シェフズ・サステナビリティ・マニフェスト)」に賛同する意義を示した。

・マニフェストの背景と目的

後半のクロストークで登壇した日本サステイナブル・レストラン協会代表理事で農林水産省フードテック官民協議会SRWTの座長である下田屋毅氏は、このマニフェストについて「日本の豊かな食文化や自然環境を守りつつ、グローバルな持続可能性の基準をいかに日本独自の文脈で表現し実践につなげていくか、その指針が必要だった」と説明する。
このマニフェストは、単なるスローガンではなく、料理人が日々の業務の中で直面する「持続可能な食材調達」、「環境負荷の低減」、「社会的責任への対応」といった課題に対し、具体的にどのような姿勢で臨むべきかを示す行動規範だ。

(左:日本サステイナブル・レストラン協会 杉浦仁志シェフ、右:日本サステイナブル・レストラン協会 代表理事 下田屋毅氏)

・ 料理人が担う責任と誇りの可視化

同協会のプロジェクトアドバイザーシェフであり、「ソーシャル・フード・ガストロノミー」を提唱する杉浦仁志シェフは、「生産者の苦労や”声なき声”を翻訳し、一皿の料理を通じて消費者の意識を書き換える翻訳者であるべき」だと強調した。

マニフェストに賛同することは、単に環境に配慮することだけを指すものではない。生態系を壊さない食材選び。持続可能な生産を支える適正な価格設定や生産者との公正な取引。さらには伝統的な技術や希少な食材はもちろんのこと、料理人という職業の魅力そのものを未来へつなぐこと。これらの指針を業界全体で共有し、「面」として広げていくことが、日本の食の安全と食文化を守り、維持することに直結する。
座長の下田屋毅氏は、このマニフェストを「日本の食文化の継承とサステナビリティの実践をする料理人をつなげ可視化するもの」であると定義づけた。

クロストークでは、小豆島でオリーブ栽培と地域再生に取り組む「小豆島ヘルシーランド」の柳生忠勝氏・智英子氏夫妻も登壇し、生産現場のリアルな声を届けた。

小豆島ヘルシーランドのオリーブは、一粒一粒を丁寧に手摘みし、収穫から24時間以内に搾油するという、世界でも類を見ないほど手間暇をかけた希少なものだ。しかし、その希少性と手間暇ゆえに、200mlで約5000円という価格設定になる。柳生智英子氏は「手摘みで丁寧に収穫し、24時間以内に搾油する。その品質には絶対の自信があるが、その価値をどう伝えれば良いのか、常に壁を感じていた」と課題を明かした。

この状況を打破したのが、杉本総料理長の現場訪問だ。杉本氏は、搾りたてのオイルを口にした瞬間、「これは単なる油ではなく、新鮮な青いジュースだ。これなら料理の主役になれる」と直感したという。

プロの料理人がその価値を認め、具体的な一皿として完成させることで、生産者の想いは初めて「消費者の感動」という形に昇華される。この出会いをきっかけに、杉本氏監修によるオリジナルブレンドのオリーブオイルが誕生した。地域と生産者、そして料理人が融合した「共創」の好事例と言えるだろう。

(右端:小豆島ヘルシーランド 柳生智英子氏、右から2番目:同 柳生忠勝氏)

取締役副社長・柳生忠勝氏が語る「千年続くオリーブの森」は、同社の存在意義(パーパス)そのものである。オリーブは数千年の寿命を持つ樹木であり、小豆島には「樹齢千年のオリーヴ大樹」 がスペインから移植され、根付いている。

この「千年」という言葉には、目先の利益を追う「競争」ではなく、次世代、さらにはその先の世代まで豊かな自然と営みが続く「循環」への願いが込められている。彼らにとってのブランディングとは、ロゴやデザインを整えることではなく、「千年後の未来の人々に何を残せるか」という問いに対する答えそのものなのだ。

「千年続くオリーブの森」の思想を具現化したのが、小豆島・西端の岬に位置するウェルネス施設「千年オリーブテラス for your wellness」である。ここでは、情報過多な現代社会において個人の心身をリセットするための「余白」をブランド価値に昇華させ、瀬戸内海を一望するオリーブの木々に囲まれたテラスや地産地消をテーマにした空間デザインにより、「何もしない贅沢」が提供される。
広報・ウェルネスクリエイターを務める柳生智英子氏は、さらに、搾りたてのオリーブオイルを味わい、その香りに包まれるオリーブオイルテイスティング体験や、一粒の飴をただ食べることに集中するマインドフルネスイーティング、自然の音に身を委ねながら風の散歩道を歩く森林浴やプランツメディテーションなどの「マインドフルネスな体験」を通じて、シンプルであることの豊かさを感じてほしい、と語った。

クロストークの終盤、話題は「消費者の意識変化」へと及んだ。
下田屋氏が、今後「サステナブルな取り組みを実践しているレストランやシェフ」が地図上で可視化され、消費者がそれを選んで利用する未来像を語ると、杉本総料理長もこれに同調した。実際に帝国ホテルの採用現場においても、サステナブルな取り組みに共感し志望する学生もいるという。

「かつては競合他社に勝つための『競争』がビジネスの中心でした。しかし、今の若者や消費者は、社会のために何をしているかという視点で企業を選んでいる。もはや自社だけが良ければいいという時代ではない。異なる立場の者が同じゴールを目指して走る『共創』こそが、これからのラグジュアリーのスタンダードになる」との杉本総料理長の意見に対し、杉浦シェフも「実行力のある方が拡張性を持つ時代になった」と力強く語り、同意した。

帝国ホテルが主催したこのフォーラムは、一企業の報告会という枠組みを大きく超え、日本の食産業全体が進むべき道筋を明るく照らす。

「千年先」を見据えながら独自の価値を追求する生産者と、地域資源や生産者を守る枠組みをつくる行政や団体と、素材の価値を「贅沢な体験」へと昇華させる料理人。この3者が連携する「共創」から、この循環が機能したとき、食は単なる消費の対象ではなく、社会をより良くするための、またはサステナビリティの価値を伝える強力な伝達ツールになる。

杉本総料理長が掲げる「おいしく社会を変える」という言葉の裏には、真摯かつ緻密な戦略と、現場における地道な歩み寄りと積み重ね、そして業界や分野を超えた連携がある。帝国ホテルが示すこの「共創」のモデルは、日本の食の風景をより豊かで、持続可能なものへと変えていく大きな推進力になっていくにちがいない。

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WRITERこの記事を書いた人

Mami NAITO
Mami NAITO

広告代理店勤務を経て、アパレル事業会社では主にEコマース事業に従事。
並行して、コーポレートサイトやオウンドメディアの運営、広報・マーケティング、新規事業開発の責任者を経験。
2021年6月YUIDEAに入社。サステナブル・ブランディング事業ならびに、ビジネスパーソンのためのサステナビリティ情報メディア『サステナブル・ブランド・ジャーニー』の立ち上げを経て現職。
コーポレート・コミュニケーション(情報開示)、マーケティング領域にまたがるYUIDEAの実績と知見を統合して、企業や自治体のサステナビリティ推進支援やコミュニケーション設計、パーパスやサステナビリティを「自分ゴト化」するためのインターナル研修や行動変容施策の企画提案を行う。

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