近年、日本でもパーパスを掲げる企業は拡大している。反面、それに血が通い社員や社会を揺さぶるものになることは、そう簡単ではない。掲げたパーパスが単なるスローガンにとどまらず、人々を鼓舞するものとなるためには何が重要なのか。そのヒントを探ろうとするディスカッションが、今年で10年目の開催となったサステナブル・ブランド国際会議2026にて行われた。 本記事では『なぜ、この企業のパーパスは人々を鼓舞するのか』と題して行われたこのディスカッションをレポートし、パーパスを力強く浸透させていくためのヒントを提供したい。
▍登壇者
佐々木 恭子氏
ダノンジャパン株式会社 コーポレートアフェアーズ本部
シニア パブリックアフェアーズ&サステナビリティ マネージャー
目﨑 雅昭氏
GPSSホールディングス株式会社 代表取締役
山崎 大祐氏
株式会社マザーハウス 代表取締役副社長
▍ファシリテーター
青木 茂樹氏
サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー
駒澤大学 経営学部 市場戦略学科 教授
既存のビジネスモデルを問い直す。3社が体現するパーパス経営
今回ファシリテーターをつとめた青木氏の声で集ったのは、パーパスを形骸化させず組織の隅々にまで浸透させている代表的な3社だ。3名の登壇者は、各社それぞれの理念や根底にある思想が、どのように体現されているのかを発表した。
⚫途上国から世界に。ファッション産業の構造変革に挑むマザーハウス
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念に掲げる株式会社マザーハウス(以下、マザーハウス)は、登壇者の山崎氏がデザイナーの山口氏と共に2006年に創業したファッションカンパニーだ。ファッション産業の“川上がブラックボックス化し生産者にコストや制約を押し付ける”構造を変えたいという思いで立ち上げられており、自社工場、自社販売にこだわっている。山崎氏は「一番大事なのは、社員が自社の存在意義を理解していること」と述べながら、そのためには「トップ自身のパーパスの体現」と「理念の宿ったプロダクトを何より大事すること」が重要だと訴える。例えば同社では、創業者の二人が今でも途上国に赴き現地の素材や職人と向き合った商品開発を行う。新商品発表の場も、全社員参加の上デザイナーや職人が思いを共有する場として非常に重視しているという。こうしてプロダクトが生まれる段階から顧客の手に渡るまで、すべてのプロセスの根底に理念が通底しているからこそ「プロダクトを通して、パーパスが自然と社会にも伝わっていくのだと思う」と山崎氏は述べる。

⚫世界規模で、いち早く。パーパス経営をリードし続けるダノン
一方ダノンは、外部認証や法制度を使うことで、グローバル規模でパーパスの浸透・体現を実現している。フランスを本社に世界120カ国以上で事業展開をするグローバル企業である同社は、1972年に初代CEOが提言した「社会の発展なくして、企業の成功はない」という考えを元に「デュアル・プロジェクト」を理念として掲げ、世界の全子会社がDNAとして受け継いでいる。“企業は社会的な責任を果たすべき存在”という考え方がまだ主流ではない時代から、いち早くパーパス経営を行ってきた稀有な存在だ。事業面で象徴的なのは、28年をかけた製品ポートフォリオの転換だ。かつては食品を含む多角的な製品を展開していた同社だが、「健康」を軸にしたミッションを明確化したことを機に、乳製品・植物由来製品、専門栄養食品、水を主力とする現在の形に再編してきた。組織面でも、環境面・社会面のパフォーマンスを全子会社で評価する独自プログラム(ダノン・ウェイ)を25年前から導入・継続しているほか、昨年には60か国以上、200以上のダノンの関連法人でB Corp認証(*1)を取得し、世界規模でのB Corp認証取得企業となった。小規模企業での取得が多いB Corp認証を、多国籍企業が世界規模で取得することは異例とも言える。また2020年にはフランスで「使命を果たす会社(*2)」として認められているが、これも上場企業としては極めて珍しい取り組みだ。佐々木氏は「外的・法的な仕組みという第三者の厳格な基準を使うことが、当社の特徴」と述べる。
(*1)環境・社会への貢献を評価する国際認証制度。
(*2)フランスの会社法に基づくフレームワーク。社会的、環境的な分野での目標が定款に記載され、その目標の達成については、専任のミッション委員会と独立した第三者が監督する仕組みになっている。

⚫資本主義の構造への疑念。利益相反の回避から独自モデルを生み出すGPSSホールディングス
太陽光、風力、地熱など多様な再生可能エネルギーの開発・運営を行うGPSSホールディングス株式会社(以下、GPSSホールディングス)は、「地域との共同事業」を理念に掲げステークホルダーとの利害の一致を試みるという、独自のモデルを貫く。創業者である目﨑氏は、新卒で就職した外資系大手証券会社にて拝金主義への疑問が膨らみ、退職を決めた。「商業行為においては、自己の利益の拡大が、ほぼ必ず他者の利益の棄損につながってしまう」ということへの同氏の疑念は一貫しており、再生可能エネルギー事業の選択も、「地域との共同事業」の徹底も、利益相反を極力避けるビジネスの追及によるものだ。「エネルギー資源を持つ地方の土地を、安く買い上げて開発をするのでは(利益相反から抜け出せず)意味がない。地域の人にオーナーになってもらい共同事業とすれば、自分たちの利益と地元地域の利益が一致する」と、目﨑氏は力を込める。さらに地元の人が主体者であることで、地方開発で起こりがちな地元住民との対立なども生じにくいのだという。

「パーパスは、全ての経営判断の軸」掲げた理念で自らを律する不自由さ
登壇者の発表からは、各社のパーパスが強く揺るぎない社会性を持っていることがうかがえる。その一方で興味深いのは、善性が注目されやすいパーパスがもたらす不自由さについての言及だ。山崎氏は「パーパスは全ての経営判断の軸。僕らはパーパスに縛られている」と吐露し、佐々木氏は「(法的・公的な仕組みを取り入れることで)株主への利益責任に加え、社会的な制約も課している」と表現する。マザーハウスは、その理念ゆえ安易な販路拡大やセールを行わない。ダノンはグローバル上場企業でありながら、プロダクトを絞り込んだ上で厳格な外部評価制度を自らに課し、GPSSホールディングスは株主利益とのコンフリクトを避けるため、非上場を選択している。

パーパスを専門領域とする研究者でもある佐々木氏は、「パーパスが組織からの押し付けになってほしくない」と訴える。同氏が引用した海外の研究結果では、理念が崇高すぎたり野心的すぎたりした場合、実態との乖離やプレッシャーから社員の他人事化やバーンアウトを招くといったネガティブな側面も指摘されているという。加えて同研究では、パーパスが生み出すアウトカムは「明確さ・信頼性・実装度」という3要素のバランスでプラスにもマイナスにも変わる、と報告されているそうだ。
各社の語る制約は、短期的な利益創出を考えればいずれも足かせにもなりうる選択だが、パーパスが押し付けにならずに実装され、社内外共に信頼性を担保する上では、避けて通れないプロセスと言えそうだ。
ディスカッションの最後、山崎氏は「(制約は)健全な苦しみ。そこからオリジナルな存在意義を見せてほしい」と会場を力付けた。その言葉の通り、制約を引き受けるからこそパーパスは単なる言葉を超えた存在となり、人々を鼓舞するのかもしれない。
<参考ページ>
・株式会社マザーハウス|会社概要ページ
・ダノンジャパン株式会社|コーポレートサイト
・GPSSホールディングス株式会社|コーポレートサイト