近年、異常気象や生物多様性の喪失、水産資源の減少など私たちの「食」を支える現場は、さまざまな問題に直面しています。
消費者としても、フードロス削減の取り組みやフェアトレード商品の広がり、プラントベースフードの登場など日々の暮らしの中で持続的な食に向けての取り組みが意識されるようになってきました。それでも、まだ、生産や流通の現場で何が起きているのかまで、実感をもって想像できている人は多くないのではないでしょうか。
そんな今、生産者と消費者をつなぐ「ハブ」としての役割を担うレストランがあります。
料理を提供するだけでなく、社会や環境の課題を伝え、考えるきっかけをつくる 、いわば「サステナブル・レストラン」です。
こうした取り組みを行っているレストランを表彰するのが、「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2025」。
2025年11月17日、ザ・キャピトルホテル 東急にて開催されました。
このアワードを主催するのは、食のアカデミー賞と称される「世界のベストレストラン50」でサステナブル・レストラン賞の評価も行う英国本部と連携する、日本サステイナブル・レストラン協会(通称:SRAジャパン)です。
調達、社会、環境の観点から、サステナビリティに取り組んでいるレストランを評価・表彰することで、「食」を通して持続可能な社会のあり方を啓発する活動を行っています。
2021年にスタートした本アワードは今年で5回目を迎え、会場にはシェフだけでなく、生産者や企業、メディア、行政、NGOなど、立場の垣根を超えて「食の未来」を真剣に考える多くの人々が集まりました。
今回は、生産者と私たち消費者の架け橋となるレストランが、どんな未来を描いているのか。その最前線を走るレストランの授賞式の様子を前編と後編に分けてレポートします。
今、レストランが取り組むGOODのかたち
「サステナビリティが大切なのはわかるけれど、何から始めればいいのかわからない」
そう感じるシェフや経営者も少なくありません。
そこでSRAジャパンでは、英国発のレストラン向けのグローバルなサステナビリティ基準である「FOOD MADE GOODスタンダード」を用いて、レストランにおいてサステナビリティを推進するために何を大切にすべきか、今の取り組みの推進度合いを“見える化”し、アドバイスをすることで、次の一歩を考えるための道しるべを示しています。

本授賞式もFOOD MADE GOODスタンダードに基づいて受賞店舗が選出されました。
大賞に加え、「調達」「社会」「環境」の3部門賞、さらにパートナー企業/団体から授与される特別賞(リサイクル・フェアトレード・アニマルウェルフェア)を含む、全6部門で表彰が行われました。
受賞
FOOD MADE GOOD ジャパン アワード大賞

L’Effervescence(レフェルヴェソンス) / 東京都港区
6年連続でミシュラン三つ星を獲得し、高い料理のクオリティとサステナビリティの両立を実現してきたレストラン「L’Effervescence(レフェルヴェソンス)」が、大賞に選ばれました。
特に注目されたのが「インパクトレポート」の発行です。自分たちの実践を共有することで、他のレストランにとっても、サステナビリティに向き合うヒントを示した点が評価されました。
インパクトレポートとは、あらゆる関係者に向けて環境負荷や社会貢献の取り組みを数字や事例を通して分かりやすく伝えるものです。
生江シェフによると、このレポートをまとめる過程で、スタッフ一人ひとりの意識が高まり、レストランとして目指す姿と現在地を共有できたといいます。
さらに、店舗でサステナビリティを担当する細川晴香さんは「一店舗で社会に対してできることには限りがありますが、ここにいる皆さんが少しずつ広げていくことで、大きな流れになっていくと思います。」と会場に呼びかけました。
参考:L’Effervescenceインパクトレポート
https://www.leffervescence.jp/ja/impact-report.html#_
部門賞
BEST調達賞

OPPLA’! DA GTALIA (オップラ!ダ ジターリア)/ 東京都練馬区
練馬区に店舗を構える「OPPLA’! DA GTALIA(オップラ!ダ ジターリア)」は、誰もが気軽に立ち寄れるイタリアンレストラン。国産食材にこだわり、地域に根ざした本格的なナポリピッツァは地元の人々から愛されています。
日常に開かれたレストランでありながら、食材の調達に対する考え方や実践のレベルの高さが注目され、「BEST調達賞」に輝きました。審査員からは、「これだけ素晴らしい調達を行っているため、メニュー説明のときにもっと詳しく知りたい。」という声が上がったほどです。受賞の背景には、生産者とのつながりを大切にし、仕入れにこだわり続けてきた日々の積み重ねがあります。
消費者が食材の背景に目を向ける入口として、こうした身近なレストランの取り組みが少しずつ広がっていくことが期待されます。
BEST社会賞

中国料理「星ヶ岡」ザ・キャピトルホテル 東急内 / 東京都千代田区
中国料理の伝統を大切にしながら、他ジャンルの知識や技法も取り入れ、「不易流行」を追い求めてきた「星ヶ岡」が、「BEST社会賞」を受賞しました。
「BEST社会賞」の評価基準の一つに、「健康的な食事の提供」が掲げられています。
一般的に、中国料理は塩分や糖分、油脂の調整が難しいジャンルとされていますが、その中で、健康に配慮したメニューづくりに取り組んできた点が高く評価され、審査員からは称賛の声が寄せられました。
受賞にあたり、「加盟している日本中国料理協会でも、この取り組みを発信していきたい。協会内でも健康的な食事への意識が広がるよう、今後も活動を続けていきたい。」と、今後への想いが語られました。星ヶ岡の実践は、中国料理の可能性を広げる取り組みとして、これからさらに注目を集めていきそうです。
BEST環境賞

KITCHEN MANE / 神奈川県横浜市中区
「BEST環境賞」は、①カーボンフットプリントの削減、②食品ロスの削減、③3R(リデュース・リユース・リサイクル)の3項目で審査が行われました。
その中でKITCHEN MANEは、いずれの項目においてもバランスの取れた取り組みを行い、明確な目標を掲げながら、継続的に向き合ってきた点が評価されました。
さらに、受賞の決め手となったのは、公式ウェブサイトでした。調達の背景やサステナビリティに対する考え方を、一般のお客様にも分かりやすい言葉で丁寧に伝えている点が注目されました。
運営会社のinnovation design(東京都千代田区)は、ほかにも“食”を通じて社会課題の解決を目指すレストラン「KIGI」を展開しています。店舗単位にとどまらず、企業全体でサステナビリティを実践している点も他にはない強みだと言えます。
BESTリサイクル賞

厚木エリア(フィーコディンディア・イタリアンバール Dari)
「Food Made Good 紙パック50アクション」に参加して3年目の「厚木エリア(フィーコディンディア・イタリアンバール Dari)」が「BESTリサイクル賞」を受賞しました。このアクションは、紙パックのリサイクルを推進するため、SRAジャパンと全国牛乳容器環境協議会が共催する全国的なプロジェクトです。
取り組み当初は試行錯誤もあったものの、3年目となった現在では、若手シェフをはじめ、スタッフの間で紙パックのリサイクルが日常の一部として定着してきたそうです。人気店で業務が多忙な中でも、リサイクルを継続している姿勢が高く評価されました。
受賞者コメントで、フィーコディンディアの横井シェフは、「自分たちの活動が少しずつ周りに広がっている実感がある。飲食店仲間だけでなく、地域の方々も協力してくれている。」と話しました。
レストランから始まった取り組みが地域で着実に根付きつつあります。
BESTフェアトレード賞

千葉商科大学 The University DINING / 千葉県市川市
フェアトレード・ジャパンの協力により選出された「BESTフェアトレード賞」を受賞したのは、千葉商科大学の学内食堂「The University DINING」です。千葉商科大学は、日本でも数少ないフェアトレード大学として認定されており、大学全体でフェアトレードの推進に取り組んでいます。
開店から10年を迎えた同食堂では、フェアトレード認証を受けた食材を積極的に仕入れ、日常的なメニューとして提供してきました。
また、教育現場という特性を活かし、フェアトレードやSDGsを「学び」と結びつける取り組みも行っています。具体的には、千葉県木更津市にあるKURKKU FIELDSと連携し、循環型農業を体験するツアーを実施。その経験をもとに、現在では大学敷地内に農園を設け、栽培から消費までを自分たちで行う循環の仕組みづくりにも挑戦しています。
今後も学生とともに地域とのつながりを育みながら、食を通じた実践が広がっていくことが期待されています。
BESTアニマルウェルフェア賞

大江ノ郷自然牧場 大江ノ郷ヴィレッジ・ココガーデン / 鳥取県八頭郡
cucina salve(クチーナ・サルヴェ) / 埼玉県秩父市
「BESTアニマルウェルフェア賞」は、平飼い卵を使ったメニューを提供し、アニマルウェルフェアの現状を伝える啓発活動である「FOOD MADE GOODアニマルウェルフェアアクションキャンペーン」に参加した飲食店の中から、特に優れた取り組みを表彰するものです。共催は、一般社団法人アニマルウェルフェア・コーポレート・パートナーズ。この賞をきっかけに、飲食店におけるケージフリー卵の使用推進を周知するため、加盟店以外の店舗もノミネートの対象となりました。
今回、受賞に輝いたのは、「大江ノ郷自然牧場 大江ノ郷ヴィレッジ・ココガーデン」と、「cucina salve(クチーナ・サルヴェ)」の2店舗です。
大江ノ郷自然牧場は、規格外の卵を何とかしたいという想いから31年前に平飼い養鶏牧場としてスタートし、今ではレストランやホテルを運営するまでに成長しました。創業以来、「コッコは仲間」という言葉のもと、飼育スタッフが愛情を込めて鶏を育ててきました。店舗内では、ポスターやポップを通じて平飼い養鶏の取り組みを紹介するほか、小学生や高校生を対象とした体験学習も行い、多くの人に平飼いの魅力を伝えています。受賞にあたり、「これからもコッコを大切に育て、アニマルウェルフェアの価値を伝える活動により一層取り組みたい」と語りました。
「種をまく料理人」として知られるcucina salve(クチーナ・サルヴェ)の坪内シェフは、約200羽の鶏を自ら平飼いで育て、レストランでも使用しています。幼少期からの重いアレルギーや化学物質過敏症をきっかけに、自然に寄り添った生産を始めました。
「最初は自分の食品制限のために始まった活動が、今では同じ悩みを持つ方が訪れてくれるようになった」と話します。自ら育てた食材で料理をする喜びを大切にしながら、「アニマルウェルフェアが当たり前の価値観になることを願って、これからも続けていきたい」と話しました。
※後編の記事では、同イベントで開催された「未来のレシピコンテスト」授賞式や交流会の様子をレポートします。