パナソニック株式会社(以下、パナソニック)は2025年10月(先行販売は同年7月)、女性特有の体調の悩みを原因からサポートする体調ナビゲーションサービス「RizMo(リズモ)」をリリースしました。リズムモニターを肌着に装着して眠ることで、月経リズムと連動した就寝中の衣服内温度変化や日々の睡眠状態がデータとしてアプリに記録され、体調の変化が可視化される仕組みの このサービス。独自のデータ分析アルゴリズムによる体調予測や、自分に合った体調サポートアドバイスなどが受けられるのも特徴です。
今回、サステナブル・ブランディング視点でRizMo開発の初期フェーズからプロジェクトに伴走してきた株式会社YUIDEAの内藤が、サービスを立ち上げたパナソニックのお二人と共にプロジェクトを振り返り、開発の背景や製品に込めた想いなどを伺いました。
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図師 和彦さん
パナソニック株式会社
ビューティ・パーソナルケア事業部ビジネスデザイン部 事業開発課 課長
井上 貴美子さん
パナソニック株式会社
ビューティ・パーソナルケア事業部ビューティブランドマネジメント部 主幹
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開発の原点は、「社会がフェアではない」と知った衝撃
- テレビで知った「女性の健康課題」からの着想
内藤 かれこれ3年ほどのお付き合いになりますが、そもそもの着想は我々YUIDEAと会うよりも前ですよね。
図師さん はい。僕がフェムテック領域でやると決めたのは、2020年11月のNHKの番組(*)を見たときですね。新規事業としてバイタルデータを使うという方向性は決めていましたが、この領域はそれまで何も考えていませんでした。それどころか「フェムテック」という言葉も知りませんでした。(*)フェムテックが特集されていた番組
内藤 番組の中の何が、図師さんの心をそれほど強く動かしたのですか?
図師さん 女性の体がいわば“ホルモンに振り回されている”と知ったことです。僕自身、妻や娘たちを見てそのように感じたことはありませんでした。身近な人でそのような様子を見たことがなかったのに、番組ではホルモンバランスに伴う症状で苦しむ女性たちが社会課題として取り上げられていて。初めて知る事実に驚く反面、「なぜ振り回されないように、その状態を把握しようとしないのだろう」という疑問も大きかったです。
井上さん 女性自身は我慢したり、なんとなく折り合いをつけたりしながらやりくりしていくものと思いこんでしまうことが多いので、男性だからこその視点ですよね。図師さんはいつも「体重や血圧は数字を見て改善しようとするのに、どうして女性ホルモンに関する不調に対しては、そういった行動をとらないの?」って言っていました。
図師さん その番組で着想を得てから1〜2ヶ月の間で、自分の中ではバイタルデータを使って女性の不調を把握できるもの、という構想が固まりました。計測機器だけ単体で売る(売り切り)モデルは時代的にも考えていなかったので、そこからどうしていくかも含めとにかくリサーチを進め、その後本格的にプロジェクト化して組織を作ったタイミングで井上さんが加わって力強く押し進めてくれたんです。

開発中の試作機。キューオーエル社(開発協力会社)の衣服内温度計(左端)に着想を得て、装着感などを加味しながら、よりコンパクトで肌触りの良い形状に改善されていった。
- 「女性の未来が良い方向に変わる」という確信
内藤 井上さんはプロジェクトについて聞いたとき、どう思われましたか?
井上さん 実は詳細を聞かないまま異動したんです。それまでの仕事は10年経験したので、そろそろ新しい仕事がしたいと思い新規事業部門を希望しました。プロジェクトの詳細を聞いたのは異動後、図師さんから約100ページにも及ぶプレゼンを受けた時です(笑)。「(機器の売り切りではなく)お客様とつながる新しいビジネスを作って、こんな価値を提供したい」とか「この事業を通じてこんな社会を作りたい」っていうビジョンを聞いて「これはやらねば」と思いましたね。
図師さん 新規事業って、思いのある人じゃないとできないんです。僕だけが思いを持っていても仕方ないので、同じ熱量で向き合ってくれる人が必要でした。必死でしたが、共感してもらえて率直に嬉しかったですね。
井上さん それまではヘアケア部門で、お客様の個別の悩みに対し商品で価値を提供するということをしていましたが、図師さんのプレゼンはそういった価値提供に加え「こういう社会にしていきたい」「社会のステークホルダーたちとこんな未来を作っていきたい」という話がありました。その時点ではまだビジョンと仮説しかない状態でしたが、ありたい未来に向かってゼロから何かを作っていくって楽しそう、と思いました。しかもこのプロジェクトが向かおうとしている未来は、女性にとって良い未来でしたから。
- 開発チームでの“男女の相互理解”は、どのように?
内藤 未来や社会を変えていける可能性に共感されたのですね。
一方で私がとても気になっていたのが、男性である図師さんと、女性である井上さんたちメンバーとの間で、とても自然に相互理解が生まれていると感じられる点です。フェムテック領域でお話を聞いていると男女で課題認識や意見が対立することも少なからずあり、相互理解の必要性については頻繁に語られます。
そんな観点で見ると、プロジェクトの発端になった図師さんの「なぜ把握しないんだろう」という疑問も、伝え方や関係性によっては“振り回されるなら管理すればいいだけなのに、どうしてやらないの?”というような、ともするとモラハラにも通じかねない可能性もあったのではないか、と。そうならなかったのはどうしてなのでしょうか?
井上さん 図師さんの着想の根源がとても素朴で純粋な思いだったこと、かつ、多角的な視点からプレゼンされたことが大きかったと思います。「不調の原因がデータで見えたら女性自身がもっと楽になる」「実現できたら社会はこんなふうに良くなる」という思いに加えて、協力会社さん含めリサーチされたデータも揃っていて、総合的な視点から必要性が説かれていました。話を聞き進めるうち「たしかに」という気持ちがどんどん積み重なっていくっていう感覚でした。
内藤 純粋な思いと多角的な視点が揃っていたからこそ、自然な受容と相互理解が生まれたのですね。とても腑に落ちました。図師さんはそのような視点を、意識的に取り入れていたのですか?
図師さん (視点を意識したというより)とにかく「社会がすごく不健全だ」という思いでした。女性はもう男性と同じように当たり前に働いているのに、実はものすごいハンデがあるんだ、とショックを受けました。(女性は)頑張りたいけどスタートから違うんだ、というその不健全さへの衝撃を原点に、どうにかしたいとリサーチした結果かもしれません。

図師さんは100ページのプレゼン当時を「井上さんの反応はどうだろうと、緊張感があった」と振り返る。(左:図師さん、右:井上さん)
実証実験で見えたユーザーのポジティブな変化
- 「見える」「わかる」それだけでも安心が得られる
内藤 社会の不健全さを感じたことが原点となり動き始めたプロジェクトですが、開発過程でもずっと、ユーザーとなる女性の声をとても大事にされていたと感じています。実証実験中、女性たちから伝えられる期待やペインで、特に大きかったものは何でしょう。
井上さん 「不調の原因がよくわからず、なんとなく見聞きした情報で自分なりの対処をしているが、良くならない」という声ですね。原因がわからないからこそ(いつどうなるのかという)不安を常に抱えて過ごしているという方は非常に多かったです。
翻って、「私の状態はこう」というデータが見えた時のユーザーさんの表情の変化はとても大きなものでした。データが見えたり原因がわかったりするだけでは、当然ですが症状は良くなりません。それでもモヤモヤしていたものが目に見えるだけで、何をすべきかの目安が持てて安心できるんです。そんな女性たちの変化を、身をもって体験しました。図師さんの仮説は当たっていると実感もしましたね。
内藤 実は私も使ってみて感じました。当初「自分はよく眠れてないかも」と思っていましたが、使ってみたら意外とちゃんと眠れているとわかって。それだけで妙に元気になりました(笑)。


モニターに参加したユーザーから寄せられた喜びの声(*画像:RizMo公式ページ「利用した方の声」動画より抜粋)
- 「大丈夫と思ったら、フットワークが軽くなった」“わかる”ことで、“できる”が増える
井上さん もちろん無理はしてほしくないですが、なんとなくの不安感から自分自身に制限をかけることもありますよね。実際「生理時期は無理しちゃだめと行動を制限してたけど、データで見て大丈夫と思えたらフットワークが軽くなった!」というお声もありました。
内藤 わかるとできることが増えるというのは、まさにRizMoのコンセプト「本来のパフォーマンスを発揮できるように」に繋がりますね。
井上さん そうですね。実証実験中のユーザーさんの声や変化が、まさにコンセプトに繋がっています。一方で、一月経周期に一度のレポートだけではユーザーさんが使い続けるのは難しいとも感じました。日々の自分を知り、その日をどう過ごすのか?という視点で、毎日の体調予報を通じてしっかりユーザーさんに寄り添えるサービスにしようという方向性も徐々に決まっていきました。

左:その日の体調を天気予報のように予報、中央:向こう1ヶ月の体調予測も一目でわかり備えやすい仕様に、右:計測結果に基づく具体的なアドバイスも(*画像:RizMo公式ページより)
5年の歳月を経て市場へ 見えてきた次の課題と、横の繋がりの必要性
- 「変わる生活」をどう伝えるか。「機能の説明」の一歩先へ
内藤 2020年の着想から約5年の歳月をかけて市場に出されたということになりますが、実際にリリースされての心境や、市場からの反応はいかがですか?
井上さん 女性特有の心身に関わる繊細なテーマを扱うサービス、かつ即効性があるものではないということもあり、実は社内で正式に事業化が承認されるまでにも苦労がありました。やっと市場に出せるという気持ちはありましたが、今はもっとRizMoを知っていただくためにどうするかを考える日々なので、感慨に浸っている余裕はないですね(笑)
実証実験時と、実際に使っていただいたユーザーさんの声にギャップは感じないものの、まだ使っていない方が「使ったら今よりも快適な生活になる」と思えるほどには必要性を感じてもらいにくい、という課題が見えてきたところです。
図師さん 実際、RizMoがないと日々生活ができないわけではないですからね。それでも、こうしたツールが必要ないということではないはずなのです。水面下に深く沈んでいて、当事者自身も気付きにくくなっているインサイトは何なのか?ここからもっと探りながらチャレンジしていきたいですね。
井上さん そうですね。ここからは機能の説明ではなく「使うことで生活が良い方向に変化した」という実体験をたくさん発信していきたいと考えています。
- 「社会課題×ブランディング・マーケティング」YUIDEAの伴走
内藤 「生活の変化」というのは、ユーザーである生活者にフォーカスが当たる発信ですね。そうした個々の事例の蓄積は、長い目で見ると、きっとフェアな社会のための礎になっていくものだと思います。RizMoというサービスは本当に、こうしたユーザーへの思いが通底していてブレないなと感じます。
ちなみにこの開発期間、ありがたいことにYUIDEAも3年ほど伴走させていただきましたが、どんな部分に価値を感じていただいていたのですか?

開発初期はペルソナ分析・ターゲットニーズの深耕の伴走にはじまり、サービスローンチ後は公式サイトやLP、チュートリアル動画の制作等をYUIDEAグループで担っている。
図師さん YUIDEAさんの存在は色々とリサーチをする過程で知りましたが、社会課題を取り上げて発信する活動をされている、企業としての姿勢に心を動かされたんです。更に生協事業のご支援実績も長く、消費者にどのように商品を届けるか?というマーケティングにも長けておられると知りました。社会課題とマーケティング、どちらにも強みを持っていらっしゃるのがとても心強いです。
井上さん そうですね。“対社会(ブランディング)”と、“対お客様(マーケティング)”、両方を相談できるのが大変ありがたいです。たくさんの事例を提示してくださるなど、我々にない知見を提供いただきながらトータルで伴走していただいていて、非常に感謝しています。
内藤 そう言っていただけてとても光栄です。RizMoを通して、女性の生活や社会をより良くされたいというビジョンに私たちも非常に共感していますので、少しでもお力になれていたら嬉しいです。
- 「RizMo」は選択肢の一つ。他社とも一緒に社会を作りたい
井上さん ありがとうございます。実はRizMo開発を通じて私自身にもちょっと変化がありました。
ヘアケアの企画職の時には生活者個人を見て「いかに良い製品を作ってお役に立つか?どうやって他よりも優れた製品を作るか?」という視点だったのが、今は「我々の製品(RizMo)は数ある選択肢の一つ」であり、同じような視点で違う側面からアプローチしている他の企業や人と「一緒に何かができないか?」と考えるようになったんです。
一社だけでは社会は変えられないですからね。みんなで一緒にやった方が、作りたい未来が作れるんじゃないかな、と。女性が“生きたい生き方”を選択できるようになる。仕事でも、家庭でも、趣味でも、諦めることが少なくなってくる。そんな未来を目指して、RizMoとしては「女性の不調」が個人の問題に閉じないような社会作りを、着実に進めていきたいと思います。
内藤 社会全体の未来を見たとき、自ずと横の繋がりの必要性が感じられた…すごく素敵な変化ですね。本当におっしゃる通りで、あるべき社会というのは単独の努力では決して実現できませんし、みんなで一緒に変えていく必要があります。でも裏を返すと、みんなの少しずつの努力や工夫で変化の波を作ることができるとも言えるはずです。RizMoを使う方が増えることも、そんなウェーブの一つになりえるのではないでしょうか。今後も、とても楽しみです。

今回対談を行った「パナソニックビューティ表参道」は、パナソニックの美容アイテムを体験できるスポット。本記事にて取り上げたRizMoも手に取って見ることが可能です。多くの人に広く開かれたこの場で、実物を見ながらその活用可能性について知ってみることも、より良い未来のための小さな一歩になるかもしれません。
<参考サイト>
パナソニック ホールディングス株式会社|RizMoニュースリリースページ