【前編】「腸活版の体重計を作る」——“翻訳”が導く「腸note」の行動変容デザイン

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持続可能な健康行動を、テクノロジーでどう実現するか?

サントリーホールディングス株式会社が手がける腸活アプリ「腸note」は、その問いに対する一つのアイデアだ。スマートフォンのマイクをお腹にあてるだけで腸の音から「腸の状態」を見える化するこのサービスは、2023年のローンチから累計45万ダウンロード(2026年6月時点)を記録し、明治「インナーガーデン」や江崎グリコ「ビスコ」などとのタイアップをはじめとして、腸活関連商品の購入や摂取記録への動線があり、腸活関心層へアプローチできるプラットフォームとなっている。

「腸活って、何が正しいのか分からない」——そう感じる「腸活迷子」は推計2000万人以上にのぼるという*1。この社会課題に対して、サントリーが出した答えは、技術の押し売りではなく、ある種の“翻訳”だった。

腸note開発に携わる金川氏に、開発までの経緯、「腸note」の存在意義、そしてこれからの展望について伺った。

サントリーホールディングス株式会社 未来事業開発部課長 金川典正氏
2011年に京都大学農学研究科食品科学専攻を修了後、サントリーにて機能性飲料の商品開発に従事。2013年から基盤研究部門にて食品成分の機能性研究に携わったのち、現在はデジタルヘルスに関わる新規事業開発を推進している。研究開発の末リリースした腸音解析アプリ「腸note」が2023年CES(世界最大規模のテクノロジー見本市)にて、Innovation Award Digital Health部門を受賞。

まずはじめに、腸noteの概要について教えてください。

金川 腸noteはサントリーがリリースしているスマートフォンのアプリです。
腸活がすごく流行ってきて、「腸は全身の健康に大事だね」という認知は広がっているものの、結局「どんな腸活をしたら良いか分からない」「継続するのが難しい」というお悩みもたくさん出ています。そこで、食べるものや飲むものではなく、腸活そのものを支援するサービスを作りたいと考えました。

スマートフォンのマイクで腸の音を測ることで腸の蠕動(ぜんどう)運動を解析し、見える化してパーソナライズしたリコメンドをする。日々使い続けてもらうことで成果を可視化し、実感に繋げ、健康のために継続的な行動変容を促すことを目的としたアプリです。

腸noteを開発しようと思った経緯を伺えますか。

金川 きっかけは社会課題でした。
臓器は見えるものではないですし、自分の体の健康状態が分からないのに健康行動をとるのは難しいという課題をなんとかしたいと思ったのが、一番の出発点でした。また、研究員として培ったデジタルヘルスの技術を活かして、課題解決をしたいという自分の中の大きなテーマもありました。

そして、私自身も腸の状態があまり良くないタイプの人間で、よくお腹がゴロゴロ鳴るなというのがあったのです。どうして自分はこんなに腸が良くないのか、どうやったら良くなるのだろうという、自分自身の健康への理解の欲求、という側面もありましたね。

開発者である金川さん自身の背景や疑問も影響しているのですね。
当時所属していた 、サントリーグローバルイノベーションセンターのビジョンに「まだ誰も選んでいない問いに挑む」という言葉がありますよね。

サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社

金川 はい。私が当時所属していた、サントリーグローバルイノベーションセンターは、サントリーグループの価値向上、事業成長のための研究・技術開発を担う機関です。しかし、問いを立てて解析した上で 、 それをお客様の価値につなげるように翻訳をしていく。それが 「まだ誰も選んでいない問いに挑む」という本質だと思っています。

腸の音を解析する技術自体は、お医者さんが聴診器で測っているのと似たようなもので、もともとあったものです。
その技術をお客様の毎日の健康行動につなげるために、「どのように翻訳していくか?」という問いから、アプリを作り、お客様の健康体験に繋げようと思いました。それが、腸noteが生まれたきっかけですね。

「翻訳」というのはすごく深いですね。問いを立てる時のポイントはあるのですか?

金川 問いが間違っていると、どんなに優れた商品やサービスを作っても課題解決にはつながらないので、問いの立て方は難しいですし、正直答えは明確には分からないです。

ただ、とても大切だと理解しています。その中でも、私が最も意識をしているのは、お客様と向き合うことです。
お客様の日々の行動の中に必ず困っていること があって、その中にどのような具体的な課題があるのか、お客様や現場を見つめ向き合う中で問いを立てていく。
たとえば、メーカーが腸活に取り組むときには、おいしくて腸に良い商品を作ることを考えるかもしれません。ただ、お客様の健康行動のために立てられる問いは、商品との接点からだけではないはずです。私自身は研究者として、違う視点から問いを立ててみることを意識しています。

腸noteは、認知、購買、体験、記録、実感、継続という習慣化ループを大切にされている設計だと思っています。
この思想はどうやって生まれたのでしょうか。

金川 健康食品や飲料の中には、継続することで価値を感じていただけるものも多いと思っています。ただ、お客様にとっては、良いと分かっていても続けることは難しいですよね。特に、効果や変化がすぐに分かりにくいものほど、途中でやめてしまいます。

多くのユーザーさんと話す中で、継続的な健康行動を実践している方は、記録して振り返ることで実感を得て、また続けようという意思を持つ、という流れを自然とやっていらっしゃいました。これは所謂PDCAサイクルとほとんど同じだなと気づきました。

計画して、腸活をして、チェックして測定し、それで次の腸活リストを作っていく。PDCAサイクルを生活者の方に自然に回してもらう、というところに着目して開発をしました。
自分の健康状態やプロセスが可視化され、変化を実感することで、楽しみながらPDCAを回していけるのではないか、という思想です。

なるほど。しかし、健康行動に対する、成果みたいなところを感じてもらうのはなかなか難しい側面もあると思います。

金川 そうですね。だからこそ腸スコアなど数字で具体的に見せることを意識しています。
数字自体はいろんな腸の状態のガイドラインにのっとりながら、有識者とも相談してスコアを作っていったのですが、数字がちょっとでも上がることで「自分は良くなっている」と分かる。実感する手前のポイントをとても大切にしています。

腸も見えないので、本当は良い方向に行っているのに、変化が見えないことで挫折してしまう方が多いからこそ、実感の手前の「見える化」に重きを置いています。

アプリ内では、継続のために「腸活タスク」というものを具体的に示していますよね。

アプリの画面。腸音測定や便通・腸活タスクの記録、レポート機能などで腸の状態を多角的に可視化。商品トライアルやモニター施策の変化記録にも活用できる。

金川 腸活に関心がある方ほど「結局何をしたらいいの?」という、自分に合った具体的な腸活を知りたいとおっしゃる方が多いように思います。というのも、腸活は食事、運動、睡眠といろんなテーマがあるからこそ、何をしたらいいか迷ってしまうのです。選択肢が多いことは、必ずしも良いことじゃないんですよね。だからこそ「あなたはこれをしたら良いですよ」と次の行動のアドバイスをすることで、そこから取り組んでみる、という自然な継続の動線として「腸活タスク」を位置づけています。もちろん体は一人一人違いますので、一つのタスクだけを答えとするのではなく、合わないようであれば違うタスクを示すという、ピボットもできる設計になっています。

「腸スコア」や「腸タイプ」という、腸noteオリジナルの可視化は、ユーザーの行動変容にどんな役割を果たしていますか。

金川 ダイエットをする方は、ほとんどの方が体重計に乗っているのではないかと思います 。
食事制限した時に、もう一回体重計に乗って数字が減っていたら嬉しい 。自分のやっていることが正しいかどうかは、体重計の数字を見ながら判断しているはずです。

でも腸活には、それが今まで存在していなかった 。これをしたら良い、あれをしたら良いと情報は溢れているけれど、その行動の結果が見えにくかった。
だから、腸noteを説明する時には「腸活版の体重計を作ります」という話をしています。腸スコアが体重や体脂肪率みたいな存在になって、PDCAのC(チェック)として機能することで行動変容につながる、ということを目指しています。

ちなみに、ダイエット中にあえて体重計には乗らない、結果を見るのが怖い方に対しては、腸noteはどう寄り添っていますか。

金川 そこはすごく難しいところですね。
健康診断に行きたくない、自分の体の悪い部分をあえて知りたくない、という方もいらっしゃいますよね。多くの方に腸を通して健康になっていただきたいからこそ、腸noteでは、ネガティブに捉えられるポイントをいかに減らしていくかが大事だと思っています。

例えば、おなかの調子が乱れた時も「悪くなりましたね」ではなくて 、「腸自体には揺らぎがあるので、その揺らぎの一つかもしれませんね」という受け止めやすい表現をしたり、逆に良かった場合には、しっかり褒めてあげる。結果が良くても悪くても、まずは健康のために腸活をしたプロセスをちゃんと褒めてあげる、という工夫をしています。
コーチング的な概念も腸noteには取り込んでいます 。これは、やるべき行動を示す腸活タスクがあるからこそ褒めるというアプローチができます。

前編では腸note開発への想いや仕組みについて紹介しました。後編では、「腸note」を通じて広がるファンダムと、これからの展望について伺います。(後編はこちら

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サステナブル・ブランド・ジャーニー編集部
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