気候変動、地方衰退、資源枯渇――。現代の社会課題は複雑に絡み合い、「一社の技術やリソースだけでは十分なソリューションを提供できない」と悩むサステナビリティ推進担当者や新規事業開発者は少なくありません。
創業から70年あまり、「感動創造企業」として本気で遊ぶことを具現化してきたモビリティのリーディングカンパニー・ヤマハ発動機。
同社は今、地球環境の再生を目指す、壮大で、ともすれば自分ごと化しにくい「リジェネラティブ」という概念に、独自の掛け算で挑んでいます。それが、オウンドメディア「RePLAY」と共創スペース「リジェラボ」をハブにした、「地球がよろこぶ遊び」を掲げた共創プロジェクトです。
今回は、同社共創推進グループの福田 晋平さん(右、ヤマハ発動機株式会社 技術・研究本部 共創・新ビジネス開発部 共創推進グループ グループリーダー)、志田 芳美さん(左、ヤマハ発動機株式会社 技術・研究・デザイン本部 技術・デザイン統合戦略部 共創推進グループ)へのインタビューから、サステナビリティ推進を「義務」ではなく「実感値を持った楽しい遊び」へ変革する、地道かつクリエイティブな実践知を紐解きます。
そこにあったのは、オフィスを飛び出し「現場で体験する」身体知を起点とした、彼らの新しい“仲間づくり”のストーリーでした。
会社のDNA「感動創造」×リジェネラティブ=『地球がよろこぶ遊び』

現在13名で構成される共創推進グループは、有機的な視点を持つため、あえてそれぞれが複数のチームを兼任しています。
このグループが立ち上がった根底には、「共創という手段を使って新しい価値を作ったり、課題を解決したりしていきたい」という強い想いがありました。
「創業から70年あまり、移動の瞬間における感動の提供はわが社単体でもできたが、現代は社会課題が複雑化しており、移動手段だけではソリューションとして不十分になっています」と語る福田さん。
課題先進国・日本において社会課題を「ビジネス」として解決することは、将来、同様の課題を抱える国が増えた際、逆に大きなチャンス(オポチュニティ)になるという確信がありました。また、まだ形にできている企業が少ない「リジェネラティブ」だからこそ、逆に同社の強みになると考えたのです。
ヤマハ発動機には、自身が会社の「ファン」であり「カスタマー」であるという社員が多く、創業者の「遊び」や「感動」というDNAが脈々と引き継がれています。しかし、そのDNAとリジェネラティブという一見難しいテーマとの融合は至難の業でした。
議論を重ねた結果、『地球がよろこぶ遊び』というコンセプトが誕生しました。
人が出会う場所「リジェラボ」と、悩みもオープンにするメディア「RePLAY」

右)リジェラボ内に設置されているキッチン
「共創で事業を作ろう」となった時、まず必要だったのが人と「出会う場所」でした。本社を静岡に構えている同社ですが、よりオープンで人と出会いやすい場所を求め、誕生したのが共創スペース「リジェラボ(Regenerative Lab)」です。
国内ブランディング、採用強化、アクセスのしやすさを目的とし、横浜に誕生した同施設。
抽象的な概念である「リジェネラティブ」の空間化は困難を極めたといいますが、試行錯誤の末、見事「日本空間デザイン賞2025」において、「企業プロモーション空間部門 金賞」を受賞しました。
多くの什器が動かせる「可変」もテーマとし、キッチンも完備。料理が趣味の福田さんは、イベント時には参加者と“共創”で調理・食事を楽しむこともあると言います。
「食」という誰もが共有できるプラットフォームが、自然な対話を促しているのです。
一方、リアルな出会いの場ができても、自分たちだけの取り組みには限界がありました。
そこで「気付いたこと、悩んだこと、つまずいたこと等を包み隠さずオープンに紹介することで、色々なパートナーに見つけてもらい、仲間になってもらいたい」
そんな想いで立ち上げたのが、オウンドメディア「RePLAY」です。

美しい成功事例だけではなく、あえて「悩みのプロセス」を開示する姿勢が、志を同じくするパートナーを引き寄せています。
「リジェラボ」で人と出会い、紡がれる等身大のストーリーを「RePLAY」で可視化する。この2つのインフラが、流動的な共創を加速させるプラットフォームとして機能しています。
目先の収益を超えた「新しい企業価値」を目指して――言葉の翻訳と対話

しかし、共創の現場はきれい事ばかりではありません。前職で「遊び」の力を実感し、同社のステートメントに惹かれ転職した志田さんは、ステークホルダーを巻き込む「伝達・言語化」の難しさを語ります。
例えば、地域住民の方々にいきなり「ヤマハ発動機がリジェネラティブな活動をしに来た」と言っても伝わりません。地域の方々の視点に立ち、相手の生活や五感に根ざした言葉に翻訳して伝える努力を重ねています。
社内に対しても、「儲かる・儲からない」という目先のモノサシだけでリジェネラティブを伝えるのは困難です。
だからこそ志田さんは、「金銭的な価値だけでなく、社会インパクトという非財務価値を含め、企業価値を新しく向上させていく新しいビジネスをつくりたい」と、熱意を持って説得と対話を続けています。
さらに、企業間の文化のギャップも普遍的な課題です。
企業ごとに当たり前の基準や文化、仕事の進め方は異なります。お互いにアセットを出し合う中でズレは必ず生じるため、「思い切って話すなど、コミュニケーションを取りながら擦り合わせる努力が必要」と語ります。
あらゆる方向に対して行う、この地道な関係性づくりこそが、形骸化しない共創プロジェクトの土台となっているのです。
行き詰まったらオフィスから出て、「現場」へ行って五感で感じよう

右)ヤマハ発動機×Local Coop尾鷲 三重県尾鷲市でのモビリティを活用した共創トライアルを行った時の写真
インタビューの中でお二人が最も強調したメッセージが、「現場に行く、現場から学ぶ」ことでした。
「言葉でリジェネラティブとか言うけれど、体験しないと分からないなというのがある。実際に現場に行って体験して、身をもって理解できていく瞬間が楽しい。毎回それが楽しみです」――志田さん
プロ並みに調べるよりも、フットワーク軽く現場へ行きチャレンジするスタンスが重要とも付け加えました。東京と北海道での暮らしを経験した志田さんは、ごみ分別の違いなど日々の生活から「自分ごと化」することの大切さも指摘します。「生活圏でのつながりを理解すると、自分と重なる部分が見え、実感値を持つヒントになります」
「フィールドに行って身体感覚で理解するのもうちの強みだが、オフィスに戻ってきて感じてきたことを言語化してみること。一旦引きで見て、メタ認知して、ここで起きたことをこっちで使えるかもしれないと考える、そういうプレイヤーもこの界隈に必要なのではと行ってみて特に思う」――福田さん
オフィスで行き詰まったら現場へ行き、五感で感じる。一人で解けない課題にぶつかった時、「誰と一緒にやれば良いか」を考えることで、共創の種ができるのです。
「身体知」を得ることから始まる価値創造と、これからの展望

今後について福田さんは、「RePLAYやリジェラボを通した活動がより活性化し、参加する人や閲覧する人が増えていくのが望ましい」としつつも、数よりも活動の「深み」を重視し、ディープな仲間を作りたいと語ります。
現在注力するのは、三重県「尾鷲」でのプロジェクト。
マウンテンバイクで地域を豊かにするヤマハ発動機の「MOUNTAIN RIDE HUB」と、株式会社paramitaが営む尾鷲のフィールド。双方が互いの現場を訪れ、意見を交わしながら、共創を進めていると言います。
志田さんも「『地球がよろこぶ遊び』というコンセプトを我々だけのものにするのではなく、一緒に作っていきたい」と語ります。
楽しく実感値を持って取り組める人を増やし、「気がついたら結果的に解決していた」くらいの感覚になれば、もっと多くの人が関わりやすくなりそう、という未来への想いを残してくれました。
『地球がよろこぶ遊び』というコンセプトは、社会課題を楽しく「自分ごと化」する最高の道標です。
「机上のロジック」に終始せず、オフィスを飛び出し「現場を体験し、身体知を得る」アプローチこそが人を動かし、リジェネラティブな未来へ一緒に向かう仲間づくりに繋がるのです。