ジャパン・ウォータースチュワードシップ・フォーラム2025 レポート

リサイクル / 資源循環 共創・イノベーション
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JWSフォーラム 集合写真

「水の日」と定められている8月1日、東京都千代田区にてジャパン・ウォータースチュワードシップフォーラムが開催された。

ジャパン・ウォータースチュワードシップ(以下、JWS)は、スコットランドを本国とするAlliance for Water Stewardship(以下、AWS)の呼びかけにより、日本国内のAWSメンバー企業5社が中心となり2025年3月に始動。JWSが目指すのは、日本国内で事業を展開する企業に、より信頼性の高い水資源保全の取り組みを広めていくこと。それぞれの流域内にある事業者同士の関係構築・協働を促すほか、行政機関との連携強化なども推進すべく、取り組みを開始している。

初開催となった今回のフォーラムでは、JWS立ち上げメンバーである5社(※)の他、本部であるAWS、行政・自治体などの代表が登壇。各所の水循環における課題や現状、取り組み事例が紹介され、持続可能な水利用についての議論が展開された。

(※)MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社、栗田工業株式会社、サントリーホールディングス株式会社、日本コカ・コーラ株式会社、八千代エンジニヤリング株式会社

 

スピーチを行うエイドリアン・シム氏(AWS CEO)。

スピーチを行うエイドリアン・シム氏(AWS CEO)。

流域ごとに異なる「水循環」、向き合う行政の取り組みとは?

私たちが日常利用している水は、主に河川から取水されている。源流から河口まで絶え間なく流れる、流動的な資源だ。更に蒸発・浸透・凍結・降水…と、その形を変えながら循環していることを考えると、その流動範囲はより広いことがわかる。

フォーラム冒頭でスピーチを行ったAWSのCEO エイドリアン・シム氏も「流域の課題に適切に対処するためにはビジネスコミュニティ全体の参加が必要。単一の事業者が最善の取り組みをしても、隣接する事業者が取り組まなければ全体としては意味をなさない」と語り、広範囲を循環する水資源の保全管理における、基本的な視点を提示した。

1つ目の基調講演では、内閣官房水循環政策本部事務局、熊本市、那須塩原市の代表が登壇し、行政の立場から水循環における課題と取り組み事例の共有を行った。

▍登壇者

田中 陽三氏/内閣官房水循環政策本部事務局 参事官補佐
永田 努氏/熊本市 水保全課 主幹
瀧口 晃氏/那須塩原市 副市長

 

  • 個別最適から全体最適へ 〜政府が掲げる“流域総合水管理”

田中陽三氏は政府が講じてきた対策例として、地方自治体への有識者派遣や、地下水データベースの運用推進、普及啓発などを挙げる。加えて2024年創設の「水循環企業登録・認証制度」にも言及し、インセンティブを高めることで企業の取り組みを一層促進したいと意気込みを語った。

また政府が掲げる『流域総合水管理』の概念を共有し、「これまで各分野で施策を推進してきたが、今後は全体最適な水管理のために一体的な取り組みを進めたい」と述べる。流域総合水管理で想定している取り組みの一例としては「複数ダム間での連携」があるという。同氏曰く「降雨予測技術が発達していることで、既存設備でもより高度な運用が可能」になっており、今後複数ダム間での運用統合や、容量の再編なども視野に入れているそうだ。

JWSフォーラム 田中氏

「流域総合水管理」の概念を説明する田中氏(内閣官房水循環政策本部事務局)

しかし水資源の保全管理は、各流域によって地理的条件や土地利用状況などが異なるため、一様の対応は困難だ。各地域が各々の現状や課題をどのように把握し、取り組みを行っているのか。今回その事例を共有したのが、熊本市と那須塩原市だ。

 

  • 「地下水100%」の水道水を守る 〜 官民連携で地下水涵養に取り組む熊本市

熊本市の水道水は、100%地下水だ。人口70万人超の規模で水道水源を全て地下水で賄う同市の取り組み事例として、永田氏からは水田湛水、水源涵養林整備、くまもと地下水財団(11市町村と熊本県で設立)による広域連携などの事例が共有された。中でも特徴的なのは、農地に水を張ることで地下に浸水させる水田湛水だ。市では農作物が作られていない期間を利用して農家に水田湛水を行ってもらい、その期間・面積に応じて助成金を支払うという方法を取っており、令和6年度は計2,245万m³(市民一人の1日当たりの生活用水使用量(220L)で138日分となる)の地下水涵養実績をあげている。特筆すべきは、市内に工場を持つサントリーホールディングスやコカ・コーラシステムといった大手飲料メーカーもこれらの取り組みに参加している点であり、官民連携によるウォータースチュワードシップの有効な事例と言える。

JWSフォーラム 永田氏

熊本市の行う水田湛水の取り組みについて解説する永田氏(熊本市)

 

  • 生態系保全、切り口は「水」 〜那須塩原市が始動したネイチャーポジティブアライアンス

那須塩原市は、扇状地である「那須野が原」において、里山から里地までの水循環が育む多様な生態系保全についての取り組みを共有した。那須野が原は関東の清流である那珂川の最上流部に位置し、立地する企業の多くは豊富で綺麗な地下水を利用して操業している。水源である里山は国立公園に指定されているほか、里地でも湧水地由来の希少動植物が多く、自然環境のポテンシャルも高い。瀧口氏は、この地に拠点を持つ事業者の取り組み事例として大手化粧品メーカー株式会社資生堂の那須工場を挙げる。同社ではこの工場周辺に流入する地下水の起源を明らかにしているほか、厳格な排水処理基準の設定や、周辺環境への影響の観察も徹底しているという。このような取り組みを参考に、今年6月、市はより多くの事業者や住民と共に環境保全施策に取り組む枠組みとして『ネイチャーポジティブ那須野が原アライアンス』を発足させた。国立研究開発法人の協力も得て、アカデミックな視点から地下水のデータを活用し始めているという。

JWSフォーラム 瀧口氏

「那須野が原」が育む生物の多様さを示す瀧口氏(那須塩原市)

 

「コレクティブアクション」その必要性と、広がりへの期待

続くパネルディスカッションでは、JWS立ち上げメンバーである企業が登壇し、流域内の多様なステークホルダーが連携して行動し合う(コレクティブアクション)の可能性について会話がなされた。

▍登壇者/各社の水資源管理に関する概要

瀬田 玄通氏/サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部 部長
2018年、鳥取県の工場で日本初のAWS認証取得。その後も複数拠点で認証を取得し、高い水準の水資源管理を実践し、AWS Platinum認証を3工場で取得。熊本地域で地下水涵養の取り組みを進めているほか、くまもと地下水財団と同社の水科学研究所による共同研究も実施。地域の水利用・土地利用に関する提言・政策への反映を目指すなど、セクターを越えた積極的な取り組みを多数展開し、JWSの発足をリード 。

浦嶋 裕子氏/MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 サステナビリティ推進部 上席スペシャリスト
「グリーンレジリエンス」という概念を掲げ、保険会社の視点から自然の保全と活用による防災・減災や地方創生を目指した取り組みを展開。水害を教訓とした熊本県南部の球磨川流域での湿地保全や、物流・データセンターなどの事業利用が進む千葉県印旛沼地域での里山保全などを実施。行政、地域事業者、研究機関、大学などと一体となった水資源管理を実践する。

吉田 広人氏/八千代エンジニヤリング株式会社 サステナビリティサービス部 課長
建設コンサルタントとして60年以上、国や地方自治体の水循環計画や水関連条例等の政策立案を実施してきた知見をもとに、日本企業におけるAWS導入支援を展開。また近年は民間企業向けに水資源管理やリスクアセスメントの支援も実施。こうした支援から、行政と民間を繋げるハブの役割も担いながら、流域の健全性向上に寄与している。

*モデレーター
小林 俊介氏/WWF ジャパン 自然保護室 淡水グループ長

JWSフォーラム パネルディスカッション01

左から小林氏(WWF ジャパン)、瀬田氏(サントリーホールディングス)、浦嶋氏(MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス)、吉田氏(八千代エンジニヤリング)

サントリーホールディングスの瀬田氏は「水循環は地域によって異なるので、まずはその土地の水循環を理解すること」と大きな前提を提示した上で「我々が単体で取り組んでいても、水資源全体は守られない。流域全体、またサプライチェーン全体で、様々な企業と協力することが重要」と語る。

MS&ADインシュアランス グループ ホールディングスの浦嶋氏は「近年水災の増加で、保険金のお支払いが増えている。保険というシステム自体の持続可能性が脅かされている事態とも言える」と危機感を募らせた。「自然災害のリスクは、“外力×曝露×脆弱性”で決まる。気候変動で“外力”が高まっていることは明らか。リスクを下げるには、残りの2つをどう改善していくかが重要だが、我々保険会社1社では到底できないこと」と続けた。

両名がコレクティブアクションの必要性を強く訴える中、AWS導入支援を実施する八千代エンジニヤリング 吉田氏は、「AWS導入企業は、流域・地域の関係者とのコミュニケーション・エンゲージメントを重視している。海外では流域が国を跨ぎ、国や言語が壁になりやすいが、日本はその壁がない。流域全体での連携は広めやすいはず」と話し、国内での広がりに期待を込めた。

 

連携し合うための“土壌作り”も支援 〜JICAの支援事例

独立行政法人国際協力機構(以下、JICA)の地球環境部水資源グループ長 青木 英剛氏による2つ目の基調講演では、インドネシアとフィリピンを対象とした国際協力における事例が共有された。インドネシアでは地下水揚水による地盤沈下への対応を、フィリピンでは国の水資源管理に関する政策制度構築を支援したが、いずれのケースでも、対象国の関係者同士が信頼関係を築き、利害を調整しあうプロセスを踏んだ上で、制度構築やステークホルダーの能力強化を図った点がポイントだ。対処型の支援ではなく、支援地域の関係者が長期的に連携し合うための基盤を整える総合的な支援をすることで、地域固有の水問題解決に貢献している事例と言える。

JWSフォーラム 青木氏

国際協力における、実践的総合水資源管理について述べる青木氏(JICA)

 

サプライチェーンの水資源管理、どのように?

2つ目のパネルディスカッションでは「水」が事業の軸である3社により、主にサプライチェーン全体という視点での水資源管理について会話がなされた。

JWSフォーラム パネルディスカッション0

左から青木氏(JICA)、酒井氏(栗田工業)、田中氏(日本コカ・コーラ)、松井氏(Waterplan)

▍登壇者/各社の水資源管理に関する概要

酒井 瑞之氏/栗田工業株式会社 サステナビリティ経営戦略室 戦略推進部 CSV推進課 課長
主に製造業や社会インフラを対象として水処理薬品や、再生水供給サービスを含む水処理装置などの多様な水ソリューションを提供する。2020年から「Water Resilience Coalition」に参画し海外でのコレクティブアクションに関わるほか、2024年からAWSにも参画。グローバル規模での水資源管理に取り組んでいる。

田中 美代子氏/日本コカ・コーラ株式会社 広報・パブリックアフェアーズ&サステナビリティ本部 副社長
全世界で高水準の水資源管理を徹底しており、日本国内でも白州、守山の2工場がAWS認証を取得。森林保全や湿地復元などを通じ、製品に使用した量以上の水を自然に還元する取り組みを継続しているほか、サプライチェーン周辺流域全体での保全活動にも着目。製品原材料の茶葉の生産地における環境保全はもちろん環境にやさしい農法や土壌開発にも携わり、水利用の責任を多角的なアプローチで果たしている。

松井 香奈氏/Waterplan 水専門アドバイザー(米国技術士)
企業の水リスクを管理・最適化するためのSaaSを提供する米国本社のスタートアップ企業。テクノロジーを活用したプラットフォームの提供により、グローバルに展開する大手企業を中心に支援を広げている。当日説明したコレクティブアクションの事例では、現地組織が「年間4000万m³の節水による流域の水収支赤字の40%削減」、「AI利用による広大な農地の灌漑精密化」などの目標を掲げ、クライアントがそこに積極的な参画を表明したことを紹介。Waterplanはこのような現地パートナー組織やプロジェクトの紹介、並びに内容確認の支援も担っている。

*モデレーター
青木 英剛氏/独立行政法人国際協力機構(JICA)地球環境部水資源グループ長

 

日本コカ・コーラは、日本独自製品である緑茶飲料のサプライチェーンに着目したという。同社の田中氏は「原料である茶葉の生産地が属する流域においても、我々が責任の一端を担うべき」と述べ、周辺環境の保全と、その中で浮き彫りになった茶業界の課題解消への取り組みについて語った。現在はアグリテック系のスタートアップ企業とともに、品質や収量向上が期待できる土壌開発も進めているといい、事業領域を越えた多方面でのアクションの事例を共有した。

一方Waterplan社の松井氏は、水資源管理の視点を“事業所の流域”から“サプライチェーン全体”に移したとき「水リスクの把握はより複雑で、頭を抱える事業者も多い」と、その難しさを認める。しかしその中でも「同じ調達先を使っている事業者同士でのコレクティブアクションや、産業ごとの団体の巻き込みなどの可能性はあるのではないか」と柔軟な視点での展望を語った。

栗田工業の酒井氏も「同じ産業で同様の水リスクを抱えているケースもある。だからこそ連携できるのでは」と述べ、産業内の事業者間での連携可能性を示唆した。

 

今回のフォーラムでなされた議論では、流域ごとに異なる水循環を正しく理解・把握することと、そして既存の枠組みに囚われない多様な分野間でのコレクティブアクションが不可欠であることが強調されている。循環し続ける水資源の状況把握は簡単ではないが、共有された事例を見ると、テクノロジーがその精度を高めていることも確かだろう。

ヒントとなる事例が数多く語られたこのイベントを皮切りに、日本でもウォータースチュワードシップ(水資源管理)の動きは更に活発になっていきそうだ。

 

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【これからは水の時代】世界的に高まる水リスクと企業への影響

キーワードは「流域全体の健全性」コカ・コーラが地域と協働で目指す水のサステナビリティ

 

<参考ページ>

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WRITERこの記事を書いた人

Ryoko HANAOKA
Ryoko HANAOKA

大学で環境教育・文化財保存科学を専攻した後、人材業の企業を複数社経験。各社にてライティング、企画編集、採用支援やアカウントマネジメントなどに従事。
現在フリーランスライターとして活動中。気になることは物事の仕組みや原因。映画と読書と睡眠の時間は死守したい。

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