2025年11月13日、フェアトレード推進活動で優れた功績をあげた企業・団体等を表彰する「第2回フェアトレード・ジャパン・アワード」が開催された。同日は、アワードに先立ってセミナーも開催され、企業の取り組み事例や、生産者のトークセッション、パネルディスカッションが実施されている。
本記事では本セミナーの内容を中心にレポート。各パートで共有された事例と視点を紹介し、企業・団体がフェアトレードに取り組む上でのヒントを提供したい。
「フェアトレードは、スマイルトレード」自由な解釈で広がる訴求の可能性
「生活者に選ばれる企業へ ― ビヨンドSDGsとフェアトレードが生む新しい価値」と題したパネルディスカッションでは、認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長の潮崎真惟子氏をモデレーターに、川廷昌弘氏(ビヨンドSDGs官民会議 事務局長)、村瀬悠氏(株式会社博報堂 ストラテジックプランニング局)が登壇。2030年のSDGs達成状況とその先を見据え、企業が創るべきムーブメントについて議論した。
目標年の2030年を前に、未だ達成が遠いSDGs。そんな中、更に先を見据えた『ビヨンドSDGs』の考え方が生まれ、本年は「ビヨンドSDGs官民会議」も設立された。当会議事務局長である川廷氏はこの官民会議について「次なる国際目標の議論に向け、その視点や課題を日本が主体となって発信していける可能性についても議論している」と話す。
一方、ビヨンドSDGsの世界で消費主体となっていく今のユース世代について、村瀬氏は「“自身のライフスタイルとして”サステナブルな選択をする」傾向があり「サステナブル」という抽象度の高いテーマではなく「ウェルビーイング」などの具体的なテーマごとに取り組む姿も特徴だと指摘する。
「フェアトレード」もその具体的なキーワードの一つだが、仕組みや効果が広範囲にわたるがゆえ、生活者は理解しにくいのが課題でもある。逆を言えば、ここで効果的な訴求ができれば、選ばれる企業となる可能性は高い。村瀬氏は「フェアトレードは貿易の仕組みだが、その枠組み内で自由な解釈も可能では」と可能性を示唆し、「スマイル」のキーワードを例示した。産地は、課題をクリアして実現されることで生まれる笑顔。消費側は、良質な製品を愉しむことでの笑顔。商品とその対価以外に、その先にある“何か”のトレードも可能ではないか?という視点の提起だ。企業が訴求の創意を凝らし発信することで「議論が深まり、生活者の価値観の交流も深まるのでは」と、登壇者たちは期待を込める。
SDGs全目標の達成に寄与すると言われるほど影響範囲の大きいフェアトレードについて、日本が議論を深めることは、次のグローバル基準を先導する可能性にも繋がりそうだ。

SDGsの日本版アイコン制作にも携わった川廷氏(写真中央)は、日本におけるSDGsの第一人者。博報堂で活躍する村瀬氏(写真右)は学生時代からフェアトレード・ラベル・ジャパンの活動に携わり、現在もプロボノとして参画している。
ビジネス特性、企業規模。自社の強みを軸に展開するフェアトレード
では実際の企業の取り組みには、どのようなものがあるのか。今回事例共有を行ったのは、日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)と、大日本印刷株式会社(以下、大日本印刷)の2社だ。
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カタログビジネスの特徴を活かした消費者訴求〜日本生協連の事例
全国の生協が加盟する連合会、日本生協連。組合員の「想いをかたちに」という姿勢での商品づくりを行う同連合は、ペルー産バナナを始めとし複数のフェアトレード商品を扱っている。南米産バナナは輸送コストの影響で(アジアの商品より)高価格だが、週に約1万パックが安定的に購入される生協もあるという。同連合の高杉氏は「品質の確かさ、取り組みにかけるスピリットへの共感があるからこそ」と話し、カタログビジネスの特徴を最大限に活かした消費者への訴求を強みとして強調した。2025年4月にはフェアトレード・ワークプレイスとしても認定された同連合は、生産者と消費者の架け橋を目指す、と意欲的だ。

当初は有機栽培商品として契約予定だったペルー産バナナだが、農園の経営・取り組みに強く共感したバイヤーの提案でフェアトレード商品として扱うことになったという。(写真:日本生協連 第一商品本部 農畜産部 部長 高杉康彦氏)
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大手企業、社内消費からフェアトレード品を 〜大日本印刷の事例
一方、従業員数が3.6万人超という大日本印刷(当日発表資料より/2025.3.31時点)は、社内消費物品にフェアトレード製品を取り入れる事例を紹介した。印刷と情報を軸に多様な領域で事業展開する同社は、2006年よりいち早く社内応接用にフェアトレードコーヒーを取り入れた。以降も社内用コーヒーやアイスクリーム、エコバックなどのノベルティ品を扱い、社員食堂でも、フェアトレードミリオンアクションキャンペーン(※)期間にフェアトレード製品を用いたメニューを提供している。これらの継続的な取り組みが評価され、2025年には「フェアトレードワークプレイス・ゴールド」企業に認定された。同社の五十嵐氏は「社内消費の先進企業として認知が広まり、企業ブランド向上に繋がっている」と述べながら、今後も積極的に取り組む姿勢を見せた。
(※)フェアトレード・ラベル・ジャパンが2021年より実施している、フェアトレード認証や普及強化のためのキャンペーン。期間中はフェアトレード認証商品の購入やSNS投稿などのアクションがカウントされ、1アクションにつき1円が寄付や支援活動にあてられる。キャンペーンページ

大日本印刷の取り組みは「社会貢献につながるならば、積極的に取り組もう」という役員会の意思決定により、約20年前にスタートした。(写真:コーポレートコミュニケーション本部 ブランド戦略室 社会貢献推進グループ 五十嵐哲氏)
アワードでは、こうした多くの企業・団体の取り組みにもとづき表彰が行われ、総合大賞は2004年からフェアトレードコーヒーを販売してきた小川珈琲株式会社が受賞した。同社取締役 小川雄次氏はコメントで「採用面でも、フェアトレードへの取り組みを理由に当社を選ぶ人が増えている」と話し、フェアトレードの認知が拡大していることをうかがわせた。(受賞企業一覧)

コーヒー栽培、その中心は「人間の活動」 〜生産者が提示する産地の姿
一方、日本国内では見えにくいのが生産地の状況だ。この日生産者代表として登壇したシルビア・エレーラ氏は、フェアトレード中南米理事であり、コーヒー生産者でもある。同氏によると生産地の課題は複数あるが、それらの大きな要因は気候変動だという。栽培地の標高や降雨パターンの変化、それによる収量減少や病害虫増加などは、比較的想像しやすい。しかし気候変動を受けて新設される法令への対応も、実は負担が大きいとエレーナ氏は指摘する。また災害の増加が生産者の生活基盤を奪い、栽培地減少に繋がっている現実も紹介された。同氏は、フェアトレード中南米組織や生産地組合が行う多面的な対策を紹介しながら、「コーヒー栽培は商業活動だが、その中心にあるのは人間による活動だ」と強調し、生産者である人間への想像を喚起した。

コーヒー栽培地の標高は、自身の祖父や父の時代よりも200m程も下がっていると、現状を伝えるエレーナ氏
気候変動を始め、世界は大きく変化している。大きな変化は、不安や分断や混乱を招くものだが、このセミナーからは、それを乗り越えるためのきっかけの一つがフェアトレードにあるのではないか?という希望もうかがえた。
「既存のシステムをどう変えていくかが、フェアトレードの取り組みだ」というのは、フェアトレード・ラベル・ジャパン代表理事 樽本氏の閉会の言葉だ。この大きなシステムチェンジに、私たち日本の各セクターはどう関わっていけるのか?今後も引き続き、着目していきたい。
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