2026年4月18日から19日の2日間にわたり、東京・代々木公園にて開催された「アースデイ東京2026」。地球の未来や平和について、国境や世代を超えて共に考えるこの祭典に、私も足を運びました。約15年間、ほぼ毎年通い続ける中で今年強く感じたのは、かつてのような大企業のプロモーション要素の強いブースが減り、会場の風景が静かに、しかし力強く変化していることでした。それは決して、社会の関心が薄れたことを意味するものではありません。本記事では、アースデイ東京の定点観測を通じて見えてきた変化と、これからの企業と社会のつながり方を再考する「原点回帰」のヒントを紐解きます。
緊迫する世界情勢の中で。「分断」から「共感」へ向かう平和への祈り

今年の会場を歩く中で、ひときわ多くの方の足を止めていたのが、平和を訴える来場者参加型のアート展示「PEACE FLOWER GARDEN」です。そこには、かつて軍の演習で使われていたという、砲身が曲がった実物大の戦車のバルーンオブジェが置かれていました。
破壊の象徴である武器を、美しい花を生ける花器へと変える。その切なるコンセプトのもと、訪れた人々が平和への願いを託すように、次々と花を飾っていく姿が印象的でした。武力衝突のニュースが日常化してしまっている今、「分断の時代に贈る平和アクション」として掲げられたこの企画は、単なるイベントの演出という枠を超え、私たちの心に深く響く切実なメッセージ性を帯びています。
企業ブースの減少が意味するもの。社会を「再生」させるフェーズへ
そんな平和への祈りに包まれた会場を改めて見渡した時、私のなかで、かつてのアースデイとの明確な違いとして浮かび上がってきたのが、大企業ブースの減少です。
数年前まで、会場には巨大なテントが並び、各社が華やかなプロモーションを繰り広げているようにも感じていました。現在の落ち着いた風景は、一見するとトーンダウンしたように映るかもしれません。しかしこれは、企業の活動が「イベントでのアピール」という段階から、社会の仕組みそのものを変革するシステムチェンジや、環境をより良い状態に回復させていくリジェネラティブなあり方へと、より本質的なフェーズへ移行した証拠だと言うこともできるのではないでしょうか。
かつて主流だった、本業の傍らで社会貢献を行ったり、自社の利益と両立する範囲内で社会課題の解決を目指したりする姿勢は、もはや過去のものとなりつつあります。地球の限界が目前に迫り、人権や格差の問題が複雑に絡み合う今、企業にはサステナビリティを「本業そのもの」に組み込み、事業を通じて社会や自然を根本から「再生」させていくアクションが求められています。だからこそ、特設ブースを設けて自社の取り組みをアピールするだけというフェーズは、すでに終わりを迎えたのです。
一方的な発信から、生活者との「共創」へ
ここ数年のアースデイを振り返ってみると、その変化は確実にあらわれていました。一方的な発信が減る一方で、存在感を増してきたのは、生活者と直接「共創」しようとする企業です。
たとえば、一昨年や昨年の出展を振り返ると、アシックスはスポーツができる環境を守るという本業の危機感から、参加者のランニングと植樹を連動させる企画を展開していました。また過去には、アスクルが社員の自発的なアイデアからクリアホルダーの資源回収という自社事業に直結した体験を提供したり、イオン環境財団が里山保全のワークショップを通じて来場者が直接アクションを起こせる場を創出したりする姿も見られました。
これらはすべて、企業にとってのアースデイが、単なるアピールの場から「本業を通じて、共に社会を良くしていく仲間である市民と出会う場」へと役割を変えた、過渡期の確かな証明でもあります。
「春の地球文化祭」。主役は社会に問いを投げかける若者たちへ
そして今年、派手な広告が減った空間で最も力強い熱気を放っていたのは、公式テーマ「春の地球文化祭 – 若者がつくる未来へのアクション」が示す通り、大学の環境サークルをはじめとする学生・ユース世代でした。
彼らは、気候変動や人権問題を自分たちの生存権に関わる切実な問題としてシビアに捉えています。もはや企業の取り組みをただ消費する存在ではなく、社会に対して本質的な問いを投げかける主体として躍動しているのです。
今年行われた、若者たちの実践と企業の事業変革を掛け合わせる「GXユースラボ」のような試みは、その象徴と言えるでしょう。企業は教える側として上から目線で構えるのではなく、若者たちの声から学ぶ側、そして共に未来を創る側へと、その立ち位置を大きく変えつつあります。
長期的な継続こそが最先端。ハローアースステージが教えてくれた多様な連携

こうした変化の中で、これからの社会課題解決のあり方として私の心を強く打ったのが、「ハローアースステージ」で語られた、サラヤと認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパン(BCTJ)による長年にわたる協働のお話でした。
企業、NPO、現地政府、そして生活者が対等な立場でそれぞれの強みを持ち寄り、20年近くもの間、泥臭く連携し続けているその歴史。ステージからその歩みを耳にしたとき、私はこれこそが、多様な主体が協力して複雑な課題に挑む「コレクティブ・インパクト」の真の姿なのだと深く実感しました。
一過性の派手なPRが姿を消した今の会場において、特定の組織だけでは解決できない課題に対し、粘り強く取り組むこの実直な連携の姿は、社会を変えていくための最先端の実践例として力強く響いていました。
草の根の熱量が教えてくれる、これからのブランド価値創造
サステナビリティを事業の中心に据え、社会との新しい関係性を築こうとする企業にとって、ESGなどの指標に基づいた高度な戦略は不可欠です。しかし、時にこうしたアースデイのような草の根の活動に立ち返ることが、本質的なブランド価値創造のヒントになるのではないでしょうか。
洗練されたロジックや数値目標だけでは、生活者や社員の心は深く動きません。泥臭く活動するNPOや若者たちの熱量、オーガニック製品の自然な香りといった「手触り感」に触れること。そこから生まれる他者への想像力こそが、企業の理念を一人ひとりの「自分ゴト化」へと導き、社会から深く共感されるブランドとしての信頼を生み出す源泉になるからです。

まとめ
アースデイ東京2026の開催終了後、公式レポートに記されていたある一文が、私の心に深く残っています。
—— すべての意見に賛同することは難しくても、他者の背景を想像する力さえあれば、どんなに異なる相手とでも、どこか分かり合える「同じ部分」が見つかるかもしれない。
効率や数字が重視されるビジネスの世界にいる私たちだからこそ、あえて土の匂いのする場所に足を運び、多様な人々と対話する意味がある。私はそう確信しています。
武器を花器へと変える祈りが象徴するように、代々木公園で培った他者への想像力を、私たちがそれぞれの日常やビジネスの中へ持ち帰り、大切に育てていくこと。現在地から次の一歩を踏み出すための原動力は、案外そんな、一人ひとりの心の中に宿る確かな「共感」から生まれるのではないでしょうか。