トヨタグループの総合商社として世界約130の国と地域にネットワークを広げる豊田通商株式会社(以下、豊田通商)は、多岐にわたる領域でビジネスを通じた社会課題解決を実践し続けるグローバルカンパニーだ。同社は繊維領域の事業において2018年からフェアトレード認証コットン(以下、フェアトレードコットン)の取り扱いを始めた。また取り扱いに加え、その普及を通じて持続可能な社会を作ることを目的とした独自のプロジェクト「COTTON∞(以下、コットンエイト)」も立ち上げ、「製品に使用する糸のうち8%以上をフェアトレードコットンに」という方針でアパレルブランド等に素材を提供している。プロジェクトの始動から8年目の今年は、リブランディングの一環としてコットンエイトのキービジュアルやブランドムービーの制作を実施した。
今回このキービジュアルやブランドムービーの制作を担当した株式会社YUIDEAが、同プロジェクトご担当の鬼形 智英さん(豊田通商株式会社 サステナブルファッション部 プランニング&ディベロップメントグループ 課長職)、浅野 香奈さん(サステナブルファッション部 プランニング&ディベロップメントグループ)を訪ね、コットンエイトに込めた想いや動画制作の背景などについてお話を伺った。
強みを活かした差別化を図りながら、経済・環境・社会にもインパクトを
⚫︎輸入・製造・卸・販売、グループ内で完結するサプライチェーンを強みに
“サステナブルなコットン”というと、日本ではオーガニックコットンを想起されることが多い。繊維業界としてもオーガニックコットンを取り入れる企業やブランドは数多く、認知度は高い。一方フェアトレードコットンは流通量も限られており、認知度も低いのが現状だ。そんななか豊田通商がフェアトレードコットンの取り扱いを決めたのは、それが経済・環境・社会に大きな意義とインパクトを与えられるものであり、かつ自社ならではの強みを活かした差別化が可能な領域だと確信したからだという。コットンでフェアトレード認証を取得するためには、原料の調達から製造・販売まで全工程での認証が必要だ。極めてハードルの高い取り組みだが、豊田通商グループ全体として擁している事業ドメインの多様性がこれを可能にしている。希少性が高く社会的意義もある綿花の調達から紡績、生地〜製品製造まで、グループ内一気通貫でサプライチェーンを作り上げられることが大きな強みだ。
各社、担う工程ごとに着実に認証を取得。取り扱いを開始して以降、同社グループの企業ユニフォームを皮切りに、これまで愛知県名古屋市やYKK株式会社などにフェアトレードコットンを使用したユニフォームを納入してきた。

︎サプライチェーンの川上企業が目指す、生活者のフェアトレード認知拡大
一方「コットンエイト」は、フェアトレードコットンの取り組みの中でも特に一般生活者の認知拡大を狙ったプロジェクトだ。名称にあるエイトには“∞(無限大)の可能性”という意味を込めているが、フェアトレードの取り組みがSDGsの17のゴールのうち、「貧困をなくそう」や「つくる責任つかう責任」をはじめとする8つに寄与するとされていることにもヒントを得たのだという。
「製品に使用する糸の8%以上をフェアトレードコットンに」という方針もユニークだ。フェアトレードコットンは原綿自体が一般的な綿花より高値なことに加え、流通量や生産を担える事業者が限られることで割高になるが「できるだけ多くの人が手に取ることでフェアトレードの認知が広がるように」という思いから使用量を模索した。結果、全体量の10%前後であれば価格上昇のインパクトもある程度抑えられると判断し、コットンエイトにちなんだ8%を基準としている。
コットンはカカオやコーヒー豆などの食品と比較すると、フェアトレード産品としての認知度は低い。コットンエイトに賛同・連携してくれる取引先の開拓は簡単ではなかったが、地道なプレゼンテーションを継続する中で少しずつ仲間が増え、プロダクトとして生活者の手に届く形になっている。
*コットンエイト使用プロダクト事例はこちら
「欲しい」と思える「フェアトレード」を、どのように作るか
⚫︎「フェアトレード」を広く、正しく伝えることの難しさ
始動から8年。着実に展開されてきたプロジェクトだが、この取り組みをより広めていくための発信に関しては課題もあったという。感じていた課題感、その解消に向けた今回の動画制作について、両氏は次のように語る。
鬼形さん (サプライチェーンの上流を担うBtoBビジネスのため)このプロジェクトの想いや意義を我々自身が直接伝えられる範囲は限られています。特にエンドユーザーに対しては、メーカーさんやブランドオーナーさんから伝えていただくことになるので、取り組みに共感していただき、同じ熱量でバトンを繋いでいただく必要がある点が難しさのひとつです。また「フェアトレード」自体、正しく伝えるにはある程度の言葉を尽くす必要があるので、シンプルで直感的な訴求がしにくいという点も難しさのひとつです。コットンエイトを採用されている企業様も「どのように伝えたら魅力を感じてもらえるか」と悩まれ、ご相談いただくことがあります。

プランニング&ディベロップメントグループ 課長職 鬼形 智英さん
浅野さん 一番の難しさは、「フェアトレード」だけでは生活者の購買欲に繋がらないという点です。フェアトレード品の購入で何に貢献できるのかが、見えにくいという現状もあります。
⚫︎「フェアトレードだから」じゃなくていい。直感で魅力を感じるクリエイティブ
今回リブランディングの一環として制作した動画は、こうした課題の解消を目的としている。プロジェクトの想い、課題や目指したい方向性をヒアリングしながらYUIDEAからは複数の施策案を提示し、そのアプローチのひとつとして動画という手法を提案した。
浅野さん これまでコットンエイトの生活者向けの訴求はホームページと下げ札のみでした。興味があって検索した方、商品を購入した方との接点は作れていましたが、フェアトレードやコットンエイトを知らない方には訴求できていませんでした。そういった方たちに認知いただくきっかけを、と考えご相談する中で、汎用性が高く利用しやすい形として動画が良いのではという考えに至りました。

プランニング&ディベロップメントグループ 浅野 香奈さん
鬼形さん 制作に際しては「フェアトレードをすべて説明しようとしない」ことを意識していました。実際、動画内では「フェアトレード」という言葉を使っていません。これまではコットンエイト=フェアトレードという訴求に終始していましたが、今回はまず生活者の心が動くもの”と考えていたので。フェアトレード自体はもちろん揺るぎない核ですが、業界的にも、最初のコミュニケーションがクリエイティブとして直感的、魅力的に機能することも大切な要素なんです。「いいな」と感じて手に取ったものを紐解いていくと、結果としてそこにフェアトレードという芯がある。そんなプロセスの最初のきっかけになるものとして、良い動画が作れたと思っています。
浅野さん 良い動画になったということはもちろん、YUIDEAさんにはコンサルティングやプロジェクトの全体プロマネをお任せできました。クリエイティブの制作もグループ会社(※1)内で対応いただけ、こうしたメディア(※2)も持っている。サステナブル視点でのブランディングの全体を一気通貫でお任せできるという安心感は大きく、非常に助けになりました。
(※1)株式会社デパート(株式会社YUIDEA グループ会社)
(※2)本メディア「サステナブル・ブランド・ジャーニー」

生産者から生活者まで。すべてのステークホルダーで作り上げる理想の循環
コットンエイト、そしてフェアトレードのさらなる認知拡大に向け制作した新たなブランドムービーは、今後SNS等での発信に加え、店頭で流すブランドムービーとしてブランドオーナー等に活用してもらうことを想定している。新たなクリエイティブを携え、今後コットンエイトはどのように展開されていくのか。
鬼形さん コットンは衣料品や日用品など身近なものに使用されるものなので、もっとプロダクトを増やしながら、実際に手に取ってもらえる環境を用意していきたいです。そのためにも当社が舵取りを担いながら、賛同いただける仲間を増やしていきたいと思っています。
そしてもう一つ、意義を失わずに継続するために、プロジェクト内部のモチベーションや熱量をしっかり保っていくということも意識しています。そういう点で今回のリブランディングは、我々自身が初期の情熱と推進力を忘れずに今後に繋げていくために、非常に重要なものだったと捉えています。
浅野さん 生産者に正当な対価が支払われるフェアトレード認証製品の購入は、毎日の生活の中で簡単にできる社会貢献の一つとされています。コットンエイトを選択していただくことで、購入する方の生活も生産者の生活も豊かになるという、幸せの循環を広げていけることを目指して、この取り組みを広げていきたいと思います。

鬼形さん曰く、生産者は完成品を目にすると、とてもいきいきとした表情を見せるという。フェアトレードコットンの栽培は家族や地域コミュニティが主体の小規模農家で行われ、綿花の収穫も一つずつ手摘みだ。そうした労働の結果適正な対価が支払われることに加え、生産した綿花が一つの製品に姿を変え人々の生活を彩っているという事実は、大きな活力になっているのかもしれない。
コットンエイトのコットンが、これからどんな製品となって私たちの前に広がり、持続可能な未来を作るのか。今後の展開に、期待が膨らむ。
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