サステナビリティ経営が一般化した現在、多くの企業がマテリアリティ(持続可能な企業成長のための経営重点課題)を特定し、経営活動を行う時代になっています。一方で、その「社内浸透」という課題と対峙しているケースも少なくないのではないでしょうか?
水や石油、空気、ガスなど、様々な流体をコントロールする「バルブ」の製造・販売を行う株式会社キッツ(以下、キッツ、またはキッツグループ)では、グループ全体でこの課題に取り組むべく、2025年12月『キッツグループのマテリアリティ浸透ワークショップ』を開催しました。参加したのは、経営企画部門や人財総務部門、工場や営業所など、多様な部署の社員。
本レポートでは、本社と茅野工場での実地開催のほか、オンラインでの開催も含め計3回実施されたこのワークショップの様子を、マテリアリティ浸透のための取り組み事例として紹介していきます。
「今、社会にはどんな“流れ”が?」社会の動きに目を向けることから
そもそも、今回このテーマでワークショップが開催された背景は何か。きっかけは、2025年2月の第2期中期経営計画策定と合わせ、同社マテリアリティの見直しが図られたことだったといいます。組織で掲げたテーマや戦略が有効に機能するためには、そこに属する一人ひとりが自分(自分の仕事)とのつながりに気付くステップは欠かせません。キッツグループでも、新しくなったマテリアリティについて社員一人ひとりが考え、日常業務で意識していけることを目指し、その第一歩としてこのワークショップが企画・開催されたのです。
各回とも、はじめに行われたのは「社会や仕事環境にどんな“流れ”がきているか」を考えてみる、というウォーミングアップ。参加者からは「子どものランドセルを選んだが、今は性別に限らずフラットに色を選べると感じた」「今は個をとても大事にする時代。20年程前にそんな曲が流行したが、その世界が現実になっていると感じる」「AIに回答をもらうだけでなく、もはや作業や思考をさせることも日常的。生成AIと人間の関わりの変化を感じる」といった声が上がり、各自が肌身で感じている時代の“流れ”に視線を向ける様子が窺えました。
「マテリアリティ」は、企業が持続的な成長を目指すうえで特に重要となる社会・環境・経済面の課題や、その課題に基づいて明確化された経営重点テーマを指しますが、こうした大きな課題は、時代の“流れ”(潮目)に目を向けることなく捉えることはできません。このウォーミングアップは、参加者たちが「マテリアリティ」を深く理解していくための第一歩となったようです。


ウォーミングアップで、自分が感じている“流れ”についてシェアする参加者。「流れ」は同社の長期経営ビジョン『Beyond New Heights 2030~「流れ」を変える~』にも含まれる言葉。“流体”をコントロールするバルブ製品を主力とするキッツにとって、いわば象徴するキーワード。
変化への対応と将来予測で刷新。新しい6つの自社マテリアリティを知る
では、キッツグループではどんなマテリアリティを掲げているのでしょうか。「流れ」に目を向ける準備運動を終えたのち、参加者は自社のマテリアリティやKPI(Storong Will Seet)ついて、同社サステナビリティ推進グループ 荒川氏の解説に耳を傾けました。荒川氏によると、キッツグループでは約3年前にサステナビリティ経営重点テーマを設定。これを更に世の中の変化と将来予想を踏まえたものにブラッシュアップすべく、先述の通り2025年の中期経営計画策定と合わせ見直し・更新を行い、サステナビリティを経営戦略として事業に組み込む動きを本格化したのだといいます。そうして刷新されたマテリアリティが、下記の6つです。
【キッツグループが6つのマテリアリティ】
・デジタル社会の発展への貢献(デジタル)
・地球環境の保全への貢献(グリーン)
・進化によるゆたかな暮らしへの貢献(進化)
・未来をひらく人財力の強化(人財)
・持続可能なサプライチェーンの確立(サプライチェーン)
・攻守の効いたガバナンスの追求(ガバナンス)

マテリアリティが長期経営ビジョンや(企業理念である)『キッツ宣言』ともつながっていること、事業と同軸で捉えるべきものであることを、参加者に訴える荒川さん。
“言葉を知っている”以上の理解を。マテリアリティを自分ごと化するワーク
ワークパートは、刷新された上記6つのマテリアリティを用いながら、個人ワーク(関心あるマテリアリティと理由を書き出し、自社や自身の業務でできそうなこと・やってみたいことを考える)、グループワーク(個人ワークでのアウトプットをシェアしたのち、グループ内で対話する)、会場全体でのシェアという流れで進行しました。
個人ワークでは、トラック積荷業務がある部門の参加者が「グリーン」を選び、EV化の促進をしたいと書いたり、ITで需要予測を行う参加者が「サプライチェーン」を選び、データ活用による理想的なサプライチェーンの展望を書いたりといった姿が見られ、参加者各々が、身近な事象を起点に自由なアイデアを出していきました。


個人ワークに取り組む参加者たち。
さらにそれぞれの意見をシェアしあうグループワークでは、以下で挙げるいくつかの発言・アイデアのように、異なるマテリアリティ間での共通項が見出されたり、複数のマテリアリティを掛け合わせた実践アイデアが生まれたりと、対話による化学反応が各所で起きていました。
▼異なるマテリアリティ間での共通項の発見・アイデア
・「サプライチェーン×ガバナンス」での共通課題と連携案
サプライチェーンマネジメントでは、サプライチェーンを適切に管理し数字を最大化する必要がある一方、価格の適正性や人権に配慮する必要もある。取引先やさらにその取引先への対応なども考えると、法務と連携できると良いのでは。という、サプライチェーンマネジメント部門と法務部門の参加者の対話から出たアイデア。
▼複数のマテリアリティを掛け合わせた実践アイデア
・「グリーン×人財」を切り口にした地方エリアでのワークショップ案
地方エリアでは都市部以上に、自然や生態系の維持が生活の維持に直結している。少子高齢化や人口減少などもあり、構造的に多様なジェンダー観に触れる機会が少ない。などの傾向をフックに、自然環境や多様な人財について考えられるワークショップを企画するというアイデア。
▼他の参加者の視点やアイデアを受けた気づき・共鳴
・同じテーマを選んでいても、人によってやってみたいことの方向性が異なるのが面白い。
(「デジタル」というテーマで、自身がAIでの効率化を進めたいと考えたのに対し、KPIの設定管理や収益性の分析精度を向上させたい、という他メンバーの発言に触れて)
・他メンバーのアイデアがとても面白く、色々質問したくなった。
(革新的なアイデアに触れて)
・デジタル領域で解決したいことがあれば、担当に繋ぐことができるので、まず自分に声をかけてほしい。
(他メンバーの感じている課題・実現したいことを受けて)
上記はごく一部ですが、対話の様子を見ていると、様々な意見・多様なアイデアに刺激を受け、考えが深まった・広がったと感じた参加者が多かったようです。


多部門から参加しているため、初めて顔を合わせるケースも。共通する課題や意見に共感したり、新たな気づきを得たりする参加者たち。
「マテリアリティは、業務に落とし込める」対話がもたらした気づき
マテリアリティの理解・浸透を目的に行われた今回のワークショップでしたが、回の最後に行われた全体シェアでは「マテリアリティは、業務に落とし込めるものなのだと気づいた」「一見関連が薄く思えるマテリアリティも、実はつながっている」「自部署だけでなく、部門間でも連携が必要と感じた」といった声もあり、非常に印象的でした。
『複数の要素が相互に関連しあう“サステナブル”は、単独の努力や一時的な努力で成り立つものではない』という認識は、サステナブル領域に携わる者にとっては言わば共通理解となっていますが、多くの人にとっては実感として捉えにくいものではないでしょうか。しかし上記のコメントからは、参加者たちが対話を通じてごく自然にこれを理解し、自身の業務と関連付けて捉えていったことが感じられます。
さらに開催後のアンケートでは、他部門との対話によってそれぞれの立場・視点から意見交換ができ、新たな気づきや発見が得られる良い機会になったとの意見が多く聞かれました。また、マテリアリティやKPIについて知るきっかけとなり理解が深まった、マテリアリティと自身の業務とのつながりが感じられたという声もありました。
(アンケート一部)
・多くの部門の社員がそれぞれの立場・視点から多角的に意見交換できる、非常に有意義な場だった。マテリアリティそのものへの理解を深められただけでなく、自分とは異なる考え方や問題意識を聞くことができ、新たな気づきや発見が得られる良い機会にもなった。
・マテリアリティとKPIだけだと無味乾燥に感じられてしまうが、関連する部門の担当者とのディスカッションを通じ、具体的な取組みがイメージできた。(今回参加した部門以上に)さらに多くの部門の方が参加できると良いと思った。
・マテリアリティについての理解がほとんどできていなかったが、どういったものなのか、他の人たちがどのように認識・把握しているかを知ることができた。他の人の考えに触れることで、自分の認識の不足点など、気づきを得ることができた。
・マテリアリティに関して同僚の考え方を聞ける機会はありそうでなく、新しい発見もあった。部門方針を考える際にも、これに沿った内容にしたい。想像していたより会話が弾み、グループワーク時間がもう少しあったら良いとも感じた。

一連のワークを経ることで「マテリアリティ」が机上の知識にとどまらず、参加者自身によって実際の事業・業務へと結び付けられていったようです。多様な部門から集まった参加者たちが、この後自部門に戻ってどのような影響をもたらすのか?この場で生まれたアイデアが、どんな形で実を結ぶのか?同社のこれからにも期待が高まるワークショップでした。
<参考サイト>