【前編】食べる人が作ることに関わるプロジェクト= Community Supported Foodculture (CSF) ― 会員制スーパーTable to Farmが描く未来:食の豊かさのための、新しい流通のかたち―

小売 / 流通
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消えつつある0.1%の「素の味」を未来へつなぐ

「これから本当にいいものは確実に減っていきます。作っている人と関係を持っていなければ、今後そういう食材は手に入らなくなります」。
そう語るのは、2025年7月に本格スタートした会員制オンラインスーパーマーケット Table to Farmのディレクター・相馬夕輝さんです。

相馬さんはこれまで「D&DEPARTMENT」で食部門のディレクターを務め、各地の生産者を訪ねてきました。15年に及ぶ食との関わりで目にしたのは、地域に根差した豊かな食材が静かに姿を消していく現場です。

「作り続けられなくなる景色」を間近で見てきたからこそ、効率優先の流通に埋もれて消える食を守る仕組みが必要だと痛感しました。その経験がTable to Farm立ち上げの原点になっています。

Table to Farm ディレクター・発起人  相馬夕輝氏

Table to Farmが取り扱うのは「素の味」。

素の味とは、伝統的な木桶仕込みでつくられた醤油、在来種の野菜など、自然と人が織りなし生まれる“とびっきりのおいしさ”のこと。しかし、大量流通や規格化といった経済合理化の波にのまれ、現在、市場での“素の味”の流通はわずか0.1%ほど。そんな0.1%の味を拾い上げ、未来につなぐことを、Table to Farmは使命としています。

鍔付き御飯釜(雲井窯):「玄米でも浸水無しで炊ける釜」を目指し、9代目当主が作陶

選び方に責任とリスクを共有する仕組み

Table to Farmは、野菜や米、調味料など、カテゴリごとに3品以内しか扱わないという徹底した少量精鋭型のラインアップで、「選び抜かれた意味のあるおいしさ」を基準にした商品を届けます。

また、食べる人が作ることに関わるプロジェクト=community supported food cultureと名付けられた、会員が「買う」だけでなく作り手を「支える」独自の仕組みを備えているのがユニークなところ。

海外のCSA(Community Supported Agriculture=地域支援型農業)の発想をベースにしながら、日本の文脈に合わせて「食文化そのものを守る」ことを目的とし、会員が協力金制度を通じて生産者とリスクを分かち合うという仕組みを指します。

たとえば、作物が不作で量が減ってしまったときでも、生産者の収入が途絶えないように、会員からの協力金で下支えする。逆に豊作のときは、その恵みを会員がシェアする。こうした「成り行きを共に引き受ける関係性」によって、作り手と食べ手は単なる売買を超えた共同体としてつながっていくのです。

プレスリリースより

相馬さんは「協力金は“寄付”ではなく“共に挑戦するための前払い”」と説明します。消費者は単なる買い手ではなく、未来の食文化を共に育てるパートナーとしてTable to Farmに関わる。その関係こそが、作り手、扱い手、買い手が分離した流通中心の社会では失われつつある、つながりという価値を取り戻すカギになっています。

「流通の効率化」が奪うもの ― 海や畑で起きていること

農業・発酵・伝統製法の現場での資金繰り、人手不足、後継者難、野菜の規格化やF1種への依存による地域性の喪失、流通の効率化による小規模生産者の排除など、食の生産の現場での課題は多岐にわたります。

海苔の味は、海の景色をまるごと味わうこと」より

中でも深刻なもののひとつが、天然の海藻の減少です。生産量がほぼゼロになっているだけでなく、色も薄くなっています。気候変動による海水温の上昇は確かに影響していますが、それ以上に大きいのは人間の関わりではないかと相馬さんは指摘します。ダムの建設や河川の護岸工事、排水の過度な浄化によって、有機物が海へと戻らなくなっているのです。

実際、兵庫県水産技術センターの報告によると、浄水の精度を少し下げると海苔の色づきが改善した事例が報告されています。人間目線だけで「きれいさ」を追求した基準が、結果として自然の循環を妨げている可能性があるのです。海藻が減れば、それを食べる小魚が減り、さらにその小魚を食べる大型魚も減る――まさに海の循環全体が揺らいでいます。

「浄水一つとっても、人間中心の基準だけでいいのかと考えてしまいます。生物や生態系を考えた全体の視点で見れば、多少“きれいすぎない”方が良いのかもしれません」と相馬さんは語ります。

海苔の味は、海の景色をまるごと味わうこと」より

同じことは農業の現場にも言えます。野菜の規格が厳格に決められ、形や大きさが揃っているものだけが市場に流通し、種はF1品種が主流になり、地域の土壌や風土に根ざした多様性は失われつつあります。「見た目が揃っている方が消費者に選ばれやすく、売り上げも安定するのは事実。でも、それでは土地が生み出す味が消え、“ここで育てる意味”がなくなってしまう」(相馬さん)

こうした課題に対しTable to Farmでは、天然の海藻を取り扱い、在来種の米や野菜を届けるといったことを通して、「人間都合」「流通都合」ではない食の在り方に取り組んでいます。

“おいしさ”を基準に取り扱い商品を選ぶプロセス

Table to Farmに並ぶ商品は、すぐには決まりません。

調べる、比べる、会う、伝える――この4つのステップを重ね、1つのカテゴリに対し、約11か月をかけて食材を選びます。選ぶ基準は「心の底からおいしいと思えるか」。

例えば米味噌は、昔ながらの製法で作られた100種類近くのものを日本全国から集め、「そのまま味わう」「出汁に溶かす」「肉や野菜につける」など、さまざまな食べ方で、Table to Farmのメンバーで試食を行いました。

米味噌 自然(藤原みそこうじ店)

試食には、相馬さんのように食の現場に長く関わる人から、マクロビ実践者、ジャンクフード好きまで多様な人が参加。最初は出身地のものなど慣れ親しんだ味噌を選んでいたメンバーも、食べ方を変えながら試食を重ねるうちに選ぶものが変わっていき、最終的には満場一致で2つの米味噌が選ばれました。

「全員が選んだ味噌は、どちらも野生の麹菌を採取している人がつくっている味噌。その偶然に驚きました。体で感じるおいしさというのは、慣れ親しんだ味覚を超えて本能的に感じるものなのかもしれません」と相馬さんは語ります。

商品を選ぶための試食会は、毎週1回5~6時間、2~3か月の時間をかけます。商品選びの一番大事な要素が「おいしさ」なのは、食としてまず大事なことは「おいしさ」であり、「おいしい」がないと、製造方法や安全性など「情報」としてすばらしくても、広がっていきにくいから。「おいしいと思うものが、自然の力を存分に生かしているのがいいと思うし、Table to Farmに並ぶ製品はすべてそうなっていると自負しています」(相馬さん)

プレスリリースより

前編ではTable to Farm立ち上げの想いや取り組みについて紹介しました。後編では、お米や土鍋をめぐる物語や、生産者とのつながりについて、迫ります。(後編はこちら

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WRITERこの記事を書いた人

Chisa MIZUNO
Chisa MIZUNO

エネルギー企業でのマーケティングを経て、サステナビリティ分野の出版社にてプランニング、編集、広告制作、ライティングに幅広く携わる。
現在はウェルネス・ビューティー・インテリア領域を中心に、ブランドコンセプトの開発やPR、コンテンツ制作を手がけ、環境や社会にやさしいブランドの魅力の発信を支援している。
全国通訳案内士資格保有。

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