次世代にむけて新たな成長の基盤を築くべく、業態や規模の大小を問わず、新規事業やイノベーションのニーズが高まっている。変化のスピードが速い時代のなかでは、既存事業の枠にとらわれない新しいアイデアや価値創出が求められる。各企業ともこのようなイノベーションを起こせる人材を社内外で発掘・育成に注力する傾向が顕著だ。
「and Beyond(アンド ビヨンド)カンパニー(事務局NPO法人ETIC.エティック)」が開催した「第1回 Beyond Conference 2022 」では、これからの社会・組織の在り方や企業人の働き方についてバリエーション豊富なセッションや討議が行われた。その中から「共創プロジェクト作戦会議」の一部をレポートする。
個人が変われば組織が変わる、3社協働の実証実験
昨日までの常識が、あっという間に変わっていく。こんな時代に必要なのは「正解」よりも、ひとりひとりの「問い」こそが大切だ。
共創プロジェクト作戦会議として開催された「Beyondワークの実現~個人が変わると組織も変わる~」のセッションでは、ロート製薬株式会社 とアビームコンサルティング株式会社 の2社がそれぞれ、NPO法人ETICと共にBeyondワークにどのように取り組んでいるかについて共有がなされた。Beyondワークとは、組織を越えて、本業を越えて、セカンドワーク(副業)としてやってみる3か月間のプロジェクト参画機会である。
名もなき挑戦に「それいいね」と気軽に加担していく
Beyond ワークは、誰もが気軽に挑戦できる社会をつくりたいとの想いがベースにある。組織や役割に縛られることなく、自分が心からワクワクできることを画策し、人を巻き込みながらオープンに発信したり、一緒に仕組みづくりをしたりしながら活動の輪をひろげていく。まずマッチング会を行い、手を挙げた人同士でプロジェクトを立ちあげ、相互にフィードバックを行うという流れだ。このフィードバックを繰り返すことによって、イノベーションの確度があがっていく。
プロジェクトを立ち上げる際に重要視するのは、いわゆる「ゼロイチ」にするものであること、すなわち既に何を行うかが決まっていることをスキル高く実行していくのではない点だ。こうした“名もない”小さな挑戦を繰り返すことが、実践者にとってもキャリアチェンジや自己成長に繋がっていくとの考えが根底にある。

そこでNPO法人ETIC.とロート製薬株式会社とアビームコンサルティング株式会社が協働し、このBeyond ワークの実証実験を行うことになった。実証的に複数のプロジェクトのマッチングを行い、この制度の有効性や効果を検証するものだ。
ロート製薬株式会社からは、戦略デザイン本部 Chief Designer志賀紀昭氏が、アビームコンサルティング株式会社からは、デジタルプロセスビジネスユニット HCMセクター マネージャー小檜山歩氏が登壇した。
会社にとって「働く仲間」とは何なのか
ロート製薬の志賀氏は2020年に有志3名で社内起業家支援プロジェクト「明日ニハ」を立ち上げ、2年間で4社の事業立ち上げ・設立に関与。新たな事業の卵を抱える明日ニストの伴走に奔走する傍らで、海外子会社・関連会社の経営にも関与するなど、社内複業実践中だ。
志賀氏によると、ロート製薬は会社の側から社員が成長できる機会を提供し、社員の側も“自分たちで成長の機会を作っていく”という風土があるという。いくら結果がでても、働いている仲間がぎくしゃくしているとさみしい。「和協努力」という社是には、会社の発展と従業員の幸せは切っても切り離せないという想いがこめられている。
「社員は会社の所有物ではない。会社だけでなく、家族や地域を支えるためにどうすればいいのかを考え、実行に移していけるようにすることが本当の意味での働き方改革なのではないでしょうか」
ロート製薬が社員の自発性や本質的な成長を重視していることは、同社代表取締役会長山田邦雄氏の言葉からも明らかだ。
ロート製薬には「my vision sheet」と呼ばれる自己申告制度があり、「自分でどういう仕事がしたいか」「どうなりたいか」を自己決定でき、昇給や昇進も手挙げ制だ。成長のためにダブルジョブや社外チャレンジワークも積極的に推奨されている。
志賀氏は「WILL CAN NEED」のフレームワークを用い、3つの可視化が必要だと説いた。1つ目は自分のミッション。そして自分の素質。3つめは市場のニーズだ。社員ひとりひとりが多様であるからこそ、様々なオプションや色々なチャレンジが必要なのだと話した。

ロート製薬はコーポレートヴィジョンとして「Connect for Well-being」を掲げる。このフレーズに、ひとりひとりのポジティブなエネルギーがやがて世界を変えていくと信じている、との想いをこめた。まずは自分たちから健康になることを楽しみ、きっかけをつくり、ウェルビーイングの輪をひろげていく。そしてそれは社会への貢献を通じて、個人のウェルビーイングを高めながら、多様な経験で個人の成長を応援し続けることにも通じるだろう。
ひとりひとりの成長は戦略の根幹
アビームコンサルティング株式会社からは、デジタルプロセスビジネスユニット HCMセクター マネージャー小檜山歩氏が、同社の社員ひとりひとりが社会課題を自分ゴト化して取り組んでいる『サステナビリティユニット』について紹介した。
サステナビリティユニットは、若手メンバーを中心構成された社内組織だ。希望者は業務時間内の5%をサステナビリティユニットとしての活動に充てることができる制度を利用し、このユニットに参加したメンバーが、先述のBeyond ワークの実証実験の運営メンバーとして活動を進める。

この活動はプロボノ(仕事の専門スキルを使った社会貢献・ボランティア活動)となるわけだが、アビームコンサルティングとしても社会課題解決型の人材育成を主眼としているため、“プロボノメンバーを提供する企業側”と“プロボノメンバーを受け入れる団体”の双方にとって意義がある取り組みだ。
人材育成以外の点でBeyond ワークに取り組む理由としては、協働パートナーを含むマルチステークホルダーとの共創を挙げる。会社視点・社員視点だけでなく、社員が個人として日々の活動のなかで得ることが難しい関係性や、新しい気づきを得る機会がうまれること。そしてさまざまなステークホルダーが関わっていく関係構築を、社内の巻き込み力を強化して実現することを目指す。
さらに小檜山氏は、こうした取り組みの背景として、コロナ禍によって浸透したリモートワークが定着化するなかでコミュニケーションに悩む社員が増えていることも指摘した。社内で固定化されたメンバーや組織と異なる、多様な人々との交流は働きがい向上にも効果的だと提言した。
「人を育てるためには、支えることとの両面が必要」との想いに基づき、小檜山氏はメンバーひとりひとりの想いをしっかり聞くことに注力する。曰く「とても工数はかかるのですが、ひとりひとりの成長は戦略の根幹を成すものです。それがなければ、いいサービス開発もできません。根幹だからこそ、時間もコストもたくさんかけてでもやっていく。そのくらい大事なことだと捉えています。」
副業や事業開発の不安を、どのように打破するか
改めて、Beyond ワークとは、組織を越えて、本業を越えて、自分の「ワクワク」を大事にやってみるセカンドワークである。このセカンドワークすなわち「副業」については、検討や模索が成されながらも導入に至らない企業も多い。または導入したとしても活性化されない、成果が見えづらいという課題もある。
後半で行われた質疑応答とブレストセッションでは、まずこの「副業がなぜ進まないか」について意見交換がなされた。挙がった意見としては「自分がやりたいこととの親和性を見出す」や「自分の名前=個人としてコネクションをつくる」ことがカギになるという。これらによって応援者ともつながっていき、それが「やりたいこと」を実現する確度を高めるのだと。
「第1回 Beyond Conference 2022 」を貫くテーマである「越境」と共に、「パーソナルイノベーション」を引き出すポイントについては、事業開発を進める手前でワークショップなどを開催し、関わるメンバーの「WILL」を仕掛ける重要性が指摘された。
ロート製薬の志賀氏によると「例えば、ずっと工場で働いてきた社員で、これまでプレゼンをしたことがなかったという人が“定年後にやろうと思っていた”という副業に伴走・支援したこともある。やりたいことをはっきりと自覚できている人は、自発的に取り組めている場合が多い。そういう人たちだけを支援するのではなく、むしろ“やりたいこと”“やりたい想い”を顕在化できずにモヤモヤしている層を支援することが大事」だと力説した。

(ロート製薬の志賀氏)
対話のなかで「学びとは自己破壊」との言葉も発せられた。組織のなかでベテランに該当する層、とりわけ40~50代の社員の場合、いろいろな経験の蓄積があるからこそ、それをいったん壊すことも必要だ。インプットとは、必ずしも知見を入れていくことだけを意味しない。
挑戦やイノベーション、すなわち知らない世界に飛び込むことには、もちろん不安がつきまとう。組織であれば「(副業や何らかのチャレンジに関わることで)リソースが足りなくなるのでは」という現実的な不安要素もあるだろう。しかし、それら不安要素は、視点を変えることで可能性と見えてくることはないだろうか?

(後半で行われた、参加者たちがその場で想いを出し合うブレストセッション)
自分の課題は、他者から見ると可能性
小さなことでも「それやってみよう」という自発性があり、「それいいね」と加担・伴走するフォローマインドがあり、課題を可能性に変える視点があり、そうしたムーブメントを応援し個人の成長を推奨する風土があってはじめて、組織のなかでの多数派を占める無関心層に着火し、大きなうねりが生まれはじめる。
誰かが矢を放ったなら、まさしく矢継ぎ早にいろんなことが連鎖的に重なり、盛り上がっていく。
そうしたアウトカムは、「人が組織を越えて流動することで、知恵や情報がまざり、よりよい社会に進化していけるはず」というBeyond ワークの根底にある願いと通じているのだ。