環境問題や人権デュー・ディリジェンスへの関心が高まる中、企業が自社のサステナブルな取り組みをどのように社会へ発信し、顧客やパートナーの「共感」を得るかは極めて重要なテーマとなっています。
本記事では、2026年8月27日に開催された全4回連続セミナーの第3回「豊田通商様登壇! サステナビリティを“共感” へ繋げる実践アプローチ~『コットンエイト』に学ぶ、エクスターナル・ブランディング~」の模様をレポートします。
総合商社としてサプライチェーン全体で持続可能な社会を目指す豊田通商株式会社(以下、豊田通商)からお二人をお招きし、フェアトレードコットンを広めていきたいという想いから立ち上げられたプロジェクト「コットンエイト(COTTON∞)」の事例を軸に、BtoB企業が直面する情報発信の壁や「グリーンウオッシュ」を回避する誠実なコミュニケーション、そして共感の輪を広げるクリエイティブのアプローチについて詳しく紐解きます。
本レポートを読むことで、難解になりがちなサステナビリティの文脈を感性に響くメッセージへと昇華させ、持続可能なブランド価値を構築するための具体的なヒントが得られます。
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【登壇者】
鬼形 智英 氏:豊田通商株式会社 サステナブルファッション部 プランニング&ディベロップメントグループ 課長職
浅野 香奈 氏:豊田通商株式会社 サステナブルファッション部 プランニング&ディベロップメントグループ
吉田 佳子:株式会社YUIDEA サステナビリティエンゲージメント部 マーケティング&セールスセクション
野矢 優里奈:株式会社YUIDEA サステナビリティエンゲージメント部 プロデュース&プロジェクトマネジメントセクション
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第1部:サステナブル・ブランディングに必要な2つの基本
セミナーの序盤では、株式会社YUIDEAの吉田より、現代の企業活動においてなぜ「サステナブル・ブランディング」が求められているのか、その背景と、成功のために押さえるべき基本の考え方が提示されました。
生活者の意識変化とサステナブル・ブランディングの定義
近年、事業活動を通じて社会的価値を創出する姿勢は広く定着しつつあります。生活者の購買行動においても、単に機能や価格だけではなく、地球環境や社会に配慮した商品を選択する層が確実に広がっています。消費者庁の調査(令和6年度)によると、約36%の消費者がエシカル消費につながる行動を日常的に実践しており、その半数が「同じような機能や品質なら環境・社会に貢献できる商品を選びたい」と回答しています。
しかし一方で、「どれがエシカル消費につながるのか」「エシカル消費に本当につながるのか」、といった戸惑いの声が存在するのも事実です。こうした中で不可欠となるのがサステナブル・ブランディングです。
YUIDEAでは、サステナブル・ブランディングを「ビジネスと社会課題解決を両立させ、『らしさ』で競争優位を創り出すこと」と定義しています。
関連記事:【資料公開】サステナビリティの共感と行動を、組織の力に変える「サステナブル・ブランディング」とは
サステナブル・ブランディングを成功させる「2つの基本」
サステナブル・ブランディングを進める上で、押さえておくべきポイントは以下の2点です。
- インターナルとエクスターナルの統合(両軸の噛み合い) 経営理念やパーパスを社内に浸透させる「インターナル・ブランディング」と、社外のステークホルダーへ価値を伝える「エクスターナル・ブランディング」の整合性が不可欠です。社内で理念が自分ゴト化されることで社員自らがブランドの体現者・社外との接点となり、社外からのポジティブな反響が社内へフィードバックされることで持続的な「好循環」が生まれます。
- 「ウォッシュ」のない、実態に伴った誠実なコミュニケーション 2026年3月、環境省は13年ぶりに「環境表示ガイドライン」を改定しました。環境配慮を謳う商品が急増する中、景品表示法の運用など、根拠の乏しい誇張表現(グリーンウオッシュ)に対する取り締まりが厳格化しています。この改定は企業の発信を抑制するものではなく、正しい事実(ファクト)に基づいた誠実なコミュニケーションを行うための大切な土台となります。

関連記事:「サステナブル」の安易なアピールに潜むリスク。13年ぶりに改定された「環境表示ガイドライン」のポイント解説
第2部:サステナブル素材の実践と『コットンエイト』
続いて、豊田通商 鬼形氏と浅野氏より、同社が推進するサステナブル素材の取り組みについて紹介がなされました。
豊田通商 サステナブルファッション部では、「繊維・アパレル産業を持続可能な構造へと変革する」というミッションを掲げています。サーキュラーエコノミープロジェクト「PATCHWORKS」や廃漁網のリサイクル、タンザニアでのオーガニックコットン栽培支援など、多角的なアプローチを展開しています。
その中でも注力しているのが、開発途上国の生産者の生活向上や環境保護を目指す「フェアトレードコットン」の普及です。
コットン生産の背景にある切実な課題と国際フェアトレード認証
浅野氏は、開発途上国の綿花生産現場が直面する課題について解説しました。
- 経済面:価格変動による収入の不安定さ、低賃金、小規模農家の貧困
- 社会面:児童労働や強制労働、女性の社会的地位の低さ
- 環境面:害虫に弱く農薬使用量が多いことによる土壌・水源汚染
国際フェアトレード認証は、これらの課題に対し、経済面では「最低価格の保証」「フェアトレード・プレミアム(奨励金)」の仕組みがあり、社会面では「人権保護」、環境面では「環境保全」などの厳格な基準が求められます。豊田通商グループは、これまで原料調達から糸、生地、縫製、最終製品、販売に至る全工程で認証を取得し、日本で唯一となる一気通貫のフェアトレード認証体制を実現した実績があります。

柔軟な発想から生まれたオリジナルブランド『コットンエイト』
確かな実績を誇る一方で、全工程での認証取得の難しさや、製品コストの高騰という課題もありました。そこで「生産背景にも価格にも柔軟性を持たせ、より多くの方にフェアトレードコットンを使ってほしい」という想いから誕生したのが「コットンエイト(COTTON∞)」です。
コットンエイトは、使用するコットンのうち8%以上相当をフェアトレード認証生産者から調達して製造するオリジナルブランドです。コンセプトは「ふれるたび、ちょっと誇らしい」。
- 柔軟なサプライチェーン:紡績以降の工程では認証取得を前提としないため、従来のサプライチェーンを活かした製造が可能
- 導入しやすい価格帯:フェアトレード原料の使用が部分的なため、コスト上昇を最小限に抑えられる
現在、「洋服の青山」のワイシャツやサンエスのワークウェア、シキボウのTシャツ(ブランド名:EMP「」Y)など、業界やアイテムの垣根を越えて導入が広がっています。

関連記事:8%から始める幸せの循環。フェアトレードを身近に広げる、豊田通商「コットンエイト」 | サステナブル・ブランド・ジャーニー
第3部:トークセッション サステナビリティを“共感”へ繋げる実践アプローチ
第3部では、認知度の低いフェアトレードをいかにしてブランド化し、ステークホルダーの「共感」へと繋げていったのか、その具体的なストーリーが紐解かれました。
差別化と仲間づくりから始まった挑戦
ーー フェアトレードの認知度がまだ高いとは言えない中、着任当初はどのようなことに注力されましたか?
鬼形氏:フェアトレードは非常に素晴らしいアプローチですが、アパレル製品での存在感はまだ薄いのが実状でした。私ども数名だけの力で価値を広めるのには限界があります。そのため、まずは本プロジェクトの理念に深く共感し、ともに歩んでくださる『仲間づくり』に注力することからスタートいたしました。
ーー 多くの企業へ提案を重ねる中で、ブレイクスルーとなったポイントは何だったのでしょうか?
鬼形氏:アパレル市場で最も認知度が高いサステナブル素材はオーガニックコットンです。市場の中で『オーガニックコットンとの違い』を明確に提示し、差別化することが最優先課題でした。論理的かつ丁寧にフェアトレードならではの社会的価値を説明した結果、その価値に納得し『コットンエイトというブランドに載せて、市場に普及させる活動を共創していきたい』と共感してくれる強力なパートナー企業様と巡り会うことができました。そこから二人三脚で実績を積み上げていくことができたのです。
直面した「3つの壁」とクリエイティブによる打破
ーー 多層な商流を経由するBtoB企業として、ブランドの思いを薄めずに伝える難しさがあったとお聞きしました。
浅野氏:一番の課題は、『フェアトレードやコットンエイトの価値を、いかに分かりやすく伝えるか』という点でした。伝えるべき情報量が多い一方で、私たちはBtoB企業であるため、生活者の皆様へ直接メッセージをお届けすることができません。メーカー様やブランドオーナー様を介する中で、コットンエイトに込めた熱量や思いを薄れさせることなく届ける手法に苦慮していました。
ーー この課題に対し、YUIDEAではどのように伴走させていただいたのでしょうか。
野矢:ブランド価値を伝える上で、当時は『3つの壁』が存在していました。
- 『正しさ』だけでは売れない壁(説明的になりすぎて直感的な欲求に響かない)
- 『メッセージ』がブレる壁(多角的な価値があるゆえにコアがブレる)
- 『多層商流』によるコミュニケーションの壁(関わる事業者が多く熱量が伝わりにくい)
豊田通商様は、CDPで2年連続トリプルAリスト」に選定、FTSE Russell社のESGスコアで国内2位など、高度な情報開示と確かな実績をお持ちです。だからこそ次のステップとして、感性に響く『伝えるコミュニケーション』が必要でした。 そこで、まずワークショップを実施し、皆様の思いを丁寧に抽出して『ふれるたび、ちょっと誇らしい』というコアメッセージを言語化しました。この軸をもとに、直感的に伝わるキービジュアルやブランドムービー等のクリエイティブ制作へと繋げました。
ーー 制作されたブランドムービーでは、どのような工夫をされたのでしょうか。
浅野氏: 動画ではあえて『フェアトレード』という言葉を全面的には出していません。頭で仕組みを理解していただくことよりも、『いいな』『おしゃれだな』と直感的に感じていただくことを最優先したかったからです。ストーリー性のある表現を通じて興味を持っていただき、その先にある背景へと触れていただくコミュニケーションを目指しました。
ーー ムービー制作におけるクリエイティブ上の具体的なポイントについて教えてください。
野矢:ポイントは4点あります。
第1に、事業説明ではなく『情緒的なブランドストーリー』への特化、
第2に、『コットン視点』のナレーションを用い、インドの農家から日本の消費者まで1本の糸で幸せが繋がる循環の表現、
第3に、イラストレーターによる温かみのあるタッチで、生産者を活き活きとしたパートナーとして描いた点、
第4に、グリーンウオッシュを防ぐための『厳格なファクトチェック』です。描かれている現地の様子などに誇張がないか、弊社コンサルタントも含めて徹底的に確認しました。事実(ファクト)に基づくことと感性に届く表現を両立させて初めて、深い共感と信頼が得られると考えています。
これからの展望と企業へのメッセージ
トークセッションの締めくくりとして、コットンエイトの今後の展望や視聴者へのメッセージが語られました。
鬼形氏:ビジネスとしては商品を手に取っていただけることはもちろん嬉しいですが、それ以上に重要なのは価値に共感してくださったお客様に、真心を込めて作られた商品を長く愛用していただくことです。アパレル・繊維産業の無理や無駄をなくし、持続可能な産業構造へ変革していく中で、コットンエイトが「なくてはならない不可欠な存在」として長く愛されるブランドへ育ててまいりたいと考えています。
浅野氏:商品そのものだけでなく、背景にあるストーリーや思いに共感していただけるファンを増やしていきたいです。コットンエイトを通じてフェアトレードの正しい仕組みや社会的価値を広め、この取り組みが生み出す「幸せの循環」を、より多くの企業様やブランド様とともに広げていきたいと思っています。
参加者の声
アンケートでは下記のコメントをいただきました。
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・本業を通じた環境・社会のサステナビリティへの貢献事例として、素晴らしいと思いました。
・事業部側ではなく会社のサステナビリティ推進側に所属していますが、セミナーの構成もわかりやすく面白かった。
・フェアトレードのコットンというのを初めて聞いて、とても面白かったです。
・業態が違うので参考になる点は限られてはいたものの、考え方のヒントとなることはいくつかあったかなと感じた。
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編集後記(まとめ)
サステナビリティに関する情報を正確に開示することは企業の当然の責務となりつつありますが、それだけで人の心が動き、商品が選ばれるわけではありません。
今回のセミナーを通じて深く感銘を受けたのは、豊田通商様が抱く現場への情熱と、「正しいこと」をあえて難しく語らず、手に取る人の感性や情緒に寄り添って届けようとする誠実な姿勢です。確かなファクトという土台があるからこそ、情緒的なクリエイティブが真の共感を生み、持続可能なビジネスへと結実するのだと実感させられました。
社会課題の解決と自社のビジネス成長の両立に悩む多くの企業にとって、『コットンエイト』の挑戦は、未来を開く大きな道標となるはずです。
●以下のような課題をお持ちのご担当者様はぜひお気軽にご相談ください!
・自社の「ストーリー」や「思想」を軸にしたコンテンツ設計
・外部パートナーやステークホルダーとの「共創」アプローチ
・商品パッケージや動画など、身近なタッチポイントを活用したブランディング
・グリーンウォッシュを恐れず、透明性を持った情報発信
関連リンク:
・連続セミナー第1回開催レポート
https://sustainability-communicate.com/posts/seminar-20260618-point
・連続セミナー第2回開催レポート
https://sustainability-communicate.com/posts/seminar-20260806-point