自然と人が豊かに循環する食文化を未来につなげるための新たなフードシステムを目指し、現在わずか0.1%しか流通していない「素の味」を集めたオンラインの会員制スーパーマーケット、Table to Farm。
立ち上げの経緯や“おいしさ”に徹底してこだわる製品セレクトについて紹介した前編につづき、後編では、お米や土鍋をめぐる作り手同士の共鳴、そしてTable to Farmが描く未来の挑戦へと物語は進みます。
“おいしいもの”を未来へ残す挑戦
Table to Farmがラインアップする商品として最初に選んだのは、お米。日本で長く栽培され、今なお主食であるからこそ、取り扱う商品はお米探しからスタートしました。
日本中から信頼できる背景を持つお米を取り寄せ、食べ比べを重ねた結果、選んだのが「亀の尾」と「旭・朝日」という品種。あとからわかったことですが、どちらも人工的な品種改良がなされていない自然交配種(在来種)で、コシヒカリやササニシキの祖となる自然栽培のお米でした。「このおいしさは、日本を代表するおいしいお米の品種であるコシヒカリやササニシキのもととなる味なんだね、というところからTable to Farmのキーワードである”素の味“という言葉が生まれました」と相馬さんは語ります。

「自然栽培による在来米「亀の尾・旭」を広げる」より
自然栽培のお米は、環境変動によるリスクが高く、肥料や農薬を効率的に活用した一般的なお米と比べると、半分以下の収穫量といわれています。そのため、亀の尾や旭・朝日といった素晴らしい品種に生産者が興味をもったとしても、商売として成り立たない可能性が高いのです。「だからこそTable to Farmは会員を集めることで、亀の尾、旭・朝日という品種を応援する仕組みをつくりたい」と相馬さんは話します。
栽培に挑戦したい農家も、種をもらうだけでは育てられません。栽培ノウハウも必要ですし、品種に適した土壌を育てるには数年を要すため、その間の支えが必要です。Table to Farmでは、新たにチャレンジしてみたい農家と、既に亀の尾や旭・朝日を生産している農家をつなぎ、知見を共有する取り組みも始めようとしています。既に数件の農家が育ててみたいと声をあげているそうです。
「今ある米を買うのではなく、来年の米を予約して作り手を支える。食べたい人が“これだけ買うから作ってください”と宣言することで、農家は安心して挑戦できる。そんな関係を醸成していきたい」と相馬さんは強調します。

「自然栽培による在来米「亀の尾・旭」を広げる」より
作り手が響きあう瞬間-土鍋と米
お米をめぐっては、もう一つ、Table to Farmが目指すつながり方を象徴するような出会いもありました。信楽「雲井窯」に土鍋を依頼したときのことです。
窯元に連絡をしても「卸売りはやっていない」と断られましたが、諦めきれずにアポなしで訪ね、なんとか話を聞いてもらいました。平行線で終わりそうだったのが、亀の尾や旭・朝日の話になり、「こういった貴重な品種が急激に減っている。それらをおいしく炊ける道具を探していると話したところ、職人さんの方から「この米を最高においしく炊くための土鍋をつくるべきだ。自分たちがつくる」と提案してくれたそうです。
根底にある想いを同じとするであろう作り手たちが、響きあい、つながり、発展していく様は、Table to Farmの本質を象徴するかのようでした。

鍔付き御飯釜(雲井窯)
悔しさが導いてくれた、生産者をつなぐコミュニティづくり
Table to Farmの活動は「商品」選びであると同時に「関係」づくりでもあります。
「オンラインスーパーなんて、生産者からすると非常に怪しい存在です。最初の頃はまだTable to Farmのウェブもなく、信用もしてもらえず、アポも取れない。だから直接訪ねるしかなかったんです」と相馬さんは語ります。

「自然の力、発酵の力を含んだ『森飼い自然卵』という卵の入り口」より
心に残る出会いのひとつが、宮城県のセオリファームです。おひとりで運営されている養鶏所で、森飼いの鶏による素晴らしい卵を生産していましたが、相馬さんが訪ねた時は、獣害で鶏が全滅した直後でした。しかし、Table to Farmの想いを聞いた生産者さんが「君たちのためにもう一度、新たに100羽に飼うよ」と言ってくれました。その後、厳重な対策を行って鶏を育て、ようやく卵がとれるようになってきた矢先、再び鶏が獣に襲われ、セオリファームは廃業に追い込まれてしまいます。その後訪ねた新潟の養鶏所で、犬を使った効果的な獣害防止策を知った相馬さんは、「セオリファームを訪ねたのは、Table to Farmの開業前ですが、僕たちがもっと早く動き始めていたら、新潟の養鶏所の情報を共有できていたら、人手がもっとあったら…とやるせない気持ちになりました」と語ります。
こうした経験から、Table to Farmでは、生産者同士のつながりや学び合いを支援するコミュニティづくりにも取り組んでいます。技術や知恵が個人についていることが多い仕事だからこそ、それらを共有し、つないでいく仕組みが必要です。横のつながりができることで、例えば、消えかけていた醤油の木樽づくりに挑戦する人が出始める、といった効果が生まれています。

「道具づくり、木桶づくり。木桶仕込み醤油の未来をつくる。」より
あえて“規模を追わない”という選択
「Table to Farmでは、僕たちが心の底からおいしいと思うものを、生産者に会い、現場を観て選んでいます。“僕たちがおいしさの責任は持つから食べてみて!”そう言えるものだけを扱っている。でも、生産者が限られていて、生産量も限られているから、会員数も一定以上は増やせません。Table to Farmは会員を増やしてビジネスを大きくすることが一ではない。流通中心で社会を動かす、ではないモデルがTable to Farm。作れる量を増やせないと、会員も増やせない。作っている人が先なんです。」
相馬さんの言葉には、Table to Farmの哲学が凝縮されています。会員数を増やすことは目的ではなく、作り手が「この人たちに届けたい」と思える対象になることが大切。小規模だからこそ扱える食材があり、会員もまた「買い手」にとどまらず、働く・協働するなど多様な関わり方で“つくる側”になっていくのです。その一環として、仕込みや収穫の繁忙期に会員が現地を訪れ、共に働くことによって、これまで生産できなかった量を実現する――Table to Farmでは、そんな仕組みも今後取り入れていきたいと考えています。

「ごはんのおとも」より
食料自治力を高めるための、作り手と買い手のつながりを
「これから先、食において本当にいいものは、どうしても減ってしまう。抗ってもどうしても絶対数としては、つくる人が減っていくため減ってしまうことになる。作り手たちと関係性を持っていなければ、そういった食材は手に入らなくなるはずです。これからは、それぞれが“食料自治力”を高める必要があると思っていますTable to Farmは、そんな作り手と買い手の関係性づくりをサポートするもののひとつです。」
Table to Farmは、会員数を制限し、規模を追わず、作り手と買い手がいろいろな形で関わっていくことで、「素の味」を未来に残そうとしています。
農家や漁師にはなれなくても、食べる人が関わりを持ち、支えることで生まれる小さな循環。その実験場こそが、Table to Farmなのです。