「食」から考える子どもの人権 多様な子どもと、広がる支援の可能性とは~開催レポート~

(2025.7.17. 公開)


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「子どもの人権」という言葉を耳にする機会が、ここ数年増えたのではないでしょうか。2023年4月の子ども家庭庁創設、こども基本法の施行といった動きを受け、児童の人権に関する取り組みは各所で始動。世間的な関心も、徐々に高まっています。
“十分な生活水準を保つ権利”は、世界人権宣言にも記されている通り全ての人類に保障されるべき最も基本的な人権のひとつ。そして、この“十分な生活水準”の基礎となるのが「食」です。

5/31(金)、この「食」の観点から日本に暮らす多様な子どもを取り巻く状況について知り、その人権の尊重にどのように関わることができるかを考える対話型セミナーが、株式会社YUIDEA主催のもと都内にて開催されました。

金曜の夜という開催時間にもかかわらず、会場には「食」に関わる企業の関係者をはじめ多数が参加し、スピーカーとして登壇した石川 えり さん(認定NPO法人難民支援協会 代表理事)、栗林 知絵子 さん(認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク 代表理事)の講演に耳を傾けました。




生きるための基盤を築けない子どもたち ─── 日本における難民の子どもの実態

難民支援協会(以下、JAR)に創設段階から関わり、現在代表理事として日本における難民支援に携わる石川さんは、日本国内にいる難民の子どもたちがどのように危機的な状況に晒されているのかを伝えました。
石川さんの説明によると、2024年の日本における難民申請者数のうち、約1割が20歳以下。在留資格が安定しない、難民認定がされないなど、その立場の不安定さゆえに、住居の確保や就業の難しさに直面し、経済的に困窮することが多いといいます。
コロナ禍による家計困窮の影響で、栄養不足から病気になる子ども。
健康保険に入れず医療費が払えない不安から、持病の治療を受けられずにいる子ども。
親の病気や入管収容のため、困窮する子ども。
生きるために祖国を離れたにも関わらず、逃れた先でもなお、生きるための最低限の基盤を築くことの困難さに直面しているのです。
「難民に関する報道を通じ何らかのイメージを抱いている人も多いかもしれませんが、彼らは生い立ちも背景も様々な、一人ひとりの人たち」と石川さん。幼い子どもも含め、彼らが十分な水準の生活を送る権利を持った一人ひとりの人間であることを伝え、難民問題をめぐる人権について、重要な視点を提起しました。

JAR事務所を訪れる人々に配布するための食品と、その管理について説明する石川さん



親や学校でなくてもいい。地域で子どもを育てる─── 豊島区における子どもの居場所作り

一方東京都豊島区で、子ども食堂、遊び場、学習空間など子どもの居場所作りを長年にわたり続けている、豊島子どもWAKUWAKUネットワーク(以下、WAKUWAKUネットワーク)の栗林さんは、貧困などの問題を抱える家庭の子どもたちと多く触れ合う中での視点から講演を行いました。

2023年度のデータによると、日本全国の小中学生のうち、就学援助を受けている児童・生徒の割合(就学援助率)は13.66%で、7人に1人以上の割合です(※)。数値を見る限り、子どもを取り巻く貧困問題は、誰にとっても身近に存在していることがわかります。
子ども食堂では、貧困やネグレクトなどで食べることがままならない子どもに、温かく栄養のある手作りの食事を提供していますが、栗林さんには「月1〜2回の提供で、何の解決になるのか?」という声もたくさん投げかけられるのだそうです。しかし栗林さん曰く、大事なのは食堂を通じて地域に居場所ができ、そこで会う人たちと見知った間柄になり、名前を呼び合う関係になること。「そういう相手がいれば、何かあった時に放っておかない。お互いを“ないもの”にしない関係ができる」「親でなければ、学校でなければ、ということはない。安心していられる場所を作ることができれば」と、地域に居場所があることの重要性を訴えます。「子どもには、安心した環境があれば自ら学んで・育つ力がある」といい、大人と同じく尊厳を持った存在であることを認識していく必要性を語りました。

子ども食堂の様子や運営スタッフについて説明する栗林さん



自分たちだけでは何もできない、という意識

そんなお二人がともに強く伝えるのは「自分たちだけでできることには限りがある」ということです。

● 難民と支援者を繋ぐ接着剤のような存在になりたい

JARでは、難民認定のための法的手続きの支援、衣食住や医療に関する緊急支援、自立に向けた就労支援に加え、よりよい難民受け入れを目指して制度改善、広報活動にも取り組んでいます。難民の方への生活を支えるなかで必要なのが、食品などの物資。そしてこの食品支援において大きな支えになっているのは、個人や企業からの寄付だといいます。例えば、PAUL(株式会社レアールパスコベーカリーズ運営のベーカリー)からは、まだ十分に食べることができる前日のパン。多くの国からの輸入食材を取り扱う株式会社神戸物産からは、ハラール対応食品を中心とした缶詰や冷凍食品など。他にもフードバンク団体などから、多様な食品を提供することが叶っているのです。
現在、資金の9割を寄付金で運営しているJAR。石川さんは「創設の頃から“接着剤”のような存在を目指してきた」と話し、できることがある人や企業・団体と支援を必要とする人とを繋ぐことで、その連携の輪を広げているのだといいます。支援のきっかけや目的についても「“難民を支援したい”という思いが、必ずしもきっかけである必要はない」のだそう。自分たちにできることを通じて関わることで、難民という存在を知る。知ることが、その先の関心につながる。「そんな人や企業が増えていけば、結果的に難民が見る地平も変わってくるはず」と、更なる連携の広がりに期待を込めました。

● 無いなら借りればいい。困ったら相談すればいい

栗林さんは、自身の団体で運営するこども食堂について「スタッフはみんな“借り物”が得意」「無いなら借りればいい。困ったら相談すればいいんです」と微笑みます。調理に必要な鍋も食材も、食堂となる場所も、その大半が持っている人からの提供なのだそう。
WAKUWAKUネットワークが2013年に子ども食堂を始めたとき、子ども食堂自体はまだ全国で2例目でした。同じような場を必要としている子どもの多さを実感した栗林さんは、全国に子ども食堂を広げるべきという思いから全国キャラバンを発想しますが、これも「いち主婦である自分一人ではできない」と、とにかく知見のありそうな知り合いに声をかけ訴え続けることで実現に至っています。各都道府県では、社会福祉協議会なども巻き込みイベントを開催。それをメディアに取り上げてもらうことで更に拡大浸透を図った結果、キャラバン後、全国の子ども食堂数は700を超える数にまで増えたのだそうです。
目の前で困っている子どもたちを見ながら、必要なものを持っている人、手段を知っている人をどんどん頼り、巻き込む。その結果、無料の学習支援、外国ルーツの子どもたちの支援、宿泊施設やフードパントリーなど、WAKUWAKUネットワークの支援範囲も広がりを見せているのです。



参加者からも湧き上がるアイデア

支援領域は異なるものの、熱量を持ちながら朗らかに周囲を巻き込むお二人。今回は、その講演を受けた会場の参加者からの感想も非常に印象的でした。

参加者の意見、感想に耳を傾ける会場の様子

「(自身の母親もそうだが)家族を亡くし一人で暮らす中、地域との関わりが薄れているケースも多いように感じる。子どもたちと元気な高齢者とが地域の中で繋がれるような取り組みを、自分もできたらと感じた」
「(自身の)子どもが長く不登校。今回のテーマで語られる子どもと自分の家庭とは問題が異なるようなイメージでいたけれど、話を聞く中で、地域でつながらなければいけないのは自分も同じだと気付かされた」
「自社の食品工場のある地域には、外国の方が多いということを思い出した。今日のお話をききながら、何か繋がりを作れる可能性を感じた」
「パートナーシップを結んでいる団体を通じ、自社内でボランティアを募集したことがある。希望が多く枠はすぐに埋まっていたので、意志がある人はたくさんいると感じた。そういう人が会社の仕組みを使いながら、支援に参加できるような仕組みも考えたい」

いずれも「自分と自分の周囲とでできること」の可能性を探りながら講演に耳を傾けた様子が伺える言葉でした。

講演後に交流を深め、新たな連携の可能性を探る参加者たち

現在は、企業や自治体、教育現場などの各領域がサステナビリティに配慮した経営・運営、教育を強化しています。「子どもの人権」というと児童労働や虐待といった問題が想起されることも多く、取り組みの可能性や支援手段がイメージしにくいと感じる人も多いかもしれません。しかし今回の「食」のように、一つの側面から見ることによって、子どもがあらゆる問題の影響を大きく受ける存在であることがわかり、自分(あるいは自社)が介在できる可能性が見えてくるのではないでしょうか。
「自分にできることを、少しずつ」という視点で、肩の力を抜きながら周囲と手を取り合う人が少しでも増える。今回のセミナーが、そんなきっかけの一つになることを願います。



<参考ページ>
認定NPO法人 難民支援協会|公式ページ
認定NPO法人 豊島子どもwakuwakuネットワーク|公式ページ



■執筆:contributing writer Ryoko Hanaoka

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