【サステナブル・ブランド国際会議2025】「帰属」から生まれる未来――DEIBが導く、個人と組織の新しい関係

(2025.5.12. 公開)


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いま、サステナビリティはモノづくりや環境活動だけでなく、「人」そのもののあり方を問いかけ始めている。
企業や組織のなかで、誰もが能力を発揮できる環境をどう育てていくか。それは、単なる制度づくりを超えた、文化と関係性の再構築を意味する。
サステナブル・ブランド国際会議2025のセッション「DEIBはエンゲージメントが命~Breakthrough in Regenerationを実現する観点」では、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン、そしてビロンギング(DEIB)に焦点をあて、個人と組織のこれからの関係性について深い対話が交わされた。

セッション
『DEIBはエンゲージメントが命~Breakthrough in Regenerationを実現する観点』


ファシリテーター
・サステナブル・ブランド国際会議
D&Iプロデューサー 山岡 仁美 氏

登壇者
・パーソルキャリア株式会社
人事本部 本部長 大竹 航 氏

・株式会社HiRAKU
代表取締役 廣瀬 俊朗 氏




DEIは後退しているのか? いま日本が直面する現実

近年、グローバルではダイバーシティ推進に逆風が吹き始めている。トランプ政権下のアメリカでは企業がダイバーシティ表明を撤回したり、EUでも積極的な推進から距離を置く発言が見られるようになった。
山岡氏は警鐘を鳴らす。「日本はこれから超高齢社会に突入し、労働力が不足することが明らかになっている。介護や育児をしていたり、障害があったりなど、何らかの制限を持つ人々も働くこと、働き続けることができないと社会も経済も成り立たない。DEIは後退している場合ではないのです」
素材をリサイクルするだけではもはやサステナブルとはいえないように、企業や組織のあり方もより本質を問われる時代が来ている。
その鍵となるのが、「Belonging(ビロンギング=帰属実感)」の構築だという。



エンゲージメントの核にあるもの――相思相愛の関係づくり

DEIBの中でも、特に近年重視されているのが「B(Belonging)」だ。
ビロンギングとは、単なる会社への帰属意識や社是への忠誠心ではない。
心理的安全性のもと、自分自身が「ここにいていい」と思える感覚を指す。
「エンゲージメントとは、企業と個人との“相思相愛の関係”です。存在を認め合い、誇りを持ち合う。そんな関係性が、文化を超えて育まれていくことが必要です」(山岡氏)
制度や施策を整えるだけでは、DEIBは実現しない。個を尊重し、違いを活かす土壌をいかに育てるかが問われている。




ラグビーから学ぶ、違いを力に変えるチームづくり

廣瀬俊朗氏は、ラグビー日本代表で培った経験をもとに、組織における違いの受容と可能性について語った。
廣瀬氏が立ち上げた株式会社HiRAKUでは、「お互いを開き合い、可能性を開き合う」ことを理念に掲げる。
また、スポーツを起点に社会課題に取り組む活動として、女子アスリートの月経周期への理解を促す【1252プロジェクト】(▶️1252プロジェクト公式サイト)や、国を越えたリスペクトを育む【スクラムユニゾン】(▶️スクラムユニゾン公式サイト)にも取り組んでいる。
「ラグビーは、体格もスピードも得意なプレーも全員違う。でも、それぞれが自分の居場所を見つけて、仲間を支える。自分が認められていると、自然に相手も認められる。そうして生まれる信頼関係が、本当に強いチームをつくるんです」(廣瀬氏)

ラグビーには、15人制、7人制、デフラグビー、車椅子ラグビーなど多様なスタイルがあり、違いを持ち寄って成り立っている。ポジションも多様で、足が速くても遅くても、パワーがあってもなくても、大胆でも慎重でも、力を発揮できるポジションがあり、「自分はこのチームにいていい」「違いが尊重されている」というビロンギング(帰属実感)が自然に育まれるという。

違いを恐れず、違いを活かす。そして、違いの中に居場所を見出す——。
ラグビーの世界で体現されているそれは、組織におけるビロンギングのあり方そのものだと言えるだろう。




個人と企業の新しいつながり方――アルムナイネットワークと成長戦略としてのDEIB

パーソルキャリアの大竹航氏は、社員と企業の新しい関係性として「アルムナイ(退職者ネットワーク)」の取り組みを紹介した。

パーソルキャリアでは、退職者が自主的に登録できるアルムナイ専用ポータルサイトを開設し、
・ 再就職支援
・ 商談機会の創出
・ 現役社員とアルムナイの対話機会の提供
などを積極的に進めている(▶️パーソルキャリア アルムナイ紹介ページ)。

「いまの時代、転職は当たり前になりつつある。ならば、会社を離れた人ともつながり続ける組織の方が強い。アルムナイは、“社員ではないけれど、かつて同じビジョンを追いかけた仲間と関わり続ける”という、新しいエンゲージメントのかたちだと思っています」(大竹氏)

日本ではまだアルムナイネットワークは一般的ではない。だが、退職者が社外で新たなスキルや視点を得て、別の立場からその企業と関わる、あるいは出戻ってきてこれまでの経験と新たに習得したスキルを活かしていくことで、新しいビジネスチャンスや組織進化のきっかけになるはずだ。

流動化が進む社会において、こうした関係性を育てることは、これからの企業にとって不可欠な戦略になっていくだろう。

また、大竹氏はジェンダー課題への取り組みについても現実的な視点を共有した。
現在、パーソルキャリアでは、経営陣の半数を女性にする構想が進んでおり、女性管理職の割合も30%を超えたという。

「多様な人が活躍できない組織に、未来はありません。経営層に女性を半数入れることで、組織が見ている世界そのものが変わっていく。それは単なるバランス調整ではなく、組織の成長力を高めるために本気で取り組むべき課題です」

社会貢献のためだけではない。
自社が生き残り、成長していくために、DEIBを本気で進める。
大竹氏の発言には、そんな強い覚悟がにじんでいた。




違いを力に変え、明るい未来を目指す

セッション終盤では、登壇者たちが「これからのDEIB」について意見を交わし、次のようなポイントが浮かび上がった。
・ 違いを受け入れ、本音でぶつかり合うことが、組織の強さにつながる
・ 制度やルールだけでなく、日々の対話やふるまいを通じて文化を育てる
・ 明るい未来をイメージしながら、試行錯誤を続ける姿勢が求められる

「DEIBは、現状の課題を是正するというよりは、よりよい未来に向かって進んでいくための基盤」「違いを尊重し、多様な声を生かすことで、組織や社会には新たな可能性が生まれる」「特定の属性や視点に偏ることなく、互いの在り方を認め合う環境づくりが、今後ますます重要になる」という認識も共有された。
登壇者たちが試行錯誤の中で得た、多様性を力に変えながら未来を形づくっていくためのヒントが数多く語られたセッションだった。



■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
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