エシカル消費の“現実”と“これから”――地域、企業、生活者のあいだにあるもの
(2025.4.30. 公開)
#サステナブル・ブランド国際会議2025 #エシカル消費 #持続可能な社会 #サステナビリティ #農業 #量り売り販売 #ブランディング #エコ意識 # ウェルビーイング
「エシカル消費」という言葉は、もはや目新しいものではない。だが、どれだけの人がそれを“自分ごと”として捉え、日々の選択に取り入れているだろうか。
サステナブル・ブランド国際会議2025のセッション「エシカルが変える生活と地域」では、農業、企業、リサーチといった異なる現場に立つ登壇者たちが集い、エシカル消費の現状と地域との関係について語り合った。
本稿では、各登壇者の視点を通じて、エシカル消費の“理想”と“現実”、そして“これから”のあり方を探っていく。
セッション
『エシカルが変える生活と地域』
ファシリテーター
・サステナブル・ブランド国際会議
アカデミックプロデューサー 青木 茂樹氏
登壇者
・針江のんきぃふぁーむ
代表 石津 大輔
・花王株式会社
グローバルコンシューマーケア部門
特命フェロー 小泉 篤
・株式会社インテージリサーチ
代表取締役社長 村上 清幸
地域から始まるエシカルとは
滋賀県高島市針江地区で有機農法に取り組む石津大輔氏は、自身の営みを「農業」ではなく「農」として捉えている。
「農は田畑を耕して作物を育てる営み。持続可能性を備えた暮らしに根差している。農業はそこに経済活動が乗ってくる。私は“農”を大事にしているんです」
高島市針江では、1軒ごとに湧水「川端(かばた)」があり、地域住民は日常的に川掃除を行う。田んぼにはフナが産卵に訪れ、収穫期には鳥も集まる。——そうした自然の循環に寄り添いながら、地域に根ざした暮らしを続けていくこと。石津氏にとってそれは、「エシカル」と呼ぶよりもむしろ、ごく当たり前の“人としての在り方”なのかもしれない。
“農”を切り口に、暮らしや自然、地域文化を感じ取ってもらう体験やそれを通しての気づきなどを石津さんは農〇(のうまる)と呼んでいる。彼自身の中でもまだ言葉になりきっていない概念だというが、今後そんな農〇的な場や関係性を形にして広げていきたいという想いがある。
「行動が変わらない」――生活者のリアルと向き合う企業の挑戦
エシカル消費の定着には課題も多い。花王の小泉篤氏は、奈良県生駒市と連携した地域密着型のプロジェクトを通じて、生活者の行動変容に取り組んでいる。
まず実施したのが、住民向けのSDGs講座や情報提供とあわせて行った店頭設置型の洗剤の量り売り販売だ。
当初は「値段が高いのでは?」「ボトルを持っていくのが手間」といった声もあったが、実際に試した住民からは「使う分だけ買える」「ゴミが減る」といった前向きな反応が寄せられた。「こういう取り組みが当たり前になってほしい」という声もあり、小泉氏は行動の芽が地域に生まれつつあることを実感したという。
この手応えをもとに、さらに始まったのが「まちのえき」での詰め替えパウチ販売を行う移動販売車の展開である。洗剤をはじめとする生活用品の販売に加え、地域の花屋や八百屋も自然と集まり、買い物支援とエコ意識の醸成が同時に進む“にぎわいの場”となっている。
「行政、市民、企業がそれぞれの立場で関わることで、少しずつエシカルな行動が地域の中に根づいていくのを感じています」と小泉氏は語る。
住民の中から自発的な動きが生まれ、企業はその支援役にまわる——そんな関係づくりが、今後のエシカル消費の土台になるのかもしれない。
「意識はあっても、行動は変わらない」――データが示す現実
「生活者のエシカル意識は高まりつつありますが、実践はそれほど進んでいない。社会のメリットより、自分のメリットを優先する傾向が根強くあります」
インテージリサーチの村上清幸氏はエシカル消費にデータで向き合う。
村上氏たちによる調査では、生活者を10のクラスターに分類。クラスターにはエシカル意識が高い「ソーシャルジャスティス層」「ストイックなエシカル層」などの他、エシカルに無関心な層や「自分の楽しみ優先層」も存在する。
「一律に“エシカル消費を広めよう”と呼びかけても届かない。それぞれのライフステージ、関心、行動パターンに応じた伝え方が求められます」
また、インテージでは地域幸福度のスコア化や自治体別のウェルビーイングデータの活用にも取り組んでいる。こうした定量的なアプローチは、企業や行政との共通言語としても活用されつつある。
地域で育つ、これからのエシカル消費
セッション終盤には、地域でエシカル消費をどう根付かせるかという視点に話題が移った。
石津氏は、自身が住む高島市には近所で育てられた野菜のおすそわけなど、エシカルという言葉を使わずとも、エシカル消費的な営みが地域に溢れているという。
「ただ、おじいさんやおばあさんが作った、土のついた野菜や曲がった野菜をお孫さんが食べてくれないという声もあるんです」
地域内であっても、地元に住み続けている人、出戻ってきた人、移住してきた人、そして世代の違いなどで様々な価値観が生まれ、壁ができている。そのような現状を前に石津氏は「公民館のようなきっちりとしたものではなく、年齢や立場を問わずふらっと入れる場を地元につくりたい」とも述べた。
ラフで、あまりお金もかけずに、人が自然に集まれる空間をつくることで、様々な価値観が混ざり合い、新しい共同体になれればと模索する。
「冷たいハードじゃなくて、人のぬくもりがある場所。そういう居場所を行政とは別の形でつくっていきたいと思ってるんです」
実験と実践の、その先へ
今回のセッションでは、「これからエシカル消費をどうするか」という明確な解が語られたわけではない。登壇者の語る視点は多様で、それぞれの立場からの実験と実践、課題が紹介された。
「意識はあるが、行動に結びつかない」
「理想は共有されているが、暮らしへの浸透は道半ば」
「地域の中に確かな芽があるが、それをどう育てるかはまだ手探り」
そうした現実の中で、小さな実践を重ねながら、データを活かし、地域の声に耳を傾け、企業・自治体・市民がゆるやかにつながっていく——その積み重ねの先に、エシカル消費の“これから”があるのかもしれない。
■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
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