【サステナブル・ブランド国際会議2025】マーケティングは“売る技術”から“共につくる力”へ―サステナビリティ時代の新しい関係構築

(2025.4.23. 公開)


#サステナブル・ブランド国際会議2025 #マーケティング #持続可能な社会 #サステナビリティ #デジタルトランスフォーメーション #協働型マーケティング #ブランディング 


「企業と生活者が“ともに動く”時代に、マーケティングはどう変わるのか?」
そんな問いを投げかけたのが、サステナブル・ブランド国際会議2025で開催されたセッション「Brands for Good ― マーケティングのパラダイムシフト」だ。

かつて“売るための手段”だったマーケティングは、いまや“ともに未来をつくるためのツール”へと変容を遂げようとしている。
本セッションでは、最新のマーケティング定義を切り口に、企業がいかに生活者と関係性を築き、共に未来をつくっていくかが語られた。

登壇したのは、電通サステナビリティコンサルティング室の竹嶋理恵氏、トランスコスモス顧問の福島常浩氏、グレートワークス代表取締役社長の山下紘雅氏、そしてモデレーターを務めた青木茂樹氏(SB国際会議アカデミックプロデューサー)だ。

セッション
『Brands for Good - マーケティングのパラダイムシフト』


ファシリテーター
・サステナブル・ブランド国際会議
アカデミックプロデューサー 青木 茂樹氏

登壇者
・株式会社電通 サステナビリティコンサルティング室
エグゼクティブ・プランニング・ディレクター 竹嶋 理恵氏

・トランスコスモス株式会社
顧問 福島 常浩氏

・グレートワークス株式会社
取締役社長 山下 紘雅 氏


“価値の交換”から“関係性の醸成”へ

2024年、日本マーケティング協会は34年ぶりにその定義を大きく刷新した。
「マーケティングとは、顧客や社会とともに価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」

この新定義について、その策定のための議論にも参加した福島氏は「これは“お客様に良い商品を届ける”という旧来の考え方からのパラダイムシフトであり、マーケティングの目的が“売上”ではなく、“信頼関係の構築”へと転換している証だ」と語る。アメリカでさえここまで踏み込んだ定義はしておらず、「日本が先進的な宣言をした」と評価する声もある。

背景には、人口減少、消費スタイルの変化、デジタルトランスフォーメーション、サステナビリティ意識の高まりといった複合的な社会変化がある。企業はもはや、モノを大量に売りさばくことでは生き残れなくなりつつある。

トランスコスモス(株) 福島 氏

「賛同者」とともに歩むマーケティング

この変化を象徴するキーワードが、これまでマーケティングとサステナビリティに深く関わってきた竹嶋氏が提示した「協働型マーケティング」だ。
「これからの企業は、購買者やフォロワーといった“売り手・買い手”の関係ではなく、企業の目指す社会に共感し、ともに行動してくれる“賛同者”と関係を育てることが重要です」(竹嶋氏)

単なるファンと賛同者の違いは、企業の価値観や社会的ビジョンへの共感があるかどうか。企業やそのサービスに共感した賛同者が、企業とともに動き、その価値観やサービスを社会に広めていく。それにより絆や信頼が育まれ、中長期的な利益につながる、というのが協働型マーケティングの考え方だ。
具体的には、
• 企業のパーパスやビジョンを生活者の言葉でわかりやすく伝える
• 共感者を募り、参加型の仕組みで関係を深める
• 成果や過程を共有し、継続的な関係性を育む
といったステップが必要だという。

「高尚な理想だけでは、人は動きません。大切なのは、“楽しさ”や“共感”、そして自分ごととして動けるしくみです」(竹嶋氏)


(株)電通  竹嶋 氏

「ありたい姿」を“自分ごと化”する

こうした変化は、ブランディングの領域にも影響を及ぼしている。ブランディングを専門とする山下氏は、「ブランディングとマーケティングは、同じ山の頂を目指す登り口が違うだけ。これからは両者が融合していくべき」と語る。

「企業の発信は、“社会”“環境”など主語が大きくなりすぎる傾向があります。でも本当に大切なのは、目の前の人の“こうしたい”“こう生きたい”という声。それを出発点に、企業のありたい姿と重ねていくことが、これからのブランディングに必要です」(山下氏)

企業のパーパスを掲げるだけでは意味がない。それが「自分ごと」として受け取られ、行動に変わるための体験設計やストーリーが求められている。

グレートワークス(株)山下 氏

数を追うより、つながりを深く

セッション終盤では、「SDGs疲れ」や「サステナブルは儲からない」という声にどう向き合うかという問いも出た。

「マーケティングは“そろばん”であり、“論語”でもある」という青木氏のコメントを受け、「短期的な売上よりも、長期的な利益と信頼の獲得が大切です。エコパッケージがすぐ売れるわけではない。でも、本当にいいことをしていれば、やがてブランド価値として利益に還元されるはずです」と福島氏は語った。

また、賛同者との関係は最初から大規模でなくてよいという点も強調された。
「数を追うより、熱量を持って応援してくれる人と、成功体験を共有すること。それがやがて企業の成長にもつながっていくのではないかと思います」(竹嶋氏)

一方で、「サステナブルな取り組みは、どうすれば利益になるのか?」という問いは、多くの実務者が心のどこかで抱えているだろう。
セッションでは、新たなマーケティング視点での具体的な稼ぎ方のヒントは提示されなかったが、それは今、企業が“利益と社会性の両立”という新たな稼ぎ方を模索するフェーズにいるからといえるからだろう。
その試行錯誤に必要なのは、短期的利益を手放す勇気、生活者とともに考え動く姿勢、そして“これまでにない市場”を自らつくろうとする意思であり、こうした積み重ねの先に、少しずつ利益が伴ってくる——それが、現時点で語り得る最もリアルな答えなのかもしれない。


マーケティングは、“ともに生きる”ための技術へ

最後に青木氏がこう締めくくった。
「売り手・買い手ではなく、“人と人”。そこから始まる関係づくりが、これからのマーケティングの出発点です」
かつて“売る”ための技術だったマーケティングは、いまや“企業と生活者が協働して未来を描いていく”ための技術へと進化している。信頼、共感、そして模索——そのキーワードの先に、サステナブルな未来を築くブランドの姿が見えてくる。


■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
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