スイーツをきっかけに知ってほしい 日本の産業が抱える課題を真摯に伝える「TAMAYURA」とは
(2025.1.22. 公開)
#ウェルフード #サステナブル #環境破壊 #持続可能性 #生活困窮者 #コラボレーション #日本の食と農が抱える課題 #次世代の担い手不足
「あなたの『おいしい』を、だれかの『うれしい』に。」このキャッチフレーズを掲げながら、ウェルフードの提供を通して食のサステナブルを身近で日常的な存在に、と取り組むimperfect(インパーフェクト)が、新たにスイーツライン「TAMAYURA(たまゆら)」を立ち上げた。
「たとえ不完全(imperfect)でも自分たちにできることから取組み、世界と社会を少しでもよくしていこう」という想いで、食と農を取り巻く社会課題に向き合うimperfectがTAMAYURAにかける思い、そして実現したいことは何か。ブランド・プロデューサーの佐伯美紗子さんにお話を伺った。
「自分との繋がり」が見えやすい、より身近な課題を
imperfectでは主に、コーヒーやカカオやナッツなどを素材とする商品を展開してきた。アフリカや中南米を中心とする海外の産地からの輸入が主になる素材だが、これらの地域では、栽培にともなう環境破壊や労働環境を取り巻く問題など、生産過程での社会課題が浮き彫りになってきている。imperfectではこれに対し、社会的・環境的配慮の元に生産された原料の使用や、売上の一部を産地支援に役立てるといったことを実践しながら、消費者に対しても、背景にあるストーリーを商品と共に伝えてきた。
今回新たに誕生したTAMAYURAは、その視点が日本国内に向けられているスイーツラインだ。今、より国内にフォーカスした取り組みを始動させることになったその背景について、佐伯さんはこのように話す。
「私たちは日本の消費者に商品をお届けしていますが、アフリカや中南米の問題となると少し遠いものに感じられることも多く、身近な課題と捉えていただくことの難しさも感じていました。お客様の中には『日本の生産現場にも同じように課題があるのですか?』と問いかけをくださる方もいらしたり。もちろん、世界と日本では抱えている問題は異なりますが、大きな意味では通じる課題感もあります。ならばまずは、日本の人にとってより身近で、自分との繋がりが見えやすい課題から知ってもらえるきっかけを作りたいと思いました。そんな流れの中で、実はこれまでも国内生産者とタッグを組んだ商品がいくつかあったのですが、お客様にご好評いただいていたこともあり、今回新たにスイーツラインとして立ち上げることになったのです」。
では、“身近でありながらもまだあまり意識されていない”国内の生産現場における課題とはどんなものだろう。そしてまた、imperfectはそこにどのようにして向き合うのだろう。
担い手不足問題に、多面的に取り組む茶園とのコラボ
このスイーツラインが名称とするTAMAYURA(たまゆら)は、漢字で「玉響」と書かれる日本の古い言葉だ。勾玉同士が揺れ微かに触れ合う音や、その束の間の瞬間をあらわす言葉だが、佐伯さんはそこに流れる穏やかな時間や空間、人の営みのようなものを感じたという。人と人、産業と産業の触れ合いや、そこから生まれる新たな共鳴のイメージが表現されたこのTAMAYURAで、コラボレーションパートナー第一弾となった「健一自然農園」は、無農薬・無肥料の栽培を行う奈良県の茶園だ。独自の取り組みが際立つ同茶園は、いつか一緒に商品を作りたいと願う存在だったという。
「第一弾商品の検討の中で、お茶という素材の持つ魅力に目を向けました。お茶は人と人の会話や触れ合いの場で、そのそばにあるもの。TAMAYURAという名前に込めた、時間や空間、余韻、心地良さのようなイメージを演出してくれる素敵な素材だと思ったんです」と、お茶という素材そのものに感じた魅力と同時に、佐伯さんは同茶園の魅力についても語る。
「農業が抱える課題の大きな一つが担い手不足だと言われます。解決のための方法は色々ありますが、健一自然農園さんは“担い手の負荷を減らしつつ、自然とも共生ができる在り方”を模索・追求されていらっしゃると、私は捉えているんです。彼らの一番のシグネチャーである『三年晩茶』も、周囲の生態系と調和し木が健やかに育つようにされています。また普段よく飲まれているお茶は茶葉を抽出して飲むものが多いですが、この晩茶は葉も枝もまるごと刈り取って加工するという方法。これによって(新芽を摘むという)収穫の負荷も軽減されるように工夫されています。それだけに止まらず、地域との繋がりも積極的に持っておられて。コミュニティ作りや、地域の子供が農業について学べる場を作るということにも目を向けていらっしゃる。次の世代を見据えた中長期的視点と、課題への多面的な取り組みのユニークさにとても惹かれました」。
生産者にとっての「普通」が、外から見ると「特別」であることも
健一自然農園のように、抱える課題解消のための模索や、将来を見据えた取り組みをしている生産者は他にも多数あるはずだ。そんな生産者とTAMAYURAとのコラボレーションはどのようにして実現するのか、生産者からはどのような反応があるのか。伺ってみると、商品ができるまでの丁寧なやりとりや、その中で産地の魅力の再発見があることも見えてくる。
「お話すると、感じている課題やアイデアが湧き出て共感しあえることが多いです。でも大事なのはコラボレーションが双方のビジネスにとって納得のいくもの、かつサステナブルな形になること。そのためには共感だけではなく、時間をかけた丁寧な議論と合意が必要だと思っています」商品ができるまでには1年ほど要することもあり、すぐにプロジェクトが実るわけではない点は、難しさの一つだという。
また持続可能性という観点で見たとき、生産の現場で有意義な取り組みがなされているとしても、生産者や産業界自身にとってはそれが特別ではないと自覚されていることも多いそうだ。自身も母親の地元が農家だったという佐伯さんは「大したことではない、とおっしゃる方も多いですが、外から見るとすごく意義深いことだったりする。自然や命と向き合う日本の産業の現場の方たちの日々の努力や、すごいことをされているんだ、ということはもっともっと知ってもらえてよいはずです」と、思いを込める。
全てを解決する策はない。まずは知ってもらうこと
「サステナブル」には明確な解や効率化された手法があるわけではなく、その取り組みの成果も、短期的かつ明白に得られるものではない。また生産における社会課題といってもその内容は様々。作るものや地域によっても状況は異なる。多くのステークホルダーがそれぞれの役割を担いながら繋がり続け、動き続けることでしか前進を見ないこの種の取り組みにおいて、TAMAYURAは何を強みとし、日本の食と農が抱える課題の解消プロセスの中のどんな役割を担っていくのか。
佐伯さんは「商品を購入いただくこと、召し上がっていただくことで全てが解決するとは、もちろん考えていません。ただ、私たちの商品と出会うことで、日本国内の産地や生産者が“こんな課題を抱えているんだ”ということ自体を認知できる、そんなきっかけを作りたいと思っています。それが私たちの一番の強みであり、目指していることです」と話す。
知ってもらいたいからこそ、“伝えたい”を押しつけない
スイーツラインTAMAYURAはもちろん、imperfectはこれまでも商品を通じて、消費者に課題認知の機会を提供することを目指してきた。だからこそ、商品の訴求にはこだわる。「サステナブル」というものがまだ身近でない人たちにも知ってもらいたいと考えたとき、「サステナブル」の一点を頑なに発信するだけでは、多くの人に知ってもらうことは難しい。今回のやわだまショコラも、サステナブル訴求のほか、お茶・チョコレート・和という商品の持つ要素を抽出し多様な打ち出しをしたという。
そのように、入口の接点としては受け手が受け取りやすい形を重視する一方で、消費者と長期的なコミュニケーションが持てるような基盤も重要だという佐伯さんは「一度の接点で、私たちが伝えたいストーリーを伝えきることは難しいです。コーヒー事業では、サブスクリプションサービスで購入者と毎月接点を持ったり、企業さま向けのコーヒー提供サービスで、マシンを置く空間も含めて演出したり。私たちと触れる期間が長く、より深いコミュニケーションでつながれるような在り方が理想的です」と話す。
生産者の横のつながりを生む、ハブのような存在でありたい
広く知ってもらうため、敷居を下げることで“波及”を。そして長期的・継続的なコミュニケーション接点を設けることで“醸成”を。こうして食と農を取り巻く国内外の社会課題に真摯に向き合い、サステナブルをもっと日常のものにしていこうと取り組むimperfectの今後について、佐伯さんは次のように語る。
「TAMAYURAとしては、農業に限らず日本の『生産』というものに目を向けたいと考えています。まだイメージ段階ですが、例えば日本独自の食文化や伝統工芸なども想定しています。特に、次世代の担い手不足はあらゆる産業での共通課題だと感じているので、そこに何らかのアプローチをされている方とご一緒できたら、と。またご一緒した方同士が横に繋がっていくこともコラボレーションの意義。私たちがそのハブになれたら嬉しいです」。加えてimperfect全体としても「“多くの人に知ってもらうきっかけを作る”が主軸。サービスの形や商品も今のままであり続ける必要はなく、その都度最適なものは何?という視点で柔軟に形を変えながら続けていきたい」と話した。
十を知る人が一人増えることにも意義はあるが、一を知る人が十人増えれば、より意識は広がる。認知機会の提供や、意識を波及・醸成させていく部分に強みを持つimperfectだからこそ、このTAMAYURAを通じ、国内の産業が抱える課題を“知る一人”を増やしていけるのかもしれない。
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Imperfect公式サイト
■執筆:contributing writer Ryoko Hanaoka