嗜好品とウェルビーイングの共存へ アルコール業界における多様性と健康への新たなアプローチ

(2024.11.12. 公開)

#ウェルビーイング #アルコール業界 #多様性 #嗜好品 #商品開発 #リラックス効果 #適正飲酒 #ノンアルコール #健康


お酒やたばこ、コーヒーなどの嗜好品は、リラックスをもたらしたり、楽しい時間を提供するといったプラスの面がある一方、人々の健康を害する面があることも無視できません。また、お酒を飲む人・飲まない人・シーンを選んで飲みたい人など、人々の多様な意向を尊重し、誰もが楽しくお酒と向き合うことを推奨する流れも生まれています。

近年、嗜好品を提供している企業もこれらの社会課題を認識し、ウェルビーイングや健康をテーマにした取り組みや商品開発を行っています。本記事では、嗜好品とウェルビーイングの共存を考えるきっかけとして、アルコール飲料を提供する企業の新たな取組みやコミュニケーション事例を紹介します。




アルコール飲料に対する向き合い方の変化

ライフスタイルの変化や健康志向の高まり、アルコールの過剰摂取によるリスクへの理解、物価上昇などが影響し、若年層を中心に、アルコール摂取を減らす、完全に控える人が増えています。

アルコール摂取は、リラックス効果をもたらす一方で、肝臓や心血管系の疾患のリスクを高めるほか、精神的な健康にも悪影響を及ぼす可能性があるとされ、長期的には健康リスクを伴うことが広く認識されています。

また、飲酒後の二日酔いの影響を避ける、仕事や趣味においてよりクリアな状態を保つ、睡眠の質を高める、といったことを目的に、アルコール摂取を控える人も増えています。

かつては、特にビジネスシーンや社交の場で「飲まないと場の雰囲気を壊す」といったプレッシャーが強かったものの、「飲めない人」「飲まない人」に対する理解が進み、近年はそのようなプレッシャーも緩和されています。


企業の取り組みと事例:健康的な飲酒の啓蒙

このようなお酒に対する潮流を受け、アルコール飲料を製造するメーカーも新たな商品開発やコミュニケーションをスタートさせています。

・アサヒビールの「スマドリ(スマートドリンキング)」の提案


引用:HPより https://www.asahibeer.co.jp/smartdrinking/

アサヒビールはお酒を飲む人も飲まない人もお互いが尊重し合える社会の実現を目指す「スマートドリンキング(スマドリ)」を推進しています。
お酒を飲む人・飲まない人、飲める人・飲めない人、飲みたい時・飲めない時、あえて飲まない時など、さまざまな人々の状況や場面における“飲み方”の選択肢を拡大するための環境づくりを推進するための商品やサービスを展開。ユーザーが「気軽に飲める」「体に負担をかけずに楽しめる」と感じる製品ラインナップを強化しており、健康と楽しさを両立させる新しい選択肢を広めることに意欲的です。


・キリンホールディングスのアルコール有害摂取の根絶


引用:HPより https://www.kirinholdings.com/jp/purpose/model/stories/topics_220719_01.html

キリンホールディングスも酒類メーカーとしての社会的責任を果たすべく、全ての事業展開国で「アルコールの有害摂取の根絶」に向けた活動を進展させています。そのために提唱していることのひとつが「スロードリンク」です。

キリングループでは、「スロードリンク」を、『誰かと語り合いながら、食事のおいしさによろこび、ほどよく飲んで、スマートに心地よく過ごす、飲む「量」ではなく、流れる「時」に心が満たされる、そんなこれからの時代の適量で節度をもったお酒の楽しみ方のこと』と定義し、スロードリンクを楽しむための飲酒に関する正しい知識の発信や、セミナーを開催し、啓発活動に努めています。


・サントリーの「ほどほど飲酒」のすすめ


引用:プレスリリースより https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000982.000042435.html

サントリーグループも健康を意識した飲酒スタイルを推奨する取り組みを行っています。
適量飲酒を提案する「ほどほど」飲酒のキャンペーンを展開し、「お酒は、なによりも適量です。」というメッセージを織り込んだ適正飲酒の大切さをユーザーに伝えています。

また、アサヒビールやサントリーグループにも共通することですが、ユーザーがアルコール摂取量を把握・コントロールできるよう、国内で販売する主要なアルコール商品に含まれる純アルコール量(g)を、ホームページや商品自体に表示しています。

業界をリードする大手メーカーの適正飲酒への啓発的な取り組みは、健康と楽しさの両立を目指す新しい飲酒文化を形成するとともに、ユーザーの意識変革にもつながっています。


低アルコール・ノンアルコール商品の開発の活発化

人々の健康意識の高まりや、アルコール飲料への向き合い方の多様性を受け、低アルコールやノンアルコール商品の市場が急成長しています。
大手メーカーからは様々な種類の低アルコールやノンアルコール飲料が販売されていますが、その輪はクラフトビールやクラフトジンの世界にも広がっています。


引用:プレスリリースより https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000049.000018582.html

よなよなエールなど日本のクラフトビールの先駆けとして知られるヤッホーブルーイングが手掛ける「正気のサタン」は、クラフトビールと同じ製法・原材料を採用したアルコール度数0.7%の“醸造系クラフトドリンク”。極めて低いアルコール度数でありながら、満足感のある低アルコール飲料として注目されています。


引用:プレスリリースより https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000057255.html

クラフトジン「YASO GIN」を製造・販売する越後薬草は、アルコールを一切使わずに植物を蒸留することで香りを抽出し、本格的なジンのようなスッキリとしながらも奥深い味わいのノンアルコールジン『NON ALCOHOLIC YASO GIN 〜森の中にあるラベンダー畑〜』を発売しています。

お酒を飲まない方も飲めない方も、飲みたいけど今は飲めないというシチュエーションでも、いわゆる「代替品」「もどき製品」ではなく、香りや味わいがアルコール飲料と比べても遜色ない本格派の低アルコール・ノンアルコール商品が次々に生み出されており、ユーザーのニーズを満たすだけでなく、企業にとっても新たな成長の機会となっています。


小売店のプライベートブランドでも低アル・ノンアルを開発

適正飲酒を推進する取り組みは、販売チャネルにも波及しています。
イオンやローソンは、それぞれオリジナルの低アルコール飲料を発売。イオンでは、プライベートブランドのトップバリュから、ソバ―キュリアス(お酒を控えるライフスタイル)を嗜好する人に向けた、アルコールでもソフトドリンクでもない、新しい味覚を体験できることを打ち出したノンアルコール飲料「19 Nineteen」を発売しています。


引用:プレスリリースより(トップバリュ クラフテル シリーズ) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003966.000007505.html

ローソンも全国の店舗でアルコール度数4%のオリジナルチューハイ「レモンサワースクワッド4」を発売しています。こちらの製品は、「アルコール度数が低い商品を発売してほしい」というお客様の声を受け開発されたもの。20代~40代の女性のお客様からの好評を得て、発売1ヵ月で販売数100万本を超えるヒット商品であった「レモンサワースクワッド」(アルコール度数7%)の濃厚なレモン感、焼酎の深い味わいはそのままに、アルコール度数を下げることを実現しました。


引用:HPより(レモンサワースクワッド4 350ml)
https://www.lawson.co.jp/company/news/detail/1437808_2504.html

アルコールに対するユーザーの向き合い方は、多様化しています。
健康志向の高まり、酔いたくないという意向、低アルコール・ノンアルコール飲料の充実、飲酒に対するプレッシャーの減少などを背景に、飲まない選択をする人々、シーンに合わせて飲む・飲まないを決める人は今後も増えていきそうです。

健康と嗜好品のバランスを保つことは、ユーザーと企業の双方にとって重要な課題です。
アルコール飲料のみならず、嗜好品の市場において、ウェルビーイングを考慮した商品やサービスの提供は、一過性のものではなく、私たちの生活に根付くべき価値観として成長していくことでしょう。


■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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