難民のリアルを知り、服を着る意味を問う “ 服のチカラ ” プロジェクトストーリー(第1部/全3部)


※上記写真は左から、“届けよう、服のチカラ”プロジェクトを担当する横川結香氏、山口由希子氏


ユニクロ、ジーユーを展開する株式会社ファーストリテイリング(以下、ファーストリテイリング)は、グローバルにビジネスを展開する企業として、世界中で増え続ける難民問題を自社が取り組む重要課題の1つとして考え、長年にわたり継続的・包括的な支援を行っている。2013年からは、日本の小・中・高校生が難民問題を「自分ゴト」として考えを深められる出張授業のプログラムを開発し、服を回収し難民へ届けるプロジェクトとして全国の学校で展開している。そうした活動と、それによって社内外に生まれるさまざまな変化について、ファーストリテイリング サステナビリティ部 新田幸弘グループ執行役員、同 サステナビリティ部 ビジネス・社会課題解決連動チーム 山口由希子氏、横川結香氏に話を聞いた。



(ファーストリテイリング サステナビリティ部 新田幸弘グループ執行役員)

本当に困っていることに対し、ビジネスを通じて解決する

国連難民高等弁務官事務所(以下、UNHCR)「グローバル・トレンズ・レポート 2023」によると、紛争や迫害によって故郷を追われ、戦火や抑圧から逃れる生活を余儀なくされている人は世界で1億2000万人にのぼる(2024年5月時点)。日本の法務省によると国内の難民認定者数は23年に303人にとどまるが、世界では大きな社会・政治問題だ。

ファーストリテイリングは、世界中で増え続ける難民問題に対して、服の寄贈や店舗での雇用、自立支援プログラムを通じた難民支援に取り組んでいる。事業の根幹である「服」を軸にした支援としては、着なくなった服を店舗で回収し、UNHCRとの協働により難民・国内避難民への寄贈などを行う。 寄贈した服の数は2023年末までで約500万点、活動開始以降の累計では約5,366 万点にのぼる。
服を回収し、難民・国内避難民に寄贈する取り組みは、そもそもどのように始まったのか。新田氏に訊いた。

(新田氏)「2006年から回収をはじめて、2007年2月にネパールの難民キャンプへ行った。感動も衝撃もあると同時に、服の持つ力も感じた。けれども、我々だけが難民キャンプへ行くだけでは本質的な解決として充分ではないとも感じた。実際に現地に行くことができなくても、難民について知ることで、何らかのアクションを起こしてもらえるといい。そう考えているときに、UNHCRから難民の子どもたちの服が足りないと聞き、その課題に対して何かできないかと考えた」

紛争や災害が起きると、着の身着のまま逃げる人がほとんどだ。何かをもって逃げるといっても大したものは持ち運べない。難民キャンプでは食糧や水や薬、あるいは住居の提供がまず優先される。衣食住のうち「衣」は後回しになる。衛生面や寒暖調整の意味でも服を適切に着替えることは重要であるのに、とりわけ育ち盛りの子どもたちの衣服が足りないという課題が生じている。

(新田氏)「世界でほんとうに困っていることに対して、どうやってビジネスを通じて解決していけるか。ビジネスを通じてやるのでなければ意味がない。そうでなければ継続もできない。お客様を巻き込み、我々の商品のなかでいちばん大事なものを活用したプロジェクトとして、人と人をつなぐことを大事にしたい。だから、新品の服を寄贈するのではなく、お客様が自発的に持ってきてくださった洋服を、必要とする人に届けるということに重きを置いた」

そうした想いから生まれたのが、2013年から展開している “届けよう、服のチカラ” プロジェクトだ。



子どもたちが「難民」や「紛争」を自分ゴトとして捉えるために

“届けよう、服のチカラ”プロジェクト は、ユニクロ・ジーユーの社員による出張授業を通じて、難民問題や服の持つ多様な価値について学び、考えるプロジェクトだ。授業後には、子どもたちが主体となり、校内や地域から着なくなった子ども服を回収する。回収された子ども服は、UNHCRを通して難民キャンプなどに暮らす子どもたちへ届けられる。2023年までに全国から4,315校、のべ47万人の子どもたちが参加し、約638万着の子ども服を集める。コロナ禍においても「映像授業」「オンライン授業」形式を加え、活動を継続した。



日本の人口とほぼ同じ数の難民が世界にいる一方で、国内の難民認定者数は303人(2023年時点)という大きな差が、日本において「難民」を身近な問題として考えることが難しい要因のひとつとなっている。しかし、「戦争や紛争だけでなく、大規模災害のために慣れ親しんだ故郷に住めなくなったり、家族と離れ離れになってしまったりすることは日本でも起こり得ること」と新田氏は、決して私たちにとっても他人事ではないと指摘する。

(新田氏)「ただ祈るだけでは世界は平和にならない。難民問題について考えるだけでは解決しないし、難民の助けにならない。具体的なアクションを通じて、自分にできることがあると実感し、自分ゴト化してほしい。最初の第一歩を踏み出せるプログラムにしたかった。難民というと、子どもたちにとっては言葉も難しいし、偏見もあるかもしれない。けれど実際に、同じ世代の子どもたちが難民になっている現実がある。自分たちの実体験がないなかで、こうした活動に参加することでグローバルな視点も養うことができる」

子どもたちが、自分たちにもできる社会貢献があるとの気づきを促すこのプログラムは、グッドデザイン賞、経済産業省主催 キャリア教育アワード 経済産業大臣賞 (大賞)、文部科学省主催 青少年の体験活動推進企業表彰 審査委員会優秀賞(いずれも2021年)を受賞し、多方面で高い評価を得ている。



(山口氏)「プログラムについては毎年、参加校・担当した講師それぞれからフィードバックを受け、改善を積み重ねている。2024年度は大きな改善点として、よりインタラクティブな授業ができるように、とワークを導入した。大切にしていることは “服のチカラ ”という根本のテーマと、難民問題の啓発。ただ教えるだけでは、子どもたちの心を動かすのは難しい。コアとなる2つの軸はブレずに、どうしたら子どもたちの心が動くか、自分ゴト化してもらえるかを考えながら改善を繰り返している」


※つづく第二部では、このプログラムの詳細と従業員の自発性を引き出す運営面の工夫や、モチベーション醸成の源泉について話を聞いた。


▶第二部:子どもたちが戦争や難民について、自分ゴトとして考え、自分にできる行動を踏み出せるプログラム開発

▶第三部:なぜ難民問題に取り組むのか? 人権がより尊重され、すべての難民がいなくなるべく「世界を変えていく」




【参考サイト】

“届けよう、服のチカラ”プロジェクト

「グローバル・トレンズ・レポート 2023」 UNHCR、急増する強制移動に対する無関心と行動の欠如に警告


■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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