「共に創る」精神が資源循環を推し進める

(2024.10.7. 公開)

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サステナビリティ領域のグローバルリーダーが集い、持続可能性について議論を行う「サステナブル・ブランド国際会議2024」が2月21~22日、東京国際フォーラムで開催された。繊維やフィルムなどを生産する東レ(東京・中央区)とインフラやプラント建設などを行う日揮ホールディングス(横浜市)の資源循環におけるパートナーシップ共創事例を紹介した。共創パートナーの獲得には、「自社の思い」を発信することが重要だ。

「サステナブル・ブランド国際会議」は、サステナビリティをテーマとしたグローバルコミュニティだ。日本では、展示会などの企画運営を行う博展が米総合メディアのSLM社と提携して2017年から毎年同会議を開催し、今回で8回目を迎えた。同会議1日目、資源循環に向けたパートナーシップ共創について議論がなされた。

東レの環境ソリューション室・勅使川原ゆりこ室長と、日揮ホールディングスのサステナビリティ協創ユニット資源循環・バイオ事業化グループ・森田光雄グループリーダーが登壇した。ファシリテーターは、企業や自治体に対しサステナブル・ブランディング支援を行うYUIDEAの内藤真未が務めた。


■新しい製品に生まれ変わるのは僅か25%

プラスチックはペットボトルだけではなく、衣類や電気製品、容器包装などに使用されており、私たちの生活に欠かせない素材として重宝されてきた。

しかし、近年では、プラスチックの多くが有限な化石燃料から生成され、生成時・廃棄時に大量のCO2を排出することや、海洋に流れ着いたプラスチック片がおよそ700種もの生物に被害をもたらしていること(WWF調べ)などが浮き彫りになり、使い捨てではない、プラスチック循環の仕組み構築が急務となっている。

プラスチックのリサイクルには、廃プラスチックを粉砕し原料として再生する「マテリアルリサイクル」、化学的に分解し石油やガスとして再利用する「ケミカルリサイクル」、焼却しエネルギーとして利用する「サーマルリサイクル」の3つがある。

プラスチック循環利用協会の「2022年プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況」によると、新しい製品に再生されている割合は、国内の年間廃棄プラスチックのうち、たったの25%程度に過ぎないという。

出典:一般社団法人プラスチック循環利用協会https://www.pwmi.or.jp/column/column-2358/

このような背景から、東レや日揮ホールディングスは、「再製品化」を中心とした資源循環の仕組みづくりに取り組んできた。

「素材には、社会を変える力がある」。東レは同スローガンを掲げ、1990年代から繊維マテリアルリサイクルを推進してきた。主に、廃棄プラスチックを粉砕・ペレット化し、再度製品に加工する手法をとる。ペレット化できないナイロン製品などは、ケミカルリサイクルでプラスチックの最小単位の状態に戻し、原料として使用する。また、同社は廃棄プラスチック燃焼時に排出されるCO2も独自の技術で回収し、原料生成時に使用するなど、廃棄物を最大限に活用する仕組みを構築した。

一方、日揮ホールディングスは、技術を生み出した化学メーカーや商社と連携し、国内外へのライセンス事業を展開している強みを活かす。廃棄物既存の色を取り除いたバージンプラスチック相当のきれいなペレットを生成したり、不純物を含む混合プラスチックでも処理を可能にするなど、高度な技術力で再資源化を推し進めてきた。

■資源循環の障壁は「廃棄物の回収」

「廃棄物の回収が非常に難しい。その仕組み構築には、外部パートナーの協力が必須だ」

東レの勅使川原室長と日揮ホールディングスの森田グループリーダーは口を揃えてこう語る。廃棄物の安定回収やそれに伴うパートナーシップの構築は度々企業の障壁となり、リサイクル事業が進まない要因に挙げられてきた。

消費者や回収者にリサイクル活動に協力してもらう体制をつくるため、東レはブランド化に取り組んだ。回収ペットボトルを繊維原料として再利用する繊維事業ブランド「&+」(アンドプラス)だ。

2021年の東京マラソンでは、ランナーに提供した給水のペットボトルを、「&+」でリサイクル繊維に再生し、2024年大会のボランティアウェアとして生まれ変わらせる「おかえりなさいプロジェクト」を実施した。「協力ありがとう」という短い動画を作成し、消費者の自分ごと化や回収ストーリーへの共感を促した。


動画を通じてペットボトルの「回収ストーリー」を消費者に発信(c)2022 TORAY INDUSTRIES, INC. https://www.andplus.toray/contents/tokyomarathon2024/

同イベントの効果や大手飲料メーカーのサントリーの協力などもあり、2020年1月から2023年1月までの3年間で回収した廃棄ペットボトルは176,206万本に上った。化石燃料から繊維原料を生成するのに比べ、9万トンのCO2削減を実現したという。

繊維原料に、特殊な添加剤を投入することで、東レのリサイクル繊維を使用しているかどうかを見分けられる技術も開発し、トレーサビリティも可能にした。

■日本初、廃食用油を用いた国産SAFの大規模生産へ

日揮ホールディングスは、外部パートナーと連携し、その他廃棄物の回収・再資源化にも取り組み始めた。日本政府は2030年度までに航空機燃料の10%をSAFにする目標を掲げている。

同社は、大手石油メーカーのコスモ石油とバイオディーゼル燃料を製造・販売するレボインターナショナルとともに、廃食用油から持続可能な航空燃料SAFを生産する合同会社「SAFFAIRE SKY ENERGY」を2022年11月に立ち上げた。
SAFは、バイオマスや廃食用油などを原材料に生成される航空燃料で、化石燃料を原料にした従来の航空燃料に比べて約80%のCO2排出を削減できることから、近年注目が集まっている。


一方で、SAFの製造には大量の廃食用油が必要となる。この課題を解決するため、同プロジェクトに賛同する企業や自治体、家庭や店舗など全員参加型で、原料となる廃食用油を集める「Fry to Fly Project」を開始した。2024年4月時点で、日清食品やくら寿司、ANAなど102の団体が参加済みだという。2025年に稼働予定で、それが実現すれば日本初の国産SAF の大規模生産が実現する。

■「自社の思い」の発信が共創を生み出す

連携パートナーを獲得するため、2社が取り組むのは「自社の思い」の発信だ。

東レは、YUIDEAのサポートのもと、資源循環の連携パートナーを募るための特設サイトを運営している。自社の強みである多様なポリマーを使いこなす技術を図で説明し、その他企業との共創事例を記事化し紹介する。また、「よくあるご質問」では、提供してほしい素材の純度条件や東レが必要としている技術などを公開し、どのような共創を求めているかを明確に伝える。

この配信をきっかけに、フィルム製造会社からフィルムを裁断した切れ端を廃棄処分してもらえないかといった依頼やタイからの技術紹介など、様々な形で声をかけてもらう機会が増えたという。

日揮ホールディングスも自社独自のオウンドメディア「サステナビリティハブ」で、SDGsを実現するために必要なソリューションや技術事例をLEARN(学び)・IDEA(気づき)・ACTION(取り組み)の3つのセクションに分けて紹介し、自社の発信だけでなく、その他企業に新たな技術やサービス創出のきっかけも提供している。公式YouTubeも始めたという。

■「リサイクル市場を盛り上げられるか」がカギに

「リサイクル事業はやはりコストがかかり、『リサイクルされた製品』というだけでは訴求価値が低いのが現状だ。リサイクルにプラスした価値提供を行う企業努力はもちろん必要だが、資源循環における共創の輪をたくさんつくり、市場での認知度を向上させることが重要だ」(勅使河原氏)

「例えば、高い製品であっても、環境や社会に配慮した製品だから買おうといったように、企業だけでなく、消費者の協力のもと、リサイクル活動の機運を高めていく必要がある。そのために、企業は連携して、リサイクル活動によるポイントの付与や環境に配慮した製品を購入することで少しでも社会に良いことをしていると思ってもらう仕組みづくりに取り組んでいかなくてはならない」(森田氏)

同セッションを締めくくりとして「資源循環の環境価値と経済価値を両立させるには何が必要か」と問われた両氏は、それぞれ上記のように回答した。

消費者の興味・関心を喚起し、資源回収やリサイクル商品の購入といった能動的な行動変容につなげるために、いかに「リサイクルの価値」を周知し、動機づけしていくかがキーポイントとなりそうだ。


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