水を汚さない、無駄にしない 「水問題」に取り組むインテリアブランド

(2024.10.7. 公開)

#水問題#インテリア業界 #デジタルプリント #繊維業界 #廃水 #欧州グリーン・ディール #工業廃水#エコプリント #サーキュラーエコノミー #気候変動 #資源循環 #地域との共生

アパレル業界と並び、水の消費や汚染が激しいと言われるインテリア業界。カーテンやソファに布地が使用されますが、1キロの繊維を染めるのに通常100~150リットルの水が必要と言われています。また、染色やその仕上げでも大量の汚水が発生します。国連は、現在の消費と生産パターンが変わらなければ2030年までに世界の水供給が40%不足すると予測。今後より深刻になるとされる水問題に対し真摯に取り組む企業が、インテリア業界にも増えています。


水を一切使わないデジタルプリント

大量の水消費と廃水が当たり前とされてきた繊維業界で広まりつつあるのがデジタルプリントです。
創業時から「環境に負荷をかけない生産方法をできることから一歩ずつ」という志のもと、水を一切使わずに全製品を生産しているのが、カーテンやクッションなどを扱うインテリアファブリックのオンラインショップ「トレファトレファ」です。


幅広い色とデザインのトレファトレファの製品

600点以上ものファブリックアイテムをラインアップするトレファトレファは、すべての製品をデジタルプリントで生産。世界中のデザイナーを起用しつつ、生産はすべて日本の工場で行っています。

従来の染色は、版を使って布地に図柄をプリントし、色を定着されるための処理を行い、さらに余分な染料を洗い流すという行程を繰り返すため、大量の水を使うとともに、汚水も発生させていました。
しかし、トレファトレファが採用しているデジタルプリントでは、版を作成せずに印刷機から直接布地にデザインをプリントするため、水の使用量はゼロ。
水を使わないだけでなく、染色に関する工程を大幅にカットするため納期を短縮ことができます。注文を受けるたびに1点ずつプリントするので生地の無駄も出しません。

繊細なデザインやカラーをデジタルプリントで再現するには、プリント機器を使いこなすための職人のセンスと技術が必要とのことですが、デジタルプリントにより汚水対策や節水ができるだけでなく、生産工程の短さからCO2が削減できるというメリットがあります。


積極的にエコプリントを採用

環境先進地域であるヨーロッパでは、日本に先んじて工業廃水の規制が強化されています。2050年までの気候中立を目指すと欧州委員会が掲げる「欧州グリーン・ディール」でも水質汚染は取り上げられており、様々な規制が設定されています。
Morris & Co.(モリス アンド コー)やSanderson(サンダーソン)を傘下にもつ英国のテキスタイル・壁紙企業Sanderson design group(サンダーソンデザイングループ)では、これまで難しいとされていた綿やウールなどの天然素材に対して、節水・汚水抑制タイプの染色方法を採用しています。


Sanderson design groupの製品はすべて英国の自社工場で生産

このプリント手法では、従来の方法に比べて水の使用量が1メートル当たり30~80リットルと半減、染料も半量で印刷できるため汚水の量も半分以下に。
ポリエステル生地を使用する場合は、環境にやさしい顔料を選択することで、水を含めた環境汚染への対策を行っています。

登場当初は品質に疑問をもたれていたデジタルプリントですが、この10年で改良が進み、いまでは各国の大手インテリア企業が積極的にデジタルプリントやエコプリントを採用しています。


“革”の廃水を“川”へ帰す循環を

ファッションのみならずインテリアにおいても多用される革も、製造に大量の水を使用します。ウォーターフットプリントネットワークの計算によると、1キロの革をつくるのに必要な水は17,000リットル。「なめし」でも多量の化学薬品が使用さるため、工場からの廃水が地域の土地や環境に影響を与えることも懸念されています。

そんな中、廃水処理に薬品を一切使用せず、微生物などの力をもちいた自然にやさしい循環システムを展開しているのが栃木レザーです。


栃木レザーの大規模な排水設備を用い、製造工程で使用した水をろ過
(画像引用元:栃木レザー公式サイト)

「地域との共生」を掲げる栃木レザーでは、敷地内に流れる巴波川の水質を守るべく、試行錯誤を重ね、大規模な排水設備を設計。生産過程で排出される汚水を、バクテリアや微生物を用いて9区間で段階的に中和。浄化された水の3分の1は再利用し、残りを革に戻すというサーキュラーエコノミーを実践しています。


HANUI LEATHERプロジェクトでの栃木レザーのヌメ革を使ったランプシェード(画像引用元プレスリリース)


私たちの暮らしに欠かせない水

節水や汚水の発生を抑えることは、川や海を守ることにつながり、気候変動に対するアクションにもつながります。
水問題への取り組みは大きな課題の中の一部へのアプローチかもしません。
しかし、できることから取り組み、知恵を出し、新たな技術のための試行錯誤を重ねることが、水を守り、暮らしを守ることにつながっていくはずです。


■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

お問い合わせはこちら