身近なことから考えたい合理的配慮

(2024.9.13. 公開)

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2024年4月1日から今までは行政機関のみが義務化されていた、合理的配慮の提供が事業者にも義務化された「改正障害者差別解消法」が施行されたことは以前にもこちらでご紹介をさせていただきました。
「合理的配慮の提供」の提供が義務化企業が取り組むべきこととは?事例もご紹介

今回は、企業で働くすべての皆さんにも関係する、この「改正障害者差別解消法」について、具体的な事例なども交えて考えをご一緒に深めていければと思います。


記憶に新しい車椅子ユーザーの映画観覧問題

最近、車椅子ユーザーのインフルエンサーが希望した映画を観覧した後に、映画館の従業員が不適切な発言をしたことをX(旧Twitter)に投稿して話題になったことを覚えている方も多いのではないでしょうか?

上映後、従業員に「この劇場はご覧の通り段差があって危ない。手伝えるスタッフも時間があるわけではない。今後はこの劇場以外で見てもらえると、お互いいい気分でいられると思う」と言われたと、Xに投稿したことがきっかけで議論が巻き起こりました。
映画館側はすぐに事実確認を行い、実際に投稿された内容のやりとりがあったことを認め、謝罪文と今後の対応を公表しました。

一方で、なぜここまで話題になったかというと、この投稿に対して批判も多くあがったからです。例えば「特例対応を現場に強要するのはハラスメントでしかない」「何でも『優遇』されて当たり前の考えは捨てろ」などなど。障がい者側が「対応」を求めていることに対して「傲慢」であるような批判も相次ぎました。


皆さんは率直にどのように感じますか?
実は、今回の改正法でも合理的配慮の例として「物理的環境」「意思疎通」「ルール・慣行の柔軟な変更」を挙げていますが、明確な基準はなく、企業側に「負担が過重」な場合は除かれています。企業側が、具体的場面や状況に応じての総合的・客観的に判断し、対応することが必要である、難しい問題です。


「ただ、コーヒーをゆっくり飲みたいだけ」という障がい者の気持ち

YUIDEAでは先日、アクセシビリティのあり方を様々な角度から考え、理解を深めるため、日本補助犬情報センター(補助犬ユーザーへの理解を社会に普及する活動を行う団体)の皆さんをゲストに招き「アクセシビリティの未来を考えるイブニング交流会」を実施しました。
同団体の橋爪智子さん、聴導犬ユーザーの松本さん、そして聴導犬のチャンプくんが、わかりやすく、活動内容や補助犬ユーザーと補助犬を取り巻く社会の現状、そして当事者視点での声を聞かせてくださいました。


補助犬には、盲導犬、聴導犬、介助犬の3種があり、様々な障がいを持つ方たちの心強い味方であり、家族でもあります。しかし、実は飲食店や医療機関なども含めて、同伴を断られるケースがとても多い事実があるそうです。盲導犬同伴の視覚障がい者だけでも45%の人が、1年間で受け入れを拒否された経験を持っているという調査結果もあります。しかし、この数値はコロナ明け前の2021年の数値のため、橋爪さん曰く通常は6割近い人が受け入れ拒否の経験をしていると教えてくれました。

実は、補助犬を障がい者の社会参加のための選択肢のひとつとして捉え、その同伴によって社会参加を保障する法律「身体障がい者補助犬法」は2002年に施行されています。ただ、こちらは罰則がないため、やはりなかなか社会には浸透していません。


「吠えるんじゃないか」「噛み付くのではないか」「お店の中で排泄してしまうのではないか」「他のお客さんへ迷惑になるのではないか」という補助犬への理解不足や不安が社会に根強くあることもあり、特に飲食店での受け入れは進んでいない現実があります。
しかし、例えば「排泄管理」は、小さい頃からの訓練で指示を出した時に指示を出したところにできます。障がいのある補助犬ユーザーの方は、全部しっかり管理して補助犬のお世話をする、そういった覚悟と責任を持って生活をしています。
聴導犬のチャンプくんも、日々の生活でのサポートの様子をデモンストレーションしてくれました。


「犬が怖い人、アレルギーがある人、そういったお客様がいらっしゃればその方が出るまで待ちますし、遠くの席でも全く問題ない。とにかく、普通のことを普通にして生活をしていきたい」そんな思いもお話ししてくれました。
さて、皆さんはどのように感じますか。

障がいを持つ方には、日々の生活のサポートをすることに対して前述の映画館の騒動のように「特別扱いはずるい」などの言葉は投げかけられる場合が、少なくない割合であるそうです。
でも、本当にそうでしょうか?私たちが人として当たり前にしていることを、当たり前にしたいと思う人をサポートすることは「特別扱い」なのでしょうか。

日々の身近な生活のシーンで、社会のバリアを感じて「普通」にすることが難しい人がサポートを必要としていた場合には、ぜひ対話を心がけてほしいと思います。わがままを通したいわけでも、特別扱いをしてほしいわけでもない、一緒に対話をしてお互いが譲歩したり、寄り添いながらできるサポートを、その時々に考えていけば良いのではないでしょうか。これからはそんな「合理的配慮」が社会に根付くことを願っています。

また、企業は、障がいを持つ方が大切な企業活動を支えるステークホルダーであるということも忘れてはいけません。
今回のイベントでも、視覚や聴覚に障がいのあるユーザーがアクセスしやすいWebサイトやプラットフォームがあると、一消費者としてロイヤリティが高くなるし購買を後押しする大きなトリガーになるといったお話も出ていました。
お互いのために、企業側ができる範囲や可能性も広いのではないかと感じています。

皆さんもぜひ、「改正障害者差別解消法」の施行をきっかけに、小さなことでも自分ができる配慮、企業としてできる配慮を考えていただけると嬉しいです。それが、本当の意味での「サステナビリティ」の大きな一歩になるかもしれません。

聴導犬ユーザーの松本さんの言葉で印象的だったのが「補助犬ユーザーは、本当に少しだけ、皆さんと同じように美味しいコーヒーを、ただゆっくり飲みたいだけなんです」というものでした。


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