海とのつながりを さまざまな学びを通して考え、探る みなとラボの活動とは

(2024.8.27. 公開)

#教育#地域 #自治体 #学校 #海 #高校生 #気仙沼・大島の未来を探るプロジェクト #復興 #課題解決 #海洋プラスチックごみ #気候変動 #資源循環 #リサイクル


正解のない問い、答えがひとつではない問いへの解をみつけていくためには、対象についてともに学び、深め合い、語り合う「場」が不可欠です。
「海と生きるとは何か」という大きな問いに対し、多様な専門家たちとともに、学校、地域、自治体に寄り添い、海と人とを学びでつなぐプラットフォームとして存在しているのが、みなとラボです。

海とのつながりを学ぶことを通して、海とつながり、海とどう生きるのかを探ること自体が、「教育のあり方」にもつながっていくと、みなとラボ代表の田口康大さんは語ります。参加した人が海を身近に感じ、海とのつながりを取り戻すことを促してくれる、みなとラボの活動について、話を伺いました。

みなとラボ代表の田口康大さん

みなとラボ設立のきっかけは、2011年の東日本大震災だったと田口さんは語ります。当時、圧倒的な力で多くの人の命を奪った海は、「怖い場所」「危険な場所」ととらえられており、「海や自然とどう関わっていくのか」ということは、大学院生として教育哲学の研究をしていた大きな田口さんにとって、大きな問いとなりました。
海について様々な角度から調べていくなかで、暮らしの中にある海とともに生きる知恵や伝統が途絶え始めている現実を目の当たりにした田口さんは、海と人とのつながりを学び、海の魅力を知り、海とどう生きるのかについて対話する場をつくる必要性を感じ、2015年にみなとラボを立ち上げました。



気仙沼市大島の高校生たちが考えカタチにした「海とともに生きる」こと


設立時から現在までにみなとラボが行った「海と人とを学びでつなぐ」ためのプログラムは、70以上にのぼります。
2017年に行われた、気仙沼・大島の未来を探るプロジェクトでは、日本で唯一の島マガジン『島へ。』の特集企画を宮城県気仙沼市大島の高校生主体となり、取材、執筆、編集までを行いました。


大島の何を残したいかについて議論する地元の高校生たち

本土と島をつなぐ橋が2018年に海の上に建設されることが決まっていた大島。特集をつくるにあたり、橋が架かることによる影響や、本土と文化が混ざり合う中で大島の何を残していきたいかなどについて、島に住む高校生を中心に 6人の高校生たちが専門家とともに語り合い、各自取材テーマを決め、記事づくりに取り組みました。

雑誌の完成とともに行った報告会で、取り上げた島の風景や人々の営みを紹介し、想いや感じたことを高校生たちが自分の言葉で熱く語ったことにより、報告会に参加していた島の人々も本音で語りだし、会は島の今とこれからについて島民が本気で語り合う場となりました。


「島へ。」の大島特集より

気仙沼市は、震災後の復旧・復興のキャッチフレーズとして「海を生きる」という地域の人々がもつアイデンティティを掲げています。みなとラボでは、気仙沼の自治体や学校とともに、地域の人々が海とともに生き、豊かな未来を描き、持続可能なまちづくりと人づくりに向かうための議論やプログラムを現在も続けているそうです。



魅力を再発見し、つながりを考えることを促す地域版「おさんぽBINGO®️」


海の課題解決を図るとともに、海とともに生きる未来を形作っていく「海洋環境デザイン教育プロジェクト」の一環として、これまで小豆島、気仙沼、与論島で行われた『自分のまちの「おさんぽBINGO®️」をつくろうプロジェクト』 もユニークなプログラムです。
「おさんぽ」と「BINGO」を掛け合わせて作られた移動式ビンゴゲーム。このプロジェクトは、「おさんぽBINGO®️」を作った広告制作会社サン・アドと共同で実施し、子供たちと一緒に地域版を作るものです。

『自分のまちの「おさんぽBINGO®️」をつくろうプロジェクト』は、サン・アドとの協同プロジェクトとして実施

与論島のプロジェクトでは小学5年生たちが参加し、海に囲まれた与論島ならではの風景や植物、日常の一コマを探しに、お散歩に出かけました。みんなで持ち寄ったものの中から、26の項目を厳選し、説明のためのイラストを描き、それらを説明するガイドブックを制作。与論島を訪れた多くの人に手に取ってもらうためのポスターも自分たちで作り上げました。

地元の人にとっても旅行者にとっても、歩きながら島の“らしさ”を知ることができるおさんぽBINGO。制作プロジェクトに参加することにより、子供たちが地域の文化や産業、暮らしをより深く知り、地域の魅力を再発見する。そして、その魅力を支える自然の豊かさを感じ、大事にしたいという意識をもち、島の暮らしと海との関りを改めて探っていってもらえれば、と田口さんは語ります。また、おさんぽBINGOは、遊びながら歩くことで島のどこに何があるかを確認することができるという防災的な一面ももっているそうです。


島で発見したものを貼りだす生徒たち

みなとラボの活動には、自治体や教育委員会とともにプログラムのモデルづくりをしていくことも含まれます。海に関する学びのプログラムを行いたくても、「予算やアイデアが不足していてプログラム化できない」「実施の方法がわからない」といった地域の課題に対し、みなとラボが一緒にプログラムを考え、実践することで事例をつくり、学びをより広く地域や社会に開いていくことを目指しているとのことでした。



海について知るためのワンストップの場「オポポ」


みなとラボでは、海についての網羅的な情報を扱うサイト「オポポ(オーシャン・ポータル・サイト)」の運営も行っています。海は本来、「生物」「物理」「科学」と分けられるものではありません。オポポでは、海についての科学的な情報はもちろん、海の文化や人との関りについても取り扱っています。
教育者や企業は海のための学習プログラムづくりやワークショップのアイデア探しに、子供たちは海について知るためや日常のコミュニケーションツールとして、それぞれの目的に合わせて楽しめるようになっています。


オポポのトップページ。「オポポ部」という、メンバーとともに海とのつながりを考え、海の魅力を伝えていく課外活動も行っている。

オポポのトップページにあるイラストのアイコンをクリックすると、#海洋資源について #海を表現する、といった文字が表れます。オポポで自分なりの学習方法を見つけていってほしいため、情報をきれいに項目立てするのではなく、アイコンをクリックすると中身がわかるという、まるで海の複雑性を感じさせるような、探究心をくすぐるつくりにしているそうです。



学びには「デザイン」も大切


教育と並ぶみなとラボの柱ともいえるものが、デザインです。教育の場で置き去りにされがちだったデザインやビジュアライズにこだわることで、より伝わりやすくすること、学びへの意識変容をもたらすことを目指しています。

「自分のまちの「おさんぽBINGO」をつくろうプロジェクト」は、優れたクリエイティブを表彰する日本最大級のアワードであるACC賞コミュニケーション部門でブロンズを受賞しています。デザイナーや写真家たちともコラボレーションし、2024年3月には、海とつながるエキシビション「オーシャン ラーニング」を開催しました。
エキシビションでは、プロダクトデザイナー北川大輔氏による海洋プラスチックごみから制作したオリジナルフレーム「umi frame」の展示や10名の写真家による海の写真のポスターとポストカードの紹介なども行いました。
鑑賞する側だけでなく、クリエイターたちからも、作品として海を扱うことで、自然や都市への意識や向き合い方が変わったという声が出ていたそうです。


漁網由来の海洋プラスチックを再利用したumi frame


ここ3、4年で学校、自治体、企業などからの問い合わせが増え、その内容も変わってきていると田口さんは語ります。
「気候変動」「海洋ごみ」などが広く知られるようになり、沿岸部だけでなく内陸の学校からも「海洋教育としてどんなことができるかについて一緒に考えていきたい」という声が増えているそうです。
「たとえば海洋ごみなら、それがどのように回収され、リサイクルされ、経済活動にどのように影響するのか、どうしたら資源循環になるのか…といった、生活しているだけでは見えにくい海とのつながりを探っていくことや、取り組みとしてハードルが高そうなことを、ワークショップやオポポの部活動で取り扱い、地域の方や企業と一緒に学び、考え、発信していきたい」と田口さんは話します。

身近なようでありながら、つながり方も含めて、知らないことだらけの「海」。
海に囲まれた日本に暮らす私たちは、海の影響を避けることはできません。海の性質や恵みを知ることは、海とともに生きることにとどまらず、自然環境や自分の内面にまで思考の広がりをもたらしてくれるでしょう。
海と人とを学びつなげる場となるみなとラボの活動は、自然環境が大きく変化している今を生きる私たちに、海を通して、自然や自分自身について深く考え、行動するきっかけを与えてくれています。


■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士



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