【第3回Beyondカンファレンス2024】「継続できる」社会課題解決プラットフォーム始動へ

(2024.7.12. 公開)

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ソニーグループ株式会社(東京・港/以下、ソニー)は2024年4月、多様なパートナーと協同して社会課題の解決に寄与する事業の創出をめざす、非営利型の一般社団法人Arc & Beyond(東京・港/アークビヨンド)を立ち上げた。きっかけは米国の社会課題である「孤立した若者」を起点としたビジネス創出だった。事業継続の指標に経済的価値だけではなく、「社会的価値」を取り入れる。

and Beyond カンパニーは5月31日-6月1日、異業種がつどい、社会課題解決を目指し協働する「第3回Beyondカンファレンス2024」を開催した。

同カンファレンスの2日目、「『赤字事業はやらない』は正しいのか?企業が社会課題解決に関わる新しい方法を考える」をテーマに、Arc & Beyondの共同創業者である、代表理事の石川洋人氏(ソニーグループ株式会社 / Takeoff Point LLC.)と、業務執行理事の萩原丈博氏(ソニーグループ株式会社)が登壇した。同セッションには、企業、NPO、自治体の方だけでなく、多くの学生が参加した。

■目的のベクトルを社会課題に広げ、売上拡大へ


(“これから先の企業経営に必要な機能”について語る石川洋人氏:左奥 提供:and Beyond カンパニー)

ソニーが設立したArc & Beyondは、社会課題解決につながる活動を持続可能な資金・人材調達の仕組みを構築することで、継続的に推進・支援すること目的とする。

当時、米国に位置するソニーの子会社Takeoff Pointの社長を務める石川氏と、プログラミングツール「MESH」を開発したエンジニアである萩原氏が旗振り役となって設立した。

設立の大きなきっかけとなったのは、米国の孤立した若者「Disconnected Youth」の存在を起点としたビジネス創出、いわゆるアウトサイド・イン・アプローチの成功体験だった。

国際的な研究者支援団体である社会科学研究会議(SSRC)の報告書によると、「Disconnected Youth」は16~24歳の就労も就学もしていない若者を指す。経済的な学習機会の損失や生活環境の障害などが主な原因だ。2021年の16~24歳の若者の就学率は59.3%低下し、ネイティブアメリカンの若者の4人に1人は、働いておらず学校にも通っていないという。

当時の石川氏のミッションは、萩原氏が開発した「MESH」の米国での売上拡大だった。「MESH」は、ボタンやセンサー、LEDなどが組み込まれた消しゴムくらいの大きさのIoTブロックをBluetoothで通信させ、専用アプリでプログラムすることで、IoT的な仕組みを手軽につくり、プログラミングの考え方を学べるツールだ。

しかし、そもそも子どもたちが就学できない社会課題があることに加え、海外には言語別・レベル別のプログラミング教材がすでに多数あり、「MESH」単体を売ることには限界があった。そこで、石川氏たちは、目的を「MESH」の売上拡大ではなく、「Disconnected Youth」の数を減らすことにベクトルを移した。

具体的には、子どもたちが学びに楽しさを見いだせるような「MESH」を用いた授業プログラムを発案し、日本でいう市民センターや児童館などの施設に集まる子どもたちを対象にボランティアとして無料で授業を行った。

子どもたちが自ら「MESH」を使って作品をつくり、参加者に発表するといった自分で考える体験型授業は、子どもたちから「楽しい」「面白い」と評判を集め、半年後には公立学校や定時制の学校などからも授業を行ってほしいと依頼が集まった。少年院の更正プログラムからも声がかかったという。

ボランティアでは手が回らず、同授業を進行するインストラクターの育成を始め、現地の教師、企業、学生の3者と協同して教材も製作した。これに伴い、当初のミッションであった「MESH」の売上も拡大していった。

■「社会的価値」が事業継続のカギに


「MESH」の売上が上がった一方で、学校というマーケット市場は狭く限りがあるため、事業継続に懸念が残っていた。実際に、子どもたちが米国の行政サービスに簡単にアクセスできるようにと導入されたソニーのブロックチェーン・ベースの既存システム「Oppro」は赤字となり、会社から撤退を命じられ、継続を断念した経緯があった。

「社会課題解決に寄与する事業であっても、十分な経済的利益を生み出せず、継続が困難になるケースが多くある。しかし、社会課題を解決することで得られる将来的な社会的価値を無視することは正しいのか」(石川氏)

このような観点から、Arc & Beyondは、「利益」と「社会貢献」どちらかではなく両方を追い求めるための新しい会社の形として設立した。そして、事業価値の評価には「社会的価値」を追加し、経済的価値と社会的価値を足し合せた価値と事業コストがイーブンになることを事業継続の指標とする方針を示した。


(石川洋人氏から持続可能な資金・人材調達の仕組みが紹介された)

持続可能な資金・人材調達の仕組みも考えた。

資金の調達については、2023年4月に設立した神山まるごと高等専門学校(徳島県神山町)の「学費無償化制度」の仕組みを模倣した。

同制度は、協賛する企業が1社10億円を非営利型法人である同学校の奨学金基金に拠出。投資会社に資金運用を委託し、運用益を同学校へ寄付するといった仕組みだ。企業は寄付ではなく、資金を預けるという体を取れるため、業績に影響が出ないという利点がある。

Arc & Beyondでは、ファンドパートナーとして資金を預けてもらうことを想定しており、運用益が出なかった場合も考え、協同組合型の資金調達手段も検討していくという。一緒に活動を行うソリューションパートナーも同時に募り、様々な社会課題とのマッチングも行っていく予定だ。

石川氏は、「1社では実現できない、だが挑戦したいといった様々なパートナーの出島として、社会課題解決に向けた事業を応援・支援していきたい」と意気込みを語った。

その後のワークショップでは、年齢、立場関係なく集まったグループで各々が出し合った社会課題の解決方法について活発な議論がなされた。Arc & Beyondがめざす「共創」の始まりを感じさせる熱量のある場となった。

■執筆:Tsugumi SHIMOMURA
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