【第3回Beyondカンファレンス2024】企業の生物多様性の保全は「量」から「質」のフェーズへ


(2024.7.8. 公開)

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and Beyond カンパニーは5月31日-6月1日、異業種がつどい、社会課題解決を目指して協働する「第3回Beyondカンファレンス2024」をHANEDA INNOVATION CITYで開催した。WWFは「過去50年の間に生物個体群の約70%が減少した」と発表した。長期的視点と学術的分析を踏まえた「質」が担保された自然保全が重要になる。

and Beyond カンパニーは、起業家を支援し、コミュニティづくりを推進するエティック(東京・渋谷)が中心となって2018年に発足したバーチャルカンパニーだ。意志ある挑戦が溢れる社会を目指し、組織を越えて応援しあえる環境づくりに取り組む。現在、日立製作所やロート製薬などの企業やNPO・NGO、行政、社会課題に取り組む個人を合わせた17団体(2024年5月9日時点)が参画している。

今回で3回目を迎えたビヨンドカンファレンスでは、「握手から、はじめよう。」をテーマにトークセッションや参加型ワークショップが多数開催された。参加者は700人を超えた。


■生物多様性損失の懸念広がる

同カンファレンスのセッションの一つとして、「第一回PLANET KEEPERSギャザリング〜地球環境の再生・ネイチャーポジティブの担い手100人会議~」が開催された。WWFジャパンの内藤由理氏のほか、東京大学先端科学技術研究センターの森章教授、エーゼログループの松崎光弘CROが登壇した。


(自然と生物多様性の健全性を測る指標「生きている地球指数(LPI)」 出典:WWF)

「1970年から50年間の間で約70%の生物の個体群が減少した」

WWFの内藤由理氏は生物多様性の現状について、こう説明した。これは、WWFが「生きている地球レポート2022」で報告したもので、ロンドン動物園協会とともに、地球全体の脊椎動物の個体群数を調査した結果、明らかになった。

他方、世界経済フォーラムは、世界のGDPの半分以上が自然資本に依存していることを報告している。

自然資本とは、植物、動物、空気、水などの天然資源を指す。これら天然資源に密接に関わる林業・農業・漁業はもちろん、原料を加工・販売するサプライヤーなどを合わせると、企業のかなりの割合が自然資本に大きく依存しており、経済活動にも大きな影響を与えているという。

世界経済フォーラムの「第18回グローバルリスク報告書2023」では、「生物多様性の損失」が今後10年の深刻なグローバルリスクの上位4位に入った。


■「見せかけ」の自然保全に終止符を

(PLANET KEEPERSギャザリングでの森章教授 提供:and Beyond カンパニー)

近年、このような背景から、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる「ネイチャーポジティブ」が国際的な約束として掲げられてきた。

最近では、生物多様性へのインパクトのプラスへの転換にコミットする金融機関の宣言「生物多様性のためのファイナンス協定」に177社が署名(2024年6月時点)し、生物多様性版の情報開示のツールであるTNFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づいて情報開示を行うと宣言した企業が321社(2024年1月時点)に上るなど、企業における生物多様性の保全への取り組みも活発になってきた。

一方で、森教授は「長期的な自然環境モニタリングができている企業はごくわずかだ」と懸念を示す。

森章教授は、統計モデルや数理計算などを用いて、生物多様性が支える機能性、人間社会への公益性を理論的に理解するための研究を行う。

これまでの研究では、炭素濃度と生物多様性の保全にトレードオフの関係性があることや生物多様性の損失が生き物から人へのウイルス感染率を上昇させること、熱帯雨林の分断が鳥による種子運搬を妨げ森林破壊につながることなどが明らかになったという。

「私たちが知床の原生林を200年かけて再生しようとしているように、生態系の保全には、時間とコストがかかる。そのため、『未然に防ぐ』という網羅的な自然環境モニタリングの仕組みが重要だ」(森教授)

欧州のホームページでは、生物多様性の回復を防災効果、減災効果を分析した結果で掲載していたり、仏アクサは、フランス自然環境保護協会などとともに、長期的なモニタリングによる森林再生とその本プログラムを通じて開発された実践を欧州レベルで民間や公的な林業部門に情報共有していく施策を進めているという。

森教授は、「今後、企業に求められるのは、自然保全活動をただ行う・開示するだけではなく、長期的視点と学術的分析を踏まえた『質』を重視した自然保全となるだろう」と語った。

その後のピッチでは、ネイチャーポジティブを起点にした活動・事業を行う実践者23人による活動内容の紹介が行われた。

回収した海洋ごみの位置や時間の情報をもとに海洋ごみMAPを作成する、NPOのクリーンオーシャンアンサンブル(香川県小豆島町)や森林伐採後の再造林率100%を維持してきた田島山業(大分県日田市)、ドローンなどを用いて生物多様性の計測・評価サービスを提供するミドリクNbS(さいたま市)など、紹介された活動は多岐にわたった。

新たな社会貢献活動を模索している参加者や、生物多様性保全のトレンドを知りたいといった参加者からは様々な質問や意見が集まり、ネイチャーポジティブに向け活発な議論がなされた。

■執筆:Tsugumi SHIMOMURA
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