Q&Iで、もっと社会が補助犬に「ウェルカム!」になるアイデアを

(2024.6.27. 公開)


#Q&I #補助犬 #インバウンド #ビヨンドカンファレンス #社会課題 #アイデア #身体障碍者補助犬法 #アクセシビリティ


社会にはたくさんの課題があるものの、それらを解こうとする人はまだ多くはありません。
その要因のひとつに“Q&A”という構造、つまり、問いにはただひとつの「正解」があり、それ以外は不正解とする考え方があるのではないでしょうか。

「答えよりアイデア」をモットーに、問いに対してみんなでアイデアを出し合う”Q&I”(Question & Idea)は、多様なコミュニケーション創造をサポートするプラットフォームです。
そもそも答えがあるのかさえもわからないことが多い社会課題に取り組むにあたり、答えではなく、「まずは自由に、楽しくアイデアを出してみよう」という姿勢を推奨しています。

6月1日に開催された第3回ビヨンドカンファレンスにて行われた”Q&I”の世界観を体験するセッション、『もっと社会が補助犬に「ウェルカム!」になるアイデアを。Q&I』では、「補助犬の啓発」を題材として、参加者が自由に、楽しくアイデアを出し合いました。


正解を求めるよりも、心にグッとくるものを

セッションの登壇者は、白石愛美氏(株式会社Amplify Asia代表取締役)、橋爪智子氏(日本補助犬情報センター 専務理事兼事務局長)、大村哲史氏(株式会社YUIDEASustainability Consulting Group)の3人。
まずは白石氏からQ&Iについての概要説明がありました。

白石愛美氏(写真左)

白石氏「私達は学校教育の中で、問いにはひとつの正解があり、それ以外は不正解だと教わってきました。その構造のもとでは、多くの人が間違いを恐れて立ちすくむことになります。
実際の社会課題の正解は、一つでなかったり、そもそも答えがあるのかわらないことも多いはずです。
Q&Iのコンセプトは、問いに対して正解を求めるのではなく、自由に楽しく、アイデアをどんどん出していこうというもの。そして、問いを出した人が特に「ステキだな」と心に「グッと(Goot)きた」ものを評価基準にすることを提案しています。

組織行動学者のデイビッド・コルブによると、私達の学びの7割は自らの経験からきているそうです。裏を変えれば、他の人からのアドバイスや座学の勉強による学びは3割にしか満たないということ。私たちは自分にしかできない経験をしてきた多様性の当事者。そのような意識をもって参加していただきたい。また、自分がもつ問いには価値がある。そしてすべての誰かの問いに価値がある。問いを間に置いて人が交わること、誰かの問いを知ることは、誰かとつながって自分を知ることにもなる。そういったことを、セッションを通じて体感していただきたいです」。


アイデアのための4つのヒント

誰かの問いを自分視点で見つめたら、アイデアにつながるはず。そして、多様なアイデアが社会に増えたら、グッとも広がり、温かい社会になるはず。
しかし、アイデアを出すには、どうしたいいのでしょうか?

白石氏「“新しいアイデアを考え、創造性を発揮することが自分にとって大事である”と考える人の国別割合は、日本は18%と諸外国に比べ残念ながら低い結果となっています。

“何かを良くするために新しいことを提案したり、その実現に取り組んだりしますか?”という問いに対しても、日本の組織で働く約8割の人が“いいえ”と回答。さらに、“自分の行動で、国や社会を変えられると思いますか?”という問いについては、日本の半数以上の18歳が自分には変化をうながせないと考えているという結果がでています。

これらの結果からも、社会課題に関する問いに対して自らアイデアを出すのは難しいと思っている人が多いことがうかがえますが、アイデアを出すためのヒントはたくさんあります。
Q&Iで紹介している、アイデアのための4つのヒントが白石氏から紹介されました。

・その課題が解決された光景を鮮明に思い浮かべてみる
・なぜその光景は実現したか?手段を考えられるだけ考える
・どの手段が実現可能性が高く、リスクが低く、インパクトが最大かを検証する
・印象的で愛される「名前」までアイデアを落とし込む

これらを念頭に置いたうえで、セッションでは、「飲食店が補助犬にもっとウェルカムになるためのアイデア」について、参加者とともに考えました。


日本に約1000頭、3種類の補助犬

具体的なアイデアを考え始める前に、補助犬とは何か、いまどのような課題を抱えているのかについて、橋爪氏より紹介がありました。
障害がある方の生活をサポートする補助犬は、多くの当事者にとってかけがえのない存在です。補助犬には、盲導犬、聴導犬、介助犬の3種類があり、合計で1000頭ほど日本に存在しています。


・目の見えない人をサポートする盲導犬
補助犬と聞いて最初に思い浮かべるのは、盲導犬ではないでしょうか。盲導犬は、目の見えない人、見えにくい人が街中を安全に歩けるようにサポートします。障害物を避けたり、立ち止まって曲がり角や段差を教えて、白杖と同じような役割を果たします。

・生活の中の音を知らせる聴導犬
音が聞こえない、聞こえにくい人に生活の中の必要な音を知らせるのが聴導犬です。家の中では、玄関のチャイム音、ファックス着信音、赤ちゃんの泣き声などを聞き分けて教え、外では、後ろからくる自転車や車のクラクション、非常ベルの音などを教えます。トイプードルから大型犬までいろんなサイズの犬がおり、聴導犬と書かれた表示をつけています。

・日常生活動作を手助けする介助犬
介助犬は、手や足に障害がある人の日常生活動作をサポートします。物を拾って渡したり、指示したものをもっていったり、着脱衣の介助などを行うほか、歩行介助を行う介助犬もいます。介助犬と書かれた表示をつけています。


法律で認められていても
約半数が入店拒否

障がいのある方々の社会参加を助けてくれる補助犬。法律上は、2002年より身体障碍者補助犬法として店舗等へ同伴する権利を認められていますが、現実としては、盲導犬同伴の視覚障碍者の45%が1年間に飲食店や医療機関などで受け入れを拒否されています。(日本盲導犬協会の22年の調査より)
拒否される理由としては、「ほかのお客様の迷惑になる」「抜け毛や排せつが気になる」「店内に犬が待機できる場所がない」「外国人店員に言葉の問題で補助犬のことを理解してもらえない」といったものがあります。

橋爪智子氏

橋爪氏は語ります。「補助犬は適切なトレーニングを受けているうえ、適正も厳しくみられており、人に吠えたりお店の中で排せつをしないよう教えられています。また、補助犬ユーザーも犬の世話がしっかりできることが条件になっており、世話に対する責任と覚悟を持って生活しています。
犬が苦手な人の隣に、補助犬とそのユーザーに座ってもらうのでは、お互いに気持ちよくありません。隣の席の人に“犬は大丈夫ですか?”とスタッフの方が声をかけ、“大丈夫です”ということだったら通してもらえばよいし、ダメなら別の席に案内してもらえたらよい。大切なのは、対話です。障がい者も、補助犬も、周囲の人も、お互いが気持ちよく過ごす方法を、社会全体で考えられたら嬉しいですよね。もっと補助犬のことを知ってほしいし、補助犬をきっかけに障がいのある方のことも知ってほしい。実は、日本で補助犬と暮らしている障がい者の方は多くはないんです。補助犬を増やしていくためには、社会がもっと補助犬に対してウェルカムな雰囲気になることが大切だと思っています」。


補助犬ウェルカムの光景を思い浮かべる

もっと社会が補助犬にウェルカムになるアイデアについて、4つのアイデアのヒントのうち、「その課題が解決された光景を鮮明に思い浮かべてみる」について、登壇者たちが実際に考えてみました。
大村氏からは「グルメサイトで検索すると、飲食店名とともに、補助犬ウェルカム♪といった表示がある」、橋爪氏からは「サザエさん、ドラえもん、ちびまるこちゃんといったおなじみの漫画やアニメの中で、飲食店に補助犬が座っている風景が描かれている、そういうのが当たり前になっている」といったアイデアが出ました。白石氏からは、「お店で働いている人の理解が少ないのであれば、補助犬理解研修を行う。補助犬が訓練されていることを“そうなんだ”と人々が理解している光景をイメージしてみました」というコメントとともに、アイデアを出す時は、「実現可能性は気にしない」「ロジックは後回し」というアドバイスも追加されました。


会場の参加者には、周りの人と5分程度対話してもらい、出てきたアイデアをシーンとともに発表してもらいました。そのアイデアの例としては、以下のようなものがありました。

・予約の際に大人、子供、盲導犬というように盲導犬も含めて予約ができ、入店の際には“大人2名様、犬1名様です”と呼ばれる
・補助犬を受け入れたことがあるお店の人のポジティブな声を集めてポスターにして、補助犬への誤解を解いていく
・お店の店員さん側も補助犬と一緒に働ける環境が増える
・補助犬の訓練中の犬が短時間だけ手伝う仕組み(プレ補助犬)をつくる


アイデアを見える化し価値をアクティブに

頭に浮かんだアイデアを見える化し、実現していくにはどうしたらいいのでしょうか。
大村氏は「空間のアクセシビリティだけでなく、情報へのアクセシビリティを高めることが有効です。例えば、ウェブアクセシビリティなら、高齢者や障がい者、利用環境に関わらず全ての人がWEBサイトから情報を手に入れられることを目指していく。具体的には、テキストの音声読み上げや、視覚障害なら文字の色やサイズの見やすさ、身体障害なら押しやすくするためのクリック可能な範囲を広くとる、聴覚障害なら動画に字幕をつける、などが考えられます」と語りました。
橋爪氏も「情報がとれずに困っていたり、壁を感じている障がい者はたくさんいます。出かける先に、障がい者用トイレがあるかどうかなどを調べた時に、読み上げ機能があるだけでも楽になる人は多いはずです」と付け加えました。

大村哲史氏(写真右)

「個別の社会課題解決に取り組むNPO法人など、たくさんのソーシャルセクターの方々がいる一方で、企業にもできることがあるのではないでしょうか。 YUIDEAは、世の中に埋もれてしまっている価値を可視化し、さらに新しい価値を生み出すこと、"世の中の価値をアクティブに!"することをめざす企業です。身近な‘Q&I’をひとつのきっかけに、皆さん一緒に、世の中にある価値をアクティブにしていきましょう!」という大村氏の力強いメッセージとともに、セッションは締めくくられました。
社会は多様な問いにあふれています。問いに対してアイデアを出すこと。心に響く「グッと」を当たり前にしていくことは、価値をアクティブにしていくことにつながるはずです。



■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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