「合理的配慮の提供」の提供が義務化
企業が取り組むべきこととは?事例もご紹介

(2024.6.7. 公開)

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2024年4月より事業者に義務化された、障害のある人への「合理的配慮の提供」。
合理的配慮とは、障害のある人の社会的なバリアを取り除くため、事業者側の負担が重すぎない範囲で必要な対応をすることを指します。
事業者が取り組むべき内容のヒントや、既に行っている企業の取り組み事例について紹介します。


合理的配慮とは?

「合理的配慮の提供」は、障害のある人もない人も、互いにその人らしさを認め合いながら共に生きる社会の実現を目指すものです。

日常生活の中で提供されている設備やサービスが、障害のない人なら簡単に利用できても、障害のある人にとっては利用が難しく、活動が制限されてしまう場合があります。
こうしたときに求められるのが「合理的配慮」です。
障害のある人から「社会的なバリアを取り除いてほしい」という意思の表明があった場合、その実施に伴う負担が過重でないとき、事業者には社会的なバリアを取り除くための行動が求められます。

ちなみに対象となる障害のある人は、いわゆる障害者手帳を持っている人だけでなく、身体障害、知的障害、発達障害や高次脳機能障害などの精神障害、難病等に起因する障害など、日常生活や社会生活において制限を受けている人すべてとなります。


障害を理由に不当な差別的扱いを行わない

目の見えない人がお店を訪ねた時に「家族と一緒に来店するか、開店すぐに来てください」と入店を制限したり、障害のある人からの問い合わせや呼び掛けにおざなりに対応したり、車いすの方が飲食店を訪ねた時に「車椅子で着席できるスペースはありません」と入店を断ったりするのは、「不当な差別的扱い」に該当します。

「合理的配慮の提供」として、「お求めの商品の売り場まで案内しますね」「椅子を一つ片づけるので、そちらにお座りください」など、事業者は「負担が重すぎない範囲」で対応することが求められます。

引用:内閣府リーフレットより

一方で、「手が不自由なので食べるのを介助してください」という申し出を、サービスの一環として行っていないとして飲食店側が断ることは、合理的配慮の提供義務に反しないと考えられます。
なぜなら、合理的配慮は、事務・事業の目的・内容・機能に照らして
① 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること
② 障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること
③ 事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと
に留意する必要があるからです。

とはいえ、「合理的配慮」の内容は、障害特性やそれぞれの場面・状況に応じて異なることも事実です。事象者は、合理的配慮が求められる場面でスムーズな対応ができるよう、あらかじめ具体例について話し合ったり、対応の基本ルールを決めておくことが重要です。そのうえで、場面ごとに柔軟に対応していく必要があるでしょう。


合理的配慮をしなかったら罰則?!

事業者の提供が義務化された合理的配慮の提供ですが、提供を怠った場合はどうなるのでしょうか?

現状は、合理的配慮の提供義務に事業者が違反しても、罰則はありません。しかし、対象の民間業者が行う事業の担当大臣から報告を求められたり、助言や指導、勧告されたりする場合はあり、その報告を怠ったり、報告内容に虚偽があったりした場合は、罰則の対象となります。
また、SNS等を通じて生活者自身による情報発信が可能となっている今、合理的配慮が提供されていない場合、「あの企業は合理的配慮を提供していない」「障害者を差別的に扱っている」といった声が口コミとして広がり、企業としてのブランドイメージが損なわれることも考えられます。


企業の具体的な取り組み例

ダイバーシティ、インクルージョンの一環で誰もが利用しやすいサービスを既に実践している企業は数多くありますが、4月の法改正のタイミングで、さらにサービスを拡充した企業の取り組みを2つ紹介します。

・日本コカ・コーラ:アプリで誰もが買い物をしやすく
日本コカ・コーラは、この4月に高齢者や障害のある人の利便性向上のため、コカ・コーラ公式アプリ「Coke ON(コークオン)」のアクセシビリティ機能を拡充した新バージョンを公開しました。

高い位置にある自販機のボタンに手を伸ばさなくてもキャッシュレスでドリンクを購入できる「Coke ON Pay」や、スマートフォンのバイブレーション機能と連動し「近くの自販機を探し、接続する」機能といった同社がこれまで「Coke ON」として提供してきたサービスに加え、今回さらに、アプリ内の文字や操作ボタンのサイズを拡大、音声によって自動販売機内の製品を選択できる機能を追加し、高齢者、車いす利用者、障害のある人を含む、多くの人のアクセシビリティを向上しました。


引用:日本コカ·コーラ株式会社 サステナビリティサイトより

・ファミリーマート:支援ツールの提供や対応可能マークの表示
ファミリーマートも、誰もがより安心して店舗を使うことができるための様々な取り組みを行っています。昨年は、聴覚や言語に障害のある方や高齢者の方が来店の際、買いたい商品や要望を指差しで示すことができるコミュニケーション支援ツールを導入しました。


引用:株式会社ファミリーマート プレスリリースより

4月からは、手話や筆談の講習を受講したトライアル店のスタッフの名札に、「手話で挨拶ができる」「筆談ができる」といった、対応可能なスキルがひと目でわかるマークを表示。さらなるダイバーシティ推進とともに、お客さまとのコミュニケーションや商品のご購入時のサポートに繋げることを目指しています。

引用:株式会社ファミリーマート プレスリリースより

職場における合理的配慮

企業が、障害のある人を雇用する場合も配慮が必要です。採用後も、彼らが働きやすい環境を整えることが求められます。

障害者を採用する時の合理的配慮は、視覚障害がある人に対して音声や点字を活用した求人広告を提供するなど、求人広告の段階から行う必要があります。また、採用試験や面接を円滑に行うために、事前にどういった障害特性があるのかを確認し、試験時間を通常より長くする、試験会場での移動を最小限にするといった配慮を考えることが重要です。
採用後は、特性に適した業務がある部署への配属や、障害のある方が職場で活躍できるようフォロー体制を整える必要があります。ただし、採用や賃金、配置、昇格など、雇用における処遇において、障害を理由に排除することや、不利な条件を付すことなどは禁止される差別に該当しますが、合理的配慮を講じた結果として他の労働者と異なる扱いになることには、差別に当たりません。


必要な配慮・提供できる配慮のための対話が重要

合理的配慮の提供にあたっては、障害のある人と事業者が対話を重ねて、互いに対する理解を深め、一緒に対応案を検討していくことが重要です。
障害のある人からの申し出や要望への対応が難しい場合でも、互いが持っている情報や意見を伝え合い、対話することで、代わりの手段を見つけていくことができるでしょう。

対話の際に避けるべき考え方として、「前例がありません」「特別扱いできません」「もし何かあったら…」「○○障害のある人は…」といったものがあります。
前例、これまでのやり方、周りと違う、といったことにとらわれず、どのようなリスクが生じ、そのリスク低減のためにどのような対応ができるのか、具体的に検討することが大切です。同じ障害でも程度などによって適切な配慮が異なりますし、障害のある方それぞれに状況が異なるため、合理的配慮の提供は個々の状況に応じて、柔軟に検討する必要があります。

特定の問題で困っている人のための支援が、結果的に、社会のより広い人々にとって良い効果をもたらし、社会全体の利便性を高めるという「カーブカット効果」※に象徴されるように、障害のある人の不便さに社会全体で向き合っていくことが、多くの人々の生活をより便利に豊かなものにしてくれるはずです。
法整備をきっかけに、障害のある人もない人も互いを認め合いながら生きる社会のための「合理的配慮の提供」を考えてみませんか。

■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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