大きな変化も小さな選択から生まれる 「ハンドメイド」から見えてくる社会課題、MeTAS+(ミタス) の挑戦

身のまわりの問題を他人ごとにせず、それぞれの立場で、“私自身の”プロジェクトをはじめよう。
テレビ大阪株式会社(以下、テレビ大阪)は、ハンドメイド情報サイト「MeTAS+(以下、ミタス)ハンドメイドのある暮らし」やハンドメイドイベント「アート&てづくりバザール」を通じて、ハンドメイド作家たちが社会と交流する接点を創出する。これらの活動を通じて「てしごと」の持つ可能性を見出し、社会課題に対して「てしごと」の視点で解決の糸口を探る「てしごと my own project」に取り組んでいる。冒頭の一文は、このプロジェクトで発信するメッセージだ。

ひとりの手から生み出せる変化は、とても小さいものかもしれない。けれども、そこから始められることがある。「手からうまれる小さなことからはじめよう」と呼びかけるこのプロジェクトについて、テレビ大阪 デジタル戦略局 戦略事業部 小笠原昌彦氏に話を聞いた。

なぜテレビ大阪がハンドメイド情報サイトをつくったのか?

テレビ大阪は、ハンドメイドの作家が一堂に会する西日本最大級の屋内型イベント「アート&てづくりバザール / (通称てづバ)」を15年にわたって開催してきた。そこで培ったハンドメイド作家や資材を扱う小売店とのネットワークを企業として何等か発展させていけないか? と実験的に始めたのが、ミタスだ。

2024年3月で2周年を迎えたミタスはハンドメイド作家とハンドメイド作品が好きな人とが出会い、直接売り買いできる「セレクトショップ」もスタートさせた。今でこそ、こうしたプラットフォームは多数登場しているが、いわばCtoCの先駆けとしてリアルイベントの形で15年にわたり携わってきた実績を活かし、単に売り買いの場を提供するだけでなく、ミタスのウェブサイトではハンドメイド作家の情熱やそのライフスタイルといった背景にもフォーカスして、ハンドメイドの魅力や価値を多角的に伝えている。


(ミタス のトップページ)
https://me.tv-osaka.co.jp/

企業や地方自治体とのアップサイクル共創

環境省のデータ(「一般廃棄物処理実態 令和3年度調査結果」)によると毎年約300万トンものゴミが廃棄され、そのうち焼却やリサイクルができなかった30万トン超が最終処分場で埋め立てられている。環境省の発表によると、2023年3月時点で最終処分場の残余年数は23.5年。このままのペースでゴミを破棄し続ければ、あとわずか20数年後にはゴミを処理しきれなくなってしまう。それを解決するためには今から、ゴミを減らす工夫を私たちが日々の暮らしのなかで考え、実践しなければならない。

この大きな問題を自分ごととして身近に感じるきっかけを作りたいと、「てしごと my own project」の企画としてアップサイクルのワークショップを開催した。



例えば2023年9月には、本やノート、包装紙など、紙製品を作るときに出る余り紙や切れ端を使ってオリジナルのミニノートを作るワークショップを行った。材料となる端材は、「紙出(しで)」を京都の印刷会社・修美社から、「ふすま紙」を大阪・堺の表具師 宮川芳文堂から、それぞれ多種多様な紙が提供された。



次いで2023年12月には、大阪・関西万博開催500日前イベント「SDGsこどもフェスタ」にて、引越しなどの際に取り換えたことにより使えなくなった鍵を用いて、壁かけキーフックを作るワークショップを実施した。

自治体と連携したユニークな事例もある。福井県の「オープンファクトリーによる産地活性化支援事業」の一環として、8名のハンドメイド作家が福井県内の織物・編物工場を巡る2日間のツアーを実施したのだ。


(ものづくりの”素材”が生み出される現場を熱心に見学するハンドメイド作家たち)


福井県は日本有数の繊維産業が盛んな地域だったが、薄利多売型ビジネスモデルや海外資本メーカーの台頭により、構造改革が追いつかない小さなメーカーが潰れるなどして衰退の危機が迫っている。

「ハンドメイド作家の興味は身近なことに限られる傾向がある。資材を選ぶ視点も、可愛くて安ければいい、となりがち。資材一つとっても、心をこめて生産される背景やストーリーが価値として伝わっていかないとハンドメイドの良質な材料が生き残っていかれない」と、小笠原氏は企画の裏に根差す課題について指摘する。
「この体験を通して、福井の繊維産業の現状と課題を知ってもらうことが狙いだった。ハンドメイド作家がレースやリボンといった資材を選ぶときに安易に手近な量販店で買うのではなく、産地のものを選ぶきっかけにしてほしい。地域の製造業や小売店の現状を知った上で、多少値段が高くても、作家もその作品を選ぶ消費者も、自分が共感したもの選べるようになってほしい」と、小笠原氏は想いを明かした。実際にこのツアーに参加した作家からは、資材を購入する際の選び方・考え方が変わったという声が聞かれたという。


(下着づくりの段階で余ったアップリケ(残材料)をアクセサリーとしてアップサイクルした作品)

企業との共創事例では、株式会社ワコールとのコラボレーションがある。下着づくりの段階で余ったアップリケ(残材料)を、人気のハンドメイド作家がアクセサリーにアップサイクルするというものだ。この作品は、ミタス2周年キャンペーン内におけるプレゼントとして提供された。

「ジェンダー」や「手仕事の価値」、社会的な認知を変えていく

廃棄物削減という環境面の課題だけでなく、小笠原氏は「ハンドメイド」を通して見える社会的な課題にも注目する。
「私たちのメディアでハンドメイド作家の作品にかける情熱を聞いていると、伝統工芸の職人と何ら違いはないと感じる。一方で、ハンドメイド作家の多くは女性で、趣味の延長線上と見られてしまう現状がある。それだと、たとえばハンドメイドで起業しようとしても審査が通りにくいといった弊害があると聞いたことがある。なぜ伝統工芸の職人はリスペクトされて、ハンドメイドは軽んじられてしまうのか。そうした風潮にも一石を投じ、社会的な認知を変えていけたら」小笠原氏の言葉に熱がこもる。

現状では、ジェンダーバイアスによる助長もあり、ハンドメイドは家事の合間に行う副業的なものと見なされる場合が多い。
歴史学者 姫岡とし子氏は「手工業的な高級生産の世界で、この分野では男性が専業的に製織労働の従事している」とした上で、「ジェンダー間で境界線が引かれ、男性は高級品を、女性は普及品を生産する比率が高かった」と指摘する(姫岡とし子著『ジェンダー化する社会』岩波書店,2021年)。さらに世界のアートシーンにおいても、刺繍や編み物や針仕事といったクリエイションが適切に評価されていない点が、フェミニズムの観点から、たびたび批判の対象となっている。

ウェルビーイングやセルフケアにも貢献しうる「ハンドメイド」の価値

ハンドメイドの価値を議論するなかで、もうひとつ見えてきたことがある。
「フィンランドでは中学生の男子も編み物をする、とフィンランドセンターへの取材で聞いた。さらに深堀りすると、ハンドメイドの新しい付加価値が見えてきた」と、小笠原氏は話す。ひとつのことに集中することでセラピー効果が高まるのだという。集中することでネガティブな思索を遮断できる上、小さな達成感を積み重ねることで自己肯定感も高まる。



「ハンドメイドに取り組む意義を見出せると、裾野はさらにひろがる。だからこそ、こうした側面での価値も伝えていきたい」と小笠原氏が語る通り、ハンドメイドには様々な可能性と価値がある。ジェンダーバイアスや偏見を解く手段として、あるいは自らのウェルビーイングを叶える手段として、新しい働き方のひとつの選択肢として、「てしごと」がこれからの社会に浸透していくといい。しかしそのためには、ビジネスとして成り立つ収益スキームの確立も欠かせない。

プロジェクトからビジネスへ、企業や自治体との共創をひろげたい

会社として、ミタスをどこまで続けていくかを模索しているところだと、小笠原氏は語る。
主にメーカーなどの企業活動から派生する廃材を用いたアップサイクル活動や、地域産品を活かしたものづくり、それらを通じて地域のコミュニケーションを促進するイベントの企画・運営など、ミタスがカバーする領域は広い。さらに、コンテンツを通じたPRやマーケティング、ブランディング支援までを幅広く手掛ける。


(「ミタス ハンドメイドのある暮らし」のYouTubeチャンネル)


基幹事業であるメディアを活用したマーケティングにも積極的に取り組む。公式YouTubeチャンネルに動画をアップするだけでなく、2024年3月からは地上波放送「ミタス ハンドメイドのある暮らし」も開始した。1回15分の全13回、テレビ大阪(関西ローカル)で不定期に放送される。TVerでも全話配信を予定だ。ハンドメイド作家のインタビューを紹介するコンテンツを通じて、彼らのハンドメイドにかける情熱や続けることの葛藤などに光をあてる。
またテレビ大阪では、4/13~4/21まで「女性の未来を応援するウィーク」を実施。ウェルビーイングな社会の形成を目指し、女性だけでなく男性も一緒に考えるきっかけ作りを提供するコンテンツとしても、TVer上で組まれている同名の特集でもミタスの番組が随時掲載されていく予定だ。


(「ミタス ハンドメイドのある暮らし」のTV番組が放送開始した )


選ぶことも、選ばれることも双方向で大切な時代になった。
ミタスは、一方通行の生産・消費だけでは終わらない新しい視点でのものづくりのあり方を、さまざまな活動やプロジェクトでサポートする。身近で起きている環境や社会の課題に対し、これからも「てしごと」の視点で企業や自治体と共創しながら、解決の糸口を探っていく。



【参考サイト】

・MeTAS+(ミタス)

・てしごと my own project

・環境省 | 一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度)について

・ハンドメイドメディア「MeTAS+(ミタス)」が「ハンドメイドクリエイター8名が、福井県の繊維産業の『今』に触れる旅」の特別レポートを公開

・ハンドメイド情報サイトMeTAS+(ミタス)2周年記念プレゼントキャンペーンを実施!

・MeTAS【ミタス】ハンドメイドのある暮らし YouTubeチャンネル

・岩波書店 | 姫岡とし子著『ジェンダー化する社会』岩波書店

・テレビ大阪「ミタス ハンドメイドのある暮らし」番組ページ

・TVer「女性の未来を応援するウィーク」特集




■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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