【サステナブル・ブランド国際会議2024】
フードシステムは今どう変革しつつあるのか

(2024.4.23. 公開)

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2024年2月21・22日に、東京国際フォーラムにてサステナブル・ブランド国際会議2024東京・丸の内が開催されました。今回は、「フードシステム」についてのセッションを紹介します。

セッション『フードシステムは今どう変革しつつあるのか』


登壇者
•サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー
株式会社レスポンスアビリティ 代表取締役/サステナブル経営アドバイザー
足立 直樹(ファシリテーター)
•日本マクドナルド株式会社 サプライチェーン本部 執行役員本部長
ウォーリー ボッケル氏
•株式会社FOOD & LIFE COMPANIES 商品本部管掌 常務執行役員
木下 嘉人氏
•キユーピー株式会社 GREEN KEWPIEプロジェクト プロジェクトリーダー
綿貫 智香氏


フードシステムという言葉を耳にしたことはありますか?
フードシステムとは、食料品の生産から流通を経て生活者の食生活に至る食料供給の一連の流れやそれにまつわる産業界の関わりを指す言葉です。
気候変動、生物多様性の喪失、水リスクなど、地球のサステナビリティに関わる重要な課題を解決するために、世界的にフードシステムの変革が必要と言われています。
今回のセッションでは、サステナブル・ブランド国際会議サステナビリティ・プロデューサー足立直樹氏がファシリテーションしながら、フードシステムの変革のために、食に関わる企業の現場でいま起きていることを紹介するとともに、私たちがこれからすべきことを考えました。

セッション冒頭では、なぜいまフードシステムの変革が求められているかについての背景説明が足立氏からありました。
食料が生産されてから食卓に上るまでの一連の流れは、実は非常に環境負荷が高く、全世界の温室効果ガス排出量の最大の1/3がフードシステムによるもの言われているそうです。

生物多様性においては森林伐採による喪失が特に大きな問題となっていますが、その8割は畑を作るために行われており、これもフードシステムが関係しています。また、淡水利用の70%が農業で使われていることもあり、2021年に国連で行われたフードシステムサミットでは、グテーレス事務総長から「現在のフードシステムは環境負荷が高いため、今後95億人に到達する地球の人口を支えるには、フードシステムの変革が必要だ」という発言がありました。

フードシステム変革のために具体的にどうすればいいのかということについては、様々な分析がなされており、たとえば、温室効果ガスについては、食品ロスの削減、食習慣の変更、農法改善などに取り組むことで1/4程度まで減らすことができるという道筋が見えているそうです。

このような改革のためには、生産者、消費者、企業の協力が必要となってきますが、変革の契機になるのは企業だろうと足立氏は指摘します。そこで、今回はフードシステム変革に取り組む企業から具体的な事例の紹介がありました。


海や森を守る「認証」の全世界的な取得は
未来に向けた先行投資

日本マクドナルド株式会社サプライチェーン本部執行役員 本部長ウォーリー・ボッケル氏

世界100か国に約40,000店舗を構え、日本では約3,000店舗にて年間14億人のお客様に利用されているマクドナルドでは、地球を守るためのアクションとして段階的にターゲットを設定しています。

・ 2025年末までに、すべてのハッピーセットのおもちゃとお客様に提供する食品パッケージを、再生可能な素材などサステナブルな素材へ移行
・ 2030年までに、店舗・オフィスにおける温室効果ガス排出50.4%減(2018年比)
・ 2050年までに店舗、オフィス、サプライチェーン全体で温室効果ガス排出ネットゼロを達成

達成のための具体的な取り組みの一例が、環境保全のための各種認定の取得です。
ボッケル氏によると、マクドナルドは、MSC認証(海洋環境を守る漁業、加工、流通を行う業者を認証)、FSC認証(豊かな森の維持ができる管理体制をもつ業者を認証)、レインフォレストアライアンス認証(森林や生態系を守り、労働環境に適切な労働環境を提供する業者を認証)、RSPO認証(熱帯雨林や生物多様性、人々の生活の配慮したパーム油を生産する業者を認定)などを取得し、原料の出所を明確にして環境負荷に問題がないものを仕入れているとのこと。

たとえば、フィレオフィッシュに使うスケソウダラは、MSC認証のもと、海洋環境を守る漁獲、加工、流通を行う業者から仕入れており、トレーサビリティを確認していますし、提供するコーヒーも、レインフォレストアライアンス認証により、豆の栽培が熱帯雨林を破壊していないか、人権を棄損するような労働環境でないかといったことを確認して仕入れているそうです。

全世界的にサステナビリティに取り組む理由は、ビジネスの中心にお客様がいるからとボッケル氏は語ります。お客様にマクドナルドで食事をしてもらうことが、環境・社会問題に貢献することになることを目指し、使用している食材の出所やポテトを揚げる油の生産方法、パッケージ資材まで、グローバルで定められた調達基準をクリアし、環境・社会・経済にプラスになる事業活動を行うとともに、一連の活動内容について第三者の厳しい目による監査をクリアすることを大切にしているとのことでした。

足立氏から、認証や第三者監査のための費用が莫大なのではないかという質問に対しては、「認証は維持することが大変。そのために、スケソウダラで言えば水揚げから取引先を経て店舗までのトレーサビリティや各種データを見える化、透明化することが大事であり、もちろん大きな費用が発生しますが、マクドナルドではそれは未来のための大切な投資だととらえています。いまは法的な縛りはなかったとしても水揚げの現場や加工工場、物流センターで働く人々や環境の安全性などの面で法律化するかもしれません。先んじて教育や安全性の体制を整え、お客様にも安心して高品質な商品を味わっていただけるようにしておくことは、必要な投資であり、長い目でみればリターンが出ると考えています」というボッケル氏からのコメントがありました。


世間のニーズに先回りして、
プラントベースのサステナブルな食に挑戦

キユーピー株式会社GREEN KEWPIEプロジェクトプロジェクトリーダー 綿貫智香氏

キユーピー株式会社からは、2023年3月にスタートした、プラントベースフードなどの“サステナブルな食”を展開する新ブランド「GREEN KEWPIE」の紹介がありました。
健康志向の高まりや地球環境への配慮、アレルギーや宗教的な理由などから、欧米を中心にプラントベースフードを選択する人が増える中、地球と人の双方が持続可能で、日々続けられる食生活を実現したいという思いで立ち上げられたのが「GREEN KEWPIE」です。
新ブランド設立に挑戦するきっかけとなったのは、世界の食と健康に貢献する企業を目指すというビジョンと、食の多様化が進んだことによるプラントベースフードを提供する企業の増加による市場規模の拡大もあったと綿貫氏は語りました。

「GREEN KEWPIE」の前段となる商品が、東京オリンピックの約1カ月前に発売された「HOBOTAMA」です。HOBOTAMAは植物性原材料でつくった卵のような味わいのプラントベースフードで、想定以上の大きな反響があったので、多様化する食や価値観のニーズに応えていく必要性を感じ、「GREEN KEWPIE」の新ブランド設立を目指すことになりました。


「GREEN KEWPIE」には、4つの特徴があると綿貫氏は話します。
1つめは、食材選定や生産の柔軟性。
自社がもつ卵加工技術などを磨くことで、原材料選定の自由度を高め、気候変動よる不作などの影響にも対応できる持続的な生産と供給を目指していくこと。

2つめは、おいしさと調理。
食品にとって重要なおいしさを大切にしつつ、そこに調理性を加え、料理する楽しさを提供すること。

3つめは、食シーンを広くカバーする提案力。
家庭でも、外食でも、お惣菜売り場でも、いろいろな場所でプラントベースフードを選択することができるような商品を目指していくこと。

4つめは、グローバルな展開力。
日本のみならず、各国や地域の食文化に沿った商品展開を行っていくこと。

これら4つの特徴で、キユーピーならではの「サステナブルな食」を世界に提案していくとのことでした。

GREEN KEWPIEのラインアップは拡充中であり、現在は、マヨネーズタイプの調味料やドレッシング、パスタソース、HOBOTAMA、業務用商品を展開しています。
綿貫氏は「キユーピーは卵のリーディングカンパニーとして、卵がもつ課題についても把握している。卵の魅力を伝え、未来においても卵を食べる食文化を継続させていきたい」とのことでした。


足立氏からの日本でもプラントベース食品の需要についての問いに対して綿貫氏は、「確かに日本ではまだ環境負荷を理由にプラントベース食品を選ぶ人は少ないものの、環境に関する教育が熱心に行われているので、今後そのような方々が出現してくるはずだと開発に踏み込みました。いまの段階で環境のためにGREEN KEWPIEを選ぶ方は2割くらいいるので兆しは十分にあると見ています。また、実はGREEN KEWPIEは卵アレルギーの方々にも支持されています。ご本人はもちろん、お子さんや家族に卵アレルギーの方がいて食に苦労していたという方々に寄り添うという意味でも、キユーピーが取り組む意義があると感じています」と答えました。

フードシステム変革についての各社からのメッセージとしては、
「フードシステム変革に取り組むことは、マクドナルド社のサステナビリティに対する覚悟であり、投資。いまの若い世代、またその先の時代のために、大きな企業は特に未来への投資として、いまサステナブルな環境をつくるためのアクションをとらなければいけないと思っています」(ボッケル氏)

「昨年ようやく世に出たGREEN KEWPIEを、サステナブルな食に挑戦するブランドとして、消費者の皆さんと一緒に育てていきたいと思っています。このブランドを育てることで、よりよい社会へとつなげていければと思います」(綿貫氏)
といった言葉が出揃いました。

環境に与える影響が非常に大きいフードシステム。私たちは食事をせずに生きていくことはできません。日々、口にするものが生産・加工される現場で、どのような努力と変革が進んでいくのか、今後も着目してみたいと思います。

【参考】
GREEN KEWPIE  
キユーピーグループオフィシャルブログ

■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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