【サステナブル・ブランド国際会議2024】
地域課題解決は企業にとっても欠かせない?取り組み事例を紹介

(2024.4.3. 公開)

#サステナブル・ブランド国際会議2024 #SB国際会議 #地域の再生 #バイオマス発電#持続可能な社会 #森林資源#サステナブルブランド


2024年2月21・22日に、東京国際フォーラムにてサステナブル・ブランド国際会議2024東京・丸の内が開催されました。今回は、企業が契機となって始まる地域の再生についてのセッションを紹介します。

セッション『企業発で始まる、地域の再生』


登壇者
• サステナブル・ブランド国際会議 足立直樹氏(ファシリテーター)
• MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社 浦嶋裕子氏
• MEC Industry株式会社 小野英雄氏
• 株式会社竹中工務店 友保悟郎氏



自然とまちを再生させる各社の取り組み事例


今回の会議全体を通してのテーマは、Regenerating Local。多くの課題がグローバル化する中で、その解決策の多くはローカルレベルでの対応が求められています。

今回のセッションでは、まさにローカルなレベルで人々と連携して地域再生に取り組む3社の事例が紹介されました。


同じ課題解決を目指すワンチーム。地域とともに取り組む竹中工務店

(長野県塩尻市奈良井区の街並み)

建設会社の竹中工務店は、まちとイノベーションをかけた「まちのべーしょん」をテーマに、各地で街づくりに奔走しています。長野県塩尻市では、森林資源を活用した地域の活性化に取り組んでいます。取り組みとしては、木材を空間に使用する「木材関連事業」、木材をエネルギーに活用する「バイオマス発電」、木材を歴史的建物に使用する「歴史的建物活用」の3つに大きく分けられます。セッションでは、そのうち歴史的建物活用について紹介されました。

最初は、地域の人々との勉強会から始めたという友保氏。そこで課題として挙がったのが、塩尻市奈良井区の再生でした。奈良井区は、歴史的な街並みが約1.1kmにわたり連なる街で、地元の人がこの街並みを残そうとした結果、昭和53年に重要伝統的建造物保存地区に指定されました。しかし、シンボルとなる酒蔵は空き家になっており、また観光に訪れた人が1人平均900円しか使わないという状況でした。

(竹中工務店の投影資料より抜粋)

そこで竹中工務店は、チームを組成して、酒蔵を復活させるとともに、街の賑わいを生む小規模分散型のホテルを整備。空き家になっていた場所を活用し、本館と離れを街の中に点在させ、宿泊客が街を回遊できるよう設計しました。さらに、街の中で出店を希望する若い世代を支援するなど、まちの賑わいを拡げています。

勉強会からホテルのオープンまで足かけ3年半。「街並みを維持してきた地元の人の考えるこの街の価値を正しく知ろうと心がけました。奈良井区と地域住民、そこで挑戦する人々、当社で、同じ課題に取り組むワンチームです。」そう語る友保氏の話からわかるのは、地域の人々と向き合うことの重要性です。友保氏は今後について、漆器やアウトドアといった強みを持つ隣町等と連携し、この取り組みをさらに広げていきたいと語りました。


自然環境の保全を地域創生につなげる、MS&ADインシュアランスグループホールディングス

(自社のサステナビリティ重点課題について語る浦嶋氏)


保険会社であるMS&ADグループは、中期経営計画でのサステナビリティ重点課題の1つとして「地球環境との共生~Planetary Health~」を掲げており、自然環境の保全・再生による防災・減災と地方創生に取り組んでいます。

自然は、炭素の吸収や固定といった面で気候変動への対応にもなり、また気候変動の影響で激甚化・頻発化する気象災害による被害の緩和にも繋がります。自然や生態系の本来持つ多面的な機能を活用して社会課題の解決につなげようというこうした動きは、世界的には「Nature based Solution(略してNbS)」と呼ばれ、国連気候変動枠組条約や生物多様性条約でも定着しつつある概念です。

MS&ADグループでは、熊本県球磨川流域・宮城県南三陸町・千葉県印旛沼流域という3つのフィールドで、大学や地域のNPO等さまざまなステークホルダーと連携しながら自然環境や生物多様性の保全に取り組んでいます。

(画像出典:グリーンレジリエンス│MS&ADインシュアランスグループ 球磨川流域 緑の流域治水プロジェクトの活動)

令和2年に大きな水害が発生した球磨川流域では、その後『緑の流域治水研究プロジェクト』が県や県立大学、肥後銀行によって立ち上げられました。その中で、MS&ADグループが取り組んでいるのが、球磨川上流での湿地の保全・再生です。社員が年に何回かフィールドを訪れ、乾燥して樹木が生えてしまう土地で手入れを行っています。こうした活動を通じて水を溜める機能を持つ湿地を保全・再生することで、大雨の際に降った雨が一気に川に流れることなく、減災や防災に繫がる流域を作ることができます。このプロジェクトでは、こうした防災・減災への取り組みの先に、誰もが安全・安心に住み続けられ、若者が残り集う地域にするといった地方創生の目標も掲げています。


地域林業の活性化と雇用創出を実現する、MEC Industry

(湧水町の工場の説明をする小野氏)


国産木材の活用を目的に、三菱地所の新規事業として2020年に設立されたMEC Industry。「従来、林業や木材加工業は、山での木材調達から製材加工、組み立て、販売、と個別の事業者が行っています。弊社では、サプライチェーンを見直して川上から川下まで一気通貫で取り組み、全体最適を目指しています。」と小野氏はその特徴を語ります。2022年に鹿児島県北部の湧水町という人口約9000人の小さな町に工場を設立し、地域林業の活性化や地元の雇用創出といった地域創生に取り組んでいます。

地域林業の活性化に一役買っているのが、直径で30センチを超えるような南九州の「大径木」の活用です。従来の製材会社では、直径で30センチを超える木を製材する機械を持っておらず、また、住宅の柱などにはそこまで大きな木が必要ないということもあり、森林には使われない大径木が多く残っているといいます。「これまで使い道がなかったから木を切ることができなかったという森林組合さんから、木材を持ってきていただけるようになった。」と、工場ができたことで地域に起きた変化を小野氏は語りました。

約130人いる従業員のうち9割が地元の雇用となっており、女性社員も全体の約25%にのぼるといいます。そんなMEC Industryでは、会社の食堂を住民に開放したり、工場見学会を地元中学校向けに行ったり、地域イベントに参加したりしているそうで、地域とのつながりを大切にする姿勢がうかがえます。「地元の人からはすでに、当社の進出による地域活性化への期待の言葉をいただいている。」と小野氏は語ります。


「企業が地域の課題に取り組む」のは必然だった?

なぜいま企業が地域の課題に取り組むのか、この答えについてパネリストの3人は三者三様の答えを出しながらも、共通していたのは、「事業を継続・成長させていくためにも、地域の課題を解決する必要があった」という点です。

(企業の地域課題解決の必然性について語る、友保氏)

竹中工務店の友保氏は「企業が今の活動を持続させ成長するために地域の課題を解決することが必要になってきている。」と話します。特に建設会社としてダイレクトに感じるのが、木材の調達が簡単ではなくなってきていることだと言います。例えば、高齢化や過疎化等で山には木の切り手がいなくなり、適齢期を超えても山に木が残ってしまうなどの課題があります。「地域に飛び込んでみた結果、実は建設会社として解決しなければならない課題がそこにあった。」そう友保氏は話します。

(建設業界の抱える課題について語る、小野氏)

老朽化する森林や、少子高齢化・職人不足等により高騰する人件費や木材費、建設費。MEC Industryは、建設業界が抱えるこのような課題を解決することを目的の1つに設立されました。そういう意味では、建設業界や地域の課題に取り組む必然性を強く反映している会社だと言うこともできるかもしれません。

老朽化した地域の森林の木材を活用し、建築現場で加工を行う必要がないプレファブリケーションという工法を取り入れ、職人の負荷軽減や建設費の圧縮、工事期間の短縮を実現しています。

(保険会社としてリスクとの向き合い方を語る、浦嶋氏)

「自然や生態系の持つ多面的な機能を積極的な社会課題解決につなげていかなければいけない。それをいかに実装していくのかが損害保険会社として重要なテーマだと認識している。」そう語るのは、MS&ADグループの浦嶋氏です。背景には、近年の自然災害の激甚化・頻発化があります。2017年〜2021年の5年間での自然災害に起因する保険金支払額は、それ以前の5年間と比較して約3倍にまで増加。

地域での自然環境の保全・再生の狙いは健全な自然を活用し「リスクの発現を防ぐ、リスクの影響を小さくする」地域社会のモデルを確立することにあります。「どこにリスクがあるかを見つけて伝えて、そもそもそのリスクが実現しないようにいかにそれを防ぐかということが保険会社にとって1番大切。」と浦嶋氏は言います。また、全国に営業拠点や代理店がある損害保険会社は、地域が元気になることが、そのまま保険会社のマーケットの持続的成長につながります。

どうしたら、企業のビジネスがもっとよくなるのか。どうしたら、企業がもっと社会に貢献できるのか。そのような視点で考えた時に、これからの時代、企業が地域の課題を解決することが、必然的な選択肢として浮かび上がってくるのかもしれません。


地域再生の鍵となる、様々な関係者との連携

企業が地域に入る意義について、「地域には色々な課題があるが、高齢化や産業の衰退により地域だけでは取り組めないという状況もある。企業であれば、そこに別のアプローチで入ることができる。」と話すのは、ファシリテーターの足立氏。

企業が地域に入る際に重要になってくるのが、地域との関係性です。今回3社は、地域住民やその他のさまざまなステークホルダーとの連携を大事にしているという点で共通しています。地域の課題をどうにかしたい、という人々と膝を突き合わせて活動する竹中工務店。地域にある資源や人材を大切にしているMEC Industry。大学や研究機関、地域のNPOなどさまざまなステークホルダーと連携するMS&ADグループ。企業と地域、どちらか一方だけが精力的に取り組むのではなく、両者やその他のステークホルダーが手を取り合って1つの目的に向かって尽力することが大切なのだと考えさせられます。


【参考】
自然を基盤とした解決策(NbS)に関する国際的議論│森林総合研究所
グリーンレジリエンス│MS&ADインシュアランスグループ


■執筆:contributing editor Eriko SAINO
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