【サステナブル・ブランド国際会議2024】
パーパスから事業創造を生み出すための組織&コミュニケーションデザイン

(2024.4.1. 公開)


#サステナブル・ブランド国際会議2024 #SB国際会議 #広告コミュニケーション #パーパス #持続可能な社会 #キャッチコピー#サステナブルブランド



企業には、ミッションによる市場課題解決だけではなく、社会問題や環境問題のバランスを取りながら、どのような立ち位置を示すかというパーパスが求められています。企業がもつパーパスをいかに組織に浸透させ、消費者にまで届けるかにおいて試行錯誤する企業が増えている中、今回のセッションでは、登壇企業がパーパスを活性化させるためにどのような広告コミュニケーションを行い、事業活動や事業創造へと繋げているのか、という最新事例が紹介されました。



花王らしさを「もったいないを、ほっとけない」
というワンフレーズに落とし込んで展開

まずは、花王株式会社事業PR戦略部部長の市川里津子氏から、2022年より花王がスタートしている持続可能な社会の実現に貢献する企業姿勢や取り組みを伝える企業広告シリーズ、「もったいないを、ほっとけない。」の紹介がありました。

花王は企業パーパスとして「豊かな共生世界の実現」を掲げています。その実現のために、ブランドとしては「人や暮らしにどうやって役立つのか」、企業としては「人と暮らしに加えて、社会と地球にも貢献していく」ことをコミュニケーションの軸としており、この企業コミュニケーションのひとつとして、「もったいないを、ほっとけない。」シリーズが展開されています。


花王株式会社PR戦略部門 PR戦略センター 事業PR戦略部部長 市川 里津子氏

暮らしの中の「もったいない」に気づき、花王の製品を通してアクションを起こしてもらうことが目的のこの活動の原点は、長きにわたり花王が大切にしてきた「よきモノづくり」の想いです。
「もったいないを、ほっとけない。」ための花王のよきモノづくりとは、たとえば、「洗剤の使い過ぎはもったいない。たくさん使えばよく落ちるというわけではない。だから、花王は誰でも適量をぴったり図ることができる容器を開発していますので活用ください」ということであり、「水の使い過ぎはもったいない。だから花王は泡切れがいい洗剤を開発しています」「詰め替えの際の液残りがもったいない。だから花王では液残りのないパックを開発しています」といったこと。
「花王は日常の小さな“もったいない”をとにかく“ほっとけない”会社なんです、そのような企業人格をもっていますということをブランドを越えて伝えてきたい」と市川氏は語ります。

広告制作の際は、「花王はこんなすごいことをやっています」という一方通行のアピールではなく、生活者に寄り添う視点を特に大切にしたそうです。コミュニケーションのコアターゲットを花王とのつながりが弱い20~30代と設定し、CMの話し手の声や口調を工夫し、軽い雰囲気にしたとこのと。不安はあったものの社内の該当する年齢の人たちに見せたところ大変好評で、自信をもってのリリースとなりました。
市川氏によると生活者からの反応も上々で、花王の地道な努力や企業姿勢への賛同や、「花王の商品を使うことで自然にエコ活動ができてしまうのが良い」といった行動変容につながる喜びの声が多数届いたそうです。


現在は「もったいないを、ほっとけない」歌や新聞広告も展開。製品だけでなくプラスチック削減の取り組みなども紹介している。


活動を通して、社員の会社への誇りや
好きになる気持ちを喚起

「もったいないを、ほっとけない。」の活動については、テレビ広告を筆頭にオウンドメディアや体験会、ワークショップの形でも展開され、活動の輪が広がっています。
リアル体験の場としては、2023年は夏休みに親子セミナーを実施し、子供たちに洗剤の詰め替えを行ってもらったり、泡切れの良さを体験してもらいました。花王の姿勢と取り組み内容を知ってもらうことはもちろん、「こういうことをするともったいないんだ」と子供たちが考えたり、「水を流しっぱなしにしないで手を洗うことにした」という行動変容のきっかけになったと一緒に参加した保護者の方々から喜びの声もあがったそうです。

もちろん社内でも「もったいないを、ほっとけない。」の活動は展開されています。その一例が、使用済み詰め替えパックを全社一丸となって回収することです。花王では使用済みの詰め替えパックを水平リサイクルし、再度容器にする取り組みを行っていますが、課題は使用済みのパックをいかに集めるか。そこで、新入社員を筆頭に、全社員に回収を呼びかけました。この活動を通して社員にとっても、業務や生活の中で「もったいない」をより意識するようになったり、花王はいい会社だな、誇りがもてるなと感じるようになるといったプラスの変化が生まれたとのことでした。


使用済みつめかえパックの水平リサイクル技術を採用した『アタック ZERO つめかえ用(1,620g)』


サントリーらしさを大切にしながら
観た人に共感してもらうことに知恵を絞る

サントリーホールディングス株式会社コミュニケーションデザイン本部企画部課長である大塚江美氏からは、企業広告「♯素晴らしい過去になろう」コミュニケーションについての紹介がありました。
こちらは、「♯素晴らしい過去になろう」というメッセージを通して、サントリーの企業姿勢や思想への共感と、未来の自分ゴト化を促すというもの。広告に込められている想いは、みんなが誰かの祖先であり、未来を生きる子供たちのために、やがて過去と呼ばれる今の自分たちが素晴らしい過去を目指して行動していこうというコンセプトです。子供がいる方はもちろん、学生など若い世代からも「気づきがある」と評価を受けているとのことでした。内容を検討する際は、サントリーの想いを全面に押し出したものにはせず、観た人に共感してもらうことを特に大切にしたと大塚氏は話します。


サントリーホールディングス株式会社コミュニケーションデザイン本部企画部課長 大塚 江美氏

サントリーでは「♯素晴らしい過去になろう」のコミュニケーションとして、2023年は3回大きな発信を行いました。

ひとつめは5月5日のこどもの日。未来を象徴するこどものための日に、「♯素晴らしい過去になろう」というメッセージをみなさんと共有しようと、社員を巻き込んで社員の子供たちの写真や動画を集めてCMにするというコンテンツを制作、発信しました。

2つめは6月5日世界環境デー。この日には、愛鳥活動50周年のコンテンツを発信。きれいな水源のためのサントリーの天然水の森活動は社内外で既に広く知られていますが、実は愛鳥活動はそれよりも古く、実に5年前からスタートしています。
鳥の中でも、タカ、ハヤブサ、フクロウといった猛禽類が住み続けられるような森は、生態系としても豊かな森であり、豊かな森には豊かな水が育まれるため「これからも大自然の仲間に相談したいことがいっぱいあるんだ」というメッセージを加えて、サントリーがもっている、「我々は自然の恵みを使わせてもらっており、自分自身も自然の一部なんだという、自然への畏敬の想いも込めた」(大塚氏)とのことでした。


サントリーグループ企業広告より

3つめは、10月20日リサイクルの日。この機会では、サステナブルペットボトルをテーマとしたコンテンツの発信を行いました。サントリーでは、2030年に自社で扱うペットボトルのすべてをサステナブルなものにするという、目標を掲げており、現在もボトルtoボトルという水平リサイクルの活動を推進しています。
先ほどの花王の取り組み事例でも紹介されたとおり、リサイクルはきれいな使用済み容器を集めることが重要ですが、分別状況をみると、家庭からは74%のきれいなボトル(キャップとラベルをはがして、中を洗った状態のボトル)が回収されるものの、外出先では36%にとどまっていることがわかりました。そこで、外での分別の方法をしっかり伝え、促進につなげるためのCMを制作しました。

先の2つはサントリーのユニークな活動ですが、ペットボトルリサイクルについては社会全体で取り組んでいくもの。人々の行動変容をうながすためには、実際に人々が外出先でペットボトルを捨てる現場での分別の仕方の告知が重要だということで、ハロウィン前の渋谷をジャックすることを目指し、ポスターを集中的に貼ったり、自動販売機補充のためのルートカーをメディア化して渋谷をぐるぐる走るといった取り組みを行いました。
さらに、三菱地所と協業し、大手町、丸の内、有楽町エリア15棟のオフィスビルで、ペットボトルリサイクルを促すポスターや動画でPRしながら、ペットリサイクルを促しています。1社よりも、複数の会社で取り組むことで、しかもそれが大きな企業同士であればより社会的な動きにつながっていくはずなので、少しでもコラボレーションの可能性があれば、まずはアクションを起こしてみるのがサントリーらしさでもあると大塚氏は話しました。


サントリーグループ企業広告より


議論し、行動することで
企業パーパスの表現は磨かれていく

ファシリテーターの高島氏からは、コミュニケーションにおけるキャッチコピーの重要性についての質問がありましたが、
市川氏からは、「言葉のわかりやすさと強さは重要であり、花王の中に元々あった視点を『もったいない』という自分事化されやすいワードに落とし込み、『ほっとけない』という花王さしさを加えたことで、社員の中にもすんなりと入っていきました」という話がありました。花王では、「もったいないアワード」「もったいないウィーク」など、「もったいない」や「ほっとけない」という言葉を使った取り組みやフレーズなどが数多く使われているそうです。

一方、大塚氏からは、キャッチコピーの進化についての言及がありました。サントリーは2005年から水と生きることをテーマにしてきましたが、社会全体として水と生きていくことが大事ではないかと2018年からは「ずっとずっと水と生きる」というワードに進化させたそうです。それを土台に「♯素晴らしい過去になろう」というさらに自分事化してもらいやすい言葉が加わり、段階を踏みながら、企業のパーパスと会社らしさが言葉としても密着してきていると語りました。

「パーパスの社員への浸透のさせ方について聞いてみたい」という高島氏のさらなる問いに対しては、花王、サントリー共に、企業パーパスやサステナブルの視点を社内に浸透させていくために、ESGやSDGsに関するトレンド発信、勉強会を行っており、それらをベースにお客様向けのワークショップや営業の際などに、実際にパーパスやサステナビリティについて社員が語る機会を得ることで、さらに浸透が高まるとのことでした。
大塚氏の「なぜサステナビリティを推進しているのかといえば、それが人々の生活を豊かにすることにつながり、地球の未来につながり、会社のパーパスにつながっているから。ただサステナビリティだけやるのでは片手落ちであり、パーパスやゴールを忘れてはいけない」という言葉でした。


ファシリテーターのBrands for Good高島 太士氏

高島氏からのまとめとしては、「いろいろな企業からサステナブルブランドとしての社員のモチベーションやリテラシーの上げ方を聞かれるが、両社の話を伺い、中の人が体を動かすことが大事だと感じました。それが積み重なることで、外に向けての形ができてきて、そこに強いメッセージがあると会社がぶれにくくなるのだと思います」という言葉がありました。
市川氏は、「『もったいないを、ほっとけない。』活動をまだ初めて3年目。今後もさまざまなコンテンツを企画しています。これまで、一方通行、上からを避けるようにコミュニケーションしてきました。今後は、もっと生活者の方と一緒にアクションを起こしていけるようになりたいし、方向性を同じとする企業と共創していきたいです」と語りました。
大塚氏からは、「企業広告に答えはないし、進化していくものだととらえています。日々、お客様に共感してもらうにはどうしたらいいか、サントリーらしさをどう表現したらいいかについて考え続け、仲間と議論を重ねています。発信する内容を『ちょっといいな』『やってみたいな』とおもっていただき、それを『サントリーっていいね』につなげていく。そのゴールに向かって繰り返される議論や行動が、きっと広告ににじみでていくのだと思います。サントリーではチャレンジを大事にしているので、みなさんと一緒に、チャレンジを交換して形にしていきたいです」というメッセージがありました。

想いの押し付けやかしこまった表現になりがちな企業パーパスの発信。本セッションは企業のパーパスを社内外に発信していく際のコミュニケーションの、具体的なヒントにあふれていました。


■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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