【サステナブル・ブランド国際会議2024】
脱炭素社会実現に向けた観光を活用した共創を
多様な産業と連携した、行動変容を促すサステナブル・ツーリズム

(2024.4.1. 公開)


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日本の観光業はコロナ禍で大きな打撃を受けたものの、インバウンドを中心にその回復は目覚ましいものがあります。回復を後押ししながら持続可能なものとしていくために、政府や関連機関、民間企業等によるさまざまな取り組みが行われている中、注目を集めているのがサステナブル・ツーリズムです。
国連世界観光機関(UNWTO)によれば、サステナブル・ツーリズムとは「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」のこと。今回はSB国際会議で行われた、脱炭素社会実現に向けた旅のための多様な産業の連携と共創をテーマとしたトークセッションをご紹介します。


観光産業にとどまらない
多様なプレーヤーとのコラボレーションが鍵

2022年に日本旅行が10代~70代の約7000名に対して行った「旅とSDGsに関するアンケート」では、SDGsへの意識の高まりとともに、旅においても持続可能な観点で企画されたものに興味を持つ方が増えているのがわかります。たとえば、「SDGsに貢献できる取組みの中で旅行プランで実践したいこと」についての回答は、「地産地消」と「公共交通機関の利用」が1位、2位でした。また、「旅行プランを決める際、SDGsの取組みに貢献している商品を選びますか?」という質問に対しては、実に5000名近くの方が「これまでなかったが、今後は意識して選びたい」もしくは「選ぶ」と回答していました。

ファシリテーターを務めた株式会社日本旅行 椎葉 隆介氏は、地域の「環境」「文化」「経済」を守り育むサステナブル・ツーリズムを実現するためには、地域と旅行産業だけで企画をするのではなく、より多様な業種とのコラボレーションが必要だと話します。
これまでは、いわゆる「観光スポットに行き、見える景色等を楽しむ」という観光スタイルを支えるために、地域の宿泊施設、名産品店、飲食店、観光施設、交通機関、旅行代理店がサービスを個別的に提供していました。しかし、旅行者、観光関係事業者、受け入れ地域にとって旅を通してよりポジティブな影響を「環境」「文化」「経済」に与えていくためには、ユーザー体験に立脚した「面」としてのサービス提供が必要であり、そのためには、多様なプレーヤーと連携したサービスが欠かせないとのことです。具体的にはどのような連携なのかを、3名のパネリストが紹介してくれました。


株式会社日本旅行 椎葉 隆介氏


旅行時に鉄道利用が
CO2削減につながることをアピール

CO2排出量の削減として、2013年を基準に2030年では50%減、2050年は実質ゼロを目指すJR西日本グループでは、新幹線新型車両N700Sのような省エネルギー型鉄道車両の導入や、再生可能エネルギー活用の推進を行っています。大阪の中心部を走る大阪環状線については、既に列車運転用電力は再生可能エネルギーへの置き換えが完了しているそうです。山陽新幹線においても、再生エネルギーの導入をスタートし始めています。


西日本旅客鉄道株式会社 大槻 幸士氏

こういった自社でできる取り組みに加え、社会全体への働きかけとして、JRグループ7社と日本民営鉄道協会とともに、鉄道の環境優位性を訴求するという取り組みを行っています。乗り物別のCO2排出量は、自動車が132、飛行機が124に対して鉄道は約1/5の25とその差は歴然(単位:g-C02/人km、出典:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」2023年5月公表)。一部の区間だけでも鉄道を利用することで、CO2削減につながります。
JR西日本では、鉄道の利用が社会全体のCO2削減につながるという告知に加え、出張時の列車の利用に再エネ電力を割り当てるサービスや、カーボンオフセット付きの旅行商品などを通じて、環境にやさしい鉄道の利用を提案していると大槻氏は語りました。


旅の行程で排出したCO2を環境保全活動に役立てる
オプションプランを提案

国内旅行商品ブランド「赤い風船」を通して2021年からサステナブルな旅行パッケージを提案している日本旅行は、テーマとして「美しい景色・自然、おいしい食べ物、地域の文化・伝統、人々の暮らしなど、土地・地域の魅力を壊さず、未来に引き継いでいく」ことを掲げています。その商品例がJRとのコラボレーションによる「カーボン・ゼロ」です。
日本旅行の塩澤絵里子氏によると、「カーボン・ゼロ」とは、旅行者が赤い風船のJRセットプランのオプションとして「カーボン・ゼロ」を購入すると、日本旅行がお客様に代わって旅行中のJRでの移動による二酸化炭素排出量を間伐材の森林整備に充てることで埋め合わせするというもの。オプション価格は100円~150円程と手ごろであり、2023年12月までに約600名が利用しており、1332t(t-CO2)の削減につながりました。
※仕組みの詳細については、赤い風船の該当ページを参照


株式会社日本旅行 塩澤絵里子氏

この取り組みをインバウンドにも拡大するため、2023年6月からは「JRP カーボン・フリー」として、JAPAN RAIL PASS(一定期間中、全国のJR一部列車を除き何度も利用できるJRグループ6社が共同で提供するパス)を申し込んだ訪日旅行者に対して、カーボンオフセットにつながる植林事業活動などが行われるオプションプランの提案をスタート。1口5ユーロもしくは5ドルのこのオプションを選択すると、旅行を通じて日本国内の環境保全活動に参加できる仕組みになっています。集まった資金は、長野県茅野市のアルピコの森での植林活動や沖縄県恩納村でのサンゴの植付、熱海周辺海域の砂地へのコアマモ移植などに使用され、随時経過が報告されます。現在は運営関係者が中心となって植林活動などを行っていますが、将来的には旅行者自身に植林体験をしてもらう形の観光も提案し、旅行を通じての地域発展への貢献も行いたいとのことでした。


プレスリリースより

日本旅行では、「人」「風景」「文化」という観光資源の保全を通じ、持続可能な未来の社会・地域に貢献するために、CO2排出量の少ない鉄道利用を促進するとともに、訪日旅行者が日本国内の環境保全活動にも興味を持ち、これまでと異なる目的地をつくっていくことでオーバーツーリズムを防ぐ一助となるなど、これからも国内における環境保全活動のパートナーの輪を広げていくと塩澤氏は語りました。

【参考 HP】 ※英語サイトのみ
https://www.japan-rail-pass.com/transportation/japan-rail-pass/jrp-carbon-free


EV車を使うことで、環境や地域に貢献しながら
さらに楽しい、おいしい旅に

日産自動車株式会社 菊地美春氏からは、走行時の排出ガスがゼロである電気自動車を活用したサステナブル・ツーリズムの事例の紹介がありました。
2050年までに車のライフサイクルでのカーボンニュートラル実現を目指す日産自動車では、電気自動車のラインアップの充実に加え、充電インフラの設置や整備を行うとともに、日本電動化アクション「ブルー・スイッチ」を進めています。
ブルー・スイッチとは、電気自動車の活用により社会の変革、地域課題の解決に取り組む日産自動車の活動のこと。豊かな自然と人々が共生するゼロ・エミッション社会の実現のために、全国の自治体や企業・団体など、さまざまなパートナーとともに、電気自動車を活用しながら地域の環境、災害対策、エネルギーマネジメント、交通課題、環境にアプローチしていきます。


日産自動車株式会社 菊地美春氏

ブルー・スイッチでは観光活動として、熊本県阿蘇市や長崎県佐世保市、千葉県の南房総エリア、相模原市などで、電気自動車を利用している人には、「駐車場の無料化」「有料道路、観光地での割引」「宿泊施設、道の駅での割引、おもてなし」などのEV優遇施策が受けられる取り組みを行っています。
CO2を排出しない電気自動車を選択することで、旅行者はEV充電器を備えた宿泊先でのワンドリンクサービスがあったり、道の駅でソフトクリームを割引価格で食べられたりといった特典を受けることができて好評とのことです。「旅行はそもそも楽しみに行くためのものなので、脱炭素が先行しすぎるのではなく、おいしい、楽しいが当たり前に織り込まれていて、自然と誰かに話したくなり、選択する人が広がっていく。次は自分の電気自動車を選ぼうと思ってもらえる、そんなタッチポイントを創っていきたい」という菊池氏の話が印象的でした。
環境にやさしい電気自動車ですが、自家用車としての検討には、実際の乗車経験が重要です。ある調査によると、乗車経験がない人の検討割合が12%だったのに対し、乗車経験がある人は25%と10ポイント以上上回っており、生活者の選択肢に入るためには乗車機会を増やしていく必要があることがうかがえます。電気自動車と触れる機会のトップ2はレンタカーとカーシェアリング。今後は、観光地での電気自動車優遇による観光の活性化に加えて、旅先でのレンタカーやカーシェアリングを通して、電気自動車に乗る機会の創出も目指していくそうです。


阿蘇市におけるEV優遇策チラシ

最後にまとめとして、日本旅行の椎葉隆介氏から、JR西日本や日産自動車をはじめとする各社が行っている環境配慮のための取り組みを旅行という形でまとめあげ、商品化し、サステナブル・ツーリズムの当たり前化や、CSR活動にとどまらずビジネスへと進化させていきたいという構想が語られました。旅先での公共交通機関やEV車の利用が日常でも加速され、それがまた次の旅でも繰り返され、循環していく活動、つまり、旅という非日常・異日常の中での体験を日常の中で定着を推進していきたい、その連携のパートナーをさらに増やしていくとともに、次世代に向けての啓蒙活動も行っていきたいとのことでした。

日本政府観光局も力を入れているサステナブル・ツーリズム。今回のセッションでは、脱炭素化にフォーカスした内容が主でしたが、地域独自の自然を楽しむ、地域に根差した伝統文化に触れる、サステナブルな取り組みを実践している飲食店や宿泊施設を利用する、など様々な切り口と環境負荷の低い移動手段を組み合わせることで、より豊かな体験価値を提供することができそうです。旅することで、自分にも訪れた先にもポジティブな影響を与えていけるサステナブル・ツーリズムの今後に期待が高まるばかりです。


■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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