【企業のダイバーシティ/人権】メリットや課題、現場での推進に必要な「従業員の自分ごと化」を解説

(2024.2.15. 公開)

#ダイバーシティ #人権 #人的資本経営 #DE&I #ジェンダー #人権デュー・ディリジェンス #育児休業 #コーポレート・ガバナンス・コード #人権尊重 #アンコンシャスバイアス


ダイバーシティの推進は、人的資本経営の観点からも注目されるようになり、取り組む企業も増えています。しかし、女性管理職比率といった数値目標を追うのみの形だけの推進になっている企業も見られるのが現状です。ダイバーシティを推進する際には、土台となる人権尊重の考え方も含め、従業員が真にその本質を理解し自分ごと化することが欠かせません。今回は、企業におけるダイバーシティ推進や人権尊重を進めるにあたってのメリットや課題、現場での推進のカギとなる従業員の自分ごと化について紹介します。


いま企業に求められるダイバーシティ推進と人権尊重

(画像:人事担当者600人を対象にした「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I」)に関する調査」 | アデコ株式会社プレスリリース)

2023年9月にアデコ株式会社が全国の人事担当者600人を対象に行ったダイバーシティ推進に関する調査では、全体の半数以上にあたる52.3%が「2020年以降」に、86.8%が過去1年間に取り組みが「拡大した」と回答しました。

このように近年取り組みが加速している企業のダイバーシティ推進ですが、取り組みの進んでいる企業では「DE&I(ダイバーシティ&エクイティ&インクルージョン)」に包括的に取り組んでいる様子がうかがえます。DE&Iは、多様性のダイバーシティ(Diversity)、衡平のエクイティ(Equity)、包摂のインクルージョン(Inclusion)の頭文字をあわせた単語です。これは、多様な人材を組織に内包する(D)だけではなく組織に受け入れられていると実感できる状態(I)をつくり、出発点の異なる個々人の違いに合わせたサポート(E)を合わせて行うことを意味します。これにより、個々人がいきいきと能力を発揮でき、それが組織の成長にも繋がっていきます。本来的にはこのようなDE&Iに包括的に取り組むことが望ましいものの、一方でまずはダイバーシティを、と考える企業も多いでしょう。

企業の取り組みを後押しするものとして、例えば政府は「女性版骨太の方針2023」において、プライム市場上場企業を対象に2025年を目途に女性役員を1名以上選任するよう努めること、2030年までに女性役員の比率を30%以上とすること等を掲げています。また昨年(2023年)には、性的指向・ジェンダーアイデンティティの多様性に寛容な社会の実現に資することを目的として「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が公布・施行されました。そこでは事業主の役割として、労働者の理解増進に自ら努めることが努力義務として明記されています。

(画像:日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査結果を公表します│経産省)

ダイバーシティをはじめとするDE&Iを進める上で土台となるのが人権尊重の考え方です。世界では、2011年にビジネスと人権に関する指導原則が作られ、人権を尊重する企業の責任が示されました。企業は人権を尊重する責任を果たすために、人権方針の策定やサプライチェーンにおける人権デュー・ディリジェンスの実施等が求められています。人権に対する取り組みを進めている企業も多く、2021年に経産省と外務省が日本の上場企業を対象に実施した調査では、760社のうち69%が人権方針を策定し、52%が人権デュー・ディリジェンスを実施していると回答しています。


企業がダイバーシティ推進と人権尊重に取り組むメリット

このように企業に取り組みが求められているダイバーシティや人権ですが、企業にとっても取り組むメリットが大きいと言えます。昨今はSNSの浸透によって、企業の広告や対応が炎上しやすい時代でもあります。こうした炎上は、ステークホルダーからの信用低下や人材流出などさまざまな悪影響をもたらします。炎上した広告を見てみると一方向の立場から描かれていることが多く、広告を企画するチームの従業員が多様であれば防げていたのではと推察できます。

他にも2021年、新疆ウイグル自治区での強制労働に関与していると疑われた大手アパレル会社の製品が、米国で輸入差し止めにあいました。この件をめぐっては他にも、世界的なアパレル会社が人権NGOによって告発される、不買運動にあうなど社会的な信用にも関わる事態に発展しました。このように、ダイバーシティ推進や人権尊重に取り組まないことは、企業にさまざまなリスクをもたらすことがわかります。しかし裏を返せば、取り組みを推進することでそのリスクを軽減するだけでなく、プラスの影響を企業にもたらしうるとも言えます。

(画像出典:IKUKYU.PJT│積水ハウス

例えば、積水ハウスでは、2018年9月から「男性社員1カ月以上の育児休業(育休)完全取得」を推進しています。さらにその取り組みを特設サイトで社内外に向けて発信することで、企業イメージの向上にも繋げています。積水ハウスの取り組みについては過去の記事でも詳しく紹介していますので、ご覧ください。

2021年のコーポレート・ガバナンス・コードの改訂においても、「人権尊重」の課題への対応は、リスクを減らすのみならず、収益の機会にも繋がる重要な経営課題であると認識し、取締役会は能動的に取り組むべきであると明示しています。

マッキンゼー・アンド・カンパニーの2017年の調査では、経営陣における性別の多様性が高い上位25%の企業は、下位25%の企業よりも平均以上の収益を出す可能性が21%高いという結果が出ています。また、ボストンコンサルティンググループの調査によると、直近の3年間で、管理職の性別の多様性が最も高い企業は革新的な製品やサービスから収益の約34%を生み出している一方、多様性が最も低い企業の数値は約25%となっており、女性管理職の割合が高いことは破壊的イノベーションと正の相関関係があることを示唆しています。

企業活動における人権尊重は、投資家や金融機関から資金を調達するという観点からもその重要性が増しています。環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governanceで構成されるESG投資においては、投資先のESGの取り組みを評価して投資対象を選別します。ダイバーシティ推進や人権尊重は「社会」に区分される重要な取り組みの1つとして捉えられています。


企業がダイバーシティ推進や人権尊重に取り組む際の課題

(画像:7割がD&Iの重要性を認識する一方、6割が推進に難あり。JobRainbow調査で見えてきたD&I推進の現状と課題│株式会社JobRainbowプレスリリース

ダイバーシティ推進や人権尊重に取り組む企業は増えてきているものの、推進に課題を抱えている企業も多くみられます。株式会社JobRainbowが企業のD&I担当者に取ったアンケートでは、回答者の約6割が「D&Iが自社・団体内で進んでいない」と回答しました。中でも全社的な取組みや個人レベルでの変革アクションを妨げているのが、D&Iに対する理解度の差であるという声が多数挙げられました。その中には例えば、D&Iを重要だと認識するだけで自然に推進すると考えている、偏見に基づいた言動が改善されない、障害者雇用や女性のキャリア支援にとどまるなどの声もありました。

こうした声の背景にあるのが「マジョリティ側の特権」や「アンコンシャスバイアス」であり、従業員がダイバーシティ推進や人権尊重を自分ごと化する際のハードルになっていると考えられます。


マジョリティ側の特権

生まれながらにして社会的な特権を持っている人は、その特権に自ら気づくことは難しいと言えます。自分は特権など持っておらず「ふつう」だと思っている方は、以下のチェックリストの各項目で自分が当てはまる方にチェックを入れてみてください。

(画像:出口 真紀子:マジョリティの特権を可視化する~差別を自分ごととしてとらえるために~│ひろげよう人権

どちらが多く当てはまったでしょうか。マジョリティ性を多く持つ人は、社会でも差別や偏見の対象とならずにすんでいることが多く、それこそがまさに社会的な特権と言えます。

『社会ではマジョリティに対してドアが開きやすいしくみになっており、マイノリティに対しては自動ドアが開かないことも多い。マイノリティはドアが開かずに立ちはだかるため、ドアの存在を認識できるし、実際認識している。しかし、マジョリティ側はあまりにも自然に常に自動ドアが開いてくれるので、自動ドアの存在すら見えなくなってしまう。』(出口 真紀子:マジョリティの特権を可視化する~差別を自分ごととしてとらえるために~│ひろげよう人権

無意識な特権を持つマジョリティは、自動ドアの存在にすら気づいていない、つまり自らの周りにどんな差別や人権侵害があるのかさえ気づいていない可能性があります。加えて、日本は世界の中でも比較的人権への意識が薄いこともあり、人権が自分とは程遠い存在になっている人も多いと考えられます。


アンコンシャスバイアス

(画像:福岡県女性の活躍推進ポータルサイト│福岡県人づくり・県民生活部男女共同参画推進課 女性活躍推進室

アンコンシャスバイアスとは、日本語で「無意識の偏ったモノの見方」を意味します。他にも、「無意識の思い込み」「無意識の意見」「無意識バイアス」等と言われます。多くの人は、自分は偏見など持たず、公平に物事を見ていると考えています。しかし、人は誰もが偏見を持っています。

例えば、「親が単身赴任中です」と聞いた場合、両親のうちどちらを思い浮かべるでしょうか。まずは父親を思い浮かべるという方も多いのではないでしょうか。また男性から育児や介護休暇の申請があると「奥さんは?」と咄嗟に思う、子育て中の女性に転勤を伴う仕事の打診はしない方が良いと思うなど、「性別」で仕事や役割を決めてしまうことはよく起こります。他にも、血液型を聞いて相手の性格を想像する、性別や世代、学歴などで相手を見るなどもアンコンシャスバイアスです。

こうした無意識の偏見の弊害は、本人には差別をしているという自覚がなく、さらには自分はきちんと対応できていると思い込んでいるという点です。アンコンシャスバイアスに気づけないと、例えば自らは差別しているつもりがない上司が部下の評価を正当に行えなかったり、セクハラやパワハラにつながったりし、結果的には従業員の不満の増加やモチベーションの低下により人材が流出することになってしまいます。

制度や数字目標といった形だけのダイバーシティ推進や人権尊重に陥らないためにも、従業員の自分ごと化は重要です。そして、その自分ごと化のためには、マジョリティ側の特権やアンコンシャスバイアスに自ら気づくことが第一歩となります。では、その気づきを促すためにはどうすれば良いのでしょうか。


YUIDEAが提案する「対話」を中心にした社内浸透プログラム

そんな課題感を解決するために、YUIDEAでは社員同士の「対話」を中心にした「サステナブル・ブランディング研修プログラム」を提供しています。身近な自分自身の興味や関心を認識することで、自社の取り組むダイバーシティ・人権尊重を含むサステナビリティの課題を難しく捉えず、「対話」を通して自分ごと化することが可能となると考えているからです。

実施をさせていただいた某企業様の例では、100名近い参加者の8割以上が「満足」と回答し、定期的な研修実施を希望すると回答してくださいました。

何より「対話」を通して、自分の考えを言語化することで「会社の中だけではなく、普段の生活(見聞きするニュース)からサステナビリティへ対する意識が高まった」など、「行動変容」に繋がったと回答してくださった参加者が多くいらっしゃいました。

私たちがポイントを置いているのは、対話を促すための「問い」の設定です。それぞれの企業が、それぞれのサステナビリティへの想い、そしてダイバーシティ・人権尊重への課題感がありますが、その状況を詳しくお伺いし、適切な「問い」をたてることを重視しています。意味ある「問い」を持つことは、人の思考と感情を刺激しますし、集団の対話というコミュニケーションを誘発します。結果として、新たな意味やアイデアを創発しやすくなるとされています。「答え」のないサステナビリティに関することだからこそ、対話のために必要な「問い」を考えることはとても重要なのです。


YUIDEAの「サステナブル・ブランディング研修プログラム」ダイジェスト版は下記よりダウンロード頂けます。


「サステナブル・ブランディング研修プログラム」に関するより詳しい内容やご提供事例については個別にご案内させて頂きますので、下記よりお問い合わせください。
Sustainable Brand Journey編集部
mail: sb-journey_ml@yuidea.co.jp

【参考URL】
人事担当者600人を対象にした「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I」)に関する調査」 | アデコ株式会社のプレスリリース
女性の活躍促進 | 内閣府男女共同参画局
ビジネスと人権に関する指導原則│外務省
ビジネスと人権~責任あるバリューチェーンに向けて~ │経済産業省
日本企業の人権に関する取り組み状況の調査結果を公表(経産省など)│日本商工会議所
Delivering through diversity│McKinsey & Company
Innovation Through Diversity│Boston Consulting Group
7割がD&Iの重要性を認識する一方、6割が推進に難あり。JobRainbow調査で見えてきたD&I推進の現状と課題│株式会社JobRainbowプレスリリース
共同参画第144号│内閣府男女共同参画

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