おいしくて、便利で、サステナブル。 テクノロジーで新たな価値を生み出す植物工場野菜『INDOOR』

(2024.1.30. 公開)


#持続可能性 #SDGs #気候変動 #再生可能エネルギー#サステナブル #エシカル消費 #マーケティング #CO2排出量削減 #サステナビリティ


気候変動による農作物の被害などが深刻化する中、持続可能な食料生産システムの構築が求められています。そんな中、その1つの解決策として注目したいのが植物工場です。植物工場というと近未来的なイメージを持つ方もいるかもしれませんが、実は植物工場野菜はすでに私たちの身の回りに当たり前のように存在しています。

2007年から植物工場を運営している株式会社スプレッドの植物工場野菜は、現在約5,000店舗のスーパーで販売されています。さらに、2024年3月には人と地球にやさしい新たな植物工場野菜ブランド『INDOOR』のリリースが予定されています。今回は、スプレッドのマーケティング部ゼネラルマネージャーである平山氏に、新ブランド立ち上げの背景やそのブランディング、サステナビリティを実現する革新的な技術についてお話をうかがいました。


洗わず、長持ち。
これまでにない植物工場野菜ブランド『INDOOR』


(画像:『INDOOR』商品ラインナップ、株式会社スプレッド提供)

ーまずは、新ブランド『INDOOR』について教えてください。

平山氏(以下平山):『INDOOR』は、持続可能性と健康的な暮らしをテーマに、未来の食作りに取り組むブランドです。商品としてはレタスになるんですが、大きな株で販売するINDOOR LEAFと、カットした状態で販売するINDOOR SALADの2つがあります。さらにINDOOR SALADは、オフィスや屋外でも食べやすいボウル容器のものと、冷蔵庫でコンパクトに保管しやすいフィルム包装の2種類を用意しています。植物工場野菜のレタスは多く出回っていますが、一般的な大きさは80gなので、200gという大きな株は『INDOOR』ならではの大きさです。

ーいずれも洗わずそのまま食べられ、しかも消費期限が長いという特徴がありますよね。

平山:そうなんです。レタスは、Techno Farmという弊社の次世代型植物工場で土を使わずに栽培をしています。さらに、Techno Farmは完全に閉鎖された屋内空間で自動化も進んでいるため、人の出入りも少なく病害虫や雑菌などもが入り込みにくい環境になっています。そのため、通常の畑でとれる野菜と違いご家庭で洗う必要がなく、殺菌も最小限で済みます。

この殺菌の必要性がほぼないという点は、消費期限にも影響します。カットレタスのINDOOR SALADは、消費期限が最大で6日と、通常のカットレタスと比較して長いのが特徴です。ここまで消費期限を延ばせるのは、弊社の次世代型加⼯⼯場であるTechno Freshの特別な洗浄技術と包装技術によるところが大きいですが、それに加えて、そもそも殺菌の必要があまりないという点も大きいです。通常、畑で栽培されたカットレタスは、殺菌をすることによってある程度まで日持ちさせることができるんですが、一方で野菜へのダメージも結構あるんですよね。一般的には殺菌による日持ちというのは3〜4日が多く、それ以上は伸びない。逆に、『INDOOR』のレタスは水洗いや殺菌の工程を省略でき、野菜がダメージを受けにくいため、自然の力で消費期限が伸びていきます。まさに植物工場だからこそ実現できる価値と言えますね。


作り手も消費者も安心して暮らせる世界へ
テクノロジーで実現する『INDOOR』のサステナビリティ


(画像:『INDOOR』ブランドプロミス、株式会社スプレッド提供)

ー持続可能性と健康的な暮らしをテーマにしているだけあり、さまざまな利点がありますよね。お話を聞いていて、『INDOOR』もですが、そもそも植物工場自体がこれからの時代に必要とされているものだなと感じました。

平山:そうですね。実は植物工場を始めたきっかけも、社会課題にあります。弊社代表の稲田が元々青果流通に携わっていた時に農家の方と話す中で、農家の高齢化や後継者不足といった課題が見えてきました。また、当時から温暖化というのも言われ始めていて、やはり農家にとって一番の敵が気候ということもわかりました。そこで、気候に左右されない農業をやってみようと、2006年にマンションの一室から植物工場に向けた試行錯誤を始めたのがスプレッドの始まりです。今後、異常気象による水不足や農作物の被害拡大などが予想される中、植物工場は作り手も消費者も安心して暮らせる世界をつくるのに大きな役割を果たせると思っています。

平山:『INDOOR』の話でいうと、例えば食品ロス削減に貢献できるという点もあります。ご存知の通り、特に葉物野菜は使えない部分もいっぱいあるので、通常は生産歩留まり率が5〜6割程と言われています。それが我々の場合だと、97%くらいまで上がるので、食品ロスの削減につながります。また、さきほどお話したようにTechno Farmで栽培されたレタスは殺菌の必要がほぼないため、通常の加工と比べて水使用量も少なくてすみますし、そもそも栽培時に使用する水も循環させているので、水の使用量を大幅に削減できています。

(画像:植物工場で栽培されるレタスのイメージ、株式会社スプレッド提供)

平山:工場での水使用量を大幅に削減しているため、海外など水資源の乏しい地域でも生産が可能となります。また、海外で展開することを目指して自動化にも取り組んできました。弊社が最初に操業を開始した亀岡の植物工場は、ほぼ人手で運営していまして、他社さんでも同じように運営されているところが多いのかなと思います。ですが、海外で展開する際には、温度も、働く人の文化も慣習も、水資源の豊富さも、さまざまな要素が日本とは異なります。どこでも、誰が扱ってもおいしく生産できるようにするには、人の手ではなく機械化していかないと難しいのではと思い、10年近く自動化の開発を行ってきた結果生まれたのが、今回のTechno Farmになります。いま京都の自社工場の『テクノファームけいはんな』と、パートナー工場である『テクノファーム成田』は、種まきから発送するまでの工程のうち約7割が、2024年2月から稼働を開始する『テクノファーム袋井』では8割が自動化されています。

ー植物工場、しかも自動化も進んでいるということで電力使用量も多そうなイメージがあるのですが、その辺りはなにか取り組まれているんでしょうか。

平山:エネルギーに関しては、太陽光発電を取り入れていて、今後再生可能エネルギーもどんどん取り入れていこうとしています。また、植物は光合成をしますので、レタスの栽培環境を整えるにあたって、空気中にあるCO2だけでは濃度が足りないこともあります。そのため、産業活動をする中で排出されるCO2を追加で補充しています。ゆくゆくは、DAC(直接空気回収技術:大気から直接CO2を分離・回収する技術)を植物工場に搭載できたらと考えています。


累計販売数 1億食達成の中で感じた生活者との距離
『INDOOR』立ち上げの背景

画像:累計1億食を販売した『ベジタス』、株式会社スプレッド提供)

ー今回『INDOOR』というブランドを開発することになったきっかけは何でしょうか?

平山:2007年に京都の亀岡で一番最初の植物工場の操業を開始して以来、当時こそお店に植物工場野菜を並べてもらうのに苦労をしましたが、徐々に並べてくれるお店も増え、この15年程で累計販売数が1億食を突破しました。

さきほど話に出たように、植物工場というのは、農家の高齢化といった社会問題に対するアプローチという側面もあり、一時期は政府の援助もありながらすごく拡大した時期もありました。

一方で、一般の生活者をあまり意識せずに進んできたというのも事実です。そのため、取り扱いスーパーが約5,000店、累計販売個数が1億といっても、植物工場の野菜だと意識して購入されている方はすごく少ないんですよね。買ってもらってはいても、植物工場で栽培されていることや、植物工場の良さなどが実は知られていないという点がポテンシャルでもあり、課題でもありました。

自分自身もそうですが、ここ数年は本当に気候変動がただごとではなさそうだというのを一般の生活者の方も感じ始めています。その1つの解決策として、改めて植物工場野菜というのを知ってもらおうという想いがあり、今回の『INDOOR』開発に繋がりました。それもあり、ブランド名は『INDOOR(=屋内)』とわかりやすい名前をつけています。


おいしくて、健康で、便利で、サステナブル。
『INDOOR』ならではのブランド価値

(画像:『INDOOR LEAF』(インドア・リーフ) Ecological Pack™、株式会社スプレッド提供)

ーこれまでお話しいただいたように、サステナビリティに関して訴求できるポイントがさまざまにありますが、一般生活者の方に対しては、どのようにそれを伝えようと思っていますか?

平山:一般生活者の方が日頃からエシカル消費のような買い物の仕方をするかというと、まだまだそうではないとも思っているため、社会課題やサステナブルといった側面のみを全面的に出さないようにしています。商品自体はそうしたコンセプトを持ちつつも、まずはおいしくて、健康的で、便利。これが満たされていると同時にサステナブルであることが『INDOOR』の価値だと思っています。

価格に関しても、サステナブルだから価格も高くて当然というのは売り手としては違うと思っているため、そこに対しての努力ももちろん必要だと考えています。サステナビリティを意識せずに買ったものが、実は社会や環境に対して良いものだった、という状態だと買い続けていただけると思いますし、それが一般の生活者にとっても、我々にとっても持続可能な形だと思います。

パッケージでもサステナビリティを前面には訴求していませんが、INDOOR LEAFに関しては紙のパッケージを採用し、環境への配慮をイメージできるようにしました。分別も紙になりますし、折り曲げたり巻いたりと、残ったレタスを保管しやすいというのもメリットです。パッケージでサステナビリティを訴求していない分、QRコードからブランドサイトに飛べるようにしていて、そこで詳しく『INDOOR』の持続可能性と健康的な暮らしについて見ていただけるようになっています。あとは、パッケージについている「Techno Farm」「Techno Fresh」といったマークを、我々のクオリティマークとしてゆくゆくは生活者の方に認知してもらいたいなと思っています。

ー卸先からの要請で変わってきているなと感じることはありますか?

平山:小売流通などでは、やはりSDGsが盛んになってきた頃から、それまでの商品価値だけではなく、社会・環境的な価値への意識が高まったと思います。経営理念やビジョンの中にそういったものを入れ、それに合致する商品をできるだけ取り扱おうという動きも見られます。結局は、消費者の要請があればそれに答える必要がありますよね。一方で、サステナブルだからという理由だけで仕入れる企業は、なくはないですが多くはないです。植物工場の野菜を扱う理由はやはり、季節や気候に左右されず、年間を通して安定的に一定のクオリティと金額で納品できる植物工場ならではの理由が大きいと思います。


ー今後の展望をお聞かせください

平山:気候変動がますます深刻化していく中で、植物工場は、環境に悪影響を与えないだけでなく、異常気象などの影響を受けないという利点があります。今後も植物工場を広げていくことで、より良い明日、より良い未来を作ることができたらと思っています。

植物工場で栽培する品種は、今はレタスが中心ですが、イチゴの栽培技術も開発していますし、穀物や代替肉にもチャレンジしているところです。自動化に関しては、将来的にはすべてオートメーション化し効率もあげつつ、クリーンな環境で栽培することで、質も量も満たした生産システムを目指そうとしています。世界各地の工場を京都でコントロールしつつ、それまで野菜の栽培が難しかった地域での栽培を可能にし、地域での新たな食文化や人々の健康に繋がれば良いなと思っています。

【参考】
INDOORブランドサイト
株式会社スプレッド企業サイト
人と地球にやさしい、新ブランド『INDOOR』2024年3月発売


■執筆:contributing editor Eriko SAINO
#ファッション #トレーサビリティ #エシカル消費 #人権 #フェアトレード #気候正義

お問い合わせはこちら