最新サステナブルコスメ「ニュースケープ」
原価開示、オーガニックで無香料…
常識に縛られない“化粧品の在り方”に挑戦

(2023.12.1. 公開)

#インタビュー #商品開発 #ニュースケープ #オーガニックコスメ #マーケティング #プロダクトブランディング #環境 #サステナブル

2023年7月にデビューしたナチュラル&オーガニックのスキンケアブランド「ニュースケープ(newscape)」。ブランドを手がけるのは、元マッシュビューティーラボ副社長であり、オーガニックやサステナビリティの分野を牽引してきた小木充氏です。
製造原価の公開や、香りで魅了すると言われるオーガニック分野の商品でありながら「限りなく香らない無香料」を打ち出すなどのユニークな価値を提供するニュースケープ。
その開発背景や、従来のマーケティングとは一線を画するアプローチについて小木氏に伺いました。


個人に近い形だからこそ提供できる
ユーザー価値と社会課題へのアプローチ

―そもそも、新ブランドを立ち上げようと思った理由は?

小木氏(以下、小木):20年ほど前に仕事で訪ねたアメリカのホールフーズ・マーケット(無農薬や無添加の食品を扱う米国の自然派大手スーパーマーケット)でカウンセリングをうけたんです。僕は生まれた時からアトピーで、自分に合った自然由来の化粧品やサプリメントを紹介してもらったところ、短期間で劇的に肌が変わったというナチュラル・オーガニックのすばらしさを実感する原体験がありました。

その後、縁があってマッシュビューティーラボでコスメキッチンや新業態、新ブランドの立ち上げに関わり、ナチュラル・オーガニック 化粧品市場を日本に創り、成長させていく過程に携わることができました。都内に数店だった店舗は十数年を経て全国区規模となっていました。非常にやりがいは感じていたのですが「自分が本当にやりたかったことはこれか?」と自問自答するように。次第にその想いは強くなり、「組織とは離れて自分一人で何かをやってみたい」という身勝手な願いを会社に受け入れてもらい、独立しました。

そうして取り組んだのがニュースケープです。せっかく個人としてやるのだから、雇用や事業性に縛られすぎることなく、ユーザーにも社会にもメリットがあり、大手がやらないことを思考してみました。その結果、1円単位までの製造原価開示と限りなく香らない無香料にいきつきました。 CO2排出量・廃棄物実質ゼロや脱プラスチック化といったサーキュラーエコノミーへの取り組みや、原料の全てが100%自然由来で肌への効果を生み出すといったナチュラル・オーガニックコスメとしての実力もしっかりおさえています。


(ニュースケープの製品)

業界の常識に縛られない発想で実現した
1円単位までの製造原価の開示

―製造原価を開示することは業界的タブーという気もしますが、なぜ敢えてオープンに?

小木:既存の常識にとらわれず、ゼロベースでいま自分が創りたいもの、創るべきものを思考したときに「そもそも原価を隠す必要があるのかな?お客様は“知る権利”を持っているのではないか」という考えにいきつき、ニュースケープではすべての製品の外箱に、製造原価を1円単位まで詳細に表記することにしました。それによって、「容器って案外高いんだな」とか、「外箱にもお金がかかるようなら省いてもいいのでは?」といった化粧品を構成するものについて考えるきっかけをユーザーに提供することができます。製造原価開示は原料メーカーや製造工場の承諾があってこそできたことなので、彼らには本当に感謝しています。

原価の話からは外れますが、お客様の“知る権利”には原材料や原産地域も含まれると考えています。ニュースケープはオーガニック認証を取得していませんが、それ以上の厳しい基準で製造しています。認証取得製品の中には原材料がオーガニックであることはわかっていても原産国がわからないものもある。ニュースケープではそういった原材料は扱いません。あらゆる面において、透明性を心掛けているんです。


(外箱に原価を明記)

―通常、化粧品の製造原価率は10~20%と言われていますが、敢えて50%以上の価格設定にした理由は?

小木:適切なプライシングとは何かを突き詰めた結果、「商品値引き」や「送料無料」ありきの価格設定とは決別することにしました。肌にも社会にも環境にもいいものを、あらゆる世代の人に使ってほしいという願いも込め、1000~2000円台の価格設定としています。この価格帯だったら、学生や社会人になりたての人たちにも手に取ってもらえるのではないか。エシカルなものに興味はあっても価格的に購入が難しいという人たちにも門戸を広げたかったんです。
より多くの方に使い続けていただける価格設定へのチャレンジも、個人に近い形での運営だからこそ実現できたことです。

―オーガニックコスメは精油の香りが魅力とも言われますが、なぜ無香料に?

小木:植物の香りはもちろん魅力的ですが、良い香りの製品は既に世の中にあふれています。一方、自分の娘がそうだったのですが、香りに敏感な体質だったり、妊婦さんや更年期の女性などのように一時的に香りが苦手になっている人もいる。香りがついてない方がいいという男性の声も聞く。そういった方々に向けて、ナチュラル・オーガニックでありながら、unscented(限りなく香らない無香料)に取り組みました。これは、僕自身が長年業界にいて10,000以上のプロダクトを試してきたから、たどり着いた発想なのかもしれないですね。原料臭をなくすことは非常に難しく、製造に関わる工場の人たちに粘り強くかけあって挑戦し続けてもらった結果、実現することができました。香りがない分、自分の肌に集中できるという声もいただいています。化粧品のテクスチャーやユーザー自身の肌の状態に、より深く向き合ってもらえるようです。


敢えてターゲットを絞らず
人々の感情に揺さぶりをかけることを目指す

―販売は自社ECサイトを通じての直販のみですか?

小木:ポップアップ等はあるかもしれないが、自社ECサイトでの販売を基本としています。原価率の都合上、卸しという選択肢は考えていません。原価率が55%(外箱に記載されている原価率は約50%だが、税抜き価格で表記しているので実際は55%前後)なので、卸価格が現実的でなくて。

ニュースケープのECサイトには、インスタグラム経由でたどりついてくれる方が多いです。インスタグラムには毎日投稿しており、半年先まで投稿内容が決まっている。ブランド認知を拡大する時期に必要となる投稿内容を自分で設計して、画像もローンチ前に半年分をパリで撮影してきました。

販売手法もPRについても、「原点回帰」の考え方を大事にしています。オンラインで手軽につながれるのはもちろん素晴らしいことですが、ユーザーともインフルエンサーとも、もっと深くじっくり関係性をはぐくんでいきたい。派手なPRや広告活動よりも、本当に好きな人、共感してくれる人にきちんとリーチしていくために、たとえフォロワーは多くなくても、ブランドに心から共感してくれて、自分の言葉で感想を紡いでくれる人とつながりをもつことを基本的なスタンスとしています。
ニュースケープのPR活動は、数名の方にサポートしてもらっているのですが、彼らに伝えているのは「イベントに人を集めることやインスタのフォロワー数を増やすことを求めているのではない。やりたいのは、ブランドのコンセプトや世界観に共鳴してくれる人を見つけること。数ではなく、熱狂的なファンとつながりをもっていきたい」ということです。商品や情報をばらまくのとは違ったアプローチ、共感、共鳴を生むアプローチについて一緒に考えてもらっています。


(ファウンダーの小木充氏)

―具体的には、どのような人たちにどんなアプローチを行うのでしょうか?

小木:ニュースケープは生後半年から極端な言い方をすれば息を引き取る寸前までのすべての方に使っていただける商品。敢えてターゲットを絞り込んでいません。年齢や職業ではなく、ニュースケープに共感してくれるすべての人がターゲットだとも言えます。刺激が少なく、香りの好みに影響されず、エイジングケアもできる処方。そのため、インスタライブも、更年期ケアのお話が得意な方やママディレクターの方、メンズスキンケアの専門家など様々な切り口で商品を紹介していく予定です。また、マーケティング、ペルソナもほとんど意識していません。教科書通りにモノが売れなくなってきている時代ですし、今はみんなもっと感覚的に商品を選んでいるのではないかと感じています。感情が高ぶればその商品を使いたくなるはずで、そういった感情の揺さぶり、心が震えるような体験をニュースケープで生み出していきたい。僕自身が20年前にホールフーズ・マーケットでびっくりしたような体験、忘れなれない体験を提供するための試行錯誤をしていきたいと考えています。

―今後の展開は?

小木:シンガポール、タイ、ベトナム、マレーシアといったアジア圏に進出したいと考えています。ビジネスとして大きく拡大というよりは、小規模でもいいのでブランドの在り方に共感してくれる方に取り扱ってほしいです。ディストリビューターとなってくれる人や会社が、目を輝かせながらニュースケープについて語り、わくわくするような新しい体験をする。そこで生まれるエネルギーをもらいたいです。今はまだ調査をしたり、人に会ったりしている段階だが、良いご縁が生まれるのではないかと思います。

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個人に近い形だからこそできる新しい価値の提供に挑み続ける小木氏。
ニュースケープが見せてくれるさらなる“新しい景色”がどのようなものになっていくのか。今後がとても楽しみです。

【参考】
newscape(ニュースケープ)公式サイト

■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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