SDGs目標16「平和と公正」争いのない平和な世界を実現するために、多様な企業や個人の協働を呼びかける

(2023.11.20. 公開)

この日、この一日だけは、せめて停戦と非暴力の日にしよう。毎年9月21日の国際平和デーは、敵対行為を停止するよう、すべての国と人々に働きかけるために国連が定めた平和の記念日だ。この記念日に合わせて、世界中でさまざまなイベントが催されているが、日本では国際平和映像祭(UFPFF, UNITED FOR PEACE FILM FESTIVAL)が毎年開催されている。平和やSDGsをテーマに世界各国の学生から応募作品を募るショートフィルムの祭典だ。第13回目となる「国際平和映像祭2023」は、一般財団法人PEACE DAYとの共催イベントとして、2023年9月18日に東京のヒューマントラストシネマ渋谷にて開催。世界55ヵ国の学生が「戦争と平和」を多様な視点で捉えて製作した258本の短編の中からファイナリスト10作品が選ばれ、その上映とグランプリの選考会が行われた。


平和の実現には「ウェルビーイング」が必要

オープニングトークには、一般財団法人PEACE DAY代表理事 井上 高志氏、国際平和映像祭 代表理事 関根 健次氏が登壇。井上氏は、「地球の健康、社会の健康、ひとりひとりの心の健康」が平和とつながり、平和の実現にはウェルビーイングが重要であると指摘した。関根氏は「平和は行動の結果であり、自然にもたらされるものではない」との意見のもと、「能動的に行動を起こすためにはいろいろな作品を見て、感じたことを、SNSでつぶやいたりシェアしたりすることも、ひとつの大切な行動だ」と訴えた。


(左:一般財団法人PEACE DAY代表理事 井上高志氏、右:国際平和映像祭 代表理事 関根健次氏)


その後、劇場公開前のドキュメンタリー映画『ミッション・ジョイ ~困難な時に幸せを見出す方法~』(2024年1月12日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷で公開予定)が特別先行上映された。この作品は、ダライ・ラマ14世とデズモンド・ツツ大主教、ノーベル平和賞を受賞した二人が「JOY」すなわち歓びや幸せについて、それぞれの考えや想いを語り明かすという内容だ。中国による侵攻を逃れてインドに亡命したダライ・ラマ14世と、南アフリカのアパルトヘイト廃絶のために力を尽くしたデズモンド・ツツ大主教。壮絶な体験と幾多の困難をかいくぐってきた二人だが、映画では明るい笑い声とユーモア、ポジティブな言葉があふれている。


(『ミッション・ジョイ ~困難な時に幸せを見出す方法~』 配給:ユナイテッドピープル株式会社)

困難に直面した時、私たちはどのように幸せを見出すことができるのか? この壮大かつ難しい問いに対し、二人の対話からひとつのヒントが提示される。科学的な検証において「他者に親切にした人は、そのあと2~3週間も幸せが持続した」との結果を踏まえて、「幸せの本質は自分の中にある」とダライ・ラマ14世が言うと、ツツ大主教も「人は幸せを、大きな家や報酬といった外に求めてしまうが、幸せは外にはなく、自分の内側にしかない」と共鳴した。

上映後のトークセッションには、人権をテーマにプロデュースした偉人伝記漫画シリーズで知られる清水ハン栄治氏が登壇。ウェルビーイングはスキルであり、筋肉と同様に鍛えられるものだと語った。さらに映画の感想として、ダライ・ラマ14世が行っている慈悲の瞑想について触れた上で、「嫌いなものをつくらない」「目に映る人、全員に愛情を渡すイメージを1日5分、5日間やってみるだけで圧倒的に幸せを感じられるようになる」と、“幸せになるヒント”を会場に集まった人々に共有した。


(左から関根健次氏、清水ハン栄治氏、井上高志氏 ©Masatomo Ohmiya)

SDGsや平和を捉える多様な視点と感性

メインイベントである「国際平和映像祭2023」では、過去最大となる55ヶ国258エントリーの中から選出された10のファイナリスト作品が上映された。併せて、選出された作品の学生監督たちが登壇またはビデオメッセージで、それぞれの作品にこめる想いを語った。

ある人は「戦争の記憶」を語り、ある人は今まさに起きている「戦争の現実」を映し撮る。ある人は「平和であるとは、どういうことか?」に思いをめぐらせ、ある人は「平和であるために必要なもの」に焦点を絞る。またある人は私たちの身近にありながら、見落としてしまっている「一人一人にあるべき自由」や「自分らしく生きる幸せ」に光をあてる。選ばれた10作品を見るだけでも、「平和」や「SDGs」を捉える視点はどれひとつとして同じではなく、とても多様だ。


(作品にこめた想いや制作の背景を語る受賞した学生たち ©Masatomo Ohmiya)

その中からグランプリを受賞したのは、アニメーション映画『ソング・オブ・ザ・ウェイブス』(コロンブ・ド・ヴァラヴィエーイ/IIMデジタルスクール/フランス)だ。ここ数年、内戦や紛争により国外に逃れる途中、地中海で亡くなる難民が数万人にものぼり、年々増えつづけている 。この事実を基に、10人の学生たちの共同作業で制作された。彼らは難民を支援するNPOから話を聞きイメージを膨らませたと、制作過程を明かした。わずか10分の短編でありながら、ボートに乗り合わせたすべてのキャラクターに背景とディテールが設定され、それにより、言葉がなくても圧倒的なリアリティで観る者の心を揺さぶる。
映画では、小さなボートに乗り合わせた子どもや老人、妊婦などを含む多くの難民たちが地中海で嵐に遭い、海の藻屑と消えてしまう。無数の命が赤く燃える花となって暗い海を漂う、美しくも悲しいラストシーンは、日本の灯籠流しと重なった。




準グランプリは『町の平和を記録する 〜半世紀の地域文化貢献〜』(銭晟揚/上智大学/中国)。長野県御代田町にある世界一小さなテレビ局。40年以上にわたり、毎日欠かさずこの町のあらゆる「平和」を記録し発信しつづけてきた地域密着放送を追いかけたドキュメンタリーフィルムだ。作者は、この作品を撮ることを通じて、記憶と記録の大切さに気づいたという。記憶と記録によってその地域の文化が育まれ、まちづくりの礎になる。他愛もない日常を記録しているだけに見えて、それが地域の文化貢献につながっているのだ。
先述のドキュメンタリー映画『ミッション・ジョイ ~困難な時に幸せを見出す方法~』でも、ツツ大主教が「世の中は悪いニュースばかりが発信されてしまうが、家族愛や思いやりにあふれたニュースも世界にたくさんある。そうしたニュースも伝えていけると、世の中を明るくポジティブにしていけるのではないか」と語っており、審査員からも「平和を記録する」という視点を評価する声が挙がった。




審査員特別賞には、『私たちの権利』(杜 宇萱 Usen To/早稲田大学/中国)が選ばれた。作者は留学生として来日し、中国と日本の労働問題に関心を持ち、外国人労働者支援のボランティアに参加。その過程でベトナム人の技能実習生と出会い、技能実習制度の問題を提起するドキュメンタリー映画を撮った。「自分の問題だけじゃなく、他の外国人が我慢を強いられている状況を変えたい」と、作品にかけた想いを壇上で明かした。




人権は、いま多くの企業(とりわけ複雑かつ大規模なサプライチェーンをもつ大企業)にとって、避けがたい重要なイシューだ。
審査員であり映画監督の丹下紘希氏からも「これを外国人の問題としているうちは何も変わらない。自分たちの問題と考えることが重要だ」とコメントを寄せた。同じく審査員のサヘル・ローズ氏からも、外国人だけでなく日本人も含めて、ハラスメントに悩む人たちが声を挙げることが重要だと語った。

パートナーシップで、世界平和に貢献するムーブメントをおこしたい

この映画際を後援する国連広報センターを代表して、所長の根本かおる氏は「映像作品と平和の連携」を強調した。「世界のあちこちで分断が起き、核兵器が威嚇の道具として使われている。そんなときだからこそ、映像を通じて、人の心を動かすことが重要になる。これらの映像作品が、平和の実現にむけてよりいっそうの対話を生み出すきっかけになれば」とビデオメッセージを通じて願いをこめた。


(ファイナリストに選ばれた学生、審査員、主催者・運営事務局メンバーが集い、記念撮影を行った ©Masatomo Ohmiya)

国際平和映像祭の代表理事を務める関根氏も「戦争のない世界をつくりたい、人が人を殺さなくてすむ世の中にしたい」と、活動の源泉となる平和への想いを明かす。PEACE DAYの認知をもっとひろめ、世界に発信したい。そのためには企業の協力が不可欠だとも指摘した。

平和を実現したいという想いに共鳴した企業とのコラボレーションは拡大しつつある。
関根氏も理事に名を連ねる一般財団法人PEACE DAYは2019年に設立された。代表理事の株式会社LIFULL代表取締役 井上高志氏を筆頭に、さまざまな立場や分野からそれぞれの想いを持ったメンバーが集まる。「平和を信じる一人ひとりの想いと行動をつなぎ、パートナーシップで実現する仕組みを創る」をミッションに掲げ、あらゆる垣根を越えて多様な企業・個人・団体に協働を呼びかけている。

一例として、国際平和デー当日に代々木公園で開催された音楽フェス「PEACE DAY」では、花キューピット株式会社が、希望と共に新しい一歩を踏み出す象徴として、ひまわりの花を来場者にプレゼントした。

さまざまな企業があり、その事業内容に応じて、それぞれに可能な貢献のかたちがある。映像という表現方法と同様に多様なアプローチがあり、それをストーリーで体感することで共感が生まれ、「争いをなくし、平和を実現したい」との想いがひろがっていく。


<国際平和映画祭2023ファイナリスト作品/監督/所属学校/国籍>
『私たちの権利』(杜 宇萱 Usen To/早稲田大学/中国)
『茶神の樹』(ダオユアン・チー/北京師範大学付属実験中学/中国)
『未来の子ども部屋』(会津 万葉子、鈴木 倫子/慶應義塾大学/日本)
『アリスへ:ニーベルスン 1940年』(マチルダ・ベルンホフト-オサ/ボルダ・ユニバーシティ・カレッジ/ノルウェー)
『龍のすむ海』(宮村 弥空/日本工学院専門学校/日本)
『as long as children are there to learn』(松本 大河、三宅 佳穂/慶應義塾大学/日本)
『ソング・オブ・ザ・ウェイブス』(コロンブ・ド・ヴァラヴィエーイ/IIMデジタルスクール/フランス)
『町の平和を記録する 〜半世紀の地域文化貢献〜』(銭晟揚/上智大学/中国)
『今日もここから』(櫻井 乃衣、中野 美子、白坂 日葵、 竹下 晋平/上智大学/日本)
『その声に耳を傾けて』(椋木 りあん、楠本 夏花、湯沢 澪央/上智大学/日本)


【参考サイト】

PEACE DAY×国際平和映像祭2023

『ミッション・ジョイ ~困難な時に幸せを見出す方法~』

一般財団法人PEACE DAY

花キューピッド株式会社プレスリリース



■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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