コーヒーかすをアップサイクル! コロナ禍の生活変化が生み出したエシカルコスメ

(2023.11.7. 公開)

#インタビュー #環境 #気候変動 #サーキュラーエコノミー #アップサイクル #商品開発 #パートナーシップ #コスメ #コーヒー

豊かな香りで気持ちをなごませてくれるものの、入れることで大量のかすを生み出すコーヒー。
コーヒーかすを発酵・循環させる技術を用いて、日本初のコーヒーかすによるアップサイクルコスメを生み出したのが、エシカル&ライフスタイルコスメブランドのエベレストジャパンです。
環境に良いだけでなく、インテリアにもなりそうなおしゃれなパッケージが魅力的な製品は、代表の橋本達史さんのコロナ禍での生活と意識の変化がきっかけで生まれました。
ブランド立ち上げにまつわるエピソードと開発の経緯、今後の展開について橋本さんに話を伺いました。

アルミチューブがおしゃれなハンドクリームは、ポスターケースのような紙缶に入っている

日常の気づき×オタク力×行動力で新しいものを生み出す

コーヒーのアップサイクルコスメの前に、エベレストジャパンが最初に発売したのが、シャンプーとトリートメント。開発ストーリーはそこから始まります。
音楽業界の第一線で30年にわたり活動してきた橋本さんですが、コロナ禍で音楽イベントは一斉にストップ。外出自粛の時期が続き、家で過ごす時間が長くなりました。そんな時にふと使っている洗剤やシャンプーのことが気になり、成分を徹底的に調べ始めたそうです。

橋本さん(以下、橋本)「二人の娘がアトピーだったり肌荒れしやすかったりということもあり、もしかしたら洗剤やシャンプーが関係あるのかなと気になりだしたのですが、オタク気質なこともあり、調べ出したらもっともっと知りたくなって、最終的には300種類くらいのシャンプーを買い集めて、成分と使い心地、仕上がりの違いを調べました。家族全員で試して、どれが好きかを比べたら、好きなものが4~5種類のシャンプーに固まっていました。それらの成分を比較したら、実はかなり似通っているということがわかったんです。

ブランド立ち上げにまつわるエピソードについて熱く語る橋本さん

そんなときに、ちょうど知り合いの会社から『シャンプーとトリートメントのプロデュースをしてみないか』と声をかけられ、二つ返事で引き受けました。最初は『工場にある原材料を使ってすぐできる製品をつくればいい、広告宣伝をして売ればいい』というようなことを言われたのですが、僕はどうせつくるなら、新しくて面白いものをつくりたいし、環境性に優れたものをつくりたいと思っていました。娘たちが学校で学んだ気候変動や環境問題の話を聞いてから、自分でも環境のことを調べて、これはかなり深刻な問題だなと、できることはしたいと思っていたので、自分でつくるなら、家族みんなが気に入ったシャンプーのような成分と使い心地で、環境への負担が少ないものをつくりたいという思いがありました。

製品イメージをもとに、理想にできる限り近い形で製造をお願いできそうな工場を調べてまわりました。25社くらい訪ねたと思います。製品を完成させるまでに2年ほどかかりましたが、おかげでとても納得感があるものがつくれました」。

日常生活の雑談の中で、コーヒーかすの使用を思いつく

橋本「最初は自社のオンラインのみで製品を販売する予定でしたが、出来がよかったので、もっと多くの人に手に取ってほしいと小売店をまわったところ、『1商品だけでは難しい』と言われ、もう少しラインアップを増やそうと取り組んだのがハンドクリームです。最初にオレンジの皮由来のCBDを配合したハンドクリームをつくり、第二弾は何をキー成分にしたらいいだろうと考えていました。

ストリーマーコーヒーが好きで家から近いこともありよく行くのですが、いつものように訪ねてコーヒーを飲みながらオーナーと雑談していたら、彼が『毎日大量に出るコーヒーかすのことが気になっている。ごみの量を減らしたいから、ボードに再利用したりはしているが限られた量。もっと有効活用できないかと考えている』と言うのを聞いて、コーヒーかすを使って、ハンドクリームをつくれないかな、とふと思いつきました。

水仕事で手が荒れやすいバリスタたちもハンドクリームを愛用

コーヒーかすは粒子が大きいので下水道を詰まらせてしまう可能性があり、そのまま化粧品に入れ込むことはできません。どうしたらいいだろうと調べているうちに、静岡県にあるソーイ社を見つけました。
ソーイ社は循環型社会を目指して、資源をすべて循環させてごみをゼロにする独自の発酵技術の提供や製品開発をしている会社で。彼らがコーヒーかすを発酵させて液体化し、スイーツをつくっていることを知り、これを化粧品に応用できないかと考えました。

さっそく問い合わせたところ興味を示していただき、静岡に向かいましたが、すぐに壁にぶつかりました。食品では発酵液の中に多少コーヒーかすが残っても食感の面白さになりますが、化粧品の場合ざらつくテクスチャーはNG。化粧品に使用可能なレベルのなめらかな発酵液をつくるために、ソーイ社には何度も発酵液を試作してもらいました。

やっとなめらかな発酵液が出来上がったものの、今後はそれが他の成分とうまく混ざらないという課題が発生。化粧品には通常使わない原材料を入れ込む難しさを知りました。コロナ禍で東京から地方の工場に何度も行くのははばかられるところもあり、電話などのやりとりも駆使しながら、なんとか製品まで仕上げることができました。
使ってみると、コーヒーの豊かな香りがあって、発酵特有のなじみの良さや保湿力もあるうえに、コーヒーの消臭効果もあるというものに仕上がりました」。


楽しい、おしゃれが入口でいい

エベレストジャパンでは、シャンプー&トリートメント、ハンドクリームともにアルミチューブを採用。パッケージについてもこだわりがあったそうです。
橋本「工場から最初はプラスチックボトルを提案されましたが、僕はアルミにこだわりたかった。プラスチックは海洋汚染の問題があるし、リサイクルにも実はいろいろな縛りがある。アルミチューブはリサイクル率が高いうえに、色や形も独自の風合いがあって面白い。
アルミを使うことでコストが上がる、充填(容器に内容物を詰める作業)が難しいという課題はありましたが、環境性に加えてユーザーに『大事にしたい』『最後まで使い切りたい』と思ってもらえるパッケージデザインにすることに重きをおいて、アルミにこだわりました。

僕は、アップサイクルとかエシカルとかの入口は、見た目がかっこいいとか、使っていて楽しいとかでいいと思っているんです。もっと製品のことを知りたくなってふとパッケージを読んだら、環境や社会に良いものだったと気づく、そんな風にあとからついてくる方が自然ではないかと思っています。
僕自身も、日常生活の中で出会って、感じたことをものづくりに転換していっているので、製品の背景にある物語に何かの拍子で気づいてくれて、共感が生まれたらいいですね。ポップアップなどで店頭に立っていても、まだほとんどのお客様が『リサイクルはわかるけど、アップサイクルって何?』という状態です。そういう時にうんちくを説明させてもらうのも楽しいんですよ。おしゃれに楽しく伝えられたらいいなと思います。

セレクトショップでの販売やPOP-UPにも参加

ファッション系の人から想定外の人たちにまで

どんなお客様が手に取り、どんな感想をもっているのでしょうか。
橋本「ファッションが好きな人が多い気がします。パッケージを目にして手に取ってくれる方が多いようです。あふれる化粧品の中で、パッケージとして埋もれない、立ち止まってもらうことを意図して作っていたので、そこに反応してもらえるのはうれしいです。海外経験がある方も、メッセージに興味をもってくれることが多いですね。特にヨーロッパに住んでいたという方たち。向こうではサステナブルやアップサイクルが生活に浸透しているんだなと感じます。
ユーザーはちょうど男女半々。女性は使用感や効果で選んでくれるようですが、男性は成分に詳しい人も多いですね。

思いがけないところでは、サーフィン、アウトドアをする人たち。アルミチューブで軽くて持ち運びやすい点を評価して海やキャンプに行くときにも使ってくれています。自然を大事にする人が多いので、環境負荷が低いこともポイントのようです。

リピーターが多いのもこのブランドの特徴です。自分としても、この価格帯、成分で、こういうメッセージをもっている製品は少ないと思っているので、一度買ってリピートしてくれるのは本当にうれしいです。

パッケージが気になり足を止めてくれる人も多い

音楽も化粧品も、パッケージで
言外の意図をやりとりするのが面白い

橋本「コロナ禍は世界にとってはもちろんですが、僕にとっても変化の時でした。コロナをきっかけに生活意識も変わり、化粧品という全く新しいジャンルに出会い、今ではどっぷり浸かっています。

化粧品づくりと音楽制作って実はすごく似ている。音楽制作は、コンセプトに合わせてドラム、ギター、ベースなど楽器それぞれの音源を集めて、それを混ぜ合わせてひとつのパッケージにしていく。そういうプロセスが化粧品づくりと同じです。
パッケージには、演奏者はもちろん、エンジニアの名前やスタジオなど、読む人が読めばわかる暗号のような言葉が置かれていて、『彼らを使っているということは、こういうことがやりたかったのかな、ソフトはアレかな?』なんて想像する。オタクの世界ですよね。でもその作り手との無言のやりとりが楽しいんです。化粧品も同じで、パッケージには作り手のメッセージがこもっている。僕も今では化粧品の説明文や成分を読み込んで、『なるほど、こんなことを狙っているのかな』などと想像を膨らませる怪しい人です(笑)。

音楽でも化粧品でもなんでもそうなんですが、興味をもったらとことん調べて、触れあってみて、現場にも足を運んで、ということが面白い。新製品で気になるものがあれば、すぐに買って試して、調べて、家族にも試してもらって感想を言い合います。子供たちは値段やブランドにとらわれない意見をくれるので、結構参考になります。

今は美容室向けの商材や、お茶を使った商品などを考えています。お茶も煎茶に使われるのはごく一部なので、それ以外の部分をつかえたら廃棄を減らせる。興味をもったことには、今後もどんどん挑戦していきたいですね」。

穏やかな口調と優しい笑顔とは裏腹に、人並外れた行動力をもつ橋本さん。
創業期だからこそ、思ったらやってみる、訪ねてみる、諦めないことの大切さを痛感した取材でした。次はどんなバックストーリーをもったアイテムが登場するのか、心待ちにしたいと思います。

【参考】
EVERESTオンラインショップ
ストリーマーコーヒーカンパニー
株式会社ソーイ


■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士


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