【第2回 Beyond カンファレンス 2023】企業がソーシャルインパクトを生み出すには?

(2023.10.2. 公開)


#ウェルビーイング#ESG #人権問題 #環境問題 #社会起業家 #Disconnected Youth #ソーシャルインパクト

近年、環境問題や人権問題に対する企業の取り組みがESGの観点から注目を集めています。企業は利益を上げながら、どのようにソーシャルインパクトを生み出していくかという課題に直面しています。そこで、5月26日(金)から27日(土)にかけて開催された「第2回Beyondカンファレンス2023」の中で行われた2つのセッション「ソーシャルビジネス概論 講座」、「企業によるソーシャルインパクトの潮流」から、企業がソーシャルインパクトを実現するためのヒントをご紹介します。


社会起業家に求められるのは、課題の解像度を上げること


(ソーシャルビジネス概論 講座セッションでのETIC.番野氏(左)、Takeoff Point石川氏(右))

ソーシャルインパクトを生み出すには何が必要なのでしょうか?「ソーシャルビジネス概論 講座」では、解決策の質を上げる前に、課題の質を上げること、つまり課題の解像度を上げることの重要性が語られました。

NPO法人ETIC.では、社会起業家に特化した伴走支援プログラム「社会起業塾」を開催しています。長年にわたり社会起業家と関わってきたETIC.の番野智行氏は、事業を継続しソーシャルインパクトを生み出すためには、自分たちが取り組む課題の解像度を上げることが重要であると話します。

同セッションでは、課題の解像度を上げることで、当事者が本当に必要としているソリューションを提案できるようになった団体の事例が紹介されました。それが、NPO法人つくばアグリチャレンジです。同団体は当初、『障害のある人がごきげんに”働ける職場”を目指す』というビジョンを掲げ、都市部での野菜販売による事業の高収益化や、それに伴う給与水準の向上を目指していました。しかし、当事者に対してアンケートを取ってみると、自分たちが課題だと思っていたものと実際に当事者が課題だと思っていることが異なることがわかったと言います。実は当事者は、仕事よりも暮らしに課題を抱えていました。例えば、「休みの日に一緒に遊ぶ友達がいない」といった声がありました。また、当事者の親は「自分たちが亡くなったあとに、他者と助け合って生きていけるか不安」という課題を抱えていることがわかりました。結果、『農業を通じて障害のある人がごきげんに暮らせる地域をつくる』ことをビジョンに変更しました。事業も、地域向けの宅配や、交流イベントの実施など、地域の顧客と接点を強化するような方向に転換しました。

このように障害者支援と一口に言っても、自分たちが解決したい課題が、障害者の「仕事」なのか「暮らし」なのかで提供するソリューションが変わってきます。社会起業家は、課題を抱えている当事者のニーズを知りぬき、代弁者になることが求められます。『新規事業の実践論』という本でも、300回顧客のところに行けということが書かれています。

こうした粘り強いプロセスを進めるためには、この課題を何とかしたいという強い情熱が必要です。それゆえ、自身が取り組む課題は、第三者が抱える課題ではなく、自分ごとの課題であることが望ましいと番野氏は言います。例えば、自身が直面している課題や、家族・友人など身近な人が抱えている課題です。

ただしこの話は、何か強烈な原体験が最初から必要だという意味ではないと番野氏は言います。課題が起きている現場に足を運び、当事者と対話を重ねることで原体験はあとからでも作れると言います。


社会的価値を追求したら、製品が売れた!

(画像:MESHとは│MESH™)

Takeoff Pointは、ソニーの100%子会社として2015年にシリコンバレーで設立されました。彼らが取り組んでいる社会課題は「Disconnected Youth(ディスコネクティッドユース)」です。この言葉は日本ではあまり馴染みがありませんが、アメリカでは社会問題となっています。Disconnected Youthとは、家庭の事情で学校に通えず、職にも就けず、社会とのつながりが断たれてしまった16歳から24歳の若者を指します。Takeoff Pointは、事業の1つであるプログラミングベースの教育プログラム「MESH」を活用し、Disconnected Youthを支援する取り組みを行っています。

MESHはソニーが開発した製品で、日本では成功を収めています。Takeoff Pointは当初、MESHのアメリカでの販路拡大を目的としていました。しかし、学校に売り込みに行っても思うように売れず、学校に通ううちに、教材以前の問題があることがわかりました。それがDisconnected Youthの存在です。そのうちDisconnected Youthは「学ぶことに意味がないと思っている」「自分には無理だと思っている」「学ぶ楽しさを感じたことがない」といった共通意識を持っていることがわかりました。Disconnected Youth という社会課題に対するTakeoff Pointの社員の関心も高かったことから、まずは彼らに「学ぶ楽しさ」を感じてもらうことを目指すことにしました。

最初はボランティアベースでTakeoff Pointの社員が週2回ほど、市民センターで子どもたちにMESHを使った授業を行いました。その際、プログラミングを学ぶというよりも、学ぶ楽しさやなぜ学ぶのか、といったことを感じてもらえるような授業を意識して設計したと言います。実際に取り組みを始めてみると、引き合いも増え、需要の高さが明らかになりました。一方で、その需要に応えるための提供者が不足していることが課題でした。そこで始めたのが、MESHを使って子どもたちに教えられる人材を増やすための公認インストラクタープログラムです。Disconnected Youthを減らすという目的に共感してくれる人は多く、学校の先生や引退後の高齢の方などがインストラクターになってくれています。その後Disconnected Youthを減らす取り組みとして、議員表彰を受けたことで、さらにその活動が広がり、当初は1つの郡のみで提供していたものの、今では9つの郡でMESHを提供しています。


会社や経営層の意識が突破口になる

(企業によるソーシャルインパクトの潮流セッションでのアビームコンサルティング齋藤氏(左)、セールスフォース・ジャパン遠藤氏(真ん中)、三井物産佐々生氏(右))

なぜTakeoff Pointは顧客の抱える社会課題に向き合えたのでしょうか。そこには、経営層や会社の方針が大きく絡んでいます。2018年、ソニーは社会的価値と経済的価値の両方を追求するということを表明しました。Takeoff Pointも設立当初は利益を出すことを目的としていましたが、その表明を受け、1つくらい社会的価値を思いっきり追求する会社があっても良いのではという話になったとTakeoff Pointの石川洋人氏は話しています。現在Takeoff Pointは、利益を生むことではなく、社会的価値と経済的価値のバランス、ブレークイーブンを目指しているといいます。


「目的」を共有できる同志と共創する



NPOの経営資源はヒト・モノ・カネ・情報に加えて「目的」であるというのは、ETIC.の番野氏です。前述のTakeoff Pointの石川氏も「MESHを買ってくださいといっても振り向いてもらえなかったが、Disconnected Youth減らしましょうというと人が動いてくれた」と話しています。

「企業によるソーシャルインパクトの潮流」セッションに登壇した三井物産共創基金の佐々生陽介氏も「三井物産共創基金では、志を大事にし、志を同じくする方と共創したいと考えている。事業とのつながりも期待している。」と語ります。素晴らしい活動をしているNPOなどでも、資金が寄付のみで永続性がない場合があり、そうした活動をビジネスにビルトインすることで、持続可能性を実現させられるのではと話しています。ETIC.の番野氏は「企業の新規事業は必ずしも0→1にこだわらなくても良いのでは」と話します。社会課題の圧倒的解像度を持っているのはNPOなどであり、企業は逆に、リソースを提供できます。企業はNPOやソーシャルビジネスと協業を組むことも一つの選択肢として考えられます。今回Beyond カンファレンスには多くの企業が参加しており、まさにこうした「共創」のきっかけを生み出す場として機能していると感じました。



■執筆:contributing editor Eriko SAINO
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