キーワードは「流域全体の健全性」コカ・コーラが地域と協働で目指す水のサステナビリティ

(2023.9.8. 公開)

いま、世界中で「水リスク」が高まっています。水不足による断水、洪水での工場冠水、水不足に伴う水価格の上昇など、水が要因となり企業活動になんらかの悪影響を与えることを水リスクと言います。

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食品や飲料、農業関連、アパレル、素材、発電などの業種は特に水リスクが高いと考えられています。企業は、水資源の持続可能な利用に焦点を当て、循環を含めた水消費の最適化や水資源保全等に取り組む必要があります。そんな中、事業の根幹に関わるものとして水資源と向き合っているのが、コカ・コーラです。世界中でビジネスを展開する同社は、過去に水ストレスの高い地域で事業撤退を余儀なくされたことがありました。その際、問題とされたのは地下水の過剰取水と工場排水でした。地域の地下水を使用し、使用した水を地域の自然に戻す。水を事業の中心とする同社だからこそ、地域の共有資源として水を保全・活用していくことが求められます。現在、同社は世界共通の水資源保全戦略を策定し、水資源の持続可能性に向けて熱心に取り組んでいます。今回、日本コカ・コーラ株式会社と全国5社のボトリング会社などから構成されるコカ・コーラシステムは、水資源保全の取り組みをさらに推進するべく、東京都八王子市、山梨県丹波山村の2つの自治体との連携を発表しました。7月31日、コカ・コーラシステムによる水資源保全の取り組みに関する記者説明会が、東京渋谷区の日本コカ・コーラ本社で行われました。

世界中で、使用する水と同等の量を自然に還す

(資料提供:日本コカ・コーラ株式会社、コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社)


9割以上が水でできているコカ・コーラの製品。水資源はコカ・コーラにとって事業の存続に欠かせない重要な資源です。コカ・コーラは全世界で、2030年に向けた水資源保全戦略を策定し、3つのゴールを設定。いずれのゴールも、コカ・コーラのグローバルなコミットメントである、「製品に使用される水の100%以上を自然に還元し続けること」に寄与するものとなっています。

コカ・コーラシステムでは、森林保全等の活動を通じて水源の涵養能力を高め、地下水を育み自然に還元しています。その際、製品に使用した水の量に対して、どれだけの水を自然に還元したかを「水源涵養率」として示しています。製品に使用した水の量と同等の量を自然に還元した場合、水源涵養率100%と表します。2022年度の全世界のコカ・コーラの水源涵養率は159%、つまり、全世界で製品に使用した水のおよそ1.6倍を自然に戻しているということになります。

世界では、すでに159%の水源涵養率を達成しているコカ・コーラ。気になるのは日本の状況ですが、なんと日本の全国の工場平均での水源涵養率は、300%を超えているそうです。つまり、日本で製品に使用した水のおよそ3倍以上の量を自然に戻しているということになります。

キーワードは、流域全体の健全性

(コカ・コーラシステムの水資源保護の取り組みについて語る、日本コカ・コーラ副社長の田中美代子氏)


「コカ・コーラの水源涵養率の目標達成のカギとなるのが、流域全体の健全性」と話すのは、日本コカ・コーラ副社長の田中氏です。コカ・コーラシステムは、工場周辺流域の上流から中流、下流まで、網羅的に水資源を保護していくという考えの元、水源保全活動を行っています。

流域の上流で行っているのは、植林や間伐、林道の整備など、森の健全性を高める森林保全活動です。森林は「緑のダム」とも呼ばれており、健全な森林は、降った雨を土壌に浸透させ、よく保水し、河川に流れ込む水量を調節する機能を持ちます。これにより、大雨の際には洪水のリスクを軽減し、しばらく雨が降らない時でも流出を途絶えさせません。北は北海道から南は沖縄まで、全国にある21の工場すべてで、森林保全を行っていると言います。

流域の中流では、湿地復元や草原保全活動に取り組んでいます。湿地復元では、干上がってしまった湿地に再度水を張ることで、恒常的かつ長期的に水を地下に浸透させます。地下水の量が一定に保たれることで地盤沈下や洪水、土砂崩れを未然に防ぐことができる他、水辺の生物多様性保全も期待できます。

流域の下流の取り組みは、水田たん水や工場での排水管理等です。水田では、稲作で稲を刈り取った後の冬の間も水を張ることで、長期的に地下に水を浸透させていきます。水田は天然のフィルターとなり、きれいな水が地下水として溜まっていきます。また、農業用水の量をITを活用してコントロールするなど、スマート農業への期待も高まっていると言います。

工場では徹底した排水管理と節水に取り組む

(工場での水使用量削減について語る、コカ・コーラ ボトラーズジャパン執行役員の荷堂真紀氏)


流域の下流には、コカ・コーラの工場もあります。「我々のビジネスにとって水は大変重要な原材料であり、その貴重な水資源を保全するということは、創業以来変わることのない私達の責任であり、地域への約束」と語るのは、コカ・コーラボトラーズジャパン執行役員の荷堂氏です。

工場でまずやるべきことは、節水と徹底した排水管理だと言います。工場では、製品に使用するのと同等かそれ以上の水を、製造時の洗浄や冷却等に使用しているそうです。そこで徹底的な節水、水を使わなくても良いシステムへの移行、使用した水の循環利用が重要と考えられています。2022年、コカ・コーラボトラーズジャパンの工場では、水の再利用やそのための最新技術の導入等に取り組み、2015年比で19%の水使用量削減に成功しました。2030年には30%の削減を目指していると言います。

排水管理では、コカ・コーラ製品を作る全国21ヶ所の工場で、「KORE」というコカ・コーラ独自の厳格な基準に基づいて、水を完全に無害な形にして自然に戻すことを徹底しています。コカ・コーラボトラーズジャパンでは、こうした価値観をサプライヤー基本原則でも示し、該当する環境法や規則を守ってもらうようにしていると言います。

全国でも水源涵養率の低い多摩工場

(資料提供:日本コカ・コーラ株式会社、コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社)


日本全国の工場の平均では、水源涵養率300%を達成しているコカ・コーラ。「ここでとどまるのではなく、まだまだできることがあると考え、社内で調査を進めた結果、見えてきたのは、水源涵養率が工場によってかなりのばらつきがあること」と田中氏は話します。全国で見ると水源涵養率500%以上を達成している工場もあれば、水源涵養率が100%に達していない工場もあります。21の工場の中で唯一、水源涵養率が100%未満の工場、それが、東京の多摩工場です。

多摩工場は、1963年、コカ・コーラの需要が飛躍的に増加した年に創業しました。全国に17あるコカ・コーラボトラーズジャパンの工場の中でも、最も歴史の古い工場の1つです。操業当初から現在まで、今では珍しくなった瓶のコカ・コーラを作り続け、時代の変化とともに、ペットボトルやボトル缶などの製造も開始。現在は、関東圏で安全安心なコカ・コーラ社製品を届けるための重要な基幹工場となっています。

多摩工場が「水源涵養率100%を達成できていなかった理由はその立地にある」と田中氏は話します。東京都にある工場ということもあり、他の工場と比べて水資源保全活動を行うための土地や森林が少なかったと言います。


地域との協働で水源涵養率100%を目指す

(コカ・コーラシステムとの連携への期待を語る、山梨県丹波山村長の木下喜人氏)


コカ・コーラシステムでは、多摩工場で水源涵養率100%を目指すため、改めて多摩工場の流域を定義しました。その結果、北は埼玉県、南は神奈川県、そして西は山梨県という1都3県にまたがる広大な流域が特定されました。今回パートナーシップを締結した丹波山村と八王子市は、いずれもこの流域に位置する自治体です。

丹波山村では、全80ヘクタールの森林保全活動を通じて、より多くの水を地下に浸透させていくことを目指します。昭和40年代には、林業が盛んで人口も2,000人を超えていた丹波山村ですが、その後、林業が衰退し人口も減少、山林の荒廃が進みました。丹波山村ではこれまでも、村民総参加の環境美化活動や関係者による啓蒙・啓発活動を実施してきましたが、小さな自治体では経済的・人材的に限界があったと言います。そんな課題を抱えていたところに、今回のパートナーシップの話が挙がりました。


(画像提供:丹波山村)

丹波山村の木下村長は「コカ・コーラの水資源保全に対しての考え方は、上流部である我々の意識をはるかに超える考え方、取り組み方であり、感銘を受けた。今後活動を進めていく中で、この協定本来の水資源保全についての村民の意識をこれまで以上に強くしたい。森林整備活動が、より持続可能でよりよい共通の未来をつくることに繋がっていくものと考える」とその期待を言葉にしました。


(貴重な里山環境である上川の里について語る、東京都八王子市環境部長の平本博美氏)

八王子市では、特別緑地保全地区に指定されている上川の里で、森林保全と湿地復元に取り組みます。上川の里は、田んぼや雑木林などの良好な里山環境が残されており、貴重な生き物の生息地となっています。上川の里は、次世代を担う子どもたちの環境教育の場としても大変重要な場所となっています。今から15年ほど前、上川の里を産業廃棄物処分場にする計画が持ち上がりましたが、「昔ながらの里山の景観を受け継ぎ、豊かな自然を守っていきたい」という地域住民の強い願いを受け、特別緑地保全地域に指定することになりました。


(画像提供:八王子市)

上川の里ではコカ・コーラシステムを始めとする民間企業や市民団体、NPOなど8団体が共同で保全活動に取り組みます。八王子市環境部部長の平本氏は「上川の里で活動する様々な団体がそれぞれの強みを生かした活動を実施し、相乗効果を生みながら、地域も含めて生物多様性の保全や活用の大きな輪が広がることを期待している」と話しました。

地域社会と追求する、水資源の持続可能性


コカ・コーラにとって、水資源は事業の存続に関わる重要な資源です。世界中で事業を展開するコカ・コーラは、当然水ストレスの高い国でも持続的に水資源を調達していかなければならず、ともすると地域との軋轢を生みかねない事業とも言えます。

コカ・コーラボトラーズジャパンの荷堂氏は「60年という長きにわたって操業を続けられたのは、地域の皆様のご理解やご支援」があったからだと言い、また「水資源を始めとしたサステナビリティへの投資は、このマーケットで商売をさせていただくにあたり最低限必要なライセンス」であり「地域との約束」と話していました。水資源を地域社会との共有資源と捉え、その持続可能性と真摯に向き合うコカ・コーラシステムの活動に、今後も注目したいと思います。

【参考】
・CDP 水セキュリティレポート2022: 日本版

・水資源│日本コカ・コーラ株式会社


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