森林保全と未利用資源の有効活用 企業と自治体の共創事例が拡がる


(2023.8.14. 公開)

#生物多様性#森林保全 #ネイチャーポジティブ #CSR活動 #企業の森 #森林資源 #バイオマスチップ #グッドデザイン賞 #プラスチック問題 #レジリエンス

8月11日は、山に親しみ、山の恩恵に感謝する山の日です。日本は山が多く平地が少ない国であり、また国土の約3分の2を森林が占めています。日本企業は古くから、主にCSR活動の一貫として森林保全に取り組んできました。2002年、和歌山県は全国に先駆けて「企業の森」を開始しました。これは、自治体内にある森林を、企業が森林活動をするフィールドとして貸し出す支援制度です。現在では、すべての都道府県で同様の支援制度があります。企業のこのような森林活動への取り組みは、企業のブランディングや森林活動に参加した社員の団結・連携を養うなどさまざまなメリットがあります。

昨今は、これまでのCSR的な活動だけではなく、企業の本業を持続可能なものにするために森林保全に取り組む事例や、地域と連携し森林を通して新たな価値を創出する事例などがあります。今回は、いくつかの事例をご紹介します。


サントリーのネイチャーポジティブとWater Positive

(画像:Water Positive! (ウォーターポジティブ!)|サントリー天然水

生物多様性の文脈では、2030年までに生物多様性の損失を止め回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」が世界的な使命として掲げられています。これに習い、使う量を上回る水を大自然と一緒に育む「ウォーターポジティブ(Water Positive)」を掲げているのが、サントリーです。清涼飲料水やビール、ウイスキーをつくるサントリーにとって「水」は事業に欠かせない資源です。サントリーは、組み上げる地下水の2倍以上の水を育むことを約束として掲げています。水を育むためには、森を育む必要があります。

サントリーでは、2003年から水源かん養地域に「サントリー天然水の森」を設定し、森作りに取り組んでいます。サントリー天然水の森は、日本各地に22ヶ所存在し、その総面積は12,000haに及びます。森作りではまず、木のてっぺんから地下深くまで森の健康状態を知るために、科学的な調査を行います。例えば、最新技術での調査と森での現地調査を繰り返すことで地下水の流れを見える化するという試みをしています。こうした調査の結果を元に、地下水を育む冬水田んぼや、森ごとに木々のDNAに配慮した植林を実施するなど、さまざまな分野の専門家と共にそれぞれの森に合った整備を行います。事業に欠かせない「水」を育む力を森にずっと維持してもらうために、サントリーは森を育む活動を続けています。


未利用の森林資源を活用する、地域と企業のパートナー連携事例

日本の木材自給率は、現在約3割と低い水準に留まっています。国内には豊富な森林資源が存在するにも関わらず、それらの資源が十分に活用されていない状況です。森林を健全に保つために間伐などの整備を行っても、その資源を活かす先がなければ整備の停滞に繋がります。森林保全というと植林をイメージする方も多いかもしれませんが、森林を健全に保つためには、森林資源の継続的な活用が欠かせません。

(画像:石川県中能登地域における民有林の再生支援│農林中央金庫

石川県中能登地域には、スギやヒノキなど多くの人工林が植林されています。しかし、森林の整備が儲けに繋がらないことから、森林所有者が森を整備するモチベーションが薄れていました。森林の荒廃は、森林が持つ水源涵養などの多面的な機能を阻害するだけでなく、山村地域の衰退という社会問題にも繋がります。このような課題を解決するために、2014年、石川県と石川県森林組合連合会、小松製作所の3者間で林業に関する包括連携協定が結ばれました。2015年、森林組合が未利用間伐材をバイオマスチップ化し、高効率のボイラーが導入されたコマツの工場で活用を始めました。これにより、年間約6,000トンの未利用間伐材などが活用されています。さらに、課題となっていたバイオマスチップ燃焼灰の処理についても、肥料化に成功し、廃棄物の削減にも貢献しています。

バイオマス発電に使わない林地残材をさらに活用しようとしているのが、日揮ホールディングスです。日揮といえば、世界中で石油の製油所や天然ガスプラント等を開発してきた会社です。そんな日揮がいま、石油に頼らない暮らしを次世代につなぐため、石油資源からバイオマス資源への転換を図っています。林地残材とは、間伐材等を丸太として搬出した後に残る、枝・葉や根元部などの端材などの総称です。プラスチックや合成ゴムなど基礎化学品に使われる石油の替わりとして有効なのが、同じ炭素と水素を持つ木だと言われています。急速熱分解という技術により木を急速に加熱すると、何億年もかけて石油が出来上がる工程を再現することができ、それによってバイオ原油が生成されます。日揮が太陽石油と取り組むグリーンリファイナリー事業では、地域の自治体や事業者、大学などと連携し、商業化を目指しています。

(画像:積丹ジン 火の帆「UMI うみ」

日本たばこ産業(JT)は、森を一定の期間借り受け、森の手入れをする「JTの森」活動を行っています。JTの森がある北海道積丹郡積丹町でも、木材価格の不振や担い手不足等により、森林の整備が滞っていました。2010年からこの地で森林活動に取り組むJTですが、2021年からの第2期の活動では、森林資源の利活用にも力を入れ始めています。例えば、地元の新たな名産品である「積丹GIN」の木箱にはJTの森積丹の間伐材が使用されており、企業と地域の連携による、森林資源の持続的な活用促進が期待されます。


グッドデザイン賞受賞。産福連携で複数の問題解決に貢献する木のストロー

(画像:『木のストロー』公式サイト|SABMアキュラホームグループ

街中のカフェでも紙のストローを見かけることが多くなってきましたが、木でできたストローを見かけたことはあるでしょうか。木造注文住宅を手掛けるアキュラホームでは、間伐材等の国産材を原材料とする「かんな削りの木のストロー」を企画開発・生産しています。2019年のG20では、農林水産大臣会合、環境・エネルギー関係閣僚会合などでこの「木のストロー」が採用された他、グッドデザイン賞も受賞しています。

木のストローが生まれたきっかけは、平成30年7月豪雨です。この時、広範囲で長時間の降雨が続き、各地で大きな土砂崩れが発生しました。土砂崩れは、放置された森林で発生しやすくなります。平成30年7月豪雨の被災地を取材した環境ジャーナリストの竹田有里さんが、木のストローを考案しました。

(画像:『木のストロー』公式サイト|SABMアキュラホームグループ

木のストローを作る際にはまず、間伐材をカンナ削りで薄くスライスし、木のシートを作ります。木のシートに専用の糊を塗り、芯棒にらせん状に巻いていくとストロー状になります。これを乾燥させ、前後をカットすると木のストローが完成します。

2019年11月、アキュラホームは、横浜市、ヨコハマSDGsデザインセンターと連携し、地産地消のプロジェクトを開始しました。このプロジェクトで作るストローには、横浜市が保有する水源林の間伐材が使用されています。間伐材をカンナで削った後の木のシートは、市内の障がい者施設でストローに加工されます。製作したストローは、市内の横浜ベイシェラトンホテル&タワーズのレストランで提供されました。産福連携のこのモデルは、森林保全や地産地消、地域での雇用創出やプラスチック問題への対応など複数の課題解決に対して価値を生み出しています。


脱炭素、レジリエンス、生物多様性…多様な役割を果たす森林保全の価値

これまで見てきたように、森林保全は水質保全や災害へのレジリエンス強化、生物多様性保全に繋がります。また、2021年のCOP26で採択された「グラスゴー気候合意」で明記されているように、森林はCO2の吸収源や炭素の貯蔵庫としても注目が集まっています。2023年7月、日本企業10社が「森林ファンド」に出資し運用を開始するというニュースがありました。このファンドでは、適切な森林管理を行い発生したCO2吸収量を、カーボンクレジットとして制度や市場が先行しているアメリカで販売していきます。国内でもカーボンクレジットの取り組みは進んでおり、ENEOSは、新潟県農林公社と連携して、新潟県下越地方の適切な森林管理によるカーボンクレジットの創出に取り組み始めています。

森林の整備をすることが、結果的に企業の利益につながる。このことは、地域が森林保全に取り組む大きな理由になります。企業も、自治体を始めとしたさまざまなステークホルダーと連携し、森林整備や持続的な木材活用を推進することで、単なる環境保護を超えた新たな価値創出が期待できるのではないでしょうか。


【参考】
Water Positive! (ウォーターポジティブ!)|サントリー天然水
森づくり最前線 | サントリー天然水の森
木を切らない、という森林破壊があります。 - 凸版印刷
基本情報/JTの森 積丹 | JTウェブサイト
『木のストロー』公式サイト|SABMアキュラホームグループ
第1部 特集 第2節 多様化する森林との関わり(2)│林野庁
石川県中能登地域における民有林の再生支援│農林中央金庫
コマツ粟津工場、バイオマス燃焼灰の肥料化に成功 | 小松製作所
「森林×化学」で石油に頼らない暮らしを次の世代へ――日本が資源国になるチャンス
国内初の森林資源を活用したグリーンリファイナリー事業の共同検討を開始│日揮ホールディングス


■執筆:contributing editor Eriko SAINO
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