【後編】セブン&アイHD が目指す「CO2削減、プラ対策、資源循環、食ロス、持続可能な調達」とは

(2023.7.28.公開)


『GREEN CHALLENGE 2050』とは、セブン&アイ・ホールディングスが関わる全てのステークホルダーを主役として、社会ニーズの変化や環境問題など、さまざまな社会環境の変化に対応するために掲げている宣言だ。これには4つの軸があり、それぞれに数値目標を掲げている。まずは主体である従業員が一丸となって問題解決に全力を尽くし、それに続いて多様なステークホルダーとの協力体制構築を目指す。

後編では、「CO2排出量削減」「プラスチック対策」「食品ロス・食品リサイクル対策」「持続可能な調達」の各分野においてセブン&アイ・ホールディングスが日々取り組んでいる具体的なアクションプランについて、ESG推進本部 サステナビリティ推進部 シニアオフィサーを務める釣流まゆみ執行役員に話を聞いた。

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(セブン&アイ・ホールディングスESG推進本部 サステナビリティ推進部 シニアオフィサーを務める釣流まゆみ執行役員)

CO2排出量削減にむけた取り組み

照明や冷凍・冷蔵などで多くの電力を使用する店舗運営において、CO2の削減は避けて通れない課題だ。店舗の数が多ければ多いほど、使用電力の削減がCO2排出量の削減に大きなインパクトを与えるだけでなく、電気代のコスト削減にもつながる。

「1.5℃ 目標がアベレージであることを、グループ各企業のトップに伝えている。外部環境や状況を理解することが大事。グループ各社がエコアクションを起こすためには、わかりやすい数字を出しながら、電気使用量の抑制がCO2削減につながることを絶えず伝えて、取り組んでいく」と、釣流氏。

2030年までにグループの店舗運営に伴うCO2排出量を2013年度比で50%削減することを必達の目標とし、2050年には「実質ゼロ」を目指す姿として、節電をはじめ、各事業に応じて店舗における取り組みを推進している。



具体例としては、電気を見える化できるようにスマートセンサーをセブンイレブンの約2万店舗の分電盤に設置して、「電気がいつ・どこで・どう使われたか」を店舗と本部の双方で可視化した。これにより、設備稼働の問題を早期に発見し、省エネ効果を店舗で確認できているという。実際に2023年現在、グループの店舗数は5,000店も増えているのに対し、CO2排出量は約25%の削減につながっている(2013年度比)。

この他にも店舗で出来る対策として、例えば空調はホコリがたまると電力効率が悪化するので、こまめに掃除をして空調効率が下がらないよう工夫する。創エネ・再エネの点では、太陽光パネルの設置を多くの店舗で採用。窓ガラスに貼付する太陽光パネルの開発や、再生可能エネルギー電源の設置も産学連携で進めている。



地域の生活者を巻き込んだ取り組みとしては、ライトダウンを行っている。電気使用量の削減への直接的なインパクトは少ないものの、来店していた親子が「いいね、こういうのをうちでもやってみよう」と話す姿が見られるなど、小さな行動変容を生み出すことの効果は決して小さくない。
自社で出来ることだけではなく、さまざまなステークホルダーと共に協働・共創する取り組みは、これからますます重要となるに違いない。

プラスチック対策の取り組み

海洋プラスチック問題が深刻化する一方で、バリア性が高いプラスチック容器は安全で安心な食品を提供するためには欠かせない。プラスチック対策としては、2030年までの目標として、オリジナル商品で使用するプラスチック容器の50%を環境配慮型素材とすること、そしてプラスチック製レジ袋の使用量ゼロを掲げる。

課題はリサイクルできる仕組み、「回収とイノベーションが必須」だと釣流氏は強調する。




リデュースとリサイクルはどんどん推進する。グループでは2012年からペットボトル回収機の設置を進め、2023年現在では3000台にのぼる。ここで回収されたペットボトルは、再びペットボトルやオリジナル商品のパッケージの一部に使われたり、糸として再利用され衣料品に使用したりしている。このように、来店客と共にリサイクルを進めることは、資源循環を構築するのに必要不可欠だ。

パッケージについては、トップシールと呼ばれる、中身が見えるような透明なシールをサラダの上蓋に使用することでプラスチック量を25%削減する。また、2021年からは関東エリアを中心に、サンドイッチ包装の一部を紙素材に切り替えたことにより、従来の企画と比べてプラスチック使用量を40%削減できたという。

「回収、リサイクラー、メーカーが協業して、素材が循環する仕組みをつくることがとても大切。100%循環型にしていくためには、どうしたらいいのか。まだまだ燃やしているものが多いなかで、私たちは耐久性のあるパッケージを開発・採用し、お客様は使い終わったら返却・洗浄・再利用するという、双方で出来ることを行いながら循環するネットワークを構築していきたい」と釣流氏は展望を語った。

食品ロス・食品リサイクルの課題と対策

3つ目の「食品ロス・食品リサイクル対策」については、「取扱商品の6割が食品である私たちにとって、とても大変なテーマ。大変だけどやらなければならない」と釣流氏は確固たる決意を見せる。

『GREEN CHALLENGE2050』で掲げている2030年の目標は、食品廃棄物を発生原単位(売上100万円当たりの発生量)50%削減(2013年度比)と、食品廃棄物のリサイクル率70%の2つだ。




出来るだけ長く鮮度を保てる加工方法を開発したり、「食べきりサイズ」に切り替えたりと、すでに各種取り組みは進んでいるが、それに甘んじることなく、「食品ロスは意識の問題が重要。いかに発生を抑制できるか。廃棄を出さないような仕組みづくりをどう考えるか」だと釣流氏は指摘する。

食品をムダにするということに対して、生活者の目が厳しくなっていることが背景にある。廃棄量を減らすことはもちろんだが、そもそも廃棄を出さない、あますところなく使い切ることに対しても、従業員が切磋琢磨して学び合う。野菜のカッティングの技術や、いかに廃棄する量を減らせるかをテーマに社内コンテストを行い、従業員のスキル・意識の向上に努める。そうした姿勢は当然、無駄を極限まで削ぎ落すことにより、収益構造の改善と向上にもつながるのだ。

食品リサイクルについては、イトーヨーカドー店舗から出た食品残渣を堆肥にリサイクルし、全国12カ所にあるセブンファーム(直営農場)で活用。セブンファームで生産された野菜を店舗で販売するという好循環を築いている。

「育てる作物によって必要な養分が異なるため、ただ堆肥にすればいいというものではない」のだと、釣流氏は明かす。堆肥をよりよい品質にしていくことと、契約農家が安定的に成長することを大事と捉えている。農家がサステナブルであるために欠かせない要素だからだ。

物流においても、食品ロスの発生要因がある。いわゆる「3分の1ルール」と呼ばれる商習慣だ。「3分の1ルール」とは、製造日から賞味期限までを納品期限・販売期限・消費期限に3等分する考え方を指す。賞味期限が6カ月の場合、2カ月以内にメーカーから小売業者へと納入し、小売業者はその後2カ月間販売し、賞味期限2カ月前に棚から下ろして処分することになる。もともとは賞味期限が3分の1以上残っている食品を消費者に届けるための配慮だが、この商習慣により、賞味期限まで期間があるにも関わらず、店頭に並ぶことなく多くの食品が廃棄されている。
これを解消するために、納品期限を賞味期限までの半分にして、小売業者としてもリスクを持つ「2分の1ルール」をセブン&アイグループでは導入しているが、「3分の1ルールの業者がまだまだいる。そうすると物流では3分の1ルールに合わせてしまう。これは業界全体で変えていかなければいけない」と、釣流氏は問題点を指摘する。

「てまえどり」は地方のコンビニから始まった

エシカル消費については生活者の意識が高まりつつある。2022年の流行語大賞では、賞味期限、消費期限が迫った商品から買ってもらう「てまえどり」という言葉がトップ10に入選し、メディアでも話題になったことで生活者にも浸透してきた。

店舗では消費期限が近くなった商品を陳列棚の手前に並べ取りやすくして、生活者は手前にある商品から取っていくように促すものだ。陳列棚には「てまえどり」を啓発するステッカーやPOPを貼り、生活者への関心を惹くよう工夫を凝らす。

これは、もともと神戸市と市内のセブンイレブンからスタートした取り組み。生活者に対してどういう呼びかけだといいかを考え「てまえどり」を始めた。食品ロスを減らしたいと感じている人が、すぐに取り組めるアクションとして評判となり、全国のセブンイレブンでも「てまえどり」の呼びかけが始まり、そこからスーパーや競合他社にまでひろがっていった。それに伴い、さまざまな省庁からの後押しもあり、業界を超えてさらなるひろがりを見せている。



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持続可能な調達にむけた努力

調達については、グループ全体のオリジナル商品で使用する食品原材料の50%を2030年までに達成し、2050年には100%を持続可能性が担保された原材料にすることを目指す。

「認証マークがいっぱいあるが、これだけでは全量はまかなえない。」と、釣流氏は課題についても言及した。「サステナブル・ラベル認証の原材料のみですべての商品を調達しようとしても、生産者が活動を持続できなければ商品を提供し続けることができない。そこで私たちは、持続可能性が担保された商品の価値や生産者の想いを店頭・ウェブサイトなどを通じてお客さまにお伝えすることも注力している。」



サプライチェーンがグローバル化し、原材料調達をめぐり人権問題・社会問題も顕在化するなかで今後、食品を安定的に供給・販売していくためには、すべての過程で環境や社会に配慮した「持続可能な調達」を推進していくことが不可欠だ。

「事業会社では、現地に赴いて農家の方や漁師さんと一緒に調達を行うというのを以前からやっている。その範囲が、だんだんと世界にひろがっている。今はウクライナをはじめとしたグローバルリスクによる影響が世界中で起きており、これまで認証がとれていた食材の認証が外れてしまい、産地を変更せざるを得ない状況も発生している」と、釣流氏は調達に関しての厳しい現状を明かした。

国内では、地域の食材を積極的に使っていこうとしている。コンビニエンスストア各店においても地域限定商品が増えており、その地区でしか流通しない商品のおいしさが地域住民に支持されているという。
フードマイルの観点からも、食の安全・安心の観点からも、地元の農家や地場産業など、できるだけ近いところで調達することはマルチステークホルダーにメリットをもたらすに違いない。

セブン&アイグループではJGAP認証を取得するために食品商品部バイヤー自身も勉強していると、釣流氏は明かす。GAP認証とは、Good Agricultural Practiceの略で農林水産省が導入を推奨している農業生産工程管理手法の一つ。これを学ぶことによって農家と同じ視点が持てる他、農薬の使用量を最低限に抑えるなど、科学的な視点で農家の経営をみることができるようになる。
野菜や果物が「どこの誰が作ったものなのかを見える化する」ことが、よりよい生産、よりよい流通、よりよい商品、ひいては食の安心にも繋がり、SDGsの達成にも寄与するものとセブン&アイグループは考えている。


挑戦と行動の積み重ねが、未来を変える力になる

『GREEN CHALLENGE 2050』には、「私たちの挑戦で、未来を変えよう。」というステートメントが添えられている。もちろん、それは言葉にするほど簡単なことではない。けれどもこれを言い換えるならば、私たちの挑戦と行動には、未来を変える力があるということに他ならない。だからこそ、一つ一つの店舗や生活者ひとりひとりとのやり取りを通じて「小さなアクション」を積み上げていくことが大切だ。
そしてそこに、確固たる意志をもって絶えず取り組みをし続ける企業の事業成長が伴えば、さらに大きなコレクティブインパクトが生まれ、サステナブルな社会の実現にまた一歩近づくことができるだろう。


【参考サイト】

GREEN CHALLENGE 2050

一般財団法人 日本GAP協会



■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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