【前編】セブン&アイHD 釣流まゆみ執行役員インタビュー 『GREEN CHALLENGE 2050』を指針としたサステナビリティ推進

(2023.7.28.公開)

いつもの暮らしの行動ひとつひとつが、地球の未来につながっている。だから、些細なことでも、できることから変えていく。セブン&アイグループは『GREEN CHALLENGE 2050』を通じて、関わるすべてのステーホルダーに、よりよい未来につながる一歩を踏み出そう、と呼びかける。

執行役員でESG推進本部 サステナビリティ推進部 シニアオフィサーを務める釣流まゆみ氏に、『GREEN CHALLENGE 2050』をベースに、セブン&アイ・ホールディングスが目指すサステナビリティの取り組みについて取材した。


事業会社横断で、みんなの力を一つに
『GREEN CHALLENGE 2050』では、数ある環境問題のうち4つのテーマ、すなわち「CO2排出量削減」「プラスチック対策」「食品ロス・食品リサイクル対策」「持続可能な調達」に焦点をあてる。グループの事業活動によって生じる環境負荷の観点で特に社会的な影響の大きい分野を特定することから始め、そこからさらに環境負荷等の削減に向けた取り組みをより具体的に検討して、この4つの分野を定めた。

『GREEN CHALLENGE 2050』推進体制は4つのイノベーションチームを組織し、事業会社横断でリーダーをたてている。
現在、「CO2排出量削減」は株式会社セブン-イレブン・ジャパン執行役員 建築設備本部長 桝尾 威彦氏、「プラスチック対策」は株式会社セブン-イレブン・ジャパン 執行役員 商品本部 地区MD統括部長 羽石 奈緒氏、「食品ロス・リサイクル対策」は株式会社セブン‐イレブン・ジャパン執行役員 オペレーション本部 オペレーションサポート部長 松井 大氏、「サステナブル調達推進」は株式会社イトーヨーカ堂 取締役執行役員 食品事業部長 加藤 聖子氏が、それぞれ牽引する。各イノベーションチームに、グループ内の事業会社を超えたメンバーが集まっている。
セブン&アイ・ホールディングスにとって従業員はまさに、目標達成に向けた組織の姿勢を体現する存在だ。だからこそ事業会社の垣根を越境することで、お互いに意識しながら、従業員みんなの力をひとつの大きな力に変え、同じゴールを目指す推進力にしていきたいとの思いがある、と釣流氏は語る。


(出典:「セブン&アイグループのESGの取り組み」, 株式会社セブン&アイ・ホールディングス, 2022年 )

「『GREEN CHALLENGE 2050』の取り組みテーマを決めた段階で、事業会社横断のイノベーションンチームをつくることは最初から決めて進めてきた。目指すゴールの達成にむけてふさわしい人を選び、通常は各事業会社内で出す辞令を、このときはホールディングスとして発令した。」
組織横断型の20~30名で構成される各チームは、それぞれにミーティングを行い、自分たちで出来ることはすぐにやる、というスタンスで動いているという。また、そうした動きは数字として可視化され、各チームに共有される。たとえば新しい素材や容器を試してみる、という話になったときは、よりスケールが大きい方がコスト効率もいいので、チーム横断で一緒にできるものはやってみる、という協働体制もフレキシブルだ。

『GREEN CHALLENGE 2050』に先立つ開示

そもそも、『GREEN CHALLENGE 2050』に着手するきっかけは何だったのか。
「地域の持続可能な発展が当社グループの成長にとって不可欠。そういう意味では、創業時から当たり前に地域課題に向き合ってきた。

東日本大震災のときに東日本エリアの電力がストップし、停電の間、店舗の営業ができないことで地域にお住まいの方に迷惑をかけた。それを機に、太陽光発電パネルを各店舗につけるようになった。」と釣流氏は明かす。

夏場の空調を28℃設定にすることによる節電も、いち早く1990年代から取り組んでいる他、ペットボトルの店頭回収も2012年から始めており、環境に対する配慮や行動は目標を持ちながらコミットしてきたとの自負もある。そうした日々、積み重ねていることを、ステークホルダーにむけてきちんと伝えていくことも大切であるとの想いから、『GREEN CHALLENGE 2050』の策定がはじまった。

2018年に「セブン&アイグループが目指す持続可能な未来」というビジョンを発表。とりわけ喫緊の課題である環境に対する取り組みを推進する為、2019年に『GREEN CHALLENGE 2050』を策定した。
TCFDコンソーシアムにも2019年スタート時から参加している。当時、社外取締役の伊藤邦夫氏からは「長年にわたり積み重ねてきたファクトがあるのだから、TCFDに参画しているだけでなく、もっと情報開示していった方がいい」とアドバイスも受けた。

「実際に行っていることを生活者の方に理解してもらい、サステナビリティに関する取り組みに協力してもらうことも、私たち小売業の重要な役割」だと釣流氏は話す。



SDGsと小売りは親和性が高い

「小売業である私たちは、地域のお客さまの課題を解決しながら成長してきた。何が必要なのかを、地域のなかで見極めながら日々運営しているため、小売りとSDGsは非常に近いところにある。さらに各店舗のオーナーは、生活者としての課題を持ちながら店舗運営を行っているので、彼らにとってもSDGsは決して特別なものではない」と、釣流氏は事業基盤が地域社会にあることを強調する。
「昨今はECが台頭してきており、私たちもECを展開してはいるが、根っこにあるのは店舗。店舗がしっかりあることで、地域の方の要望も分かり、お客さまの望む店舗にしていける。それがサステナブルな営業活動につながっている。」

2023年現在、国内で2万3000弱の店舗を擁し、1日あたりの来店客数は2,000万人を超える。日本の人口の6人に1人が、毎日利用している計算だ。さらにグローバル展開において店舗数は7万店にものぼる。それがあってこそのサステナブル経営であり、企業の持続的な成長と持続可能な社会の両立があってはじめて、サステナブルな活動を進められるのだと釣流氏は語る。

ステークホルダー経営とマテリアリティ

なぜ、グループをあげてサステナビリティに取り組むのか。その答えは社是にある。
「イトーヨーカドーの祖業が1920年、そこから約100年がたった。お客様に誠実でありつづけることによってこそ信頼が得られ、成長し続けられる。そういう想いから、信頼と誠実をモットーとする社是ができた。お客様、取引先、株主、地域社会、社員をステークホルダーとして、早くからステークホルダー経営をいとなんできた。」釣流氏は、セブン&アイグループにおける歴史を紐解きながら、未来を見据える。
「最近は未来世代に対しても対話を続けながら、地球環境の改善に取り組もうとしている。SDGsのゴールを達成するためにも、何が求められているのかをしっかり聞きながらエンゲージすることが重要だと考えており、そうしたことから重点課題(マテリアリティ)を大切にしている。」

セブン&アイグループは2014年に重点課題(マテリアリティ)を特定している。その翌年にSDGsが出来た。多くの事業そして店舗があるなかで、いかに各店舗で重点課題を解決していくか。そのためには力を分散させずに行動し、地域のニーズに応えていく必要がある。2014年から8年が経ち、社会は変化している。その変化を受けて、2022年に開示されたのが新たなマテリアリティだ。米国を含む国内外のステークホルダーアンケート(お客様、取引先様、投資家、従業員、セブン-イレブン加盟店)から約5,000件ものアンケートをとり、有識者とのダイアローグを積み重ねていくプロセスを経て、決めていったという。


(出典:「セブン&アイグループのESGの取り組み」, 株式会社セブン&アイ・ホールディングス, 2022年 )


7つあるマテリアリティのなかで、とりわけ「1」「3」「5」に私たちの独自性が色濃く出ている、と釣流氏はポイントを挙げた。
「1番は、地域社会、コミュニティとしっかり組むことが私たちの成長につながるということ。3番は、店を運営している以上、地球環境に対する配慮は欠かせない。自然共生社会を目指すことを大切にしたい。そして5番は、グループ事業を担う人々の働きがい、働きやすさを向上させていくことが重要であろうということで重点課題に定めている。社員にフォーカスしたマテリアリティを出している例は他ではあまり見られないようだが、小売業であることを踏まえると至極まっとうで、大切なことだと私たちは考えている。」

セブン&アイグループでは、各事業会社の行為計画に必ずこのマテリアリティを盛り込んでいくのだという。アカチャンホンポを例に挙げると、安全・安心が絶対である。そのように、それぞれの事業会社の特性にあわせて、マテリアリティの中から事業にふさわしいもの、組み込めるものを取り入れて、各事業のなかで実現を目指して取り組んでいる。


「私たちのグループは、社会課題を解決していくことで成長につながる」と釣流氏は言う。事業の成長が伴えば、それが「サステナブル」になるということだ。その想いを起点に、企業は社会課題解決を目指して、さまざまなサービスを展開していけるといい。
「お客様も、価値のないものにお金は出さない。それは生活者が「未来志向」になっていることの顕れ。今やっていることは間違いではないと思っている。」

後編では、CO2排出量をはじめ、『GREEN CHALLENGE 2050』の4テーマにそった具体的な取り組みについてさらに詳しく紹介する。


【参考サイト】

GREEN CHALLENGE 2050

セブン&アイグループの重点課題



■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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