【サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内】
地域・スポーツ・企業が「Win-Win-Win」を実現する、これからの地方創生
明治安田生命×Jリーグによる社会的価値の創出

(2023.7.10. 公開)
#サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内 #コミュニティ #パートナーシップ #地域 #スポーツ #地方創生 #イベントレポート

サステナブル・ブランド国際会議2023では、地域・スポーツ・企業が協働することで互いにとっての価値を生み出しつつ、全体としてもより良い方向に進んでいくことを目指した取り組みについて、明治安田生命保険相互会社 取締役 代表執行役社長 永島英器氏と公益社団法人日本プロサッカーリーグ チェアマン 野々村芳和氏をパネリストに迎え、電通Team SDGs統括 竹嶋 理恵氏によるファシリテーションのもと、セッションが行われた。セッション「明治安田生命×Jリーグによる社会的価値の創出~地域・スポーツ・企業が『Win-Win-Win』を実現する、これからの地方創生~」では、これからの地方創生、社会的価値の創出の方法について、明治安田生命とJリーグのコレボレーションの具体的な内容を織り交ぜながら話が進められた。

企業とスポーツ、それぞれの立場から連携を考える。

・地域の橋渡し役として「社会的つながり」を提供する

2030年に目指す姿を「『ひとに健康を、まちに元気を。』最も身近なリーディング生保へ」と定め、健康寿命の延伸と地方創世の推進に取り組む明治安田生命。
その活動の一環として、地元の方々と対話しながら地域社会の課題やニーズに応えていくことを目指す「地元の元気プロジェクト」を2020年にスタートした。
このプロジェクトは、「つながり、ふれあい、ささえあう地域社会を。」をコンセプトに、心と身体の健康、地元愛と暮らしやすさ、地域を支える企業や団体のために様々な活動を展開。道の駅での健康増進イベント、認知症予防に向けた大人の塗り絵コンクール、献血の啓蒙活動、地元アスリートの応援プログラムなどがあり、地域の健康環境づくりをサポートしている。他にも、各拠点の3.6万人のMYリンクコーディネーター(営業職員)が行政サービスの案内も行っている。

こうした活動の基盤となるのは、全国800以上の自治体との連携や、「私の地元応援募金」の寄付、そしてJリーグとのパートナーシップだ。
「地域の橋渡し役として『社会的つながり』を提供し、そこに暮らす人々と地域の資源・コミュニティをつなげることで地方創世に貢献したいという明治安田生命と、スポーツを通じて地元に密着しながら地方創世への貢献を目指すJリーグは、志を同じくする仲間。連携することで相乗効果を見込めるのではないかと思い、パートナーになることを決めた。Jリーグと明治安田生命とのきずなは9年になる。明治安田生命は、Jリーグの名前を使ってPR活動をしたいわけではない。Jリーグが掲げる100年構想やホームタウンという考え方に共感しスポンサーになっている。その証として、60のクラブチームそれぞれともスポンサー契約を結んでいる。当社ではJリーグ全体を、全国各地で地方創生に一緒に取り組むパートナーだと捉えている」と永島社長は語った。


・ホームタウンが幸せになることで、チームは強くなれる

1993年10クラブでスタートしたJリーグは今年30周年を迎える。設立時から地域密着を理念に始めてきたが、地域に対する意識は、当時と現在の選手ではまったく異なるという。「いまの選手にとっては『クラブがあること、プレーをできることは、地域の人たちの支えがあるから』という感覚が当たり前になっている。地域についても、地元のチームを育てたいという人々、つまり本当の意味でのサポーターが増えている」と野々村チェアマンは語る。Jリーグでは、Jリーグ100年構想として「スポーツでもっと幸せな国へ」を掲げている。これを実現していくには、本拠地として定めた特定の件市町村(ホームタウン)をいかに幸せにできるかがポイント。チームとして強くなるためにも、地域にとって有益な存在になり、応援してもらわないといけないという考え方がリーグに浸透しており、全国で約370もの様々なホームタウン活動が行われている(2021年度実績)。



明治安田生命とJリーグの連携のきっかけ

地域創生を進めていくための協働の前提として、なぜ安田生命はサステナビリティ、地域活動に取り組むのか?なぜJリーグは地域に寄り添うことが必要なのか?という問いについては、
「我々のパーパスは確かな安心をいつまでも提供すること。確かな安心の前提として、地域社会(居場所)の安心がある。いま日本で、世界で、格差と分断が進んでいるが、その理由は、気候変動やコロナ、貪欲な資本主義、国と個人をつなぐ中間団体が力を失っていること、などが挙げられると思う。地域社会はまさに中間団体だと言える。安心を生み出すためには、地域社会の復権は欠かせないと考えており、そこに生命保険会社として関わりたいと思っている」と永島社長が語った。

一方、野々村チェアマンは、「発足当時はあまり選手たちに響いていなかった地域密着の意識だが、クラブの存在意義はサッカーが強いことだけではないと多くのメンバーが気づき始めた。地域の応援がなければクラブとして存続していけない。クラブが強くなるには、地域の方々に仲間になってもらうことが欠かせない。各クラブが「どうやって周りの人を元気づけ、幸せにしていけるか?」と考えるようになることで、サッカーを軸として地域の中でいろいろなつながりを創っていけることにも気づいた。Jリーグの理念は地域の人たちを幸せにする存在にすること。60のクラブそれぞれが地域の幸せに貢献し、強くなろうとしている」と語った。


地域を幸せにするための具体的な取り組み

・必要なのは、医学的な処方箋ではなく社会的な処方箋

明治安田生命の「地域密着元気プロジェクト」への想いとJリーグの「世界で一番地域を幸せにする存在になる」という想い、両者の在りたい姿を実現するために、どのような体制づくりや進め方をしているのだろうか。

「元気プロジェクトでは、870もの自治体と連携協定を結んで課題解決に貢献している。連携の中心となるのは、その地で生まれ育ったリンクコーディネーター。彼らがその地域に暮らす個人と地域社会をつなぐサポーターとなることを目指している。ある地域のドクターから聞いた話だが、彼が訪問診療に行った先は、いわゆるゴミ屋敷だったが、ドクターができるのは診察して睡眠導入剤の処方箋を書くことだった。ドクターは、睡眠導入剤では患者さんは本当には回復しないし、根本的な問題は解決しないと感じたそうです。その方に本当に必要なのは医学的な処方箋というよりは、社会的な処方箋、つまりその方と地域社会をつなぐサポートが必要だと感じたとのこと。私はこれを、当社のリンクコーディネーターが担えると思っている。たとえば、その方がどんな風に生きてきたか、何か好きだったのかをお聞きして、昔登山が好きだったなら、「地域の登山クラブに入ってみませんか」とご案内するとか、そんな関わり方をしたい。保険は貨幣的な価値だが、もう少し広い価値を提供したいと考えている」と永島社長は語った。

野々村チェアマンも、「サポーターは地域のクラブチームのことを『自分たちが強くするんだ』と思ってくれている。サポーターとは、自分たちの力で、このクラブを通じて地域社会を幸せにしようという人たちともいえる。地域活動をするときも、同じチームを応援する仲間というベースがあるので、協力者を募りやすいし、広めやすい、発信しやすい。地域の仲間なので集まりやすく、進めやすい。サッカーを単なるエンタメと想っている人が一般的には多いかもしれないが、それだけじゃない。もっと深い部分でつながりあっている関係性が育まれている。クラブチームを軸に地域活動に関わると楽しい、幸せ、という人が増えてきている。チームとサポーターが応援だけではない関わり方になってきているのを肌で感じている。」と続けた。


地域活動推進のためのヒントと成果

・元気プロジェクトは利他の実践と確認の場

「社長として意識しているのは、各拠点を訪ねた時に、一人ひとりの従業員に語り掛けて魂や価値観を揺さぶること。当社は経済的価値(履歴書の価値観)、社会的価値(追悼の価値観。自らが何をしたか?死んだときに仲間にどんなふうに記憶されるか?)を大事にすることを宣言している。そういった企業としての想いを感じてほしいので、社員に自らの言葉で直接語り掛けることを大切にしている。私自身も、社員全員の履歴書を暗記することよりも、いざという時にたった一人のために追悼がかけるような社長でありたいと想っている」と永島社長は語り、元気プロジェクト活動のうれしい成果として、「プロジェクト活動について地域の方に「ありがとう」と言われること。利他が生命保険の本質だと思っているので、ありがとうという言葉を通じて利他の実践を確認できることがうれしいし、誇らしい」と付け加えた。

・地域の方々とともに「いい作品」を創る

野々村チェアマンからは、「Jリーグとしては、『試合に勝つ』という命題がある。そのためには、ホームゲームでいかにいい作品、つまりいい試合を創れるかが大事だと思う。いい作品の要素として、選手、スタジアム、そこに集まってくれる方々の熱量がある。サッカーのレベルが高いだけでは多くの人に応援し続けてもらえないことに選手たちが気づき、プレーで魅せる以外に自分たちができることについて当たり前に考えるようになった。選手たちは、「強くなり勝つために地域の仲間を増やす必要がある」という思考になっている。Jリーグ設立当初は、お金があれば勝てると思っていたチームもあったかもしれないが、30年続ける中でそうではないということがわかってきた。Jリーグと地域とのつながりはもっと強くしていくことができる」と語った。

・互いの得意なところを活かしつつ共に地域に貢献

今後の活動については、まず既に展開されているコラボレーション活動「シャレン!で献血」の推進が挙がった。「シャレン!で献血」は日本赤十字社協力のもとに行う献血の啓蒙活動。Jリーグのスタジアムの献血バスを設置し来場者に献血を呼び掛けや、全国の献血ルームの案内活動などを通じて定期的な献血を促進する。
「地域ごとにエコシステムが立ち上がろうとしている中で『おらが町のJクラブ』という旗印があることがとても大きい。その旗印とともに職員が地域の手足となって活動にお誘いができる。活動の中で当社のパーパスをきちんと提示し、そこに共感していただける方々とさらに良質な関係性を育んでいきたい」と永島社長が語ると、野々村チェアマンも「小さいクラブの中には、地域に貢献したくとも具体的に何をしたらいいかわからないというところもある。明治安田生命さんが地域社会のために考えていることを実現するプラットフォームとしてJクラブを使っていただき、サポーターを巻き込みながら一緒に活動したら、いろいろなことができるのではないかという期待感がある」と応じた。


志を同じとした企業とスポーツが
連携するからこそ生まれる価値があるはず

企業とスポーツが連携にはどのような意味価値があるのかという問いについては、永島社長は「強欲な資本主義が進んでいるのではないかと先に触れた。アダム・スミスの国富論に神の見えざる手の話があるが、その根本には共感・道徳があると哲学者でもあるスミスは言っていた。実世界でも学問でも、経済と哲学がどんどん離れてしまっている。今、我々が取り戻さないといけないのは哲学ではないか。私は『とにかく利益を叩き出せばいい』というタイプの経営者ではないし、野々村チェアマンも今日何度も『幸せ』という言葉を発していたことからもわかるとおり、Jリーグが強くなる、大きくなることをひたすらに目指しているわけではない。この時代に向きを同じとする二人が、いまこの場にいるということに意味を感じており、一緒に役割を果たしていきたいと思っている」と答えた。

一方、野々村チェアマンは「Jリーグのクラブに地域の方々から『こんなことはできるかな?』という話が舞い込んでくるような存在になれることが大事だとおもう。バーチャルが中心になりリアルが減っていく世の中の流れがある中で、リアルが主体である地元のJリーグのクラブをみんなで盛り上げていこうという活動は、とても尊いことではないか。そういう想いのある人たち同士のつながりがあるということは、この先絶対に重要なことではないか。クラブへの想いとつながりをベースに、企業が地域で実践したいことにクラブを使ってもらうことで、より存在意義を発揮していきたい」と述べた。

最後に、これからの地方創生に向けたメッセージとして野々村チェアマンは、「Jリーグとしては、『いかにいい作品をつくるか』に尽きる。地域・スポーツ・企業のコラボレーションを実現するために、地域のサッカークラブの週末の作品(試合)が本当に熱量のあるものになったかどうかは活動成果のひとつの指標になるのでは?サッカーが好きな人だけではその熱量は生み出せない。地域に関わる仲間が集まることでいい作品がつくれると考えているし、その結果として、地域の人々は幸せを感じ、クラブも強くなる。作品づくりに参加する、一緒にやっていく、それが楽しいはず」と述べると、永島社長は「キーワードとして『人間の復権』をあげたい。コロナやウクライナ侵攻によって我々は『国家の復権』を見せつけられた。国家の力が強くなり、存在感も高まり、グローバリズムが後退したと感じている。そこにデジタルが加わることで、ともすると小説「1984」のようなディストピアな展開もありうるかもしれない。しかし、人生もスポーツも偶発性と矛盾に満ちていて、AIやロボットと対極にあるともいえる。偶発性や矛盾の中に物語や意味を見出すところに人の営みがあると私は思う。人間中心の社会を一緒に創生していきましょう」と述べた。

企業のスポーツ協賛というと、出資によってスタジアムの看板やユニフォームに社名を露出するというイメージがあるが、同じ目的をもってそれぞれが得意なところで協力していくというのは新しい形と言えるのではないか。地域の中で同じ志を持った人々が集まり、それぞれの強みを発揮することで大きなうねりを生み出していく可能性を感じさせる明治安田生命とJリーグのコラボレーション。「人間」や「リアル」を中心に置いたつながりで地域を活性させていくアプローチは、新たな地方創生のヒントにあふれている。

■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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