一人からでも循環を生み出していける
オープンにすることで、共感を「ハイランドレメディーズ」【インタビュー】


(2023.5.16. 公開)

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長野県の菅平高原で、実直なモノづくりをしているセルフケアブランド「ハイランドレメディーズ」。創始者の竹脇献氏は、一人で毎日畑にでかけ、数年かけて土をつくり、種をつくり、花を咲かせるまでを行い、ブランドをはじめた。地域や仲間、ユーザーとつながりながら、共感や共鳴のうねりをつくっていくカギはどこにあるのか?竹脇氏に話を聞いた。

(長野県菅平高原にある農園と竹脇氏)


こだわりをそのまま反映できて長く続けられる仕事

東京でフォトグラファーとして活躍していた竹脇氏が、田園風景の写真を撮るためにイギリスに移住したのが約20年前。その後イギリスの田舎に暮らす人々の生活や農業についても興味をもち、農園を訪ねてインターンになったのがハイランドレメディーズ創設の遠因だ。

「一番美味しい野菜だなと思って訪ねた農園が、バイオダイナミック農法(ルドルフ・シュタイナーが提唱した、農薬や化学肥料を使用せずに地球や生物のエネルギーの循環に沿って行うサステナブルな農法)を実践していた。自分は農業自体について何も知らなかったので、そこで一から野菜のつくり方を学んだ。数年後、バイオダイナミックで薬草を育てている栽培農家と知り合い、花薬草にも興味をもった。その後、今度は撮影の仕事で、種づくりから製品までを自分たちで管理している人々に出会い、こういう仕事の仕方が理想だと思った」と竹脇氏は語る。

「当時僕は50代。70~75歳くらいまで仕事をするとしたら、これからは、土や植物に触れながら自分のこだわりをそのまま反映できる、一人で始められる仕事をしたいと思っていた。野菜は育てるのに手間暇がかかるし重量があるので、すべてを一人で管理するのは難しい。でも花薬草なら、野菜よりは手がかからないし乾燥させれば軽くなる。これなら、土づくりから製品化までを、自分で行えるのではないかと思った」。

人生100年時代の到来、個人の価値観が多様化するなかで、生活者(顧客)もウェルビーイングを求めるようになってきている。「ハイランドレメディーズ」が人気を集めるのも竹脇氏にとってのウェルビーイングを追求したブランドだからこそなのかもしれない。

(農園で花を摘む竹脇氏)


続けたことで、少しずつ地域に認めてもらえるように

花薬草づくりを本格的に始めようと帰国してから、神奈川や山梨など東京近郊の場所で土地探しを始めた竹脇氏だが、最終的に選んだ場所はヨーロッパの気候に近い菅平だった。「ヨーロッパ原産の植物を育てるには、東京近郊は温度も湿度も高すぎた。菅平は標高1400メートルの高原地帯で晴天率が高い。夏でも気温は25℃くらいまでしか上がらないし、湿度も低い。自分が野菜や薬草づくりを学んだ地域に気候が近いと感じ、ここで土地を探してみることにした」。

ツテがなかったので地域の役所に行って「ヨーロッパ原産の薬草を育てたい、小さな土地でいいので借してほしい」と話しても、東京から来て何を始めるのかと怪しまれるばかりだったという。というのも、菅平は高原野菜の一大産地であり大規模農業が盛んな土地。生産体制がきちんと管理された広大な畑で野菜を栽培しているため、役所の人々は、小さいといっても何ヘクタールもある場所をイメージしていたらしい。しかし、事情を説明して何度も足を運ぶうちに、耕作放棄30年以上の小さな土地を借り受けることができた。

「伸び放題になっていた白樺の木や、ススキやクマザサを取り除くところから始めた。地主さんも手伝ってくれて、なんとか開墾することができた。そこから土づくりを始めて、毎日畑に通って花薬草を育て続けていたら、だんだん地域の方の信用も得られるようになった。最初の頃は『こんなところで一体何をするの?』という反応だったのが、『よくわからないけど、頑張っているね』『この辺も昔は農地だったと聞いてはいたけど、こんな感じだったんだろうね』と言われるようになってきた。開墾や整地は地元の方々の協力がないとできないことなので、認めてもらえることはありがたい。僕の農業は、土地の広さもビジネスの規模も、菅平の一般的な農家の何百、何十分の1。やり方も全く違う。だからこそ面白がってもらえるのかもしれない」。

(長野県菅平高原で開催される、森の中のイベント「信州森フェス」)

菅平には、スキーやスノーボードのレースに出場するため世界をまわっているような人たちもいる。そういった人々は、地元とハイランドレメディーズの橋渡し的存在だ。「世界でいろいろなものを見聞きしている彼らは、バイオダイナミック農業や循環型の製品づくりという僕がやっていることに理解や親しみを示してくれて、地元とつながるきっかけをつくってくれたりする。たとえば、地元の木材でスノーボードをつくっているお店に商品を置かせてくれたり、夏に開催する地元のフェスへの参加をうながしてくれたり。一つひとつのつながりを大事にして、菅平とはもっと深くかかわっていきたい」。


すべてを見せることで生まれる信頼と共感

ハイランドレメディーズでは、夏のアルニカとカレンデュラの花が咲く時期に、オープンガーデンを行っている。予約も参加費も必要もなく、好きな時間にふらっと畑を訪ねて時間と空間を楽しんでもらう。

「催事などに出向き、お客様と直接お話ししているうちに、栽培者が製品を直接販売しているのはとても珍しく、みなさん花薬草がどんなふうに育っているのか興味を持っていることを感じた。それなら畑も花もすべて見てほしいな、直接見てもらうことでもっと伝わること、感じていただけることがあるんじゃないかなと思い、『特に何のお構いもしませんが、自由に楽しんでいってください』というスタンスのオープンガーデンを始めた。最初はどんな方々が来るのかわからず不安もあったが、いらした方々は健康や心身や自然に純粋に興味を持っていて、一緒に畑をまわったり、食べものや飲みものをシェアしたり、いつの間にかみんなで仲良くなって、小さなコミュニティのように時間を過ごしていた。うれしい驚きだった」。

竹脇氏はハイランドレメディーズを始める時に、「見栄や嘘がないもの、長く使ってもらえるものをつくろう」と決めたそうだ。来訪者が畑や花そして竹脇氏自身に触れることで、ブランドの真面目さや誠実さを感じ、共感して、コミュニティのような空気感が生まれるのだろう。

(オープンガーデンの入り口)

(オープンガーデンを訪れた方々と一緒に農園をまわり談笑)


嘘偽りなく製品を伝えてくれる人々と組んでいきたい

ハイランドレメディーズは、花薬草の生命力を生かしきるためにシンプルな処方となっている。組み合わせるオイルや精油も、花薬草の力を邪魔しないものだけを選んでいる。「お客様は、健康やトラブル対策のためにいろいろ調べたり、試したりしている人が多く、ハイランドレメディーズの処方や発信内容を見て、これなら安心だと選んでくれている。肌が変わった、ブランドの姿勢に共感したと、催事やオープンガーデンにわざわざ遠方から伝えに来てくれる方もいて、本当にありがたい」と語る竹脇氏だが、製品の伝え方、伝わり方にもこだわりをもっている。

「一人で土づくりから始めたところから、想いを分かち合える仲間を見つけて製品をつくり・・・とコツコツやってきた。流通も、売れるための伝え方というよりも、嘘偽りなく製品を伝えることを大事にしてくれる人たちと組んでいきたい。そのほうが、お客様も使った時に『なんか違うな』ということが減って、結果的に満足度が上がると思う。少量生産だし、季節ごとに新製品が出るわけでもないから、たくさん売れることよりも、確実に喜んでもらえて、長く使ってくれる人たちに届けることを大事にしたい。食や暮らし方への関心が高い人やエシカルな視点を大事にしている人が集まるような場に製品を置いていくことを意識している」。

(森を愛する人達が集まるフェス、森フェス出展時の様子)


百貨店での催事で真剣に話を聞いてくれるお客様を見て、やっていけると確信

製品づくりそのものよりも、容器やラベルなど、充填(容器に中身を流し入れること)以降のステップの方が大変だったという竹脇氏。「中身は、時間はかかったが満足いくものができた。でもその先にあるパッケージングや流通といったところが、ビジネスの素人だった自分には難しかった。発売後も、製品には自信があるものの、これで本当にビジネスとしてやっていけるかな、という不安が大きかった。派手なパッケージでもないし、美容部員さんがいるわけでもない。でも、初めての百貨店の催事で30分くらいのトークショーをさせてもらった時、場違いではないかと感じていた自分の話を、お客様が真剣に聞いてくれて、質問までしてくれるのを目の当たりにして、『想いが伝わっている。これはやっていける』という確信がもてた。今後は新たな製品カテゴリーにも挑戦したいし、菅平はスポーツ合宿が盛んな土地なので、アスリート向けの製品もつくってみたい」。

(手応えを掴んだという百貨店での催事)

(トークショーで製品に込めた想いを伝える竹脇氏)

自然がもつピュアなエネルギーをそのまま届けるために、土地や環境、つながりや巡りを大切にするハイランドレメディーズ。製品の背景やものがたりが重視され、SNSやテクノロジーの支えがある今だからこそ、確固たる信念とストーリーをもったブランドなら一人からでも挑戦していけると竹脇氏の言葉を聞いて感じた。50代後半から全く新しいビジネスにチャレンジし、想いを波紋のように周りへと広げていく姿も、人生100年時代の一つの道しるべになると勇気づけらた。

【参考サイト】
ハイランドレメディーズ公式サイト https://www.verdenatur.jp/highlandremedies


■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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