【ヘルスケア×ウェルビーイング】
今、企業はなぜ健康経営に取り組むのか


(2023.5.11. 公開)

#ウェルビーイング #ヘルスケア #世界保健デー #健康経営 #プレゼンティーイズム


4月7日は世界保健デーであり、この日はWHO憲章が設けられた日です。WHO憲章では、健康について「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と定義されています。昨今「健康経営」という言葉を聞く機会も増え、多くの企業が従業員のヘルスケアに取り組んでいます。このことは、従業員のウェルビーイングに繋がるだけではなく、生産性やエンゲージメントといった観点で企業経営にも良い影響をもたらします。関連して注目されているのが、従業員の生産性に関連するプレゼンティーイズムという概念です。今回は、企業がヘルスケアに取り組む背景や、ウェルビーイングの視点からヘルスケアに取り組んでいる企業事例を見ていきます。


プレゼンティーイズムがもたらす経済的損失

(画像出典:働く世代が抱える見過ごされている健康課題への対応の必要性│株式会社日本総合研究所

プレゼンティーイズムという言葉を聞いたことはあるでしょうか。経済産業省の『企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1班)』によると、プレゼンティーイズムとは「何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態」であると定義されています。似たような概念として、アブセンティーイズムがあります。欠勤には至っていないプレゼンティーイズムと異なり、アブセンティーイズムは病欠、病気休業の状態を示します。日本の製薬会社4社を対象にした調査では、従業員1人当たりの①医療費、②アブセンティーイズム、③プレゼンティーイズムによる経済的損失を試算しました。その結果、それぞれの年間コストは①医療費が約13万円、②アブセンティーイズムが約7万円、③プレゼンティーイズムが約34万円と、プレゼンティーイズムが一番高い損失額となりました。


国が推進する「健康経営」と3つの効果

(画像出典:「健康経営銘柄2022」及び「健康経営優良法人2022」の申請受付を開始しました│経済産業省

日本では、高齢化社会に突入し今後労働者人口が減少していく中で、企業はいかに労働力を確保し、労働生産性を向上させていくかが重要になってきます。従業員の健康課題に取り組むことは、日本全体の成長にも寄与するという考えのもと、経済産業省は、従業員の健康管理を経営の視点で捉え戦略的に取り組んでいく「健康経営」を推進しています。2016年度には、優れた健康経営を実践している企業を顕彰する「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。健康経営に取り組む企業は増加しており、2022年の申請は前回の1.3倍以上となる12,849法人、そのうち12,255法人が認定されました。

健康経営の効果は、①個人の心身の健康、②組織の活性化、③企業価値向上の3つに分けられます。まず①個人の心身の健康に関して、健康経営に取り組み、従業員の健康への意識や行動が誘発されることで疾患リスクが少なくなります。さらにそれは、疾患による生産性損失や事故・労災リスクの減少、医療費の削減にも繋がります。②組織の活性化に関して、経営層を含め健康経営を実践する組織体制が整えられることで、組織の活性化に繋がることが期待されます。さらにこれは従業員の仕事の満足度やエンゲージメントの向上、離職率の低下にも繋がります。実際に、健康経営度の高い企業では全国平均と比較して離職率が低く、また有給取得率や取得日数も高い傾向であるという結果が出ています。③企業価値向上に関して、健康経営の表彰を受けることで企業イメージが向上します。さらにそれが、採用における優秀な人材の確保や顧客満足度、商品ブランドの向上に繋がっていきます。過去に健康経営優良法人に認定された法人からは、認定後の変化として多様なステークホルダーから評価が得られたという声が挙がっています。

これらの健康経営の効果は、企業の業績の向上に貢献することも期待されています。2021年に健康経営銘柄に選定された企業の過去10年間の平均株価は、TOPIXの推移を上回る形で推移しています。健康経営に注力する企業の、市場からの高い評価がうかがえます。


ウェルビーイング実現のための、サントリーの健康経営

サントリーホールディングス株式会社では、ウェルビーイング実現のために従業員が自ら健康管理を行えるようなヘルスリテラシー教育を積極的に展開しています。例えば、管理職向けの研修やキャリアアップ研修において、経営層による健康研修を実施しています。経営層が自らの言葉で健康経営の重要性を語り、従業員のヘルスリテラシー向上に努めています。運動習慣の定着に向けた「Activeプラス10」は、従業員が自らプラス10分の運動を宣言する取り組みで、運動習慣の動機づけをサポートしています。参加従業員数は1,000人を超え、「通勤にバス(5分)を使わずに徒歩(20分)にします」「コンビニは1つ遠い店に行きます」のようなちょっとした運動宣言がされています。健康経営宣言をした2016年時点では、従業員のヘルスリテラシーの割合(健康診断での問診において「運動や食生活等の生活習慣を改善してみようと思いますか」の質問に「既に改善に取り組んでいる」と回答した人の割合)は26.7%でしたが、2021年には35.5%まで上昇しました。

サントリーの健康経営は社内に対する取り組みだけではありません。サントリーグループの中で健康事業を担うサントリーウエルネスでは、「Be Supporters!」というプロジェクトを行っています。これは、高齢者や認知症の方が心身共に健やかな状態であることを実現するプロジェクトです。このプロジェクトでは、普段は周りから「支えてもらう」ことの多い高齢者や認知症の方が、サッカークラブのサポーターとして「支える」存在となります。施設等にみんなで集まり応援を楽しむことは健康づくりにも繋がっています。応援歌で手拍子を取ることは抑うつ症状の改善に、タオル回しのリズム運動は活気・活力アップに、観戦記録をつけることは脳の活性化に繋がります。サポーター活動を通して、いくつになっても、ワクワクし心身ともに健やかでいられる社会を目指しています。

また、サントリーは、健康経営に取り組む他の企業のサポートにも取り組んでいます。健康経営に取り組む企業は、「健康施策に一部の人しか反応しない」「参加してくれても多くの人が継続できない」という悩みを抱えています。そんな企業の健康経営担当者向けにサントリーが開発したのが「SUNTORY+(サントリープラス)」です。サントリープラスは、サントリーの自動販売機をオフィスに設置するだけで、従業員が無料で利用できるヘルスケアアプリです。アプリでは、「肩甲骨を寄せて広げる」「よく噛んで食べる」などの超低ハードルな健康アクションが60種類以上提案されます。従業員は、アプリで提案されたアクションを達成するとサントリーの飲料クーポンがもらえるなど、継続して取り組める設計となっています。管理者側は、従業員の利用状況データを管理ツールで確認でき、健康経営に活かすことができます。その継続のしやすさから、1ヶ月後のアプリ継続率は84%、サントリープラスによって健康に良い行動を取ることが増えたと回答した人は88%にのぼりました。


スリープテックでプレゼンティーイズム改善に期待

アプリを始めとしたIT技術のヘルスケア分野での活用に注目が集まっています。例えば、O: SLEEP(オースリープ) は、睡眠状況の可視化を実現するサービスです。目覚まし機能のついたO:SLEEPのアプリで目覚ましをセットし、その日の眠気の強さやアルコール・カフェインの摂取有無を入力します。睡眠中はスマートフォンを二の腕の横に置くことで、睡眠スコアを記録します。例えば企業では、従業員がスマートフォンアプリで自分の睡眠状態を記録し、管理者側はO:SLEEP Analysisでそのデータを匿名で見ることができます。これにより、生産性の低いチームやメンタルリスク者を特定し対策を取ることが可能になります。

睡眠は、上述したプレゼンティーイズムに深く関係しており、良質な睡眠を取ることは従業員の労働生産性を高める上でも重要です。実際に導入した企業からは「自分で管理することで自分の心身の健康状態に気がつくことができる」「メンタルヘルスに気がつく入口になる」といった声が挙げられています。ITや最新技術を活用したヘルステック分野は、健康経営への関心の高まりと共に今後も拡大していくと予測されています。


従業員のウェルビーイング実現に取り組み、企業価値の向上へ

ある調査によると、Z世代の約7割がウェルビーイングへの取り組みが転職選びの条件になると回答しています。従業員が心身共に健やかに働ける環境を整えることは、労働者人口が減少していく日本において優秀な人材を採用するためにも欠かせないものとなってきています。採用以外にも、生産性の向上や医療費の削減、従業員のエンゲージメント向上、ステークホルダーからの評価等、健康経営に取り組むことにはさまざまな効果があります。健康経営への取り組みが従業員や社会のウェルビーイングに繋がり、ひいては企業の業績や企業価値の向上に繋がっていく好循環が広がっていくことが期待されます。



【参考サイト】

働く世代が抱える見過ごされている健康課題への対応の必要性│株式会社日本総合研究所

企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版)│経済産業省

健康経営の推進について│経済産業省

サントリー健康白書2022│サントリーホールディングス株式会社

Be supporters!|サントリーウエルネス

 SUNTORY+(サントリープラス) 法人向け健康経営支援サービス│サントリーホールディングス株式会社

O:SLEEP│株式会社O: (オー)

Z世代の約7割、「ウェルビーイング」が貢献意識や働きがいに繋がり、転職先選びの条件に│PRTIMES



■執筆:contributing editor Eriko SAINO
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