【サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内】Z世代経営者は、なぜサステナブル経営を目指すのか?その背景と実践の鍵を探る



(2023.4.12. 公開)

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Z世代経営者はどのような想いのもと、どのようなことに最優先で取り組んでいるのか、描いている未来はどのようなものなのか。2月に実施されたサステナブル・ブランド国際会議2023では、サステナブル・ブランド国際会議D&Iプロデューサーの山岡仁美氏がファシリテーターとなり、Z世代の経営者3名、アレスグッド代表取締役CEOの勝見仁泰氏、シーナ・オーガニックのファウンダー/環境活動家の露木志奈氏、ボンチ代表取締役社長の樋泉侑弥氏とともにセッションを行った。



Z世代のOSはサステナビリティ

主に「1990年半ば〜2010年代生まれの世代」を指すZ世代は、世界の人口の約1/3を占めており、今後は意思決定の軸の中心になると言われている。少子化が進む日本では、Z世代の数こそ少ないものの、グローバルな観点では決して無視できない世代だ。日本とアメリカに拠点をおく、“エシカル就活”を推進する企業、アレスグッド代表の勝見氏は語る。

「世界の人口統計的にも、Z世代は今後世界のメインストリームになる。Z世代はサステナビリティファーストのOSがインストールされている。優秀な人材のキャリア選択もサステナビリティ優先になっており、その動きは加速している。2021年卒と2022年卒の学生の「企業選びで重視した点」においても、有名企業に行きたい人の割合が10ポイントダウンして13%になった。一方、企業のSDGsに対する姿勢や取組みを重視する学生の割合は11ポイントアップして17%に。つまり、企業の社会的役割やインパクトを重視するとともにサステナビリティなあり方を実践する企業は将来性があると判断する学生が増えている。アレスグッドはエシカル就職として、気候変動、廃棄物問題、ジェンダー不平等、貧困格差などの社会課題解決に取り組む企業と学生をつなぐプラットフォームを提供しているが、利用する学生は増えているし、優秀な人材が集まっていると企業からも喜ばれている。エシカル就職をサポートすることで、サステナブルな経営を行う企業にこそ人材が集まるといううねりを起こしたい。」

(画像出典:SB国際会議資料より)



消費者の選択が地球を変える。その選択肢の提示をしたい

環境活動家として全国の小学校から大学まで、気候変動や環境保護のための講演を行っている露木氏は、5月1日からクラウドファンディングプラットフォーム「グッドモーニング」にてオーガニックコスメブランド「シーナ・オーガニック」のリップを発売する予定だ。「私の妹は肌が弱く、ナチュラルな化粧品を使っても肌が荒れてしまう。化粧品ついて調べてみたところ、日本にはナチュラルコスメ、オーガニックコスメの基準が設けられておらず、メーカーの判断でナチュラルと謳えることがわかった。さらに、化粧品製造には、年間50万匹の動物が動物実験の犠牲になっていたり、化粧品のプラ容器や材料によって環境が破壊されたり、生産・消費・ゴミ処理の過程で多くの課題があることを知った。どんな形の美しさであっても、誰かや何かを傷つけてその犠牲の上に成り立っているのは本当の美しさではない気がする。安心して使うことができ、環境負荷が低い製品を生み出したいと研究をはじめ、ようやく形になったのがシーナ・オーガニック。成分の品質と安全性を担保しているだけでなく、リサイクル率の高いアルミ容器にしたり、最後まで使い切ることができるよう小さめのサイズにするなどの工夫をこらしている。

シーナ・オーガニックのコンセプトは、“本当の美しさは地球と共に存在する”。当たり前のようで当たり前でない新しい美しさの形を大切にしていく。人は地球を破壊したくて日々の選択している訳ではないが、今までの無意識な選択がここまで地球を汚してしまったのも事実。消費者の選択が地球を変えると自分は信じている。シーナ・オーガニックで購買の選択肢を提示したい」


厳選された自然由来の原料を使用して、一本づつ丁寧に作られたシーナ・オーガニックのリップ



おいしい果物の裏にある厳しい実態を地域とともに変えていく

日本有数の果物産県である山梨で生まれ育った樋泉氏は、2019年に果物専門の産直オンラインストア「ボンチ」を立ち上げた。オンラインストアでは、山梨県産のとれたての果物をユーザーへと直送する。ギフト用・家庭用を設定することで、形はいまひとつだが味は極上というスーパーには出回らないような果物も取り扱うことができている。

まるで工業製品のように野菜や果物が大量生産・大量消費される海外の農業に比べ、日本の果物農家は小規模農家が職人的に一つひとつの果物をていねいに育てている。実は日本の農業は問題だらけで危機に直面しており、農家に従事する人の平均年齢は67歳、後継者がいない農家は60%、新規就農者の64%が50歳以上であり、20代はなんと1%。3年以内の離職率も35%にのぼるという。(農林水産省:https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html

「こんなの普通の会社ではありえない。子供の頃から当たり前のように果物に囲まれて暮らしてきたが、食を支える人が減っていて、おいしい果物が当たり前ではなくなってしまうかもしれない。若手農家減少になにかできることはないか。また、地元のおいしい果物の魅力をより多くの人に知ってもらうことで地域を元気にできないかと、ボンチの活動を始めた」と樋泉氏は語る。「ボンチでは、山梨県内に30軒弱ある契約農家さんに農家になりたい若者が修行にいって技術を学ぶ仕組みを導入している。農家の方々が長い年月をかけて体得してきた技術やこだわりを可視化し、そこに最新の技術を掛け合わせた農家を生み出したいと思っている。実は農家になりたい若者は多く、年間70~80件は20代から応募がくる。でも非農家出身で県外の人が農業を一から始めるのは現実としては非常に厳しい。ひとつは金銭的な問題、もうひとつは時間的な問題がある。

金銭的なことで言えば、新規の農業従事者には国からの年間150万円補助がある。しかし、移住して、家を借りて、畑を借りて、車や工具を仕入れて……といったことを考えると、その金額では到底足りず、別にアルバイトをしてもやっていけない。また時間的なことでは、農業は技術を覚えてひとり立ちできるようになるまで、3~5年かかる。さらに、桃は植えてから数年は実がならない、つまりその期間は収入がない。農業で収入を得るまでに、非常に多くの時間がかかる。僕たちは、国の補助金以外のサポートとして、地域と一緒に新規就農者を支える仕組みをつくるとともに、お客様に購入いただいた金額の10%を後継者育成、耕作放棄地の再生、災害時の手当などに使用するための活動資金としている。農業はまさに地に根を張るような活動なので、時間がかかる。じっくり根を張る活動をして、中長期的に日本の農業を変えていきたい」


(画像出典:SB国際会議資料より)


Z世代がサステナビリティを重視する理由

三者三様に事業としてサステナビリティを推進しているが、Z世代はどうしてサステナブルやエシカルが事業の前提となっていることが多いのだろうか?

「圧倒的に社会課題へのタッチポイントが増えているからではないか。10年前はコンビニで袋の有無を聞かれたり、カフェで紙のストローを目にすることはなかった。しかし、いまはそれがスタンダードになろうとしている。イシューに触れる機会がふえたのは、デジタルとグローバリゼーションのおかげだと思う。モノや情報がふんだんにあり、不自由さが減ってきているから、社会に目が向くようになっているのではないか」と語る勝見氏に、露木氏は「この時代に生まれたからこそ環境問題、社会問題に敏感になっているというのもあると感じる。Z世代は10歳前後で東日本の震災を体験し、その後も台風などの自然災害の影響を受け続けている。“このままではまずい”と感じるような環境におかれていることが、自ら社会課題に取り組むきっかけになっているのではないか」と加えた。


Z世代の消費はサステナブルなのか?

サステナブルな意識が高いと言われるZ世代だが、消費行動についてはどうだろうか?考えと行動は一致しているのか、彼らの購買行動の裏にはどのような考え方があるのかという問いに対しては、価格という問題がフォーカスされた。

「意味のある選択をしたい、サステナブルな商品を買いたいという人は確実に増えてきているものの、現実として価格が大きな課題になっていると思う。リサイクルされたプラスチックよりも新しいものの方が安いのは事実。いまは、環境にやさしいことを価値として製品を売っているが、環境にやさしいことを訴えなくても手に取ってもらえる価格と品質であることが、まず大事だと思う。20代はまだ生活が安定していない人も多い。シーナ・オーガニックでも、生活が安定してきて意識が高い30代の方が購買意欲を示してくれている」と語る露木氏に、「価格の問題は大きいからこそ、まずは大企業が率先してサステナブルな経営を行い、サステナブルな商品を適正価格で販売してほしい。日常的に目にするもののあり方が変わることで、消費者が変わっていくことにも期待したい」と樋泉氏も同意。勝見氏についても「中国のファストファッションプラットフォームであるシーインの伸び方が顕著だが、シーインのメイン顧客はZ世代と言われている。ファッション業界でもサステナブルを推進する流れになりつつあるが、消費の中心はいまだに“安い早い便利”であり、サステナビリティが本当に消費に落とし込まれているとはいえない。富裕層や意識がある人だけがサステナブル消費をするのではなく、そもそもの消費の活動を変えるための戦略、ストーリー、方法を考えていかないといけないのではないか。いままではどうしたらそういう人にストーリーが伝わるのかを考えてきたが、ストーリーだけでは限界を感じる。より多くの人たちに手に取ってもらうための具体的な方法、解決策について考え、行動していくことが企業に求められていると思う。そのためにも、サステナブル経営の方がより利益を生むという事実を可視化し、サービスを提供していくことが重要ではないか」と発言した。



意識と行動を変える鍵は、教育と越境体験

消費行動も含め社会の意識を変えていくために必要なこととして、露木氏からは教育の重要性があげられた。「環境についての講演を始めたのはコロナ以降。コロナ禍でサステナビリティ、SDGs、探求が教育の中に入ってきた頃だった。最初は環境活動家という言葉を知らなかった子供が多かったが、2年たった今では知っている人の方が多い。たった2年でも子供の意識と行動が大きく変わってきていて、教育のパワーを感じる」

勝見氏は、可能性を信じられるマインドセットを育成する重要性を語った。「日本人は、こういう大学を出た、こういう会社に入った、という過去から自信が生まれる。しかし、インドやアメリカでは、将来自分はこうなる、と未来から自信がきていて、その未来の自分に賭けることができる。自分の可能性を信じられる、失敗を一つの経験ととらえてまたチャレンジできる、そういうマインドセットを教育で養っていくことが大事であり、それがブレイクスルーになるのではないか」

露木氏からも、教育の中で答えがない問題を考える重要性についての発言があった。「日本の教育は正解ありきの質問が多いが、社会では答えがあるものの方が少なく、気候変動や貧困問題も正解はわからない。そういった課題について考え、行動することこそ学校教育で望まれている」。また、3者共通の意見として、自らのコンフォートゾーンを脱出し、当たり前が通用しないところに身を置くことを、できるだけ早く経験する重要性も指摘された。たとえば海外に出て別の視点から日本をとらえて価値認定すること、日本の良さを冷静に再認識すること。そういった体験をすることで、意識や行動がより世界全体に広がり、サステナブルな行動につながっていくのではないかという提言だった。

サステナブルな社会を目指し、ビジネスという形で挑戦を続ける3名のパネリストからは、明るい未来を明確に描き、そこに向かってチャレンジしていく意欲と明るさを感じた。「自分たちも解をもっているわけではない。一緒に考えていただきながら進んでいければ」という勝見氏の発言が象徴するように、他の世代にも、社会課題を自分事としてとらえ、正解を求めるのではなく試行錯誤の中で進んで行くことへの挑戦が、求められているのだろう。

【参考サイト】
露木志奈氏

株式会社アレスグッド

ボンチ公式サイト


■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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