【サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内】エシカルファッションが未来の扉を開く!〜人にも地球にも犠牲を生まない美しさとは?〜



(2023.4.12 公開)


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世界第二位の汚染産業と言われるファッション業界にも、エシカルのムーブメントは起こりつつある。2月に実施されたサステナブル・ブランド国際会議2023では、日本におけるエシカルファッションの潮流と未来について、ファッション・ジャーナリストであり日本エシカル推進協議会会長の生駒芳子氏によるファシリテーションのもと、ヴィーガンレザーを使ったアパレルブランド「ラヴィストトーキョー」の唐沢海斗氏、二次流通を牽引するバリュエンスホールディングスの嵜本晋輔氏、エシカルマーケットの仕掛人である坂口真生氏をパネリストに迎え、セッションが行われた。


2013年の縫製工場崩壊が大きなきっかけに

シーズンごとのトレンドを追うことによる大量生産・大量廃棄、染色の際の水汚染、生産時や運搬時のCO2排出など、ファッション業界は石油業界に次ぐ環境汚染産業とみなされている。かねてから、児童労働や長時間労働、綿花畑での農薬被害など人権の側面からも様々な問題が指摘されていた。
ファッション業界が抱える裏事情が世間に大きく知られることになったのは、2013年にバングラディシュで起きたラナプラザ崩壊事故だ。死者1,000人、行方不明者約500人、負傷者2,500人以上が出たこの事故は、ファッション史上最悪の事故とも呼ばれている。世界的アパレルブランドの下請け工場が数多く入居していたラナプラザビルは、きわめて安全性が低い建物であることが指摘されていたにもかかわらず、雇用者たちは多くの女性労働者を劣悪な環境の中、低賃金で長時間労働させていたと言われている。低コスト生産を追求し、設備費や人件費を極限まで抑えようとした欧米アパレル企業の責任と、価格の裏にある実情が問われる事態となった。

※写真はイメージです


誰かの犠牲の上に成り立つファッションはもういらない

ラナプラザ崩壊事故をきっかけとし、工場の安全性や労働環境が見直しの動きが生まれた。さらに2015年にはSDGsが策定されたことで、世界のトップブランドたちが2050年までにCO2排出量をゼロにすることを約束。原材料や生産体制の見直し、リサイクルやリユースの促進、労働環境の整備、トレーサビリティの確保などを推進し、サーキュラーファッションとなることを目指している。欧州のラグジュアリーファッション・宝飾品関連のブランドを多数保有するファッション複合企業ケリングの会長であるフランソワ=アンリ・ピノーは、「サステナビリティはオプションではない。必須事項だ」「ラグジュアリーとサステナビリティは同一である」と発言しており、世界のファッションがエシカル抜きでは語れない方向に向かっていることがうかがえる。

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3つの切り口から日本のエシカルファッションを紹介

・動物にも環境にもやさしいアップルレザーでおしゃれな製品を

ラヴィストトーキョーは、2021年にスタートした植物由来のレザーブランド(ヴィーガンレザー)を使用したバッグや小物を展開する東京発のブランド。創業者の唐沢氏がヴィーガンについて学ぶ中で、世界で人為的に排出されている温室効果ガスの15%以上、森林伐採の36%が畜産業に由来することを知った。ファッションにおけるレザーの魅力は大きいものの、それに代わる素材を用いて、環境にも動物にもやさしく、見た目や機能性でも遜色ないものをつくりたいと思ったことがブランド創設の発端だ。

ヴィーガンレザー、つまり人工皮革はプラスチック由来のものが多く、動物にはやさしくとも環境負荷という面では課題が残っていた。ラヴィストトーキョーの製品には、リンゴの搾りかすが主原料であるアップルレザーが使われている。植物由来の原料が主体のため、ヴィーガンレザーでありながら、環境負荷を大きく減らせているのが特徴だ。
しかし、こだわっているのは素材だけではない。トレンドに左右されないデザインや機能面の充実にも力を注いでおり、素敵だなと思った製品の素材が実はサステナブルだった、という購買の流れも目指している。また、土に帰るパッケージの利用や製造時のカーボンフットプリントを明らかにしてCO2を生み出した分を植林活動に寄付するといった活動も実施。「自分が満たされることで他者にもやさしくなれる」という考えのもと、「サーキュラーリビング」をブランドのミッションに掲げている。

(画像出典:ラヴィストトーキョー株式会社プレスリリース



・リユースを通じてファッションのエシカル化を

世界の価値あるブランド品のリサイクルやリユースで循環をデザインするバリュエンスグループは、買取、オークション、卸売り、小売りなど幅広いビジネス形態で事業を展開している。中でも注目したいのは、『眠っている持ち物から未来を創る』をコンセプトに2020年からスタートした三越伊勢丹とのコラボレーションリユースサービスI’m Green(アイムグリーン)だ。
コロナ禍でも売上を伸ばしているラグジュアリーブランドだが、リユース市場に出回るのはわずかであり、多くが個人宅の箪笥の中に眠ったままになっている。百貨店で販売した製品も7割は退蔵・廃棄されている実態があった※1。アイムグリーンでは、お客さま宅に三越伊勢丹の外商担当が伺って、時計、宝飾品、鞄などを買い取り※2、バリュエンスグループのリユース店舗等で販売していくという取組みであり、従来は売り切り型だった小売業のサービスを循環型へ転換していくもの。また、訪問買取のアイムグリーン利用者のうち7割ものお客様が、愛蔵品を買い取ってもらうタイミングで新たな製品を購入しているという。

※1 環境省平成30年度リユース市場希望調査報告書より
※2 三越日本橋本店、伊勢丹新宿店に来店、宅配での査定・買取も実施

(画像出典:バリュエンスジャパン株式会社プレスリリース

バリュエンスグループが運営するラグジュアリーブランド専門のリセールブティックALLU(アリュー)でも興味深い取り組みを行っている。全商品のタグにブランド名、モデル名、定価、中古販売価格といった従来のセカンドハンドショップが記載している内容に加え、中古品を買うことによる地球の貢献度として、CO2削減量、水削減貢献量も明記しているのだ。
これまで中古品の魅力はディスカウントであり、ユーザーは買った商品が中古であることをわざわざ公言しない傾向があった。しかし、タグに地球への貢献度を明記し、製品の価値に加え、循環により生み出された価値をお客様に認識してもらうことで「環境にやさしい買い物をしました」とタグと製品をSNSにアップするお客様が少しずつ現れてきた。「顧客目線、地球目線を大切にしながら循環を促すことで、リユース市場はまだまだ拡大していけるはず」という嵜本氏の言葉が印象に残った。

・エシカルブランドとユーザーのタッチポイントを増やす

エシカルディレクターの坂口真生氏は、2012年からファッションブランドの展示会でエシカルコーナーを設けたり、百貨店やセレクトショップにエシカルブランドの存在をPRするといった活動を行い、エシカルブランド経済圏づくりを目指してきた。ブランドにとっても商業施設にとっても大事なことは、イベントやポップアップなどで成功事例を積み重ねていくことであり、「エシカルファッションでも成功できる」ことを体感することだと坂口氏は言う。「誰もが日常的に行う「消費行動」を変えていくことがSDGs達成の重要な鍵となるからこそ、自分たちはエコシティのインフラづくりをしているという意識で事業に取組み、発信を行っていく必要がある。
ともすれば割高だと言われるエシカルブランドだが、理由があってこの価格になっていること、大量生産の製品とはそもそも土俵が違うことを伝えていくことが大事。加えて、エシカルブランドの販売先を増やしていくこととともに、買いたい人たちに情報がきちんと届くようなマッチングのための取組みも行っていく必要がある」と語った。


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エシカルファッションの課題と未来

今後のエシカルファッションにおける課題については、坂口氏がまず、「ビジネスとしてのブレイクスルーを見つけていくこと」を挙げた。「SDGsの認知度は9割だが、エシカルは20~40%程度であり、言葉を知っていても行動に移している人はまだまだ少なく、ビジネスとしても十分に回っていないという現状がある。ビジネスとしてのブレイクスルーをみんなと追及していきたいし、今年の夏にはその一助となる大きな取組みを行う予定」とブレイクスルーを業界全体で検討していく重要性について指摘した。
嵜本氏は購買価値と企業としてのあり方について「先ほどエシカルなものは値段が高いという声があったが、我々は、高くても売れていく理由を考えていかないといけない」と語った。バリュエンスグループが目指しているのは『心の豊かさ購買』、つまり『好きなものを買ったら(そんな気はなかったのに)地球に貢献できた』という体験機会の創造だという。「人間の私利私欲で活動してきた結果が気候変動をはじめとする現状だとすれば、人は購買活動を見直さないといけない。子供やその次の世代が安心して過ごせる世界にするために、バリュエンスグループの事業として活躍すればするほど社会への貢献が大きくなることを感じられるようになりたい。この理念を、社内の隅々まで浸透させることに挑戦している」
唐沢氏は「自分たちはエシカルなライフスタイルの意義をデザインしていく会社でありたい。自分以上に大切なものを大切にすること、それを体現するために事業活動がある」と語るとともに、エシカルブランドの普及や人々の意識の変容はブランドだけでは行えないためメディアや発信力がある人々の力が必要、と応援を呼びかけた。

エシカルは直訳すると「倫理」だが、思いやり、利他、共生協働や、自然環境保護、人権の尊重、動物福祉といった意味も含まれている。トレンドやラグジュアリーが重視されてきたファッションの世界に、エシカルという概念が広がることで、ファッションのあり方や楽しみ方に大きな変化が訪れるだろう。
エシカルの浸透により、環境負荷の少ない素材や製法のもの、人や動物の命を尊重して生み出されたもの、リサイクルやアップサイクルで新たな価値を与えられたものなど、ファッションアイテムそのもののユニークさ加え、流通やビジネスモデルにおいても新たな取り組みがなされることで、人にも地球にも犠牲を生まない美しさが当たり前となる未来が、すぐそこまで来ている。

【参考サイト】
ラヴィストトーキョー

バリュエンスホールディングス

■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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